三百七A生目 飲会
落ち着いてもらった。
体液は生活魔法で清める。
意外と便利だよこういうの。
「今日はもう、伝説に会えたってだかで全てを差し引き超プラスッス。感動が止まんねーッス、あ、握手いいッスか!?」
「どうぞ」
「ヒャーッ!! 嬉しいっす!! もうこの手をこのまま石に封印するッス!!」
「危ないからやめようね」
私が塩対応なのは理由がある。
すでに慣れてしまったからだ。
そう……うん……悲しいことに。
パレードは別の緊張があるものの対面会話系はもうすんごい数こなしてきた。
相手が興奮しまくる様も最初は驚いたしちょっとうれしかったけれど……
もうずっとやってきたのでああ嬉しいなあぐらいの受け取り方になってる。
目を細めながらそれを見ていると今度はエイヘムが動き出した。
なんか満足したらしい。
「まさか伝説のレディにここで出会えるとは、運命に感謝だ。レーナちゃんの引き合わせてくれた運かな。まさか世界を旅するマイレディが……『自由』が、こんな皇国の都心にいるとは意外だったんだけれどね」
「うん、今回はかなりたまたまだね。ギルド長さんに呼ばれて仕事していたんだ」
「あっ!! あの陰険オヤジ、全部知っててあの顔していたんスね! あとでとっちめてやる!」
「まあ、面談だったからね」
面談のときに相手の属性で態度変えられたら見極めができない。
あの油断しない姿勢自体がよかったんだし。
ちなみにお優雅な社会でアレをやると多分一発退場です。
わあわあ2人に募られつつシローとともにここを去る。
シローは自分の動きを見極められた理由が判明すればよかったらしく特に話しかけてはこない。
だけれどもふと思いついたようにひとこと。
「尊敬している」
「うん、ありがとう」
「……」
それだけ伝えてきた。
ちなみに周りの警ら体の方々も聞いていたるしく「え!? 本物か!?」「さっきタメ口きいちゃったよ」「吟遊詩人か唄う伝説が目の前に……?」みたいな感じで動揺が広がっていたけれど仕事に徹していた。
プロで助かった。
私達はナブマサやレーナに話を聞いてから冒険者ギルドへ戻る。
言えること言えないことの整理だ。
まあナブマサはなんら後ろ暗いことはないうえレーナももう敵国にバレている。
こうなったらギルドに協力要請したほうがよくなっているため全部公開することとなった。
私達はギルド長にそのむねを話していって……
「なんで素行調査で国際対立の自体になっているのですか?」
そう雅な声で問われた。
「私もそう思います」
「トラブルに愛される体質なんですねえ、本当に。一応資料は手元にありますが、公的記録だけで明らかに活動数年で起きる範囲ではありませんよ」
「自覚は少しあります」
「やっぱトップ冒険者に事件がみんな会いたがるもんなんスねえ! くっ〜! 憧れる!」
それには憧れちゃいけないと思う。
「えーっとまあ、これがエイヘムさん
の素行調査結果です。男女への絡みが露骨なのは冒険者としては少なくないですが、問題はやはりギルドを通さない野良依頼をこなしていたことかと」
「あっ、そういうばそのような話が合ったね!? 僕の素行調査だったって!」
「そう、本来の目的はそっちだったんだよね……」
「うーむ、今回の話を聞く限りいかんともしがたいものですね。そもそも、いくらエイヘム君の好きな女の子の依頼とはいえ、必ずギルドを通すようにしてください。よかれと思ったことが、今回のように大きなトラブルを呼び起こすことも多いんですからね。あとから我々が責任を取れるパターンは、少ないのです」
「うぐっ!? ま、まあ……今回はマイレディに迷惑かけたうえ、レーナちゃんも危険に晒された。もしもの事が起こりうる状況だった……反省しているよ」
相変わらず偏っているものの反省はガッツリしているようだ。
なんというか……コントロールしやすそうだな……
「ギルドからは特に罰則はありませんが、これは逆に言えば本来今回の件でギルドは一切の人員や経費を割けない、という意味です」
「うぐぅっ」
