二百三十九生目 仕込
「そうだよ、バローくんの前に私たちを通して貰おうか」
「どうやら、まともに話し合いが通じる相手ではなさそうですね」
バローくんとコートに覆われたソレとの間に私とカムラさんが入り込む。
バローくんは魔物たちを必死に治療中だ。
正面を見据えてショートソードを構える。
「実力者ト認定……"魔王"様ノ復活ノタメニ、尽クス――」
「私には既に心の中に1人決めておりますので結構です」
カムラさんも斧を構えて断る。
「"魔王"様ニ尽クス事デ欲スル物ヲ――」
「欲しいものはあれどバローくん拉致しようとしたり、その魔王を復活させるために魔物を殺そうとしていたり、根本的に合わないね!」
"闇の瞼"が発動して目を暗い光が覆う。
なるほどやはり誘惑するためのスキルを使っていたか。
もうこれで防いだけれどね。
私も当然否定する。
ガチャリとコートのソレから音が聴こえた。
両腕の武装が再び展開されたらしい。
「ナラバ危険ト認識……排除」
殺気はないがやる気らしい。
無機質な刃がそれを物語る。
まず動いたのは私だ。
初めから全力だ!
剣に土の魔力を開放させたまま"近接攻撃"!
横斬りすると剣を合わせるのを嫌がって身を引き避ける。
……はずだった。
ソレのコートに切れ込みが入ると共に魔力がインパクトし大きく吹き飛ぶ。
おお、こんな風になるのか!
ソレは避けきったつもりだっただろう。
だが横斬りから勝手に派生し剣が考えて複雑な軌道を描き剣先を引っ掛けたのだ。
並の相手なら普通に当たるはずの攻撃だった。
やはりしっかりと修練している気配がある。
そしてコートを抑えていたソレに反して次々コートはビリビリに破れる。
傷口からどんどん土魔力により力ずくで破壊されているのだ。
意図せず服だけ壊す道具みたいになってしまった。
そしてついにはフード部分すらも脱げた。
「なッ!?」
「えっ!?」
「ほう?」
恐らくは何らかの魔法コーティングもされていて完全に暗闇に覆われ微動だにしていなかったフードと顔部分。
フードごと魔法コーティングが壊れる事により顕になった顔は。
ニンゲンの模造品だった。
言うなればマネキン。
人体模型の方が近いかもしれない。
作り物でむき出している眼球に木材か何かに塗装した肌。
口のある場所には何らかの管がつけられていてあそこから音が鳴るのだろう。
ただ纏えるだけの布切れになったコートをソレは諦め脱ぎ捨てる。
全身をきっちり覆うように着ている服は中を隠すかのようだ。
「パペット系!? 気をつけてください!」
「バローくん、知っているの?」
「細かくは……ただ全身兵器の魔物とは聞いています!」
なるほど全身を覆い隠す服はあの中にいくつ仕込んでいるのかわからなくするためか……
さっきは向こうも正体を隠すために腕の仕込みしか使わなかった。
だがバレた今は何をするか。
"見通す眼"!
だめか。
本人自体のスキルで防がれているな。
「目標変更……殺害マタハ拉致」
「させませんよ!」
カムラさんがハンドアクス片手に攻める。
カムラさんの斧は魔力開放させていない。
カムラさんいわく「常に開放していたら行動力不足になりますよ」とのこと。
私はそもそも行動力はスキル"無尽蔵の活力"でかなり補助されている。
そうでないと厳しいというものなのだろう。
通常状態でカムラさんが斧で打ち込み相手は右手ブレードで合わせる。
同時に左腕を私に向けてきた。
発射を見極めて息を吐き飛んできた矢を顔スレスレに避ける。
切れた毛が舞う。
そのまま直進した。
あの矢……毒が塗ってあるな。
金属に混じって何か塗られているにおいがした。
接近し斧とブレードが斬り合っている所へ切り込む。
吹き飛ばされるのを嫌ってパペットは身を翻して下がった。
斬り合いさせてくれないのは困るな……
とりあえず。
「バローくん! 矢の当たった魔物は毒に侵されているかも!」
「え! わかりました!」
ん?
機械油の臭いがここにきて強まった?
もしや。
「フェイズ、アサルト」
「何か来ます!」
「むっ!?」
何らかの駆動音の後に胴体からドン! と音が鳴る。
速いものほど捉えやすい私の目はしっかりと見た。
複数の弾丸が一斉にいくつもの場所から発射!
事前に察知して直線上から避けようとしていたから直撃は避けたがアレはまずい。
何発か肉をえぐられた。
ただ銃撃程度ではたいして痛みも生命力減衰もないのは私がここまで成長していることを感じる。
カムラさんもまだ戦えそうだ。
バローくんは距離もあり直線上から外れ屈んでいたこともあって驚いているが無事。
仕込み銃複数とは凶悪な。
「奥へ追いやりましょう!」
「ああわかった」
カムラさんに合図して双方から挟むように接近する。
射撃はひとりならどうしても直線制圧しか出来ないから。
予想通りギミックを変えるのか機械油のにおいと共にその場に屈んだ。
そして私達の接近に合わせて大きく跳んだ!
脚がバネのように!
そうきたか!