二十二生目 二月
「なるほど、そこまでもう成長したか」
森の中のとある場所。
ホエハリの群れのボスが鎮座する所には育児役が近衛役に連れられ、とある報告をしていた。
「はい、一度目で我々が手を貸さずあそこまでやれるのは、かなりの速度で成長しているかと」
ホエハリのボスはオスとメスのペアで背後には、オスの背中にある槍のようなものが抜けたあとに乱雑に置かれている。
「そうか、怪我の方も?」
「ええ、3兄弟の姉が光魔法で直ぐに治癒しています。跡も一切残っていません」
育児役からすれば確かに今回の狩りは見ていて何度もヒヤヒヤさせられた。
ただどのタイミングで手を貸せば良いか計っていた所どれも難なく3兄弟は突破して見せた。
最後スライムに飲まれた時も直ぐに駆けつけようとしたら一瞬で脱していた。
どんな手を使ったかはわからなかったが3兄弟のうち特に真ん中の姉はここ最近狩りの腕前が非常に伸びている。
前は有り余る力を持て余していた。
あいてを攻撃する意志がうまく持てずに下手な方と評された。
にもかかわらずだ。
育児役も群れのボスもその原因は、1日外で遭難した経験によるものだろうと結論づけていた。
「なので、次は水魔ではなくもう次の段階へ行こうかと思っています」
「そうか」
ボスは短くそう区切りペアのメスへと視線を向ける。
オスのボスは群れに責任を持つが直接指示は出せない。
指示を行うのはメスのボスに任せられる。
「では、狩りは次の相手へ向かうのを許可します。ハート隊も今回は積極的に腕を振るってください」
視点変更:主人公
ホエハリの夜は長い。
いや、割りと比喩ではなくて。
時計が無いので恐らくと言った所だがどれだけ熟睡していても2、3時間に一回は目覚める。
みんな私を含めちょくちょく起きては少し動きまた眠る。
別に周りが不安でねれないとかではない。
見張りはちゃんとダイヤ隊がやっているし敵襲とかで叩き起こされなければそれまでグッスリだ。
確か前世でも動物はそれぞれの種族で一回に眠れる時間は違った。
しかも必要な睡眠時間も全然違うとあった。
つまりホエハリにとって2時間程度が一回に眠れる限界。
ただし一日に必要な睡眠時間はもっと多い感じだ。
なので一回寝たらそのまま朝まで眠れることも多い人とは違う。
ちょくちょく起きるせいで体感時間が長めだ。
メリットは空に輝く星がよく見えるあたりか。
月は前世よりも大きく感じる。
しかも前世のより小さい月がもう一つある。
うーん、ファンタジー。
何とかあのスライムたちは倒せたがいやはやかなり強かった。
レベル15に一回でなるあたり、同格や格上を倒すのはかなり大事らしい。
集団で格上を狩れれば効率よくレベルがあがるのかもね。
とりあえずスキルの確認。
光魔法がレベル3になった! やったネ!
新しい魔法はこんな感じ。
[イノスキュレイト 失った部位を対象の体力を消耗し接合する。腕などが切断された場合元の部位が必要]
[スニーク 自分の周囲は音が立たないようにする]
イノスキュレイトはもしもイタチが私の前足を切り落としても前足さえあればくっつける魔法か。
出来れば使うような事態になりたくない。
スニークは使ってみた所使う直前にある程度音を立てない範囲を調整できるらしい。
自分だけ音をたてないようにしたりその周囲の草などかき分けても静かに出来たり。
ただ、首から上を対象に含めると声も出せなくなる。
これは良し悪しがあるか。
サウンドウェーブでの発声をもっと練習して使えば多少は平気?