「まあ、今回は運に助けられましたね。組織としては、この費用を貴方個人に請求しても良かったのですが、幸いにして貴族様の案件。彼らの心ははかりがたく、そして寛大であられる。全て彼らに責任と誠意を持ってもらいましょう」
つまるところ『貴族が関わってるとなると多分色々断ったり逃げたりするのも難しいだろうから、そのぶんたっぷり色つけてその貴族にお金要求してやる!』ということ。
力のない冒険者が下手に対応すると首がなくなる。
それが権力者というものだからだ。少なくともこの皇国では。
「あー、えっと、なるほど、よろしくお願いします」
自分が今首の皮1枚繋がったことを察してエイヘムは深々と頭を下げた。
またはうなだれたとも言うかもしれない。
「じゃ、話もまとまったことだし、あとはいつものですね」
「いつものッスか?」
「ああ」
「え、ここから入れる保険が……?」
「あー、ではこちらから予約入れておきます」
「よやく」
「もちろん。感覚は薄いというよ、りあまりにもゴタゴタしすぎて感覚はないかもしれないけれど、これは依頼達成だよ!」
「……ああっ!! そうでしたッス!!」
そう。私達は達成したのだ。
冒険者がでかい仕事をやりとげたのだ。
ならやることは1つ。
「「パーティーだ!」」
私は結構こういった仲間内での食事は好きだ。
3つ隣の食事どころを予約されたの手間みんなで食卓を囲む。
ちなみに近くの施設はほぼ冒険者用施設だ。
真隣は大衆酒場で食事もガンガン出てくる。
騒がしくしたいならあっちらしい。
こっちは逆に個室を用意してくれる高級志向。
広々とした個室に通されておいしい食事に舌づつみをうった。
まあ私は味覚がニンゲンと違うんだけどね!!
ただそれは事前通達が行っていたらしく私の分だけ取り分けてあった。
ちなみに神になってから何を食べても平気になった。
多分レベルが高いのもある。
ただめっちゃおいしいな! というのは前のときと変わりはない。
細かい違いはあるのだが……私の味覚はええと。
塩味は少ない方が良い……ニンゲンの必要量と違いすぎる。
苦味はそこまで気にならない……昔しぶしぶ食べていた森の木の実のほうが万倍苦い。
香りは良ければよいほど良い……香辛料の多いものだけでなく花の香りもいい。
甘味はまあそんなに……香りの甘味は感じやすいのでそちらを重視。
酸味は感じやすい……塩よりはマシ。
辛味はダメージ受けやすい……まあ行けないわけではないんだけどびっくりしやすい。
旨味はあるとよし……香りの旨味のほうが大事だけれどね。
味にうるさいニンゲンは研究された味により唸らせられるけれど……
魔物(ホエハリ族)の味だなんて研究されていない。
歯ごたえなんかもそうだ。
私は牙が揃ってるので硬いものを楽に食べられるし細かくて柔らかいものはむずかしい。
いやご飯とかそばとか食べたいからそこは努力するけれど!
ニンゲンが食べれなさそうなニオイのものも私からしたらおいしく食べられるものも多いだろう。
いやまあ毒のものといけるけれど……
そうではなくて食事っぽくないニオイのものでも食べれそうならいける。
というわけで私の前に並べられた食事はちょっと特殊だ。
ニンゲンたちの食事をベースに味付けを変えてある。
皇国の食事って素材はともかく味は結構いいんだよねえ。
「うわ、骨ごと食べるんスかその肉!?」
「うん? うん、おいしいよ。まあみんなは真似しないほうがいいけれど」
「人の歯ではないな」
「あ、すごいねシローさん。やっぱよく見てる」
「え? マイレディの歯は真珠の美しさで、凡百の輝きではないということかい?」
「うーん、見つけられてなかったアタシが言うのもなんだけれど、盲目野郎ッスねー」
高級外食店とはいえ結局は冒険者向き。
名前のわからない料理が少しずつ出るというよりでかい肉がドン! と出てくる。
骨付きだ。
他にもたくさんのカロリーつきそうなものたちが。
冒険者たちは外に出ている間どうしても食事量は落ちるし健康からは程遠い。
たくさん煮込まれた野菜たちのスープやいかにも歯ごたえの良さそうな漬物までバランスも考えられている。
特に魚料理。
これが特に豊富で焼き魚から刺し身それに寿司まで置かれていた。
何でもありだ!
