三百八A生目 鳥魂
豪華なメンバーにツバキとエイヘムが囲まれて若干居心地悪そうにしていた。
「ツバキさん、エイヘムさん、それに、シローさん」
「は、はいッス!」「ええ、マイレディ」「ああ」
「今回の件でニンゲンの怖さを味わってしまったと思うけれど、懲りずに外にも冒険していってください。冒険はとても楽しいものですから! そこにニンゲンの悪意よりも恐ろしい力が振るわれていたとしても、きっとキミたちなら切り抜けられますから」
「もちろんだ」
「ああ、マイレディとお別れになってしまうのが非常に心苦しいよ。だけれども、この体と心に翼をつけて、いずれマイレディを迎えに行くさ」
「『自由』の冒険者……いえ、ローズオーラさん、遠くで見ていてください。きっとアタシたち、冒険者として名を馳せて見ますから!」
「へぇー、こいつら、随分いい顔してんな……それがお前さんの力ってやつか?」
「私は、何も」
みんなが口々に自分の想いをその生き生きとした顔とともに語ってくれる。
シローはいつもと違う言葉だし言葉よりも態度が雄弁に語っている。
ツバキは一番熱烈に語ってくれた。
エイヘムはいつかアノニマルースにたどり着くだろう。
「諸々の事件はありましたが、このあとは我々が引き継ぎます。安心して任せてください」
「ええ、ぜひよろしくお願いします」
「あなたには……本当に時間以上に大事なものを、みなさんに渡してくれたようですね。ありがとう、貴女に頼んでよかった」
「ギルド長も元気で!」
私はみんなが見守って手を振る中ワープする。
今回はほとんど開けていないのに……
なんだか久々な我が家へ。
その後みんなの手紙で続報がわかった。
まずツバキとシローの続報。
無事に試験は合格の通知だったそうだ!
『無事、受かりました!!』
書き文字がたどたどしいのが微笑ましかった。
また祝い酒を開けたらしい。
ただし今度は大衆酒場で。
お安い価格のお酒だ。
自力で高級な方に行く! をテーマにしてやっていくらしい。
即物的なものだがある意味冒険者らしい。
ツバキは魔法を本格的にならいだした。
あくまで主力は槍だけれど今回は槍がうまく働かない機会がおおかった。
奥の手を増やすのに燃えている。
シローは寡黙ながらだいぶちゃんとしたチームを組んで短期護衛をするらしい。
あの調子で大丈夫かと不安になるがむしろ余計なことずっと喋る男よりずっと頼りになるとのこと。
1名しか脳裏に浮かばない。
そんなエイヘムは……船に乗った。
出荷ではない。
レーナ令嬢と共に本国の方へ向かったのだ。
囮に別れたニンゲンたちとも合流。
ちなみにそのニンゲンたちはぴんぴしていたらしい。
レーナ令嬢はひどく安心していたそうな。
『この手紙には詳細を書けないけれど、マイレディたちに恥じない立ち回りを見せられたらなと思っているよ! そう、それは完全なる吉報という形でね!』
文字上ですらきざったらしい筆記体で綴られていた。
逆にすごい。
ここまで堂に入っているとは。
彼らにも返事を送って今日も仕事を終える。
いつの間にやら私に手紙を送ってくれる相手はとてつもなく多くなっていた。
私の能力フル活用で全部目を通すけれどね。
業務はともかく私信は何であれ私のもとに寄越すようにホルヴィロスにも頼んである。
こういうのを怠ると私が孤立していく感覚がある。
神を名乗らせてもらっているが心はまだ小市民だ。
「うーん……!」
終わりの伸びをする。
この時尾もちゃーんと伸ばすのがコツ。
意識してなくても勝手にふるけれどこういうときに解さないとね。
夜更けてきたが冒険者としてはここからが本番だ。
今のは書類関係の業務だし同時に心休める場でもあった。
冒険は帰る場所があるから行えるんだなあ。
こんにちは私です。
現在宝石剣が判明しているのは……宝石剣とは魔王フォウの力の源だということ。
[自分だ]
そしてお茶の席をかこむ反対側にはフォウがいる。
大きな帽子をかぶった詳細不明まんまるボディに取ってつけたような目が浮かび。
体から切り離された足で支え腕なんてない手でお茶を掴んでいる。
こういう原理も何もでたらめな存在がいると自分って普通だなって実感できる。
まあ対象が魔王なんだけれど。
宝石剣は現状5つ所在地が判明している。
1つめ。ドラゴンソウル。
