二百四十七生目 質疑
「もう大丈夫だよー」
バローくんが恐る恐る目を開くと私がケンハリマ……つまりいつもの姿であることに気付いた。
ただバローくんにとっては初めて見たはずだ。
「どうかな? バローくん」
「あれ? ……もしかしてまた姿が?」
「うん。私は色んな姿を持っているんだ」
バローくんが私の体を眺め……そして額の眼に行き着く。
まあ目立つよね。
「額の目は前の姿の時は服で隠していたんだ。この額の眼はどの姿でもいつもあるからね」
「へぇ……」
ぽかんとしているバローくんに整理の時間を与えるためにアヅキに話を振る。
「アヅキ、彼らへの説明は?」
「簡単には。魔物たちは納得しましたが、ただヒトの子はまだ質問が多いようで」
その他にも体調管理やら裏で何をしているかを聞く。
実はさっきまで回復が行えるコボルトが来ていたらしい。
彼女がバローくんたちの心身ケアに努めていたそうだ。
そして突然の訪問者にパニックしないようにカムラさんたちが周りに伝えティーと軽食を出そうかと言った所らしい。
噂をすればなんとやら。
カムラさんと何匹かの魔物がお茶とつまめるものを持ってきた。
「おまたせしました。どうぞこちらを。ローズ様もお帰りなさいませ」
「ええ……ええ?」
「ああ、そういうことも説明するから、さあちょっと落ち着いて」
私と執事服に着替えているカムラさんを交互に見るバローくん。
運ばれた紅茶を目を皿のようにして見張り少し考えた後に。
一気に口の中へ運んだ。
「……あ! おいしいです!」
「お口に合ったようでなによりです」
他の魔物たちも冷ました紅茶やら水やらを飲み一息つく。
苦手な魔物もいるだろうというカムラさんの配慮が行き届く。
さてひと息ついたところで。
「それでバローくん、どこから話したほうが良い?」
「ええと……はい、それじゃあまず、ローズさんは一体……?」
「みての通り、魔物だよ」
尻尾をパタパタと。
あざといくらいキュートに見せていかないと警戒心はとけやしないだろう。
バローくんは目を白黒させてからお茶を飲み深いため息をついた。
その後も順に様々な事を話した。
これまでの事とこれからの事。
そして今の事。
連れてきたパペットたちはジャグナーに頼んで管理してもらっている。
このあと冒険者ギルドに直談判しにいくのに使いたいとおもう。
……魔王とやらの復活をしようとするのが彼らだけなのかも怪しいし、1体逃げている。
もしかしたら大きい出来事かも知れないから慎重に動くつもりだ。
こちらとしても巻き込まれないようにしなくては。
バローくんと質疑応答した。
「……という感じかな」
「うーん、混乱する……」
バローくんの質問に答えていったらむしろバローくんを混乱させてしまったようだ。
まあいきなり魔物たちが種族を越えて住む群れだのその魔物たちが自分たちの群れ改善のためにニンゲンの街に潜入だの言われたら混乱するか。
「魔王を復活させる……とか言っている彼らと関わりはないんですよね」
「ない。というより魔王なんて本当にいるのかな? そこらへん詳しくなくて」
「魔王はいた……とされています。少なくとも歴史の本には必ず出てきます」
ふむ……
バローくんも言い切れはしないのか。
痛いやつらが勝手にキャッキャはしゃいでいるだけなら良いのだけれど。
ただ楽観視は出来ないか。
「そうそう、落ち着く時間が必要だろうし実際に見てもらいたいから、今日はしばらくこの群れ内にいるといいよ」
「ええ!? で、でも依頼が……」
「大丈夫、私がここにみんなを送ったように瞬間移動させるから」
「え、そんなに何度も!? ……はい、わかりました」
最後にはバローくんも折れてくれた。
遅かれ早かれニンゲンとの交流はするつもりだった。
ならバローくんには悪いが自分で見て聞いて色々と判断してもらいたい。
ニンゲンにとって魔物だなんて敵か素材か自然の一部だろうからね。
ユウレンもニンゲンだけれどちょっと違うものね。
交流のカタチがね。
バローくんにアヅキをつかせる事にした。
「えっ!?」ってアヅキは驚愕したあと冷や汗と震えが止まらなさそうだったがまああれだけガチガチなら大丈夫だろう。
あそこでニヤケヅラ晒すなら別の誰かもつけさせるところだった。
私は一旦その場から離れてジャグナーの所へ。
ジャグナーのいるテントは周りに木材も積まれ他と違って雰囲気がややものものしい。
しかもテント出入り口に見張りもいる。
なぜかというと中にはジャグナーたち警備や軍になるために訓練を積む途中の魔物の他にパペットたちが捕まっているからだ。
わざわざ12体別々に拘束してある。
ただみな腰が破損していて抵抗のそぶりは見せない。
というか立てない。
「調子はどう?」
「さっぱりだ。戦いならともかく事情聴取なんてしたことはないからな」