二百四十ニ生目 聖邪
さきほど"ヒーリング"で回復させた生命力。
だがバローくんの近くにいる猫型の魔物は虫の息のまま。
もはや"ヒーリング"でどうにかなる範囲は越えている。
精霊2つめの魔法準備が整った。
フルパワーと言い服を脱ぎ去ってマネキンのようで全身兵器な身体を披露したパペットの相手を任せよう。
「そうれ!」
私が持っていた剣を景気よく相手にぶん投げる。
もちろんそこそこ脅威ではあるがパペットはよく見定めて直線上からズレることで回避。
「……!!」
パペットから雑音のようなうめき声のようなものが漏れる。
避けたはずの剣がブーメランのように帰ってきたのに驚いたからだ。
視野がどこまであるのかわからないが早くに気づきせめてブレードで防ごうとした。
しかしいきなり軌道が変化しブレードをすり抜けるように回転してパペットを斬る。
いや実際にすり抜けたのだ。
土魔力によるインパクトと回転の力で斬られたパペットまたひどくノックバックされた。
剣は切りつけたあとスッと何事もないかのように宙に浮く。
まあネタバレは簡単で精霊に空魔法"フィクゼイション"で剣の持ち手部分の空間を固定させその空間ごと移動している……なんちゃって念力だ。
わりと練習していたが昔はこんな役に立つとは思わなかった。
このショートソード本来の使い方はこうなのだ。
魔力開放も精霊を通せば行動力を送り込む方法はある。
さらに"鷹目"で立体移動を正確に行うサポート。
はてさて私の力は貧弱だろうがその魔法の力は大岩すら楽々持ち上げるほど。
さらに肉体がないから攻撃は難しく弾いてもそのまま回転して戻ってくる。
とりあえず私は剣に追われるパペットに背を向けた。
あのパペットには聞きたいことはたくさんある。
パペットは魔物だから魔物殺しそのものは問題ないが……
あの時ソーバのトランス体であるダーバが言っていたこと。
そして『魔王の贄』……復活条件に関する話と組み合わせるとかなり気になる。
具体的にはこの森の魔物を殺しまわっていた可能性。
あの大量に根から抜かれ積まれた悪魔の爪のように。
「あ、あの、この魔物は傷が深くて……!」
「うん、今何とかする」
バローくんが私の接近に気づきそう声をかけてくれた。
もう猫型の魔物は殆ど意識が残されていない。
私の用意していた魔法を使いたいけれど……
(大丈夫だ、そっちは回復させるのに集中させろ。剣は"私"がやる)
ありがとうドライ。
さて改めて。
聖魔法"リターンライフ"!
地面に私と猫型魔物を囲むように魔法陣が光で描かれていく。
魂が離れないようにするためのものだ。
成功するかどうかは……私の集中力にかかってくる。
前はもっと運頼みだったがホリハリーになり"森の魔女"のスキルを手に入れた今把握した技法や知識理解は段違いで上がっている。
だから僅かな違いに気付いて最適な治療が可能なはずだ。
前世で言うまさに研修医卒業したばかりの医師たちによる手術と熟練医師たちによる手術ぐらい差がある。
背後から激しい戦闘音が聴こえるが"鷹目"の映像からはアグレッシブに動き回る剣が私に襲いかかろうとするパペットの矢や弾丸を払い落としている。
つまりは今のところ心配がないと言うこと。
さて、この蘇生魔法は一定の理解があると断然有利になる。
聖魔法とは何か。
聖や邪というものは本来ニンゲンの主観で決まるものだ。
かなり不確かであやふやな概念だが魔法に関してはしっかり決まっている。
この聖という属性はいうなれば純粋の魔法。
混じりけを許さない潔癖な魔法だ。
"トリートメント"は純然たるその対象生物ではない『傷』『毒』といったものを嫌い拒絶することで治す。
このさいに別に生物そのものの力を使っているわけではなく『傷を追い出す』という結果だけを持ってこられるため肉体が不自然な変化に悲鳴を上げる。
それが治療痛と呼ばれるものだ。
では"リターンライフ"とは何か。
それは内側に向けてのみ『魂の入り込みを拒否する』結界をはって魂を閉じ込め。
さらにそのもの本来の生きているという状態でないものを否定する。
つまり『死という結果を許さず蹴って追い出し結果的に生き返らせる』魔法だ。
死んでいなきゃ生きているってことになる。
生物限定ではあるがなるほど無茶苦茶な魔法だ。
まあつまりは……
蘇生のために祈るのではなく。
死を殺す勢いで憎んで。
重傷を絶対に許さない!
死ぬなんて許さないんだからね!
みたいなアレソレはともかく魔法をうまく死を親の仇のように追い倒してもらうしかない。
光が猫型魔物を包んでいく。
さあ、やれ! いけ! そこだ!
こうして……ここを回して。
よーし概念殺し、概念殺し。
こいつでどうだ!
いまだ!
ここで傷口をこう追い込んで……やった!
光がおさまるとあれほどまでに死の間際だった猫型魔物が目を覚ました。
よし!