大剣とナイフの紫色の剣で各地の芸術展を回っている。
宝石のような色ってだけで本物の宝石ではないがアメジストのような雰囲気だ。
2つめ。アンデッドソウル。
これを見つけたのは依頼で屋敷のお化け退治していた時。
完全に偶然ながら確保できたため現在は私が半分冒険者ギルドが半分持っている形になる。
権利的に私個人では持て余すしどこに置けっていうねんというものなので……
正式に冒険者ギルドの大本部と呼ばれる所に輸送。
現在は厳重な閲覧室で誰でも見られるらしい。
見た目は懐刀とか護身用のナイフと言われるもの。
黒いのでオニキスっぽい。
3つめはビーストソウル。
帝国が所持している宝具だ。
二重の刃に重なる曲刀のような形をしておりピンクカラーだ。
色的にスタールビー風味がある。
さて4つめ。私はまだ見たことないが蒼の大陸の遥か北にある国に保存それているらしい。
いわゆる北極圏というやつか。
名をプラントソウル。
植物殺しの刃は真っ白であり鎌の形をしているそうだ。
さらに5つめ。
これは最近見つかったものというか……
ぶっちゃけアノニマルース防衛戦で見つかった。
大河王国の第一王子が持ち込んだ槍だ。
大事そうに国宝武器として扱っていた第一王子。
あーいや今はもう第一王子ではないや。
役職は王国総軍団長とかなんとか。
いや国防長官だったっけ……?
たしか王と本人でそこら辺の言い回しが違っていた気がする。
ともかく元第一王子のラーガが持っていた朱雀の槍。
それが度重なる激戦により壊れ……たように見えたのだ。
実際のそれは……槍の真価を隠し所在をくらますためのフェイク。
情報というものから守るための鞘だったのだ。
「それがこの宝石剣ってわけだったんですねえ」
「そうだ」
今私は随分と物々しい警備の部屋に来ている。
目の前に元第一王子ことラーガ。
偉そうな雰囲気だが実際国のトップクラスにえらい。
私が来ていたのは大河王国の宝物庫内。
この部屋にはたった1つのものしか安置されていない。
目の前の真っ赤な槍だ。
あの戦場で判明したということは逆に言ってしまえばほとんどの者にはバレていない。
話を広める前にということで私にお鉢が回ってきた。
手伝ったんだからこのぐらいしろと言われても反論できない。
「さ、お前の何でも出来るという話、見させてもらうぞ」
「一体どこからそんなことを……なんでもできるんだったら、とっ捕まってないって。どれどれ……」
できないことをできるようにしようとしてきたタイプなだけであってできないことはないタイプではない。
絵も苦手。水も苦手。空も苦手。
どの能力も特化するほど伸びてはいない。
他人に言っていない弱点なんてたくさんあるしなあ。
というかみんなそういうもんでは? と思う。
私が完璧超匹ならそもそも一番危ない冒険者でスカウト係なんてやってない。
というか他者から見た時1番大きい弱みが冒険やめらんないことだろうなあ……
[バードソウル 世界に7つ別種類である宝石剣シリーズの1つでユニーク品。対象が属するものが"鳥"の場合威力プラス200%・"鳥"に対して威圧と恐怖を与え"鳥"からの攻撃を半減。"鳥"からの状態異常攻撃無効化。これは空飛ぶ鳥を太陽が落とす、矢であり、弓は構えることそのものである]
ルビーのようなこの槍はなんか矢らしい。
「バードソウル、鳥に対する……というより、属性鳥に対して恐ろしく強い武器のようです」
「鳥? 羽があればいいのか?」
「観た感じ、飛行している相手特攻ですね」
「ほほう! それは素晴らしいな。空に浮く者で邪魔なものは多い。我が大河王国の宝にふさわしい」
「それだけじゃあなくって、これ槍じゃあないですね。矢です」
「矢、だと!? それほどの太さの矢など、バリスタのような固定兵器になろう!?」
「使い方があるみたい。ええっと……外に出すのはまずいよね」
「む、外か……やがては実戦用に持ち出すとは思うが、そのための認可作業はやっていない」
そりゃそうだよねえ。
こんなところに入れているぐらいだし。
んじゃあ。
「騎士のみなさーん、ちょっと武器を使うので結界をはります!」
「そうか? ならそうしろ。お前たちもそのままだ」
「「ハッ」」
国防長官からの指示もおりたことだしやろう。
私は神力を意図的に開放し神域展開する。
“大地の神域”!