言うことなしの完全メシだ。
常人ならカロリーオーバーだが問題なし。
冒険者はスレスレの命の取り合いをするため全く持って足りない可能性もある。
それをみんなの席にある酒が補う。
冒険者が好む酒はアルコール量もまあまさそうなんだけど……
栄養価が高いんだよね。とにかく。
味がすごくいい。
雑穀を煮込んだような味がする冒険者酒は基本的に安いまずいもう一杯みたいなノリだ。
そのかわり安く酔えてしかも栄養価豊富。
ただ今飲んだこれはとても同じ種類の酒とは思えない。
「すごい美味しいね、このお酒。香りがとってもいい」
「うーん、マジいいっスねえ。次は自力でこれをチームで飲めることを目指すッス」
「ああ」
「マイレディたちのように美しい女性たちが求められる酒の良さにふさわしい……男たちならもっと薄めた泥みたいな酒で十分だな」
どうやらエイヘムは普段の酒のほうが好きらしい。
これはまあ好みだからね。
シローはどっちでもよさそうだ。
ただ物珍しいという点でエイヘムもシローもバンバン飲んでいく。
そして飲む量が増えるということはべしゃり多くなっていく。
雑な感じの談話がね。
「はぁー、今日ほんと死ぬかと思ったッスよー、なんか物理的にのと、嬉しすぎてのと」
「僕は肩の荷が下りた気分だよ。終わりの見えない依頼だったからね。護衛はまだ続けるけれど、今回の件で大きく動いた。この先がちゃんと見えたのは大きいね」
「……」
ただシローは数杯飲んだあたりからもう無言になっていた。
「みんなも死んだらお知らせしてね。手紙も冒険者ギルド通せばとどくし、普通の話でもいいけれど。蘇生なら、まあ、間に合えばやれるから!」
「さらっとプロの聖職者でもできないことを言うッスね……? というか、うちらなんかがお手紙出していいんスね!? 遠慮しないっスよ!?」
「もちろん! みんなも大丈夫だよ!」
「……」
「さすがマイレディ、その心海よりも深い……感銘をうけましたよ。ぜひ、僕のマイレディたちの美しさを愛で奏でる文をたくさん綴らせてもらうよ」
「あーはい」
いるんだよなあ……そこそこ。
ホルヴィロスがたまにキレているけれど。
ホルヴィロスだけはキレる権利はないと思う。
「えへ、えへへへへ、昇格よりも、今日の出来事のほうが嬉しいかも。直接『自由』の冒険者にしどうしてもらえた……それに、握手まで……夢のような日だなあ……」
「仲間に怒られないかなぁ?」
「んあっ!? 忘れていたぁ!?」
「ハハハ、レディのチームはなかなか美しき毒をお持ちだからね」
「ううーん、ううーん、でも、これなら仲間に怒られても、仕方ない……!」
「えーと、またみんなも紹介してね?」
「いいんスか!? 絶対みんな喜ぶッスよ!!」
そんなこんな話ながら長い夜は更けていく。
シローは確かに何も話していなかったが……
終始機嫌が良さそうなにおいがしていた。
みんな良さそうで私も良し!
「今回は本当に助かりましたよ」
「偶然でしたけれどね」
翌朝諸々の話をしてツバキのチームにも会ったあと。
そして今私は都から出るために冒険者ギルド前に来ている。
みんなシローくん含め見に来てくれたらしい。
ヤクザの組長も今日はカジュアルな服装で雰囲気を抑えている。
ギルド長もわざわざ直々にだ。