効果時間は3分くらい。
ちなみにレーダーことディテクションは効果時間が約10分にまで伸びてだいぶ楽になった。
ついでに回避レベルが3にまで上昇。
どんどん攻撃を避けちゃうよー。
スキルポイントで獲得したスキルはこうした。
[魔感 行動力や魔法の気配をしっかりと感知し続ける]
[火耐性 火系統のダメージを軽減し恩恵を増大させる]
今回はどちらも常時発動型だ。
火耐性は前の耐性と同じ理由で取った。
耐性そのものは水耐性がほしいが残念ながらまだ無い。
魔感を手に入れた事でこれまで何となく感じていた何か不思議な力、つまり行動力や魔力というものがハッキリ視れた。
不思議な感覚で五感の他にもう一つ感覚が加わっていると言っても過言じゃない。
行動力とか魔力とかその類が自分を中心に全方位で少しの距離感知出来る。
流れや動きから後ろでハックが今起きただのインカが寝に入っただのが推測出来る。
まだ慣れてないから見たほうが早いけどね。
そして私の周りの魔感で分かる行動力の動きは変わってる。
少しずつ私が取り込んでいるのが分かる。
そして私の中の魔感で感じる力が増して行っている。
これは幸楽による行動力自動回復の効果だろう。
なるほどこうなっていたのね。
また魔法を使おうとした時やその発生場所、それによって行動力をどの程度使ったかが何となくだったのがしっかり理解出来る。
数値化される程ではないがかなり便利だ。
これで土魔法連発して行動力切れみたいな失敗はなくなるだろう。
明日はまた外へ行くのかな?
眠気が戻ってきたしそろそろ眠ろう。
おやすみなさい。
翌日。
今日の狩りの授業は昨日とは別の相手らしい。
ハートペアと共に狩りをする強敵だそうだ。
今回は特徴を事前に教えてもらえた。
強力な錯乱効果を持つスキルを使い部隊の連携を乱す。
背後に立てば凶悪な蹄蹴りを浴びせられる。
走り回ればこちらを全員ひき飛ばしてくるそんな相手。
まずはその特定の相手を見つけるために森の中で探索中だ。
「ほら、ここの草は向こうまでかきわけられている」
「そして残されたにおい……かいでごらん」
一見するとどこまでもタダの森だ。
しかしハートペアが言うように長く森で暮らしていれば違和感に気づく。
ほんの細いルートを何かが移動した形跡だ。
3兄弟でその場に残されたモノのにおいをかぐ。
何のモノかは想像しないでおくが野生生物が残すモノだ、まあそう多くはない……
「ふうん、やっぱり俺たちのにおいじゃあないよね」
これはあれだ、スペードたちがたまに狩ってくるやつじゃあないか?
「そう、まる! じゃあこのにおいを追っていこう」
対象のにおいがしっかりわかればどちらへ移動したか含め分かる。
近くにいるだろう方向に追尾して行こう。
「今回は僕たちが先導するからついてきて!」
ハート兄がそう言ってペアごと駆け出す。
その後に私達がついていく。
さすがに慣れたものらしく迷わない。
私たちに合わせつつも速度をグングンと上げてゆく。
しばらく走った所でひたっと足を止めた。
「そろそろ近い。音を立てないように追尾するよ」
ハート姉が呟くように話し、私たちは同意した。
私も準備しておこう。
スニーク。
「見て、あそこにいる」
草むらの中から慎重に顔を覗かせると確かにいた。
私達が母親と乳離れした後にスペードたちが持って帰ってきた獲物。
黒の毛並みを持つ鹿だ。
近くで見ると威圧感すらある。
サイズもハート組並に大きい。
角は頭から生えているがやや前に突き出てから大きく曲がって枝分かれしている。
脚はホエハリの大人を踏みつけれるほど長い。
総合的にはホエハリよりかなりデカく感じる。
なるほど群れで狩るわけだ。
首を下げて走ればあの角が前方の守りになり突き飛ばしてくるのだろう。
[グレインLv.14 状態:普通 異常化攻撃:混乱]
ギリギリまでバレてはいけない。
メインで襲いにかかるのはハートペアだ。
私達3兄弟は隠れながら回り込みハートペアが襲いかかった後に飛び出す。
幸い私達のサイズは小さいため草むらに隠れて移動出来た。
鹿を挟んで反対側の木々裏にハートペアがいる。
合図はもう出来ない距離のため時間で飛び出す時を決めている。
鹿がそこらへんの草をむしり食べ移動しようとした瞬間ハートペアが飛び出した。
鹿側も襲撃には慣れたものという雰囲気で耳が動き目は流し見しつつ移動ルートを探した。
そして駆け出そうとしたその時私達3兄弟が同時に飛び出して道を覆う。
さあ大物狩りの時間だ"私"!