周囲が一気に景色が変化する。
本日の私の神域である。
結界? まあそう説明したほうが早かったから……
「なっ!? 転移でもしたのか!?」
「してないですよ、結界です」
「外!?」「一体これは?」「結界って!?」
「結界です」
何を言われようと結界で押し切る。
今回はそこが大事じゃないので。
そっとバードソウルを手に取る。
あ。もちろん今私は2足歩行モードだ。
みた感じと手に取った感じは結構違う。
かなり自分の中に重みを与えられるような……
つまるところ本当に扱えるのかどうかを試されているような感覚が。
「ちょっと離れていてください。この子が暴れだす可能性あるので」
「お、おう……? え? この子? 誰のことだ」
「もちろん、バードソウル」
「そうか……その槍、いや矢? が暴れるのか? 朱雀の槍であったころは、おとなしかったのだがな……ともかく、任せる」
任された私はしっかりとバードソウルを握り直す。
これを……使う!
意思をこめると私とバードソウルの魔力が乱れだし暴れて互いに打ち込みあう。
外側にもバチバチと光の火花が弾かれだした。
「ぬおっ!? それは平気なのか!?」
「あ、大丈夫。もう終わります」
ガタガタ槍が震えているけれど大丈夫。
私は基本的に選ばれしものではないからねえ。
魔王の力とも相性が悪い。
だがそれは扱えないほどこちらが弱ければだ。
ピタリと動きと火花が止む。
どうやら観念したらしい。
ええと使い方はさっき観た内容を参考に。
やりを片手で持ち大きく上へ上げてから一気に下げる。
やり投げ直前のような姿勢だ。
すると不思議なことが起こった。
「なんだ!? いきなり弓と腕が生えたのだと!?」
光により勝手に弓と生まれ光の手で引かれる。
意識して引っ張っていくとその巨大な弓は私の体からバードソウルを抜き取り引っ張り込んでいく。
なあるほど。これは答えを知らないと扱えないなあ。
「なるほど、それがその宝具に眠る、武技なのか」
[そうだね。宝石剣はそれぞれの力が眠っているはず]
もと魔王フォウも見守っていただけでちゃんといる。
さてこの腕と弓は一応私の意志と動きに連動しているらしい。
だったら適当に放るのは危険だろう。
私は斜め45度の角度で高く空に向ける。
ギリギリと強く引き絞ったあとに……放つ。
「うおおっ! すごいっ!」
放たれた力が圧倒的で思わず声が漏れてしまった。
ゴウンと音が鳴ると空に飛んでいく。
すんごい。空気が切り裂いて空気そのものが穴があくように飛んでいく。
「おおっ、空が!」
空の雲が吹き飛ばされていく。
領域内で再現されているので雲とか太陽とかもちゃんとあるのだ。
澄み渡った空に遅れてやってきた業風が時間の進みをもとに戻していく。
「おお……」「なんと美しい」「空が!」
「凄まじい力だな……これが朱雀の槍に秘められた本当の力、バードソウルか」