三百六A生目 忠誠
私はみんなと合流した。
やっぱり向こう側にも暗殺者たちがきていたらしくみんなと騎士たちに取り押さえられていた。
まあなかなかスプラッタになっていたが許可をもらって蘇生した。
まあ「なんで?」みたいな雰囲気はあったが私の答えとしては1つめが殺しを無駄にこれで重ねないため。
そして2つめは罪人はしかるべき司法で裁かれるべきというのが信念だからだ。
残念ながら生物の精神はそんな器用にできてはいない。
いやむしろ……同族を殺したときにだけ精神に負荷がかかるのは器用な作りなのか。
殺しが日常の選択肢に入るとおかしくなっていく。
それが私は嫌である。弱者という立場が狂うまでの枷が外れる。それは個人単位ではなく全体のことだ。
というわけでなかったことにする。
蘇ったら蘇ったでみんなポカンとしていたが。
「いや、ええっ、あっさりとそんなに蘇生ってできるんスか!?」
「無理だ」
「ですよね!?」
「なんともまあ、高位な聖職者かな? 確かに死にたてほやほやだが、それでも高速で生き返らせるとはね」
「うわぁ、レディ、とんでもない冒険者なんだねえ。魔術系かい? 僕が見てきた中で一番魔法系が凄まじいよ。それに心も優しい。やはりレディな身も心も美しいのが良い」
「一定以上ならみんなこれぐらいならできますよ」
嘘は言っていない。
実際死亡直後は魂を呼び返す必要がないため案外いける。
回復系列の魔法はいるけれどね。
みんなは首をかしげていたがいけるっちゃいける。
それに実際できる冒険者がいても組むまでは黙っているだろう。
自分の隠し切り札になりうるんだから。
「うん、呼吸正常。脈拍安定。弱っているけれど、ちょうどいい拘束具合だと思うよ」
「やはり……」
「はあ、マイレディのこと、あとで詳しく聞かせてくれるかい? プライベートなことも知りたいけれど……パブリックなことも」
「あれ、シローさん何かに気づいていたんスか? アタシにも教えてほしいッス」
「……詮索は御法度だ。本人に聞け」
「ど、ど正論っス……!」
シローはその後すぐに歩みだす。
と。そのすぐ後に止まってナブマサに振り返った。
「暗殺者は任せる。現場へ向かっていいか?」
「現場とは? 一応ここも現場ではあるのだけれど……」
「ローズオーラの戦闘場だ。先程、途方も無い圧を感じた、な」
「ああ、さっきのあの異様な!?」
「正直戦いどころではなくなったよね、あの瞬間は。もしかして、マイレディが……?」
やはり冒険者たちはみんな気づいていたか。
というか今現場行くの? なんでなんだろうか。
ナブマサさんはあっさり許可をくれた。
いわく主力は排除したのであとは為政者たちの仕事らしい。
冒険者は暴力装置としてべんりだけれど殴ってきかない権力の前では子犬みたいなもんだからね。
私達は現場に戻ってきたけれどすんごいことになってきた。
なんとまあ人だかりができていたのだ。
なんで? みんなさっきまでここに死の危険感じていたんでしょ?
「やっべぇな、さっきの……」
「これがえぐれて……」
「へええ、戦いの跡って……」
街の外とはいえ結界内。
魔物の心配がないし警備班なんて来ていない。
いや別の班なら来ているが。
「おさないで! 現場検証してます!」
……調査班の兵だ。
めちゃめちゃ物々しい。
そりゃそうか。これほどの武装のほうが正解なんだ。
周囲の野次馬たちの危機感の無さが恐ろしいけれど。
ただもう出番はないのよね。
私がなんとかしちゃったし。
「むう」
「人だかりやべえっすね。結界の外から回り込むッスか」
「ああ、それは良い提案だね。どれ、レディたちを導くこの力、見せるとき!」
そういえば言葉が多すぎるだけでエイヘムって斥候だった。
エイヘムに全員ついていく形で進んでいく。
スイスイと進んでいくのは人混みの難しさを感じさせない。
なるほど確かに丁寧に敷かれたレッドカーペットのうえを行くかのごとくだ。
「あ、アイツ、当たり前のように道を見つけてる……どんだけ視野広いの?」
スイスイと進んでいく先についていくとあっという間に結界外に出た。
この結界は魔物を避けている。
まあ私は魔物なんだけど私は中和させているからね。
結界の外側は重装備の兵たちがいるだけだ。
「ん? お前たちは……冒険者か。今ここに近寄るなよ。ここは危険な攻撃が発生している。付近にいる可能性が高い」
「あー……その……」
エイヘムが苦笑いする。
まあ言いたいことはわかる。
「お勤めご苦労さまです。ただ、実は私達はここのことについて伝えにきまして」
「何? もしや見つかったのか?」
「みつかったというよりも、多分すれ違いになったというか……つまるところ、トヨトミ家の方々がもうとっ捕まえました。現在起きるのを待って、それから情報を聞き出すはずです」
「なにいっ!? そ、それは聞いていない……そうか……貴族家が捕まえたか……いや、まあ、いいとしよう。うん」
すごく納得行っていない感じだ。
これは私達の報告がというよりも自分たちが捕まえられなかったという点だろうな。
気合込めて現場に出向いたら振り下ろす拳の先はもうなかった。
なんとも悲しいことではある。
ただ彼らは仕事。
無理やり飲み込むのも仕事だ。
「ここを見たい」
「あん? それは、いや、そうか……トヨトミ家の関係か。それなら仕方ない。現場を荒らすなよ」
シローはほとんど何も言ってないのにとおしてもらえた。
ツバキは小声で呟いている。
「ほええ、ごまかし方として参考になるっスね……」
内部に入ると現場を調べている人々と戦闘跡がくっきりと。
こうしてみてみると……派手にやったなあ!
紫の塊が走った跡や踏み込みや耐え。
紫の塊が爆発した余波に大量のクレーター。
全部覚えが……あるんですよね。
うん覚えあるねえ。
「え、爆心地かなにか!?」
「これ、何があったらこんな戦いになるんだい、マイレディ……?」
「……」
「少し張り切りまして。ええっとどこから話したらいいかな……」
戦い自体はすごくさっくりしたものだ。
攻撃。カウンター。追撃。拘束からトドメ。
そんな流れだがかんじんの部分は前提情報が多すぎる。
まあいいか。
ということで進化やら悪魔やらめんどくさい部分ははぶきつつ説明した。
「わけわかんないッス!!」
そして切り捨てられた。
やはりそうなるかー。
「あ、いや、説明がわるかったというよりも、とんでもなさすぎて想像がつかないッスね……そもそもこう、強そうな相手って見たらビリビリ来るもんなんで、ローズオーラさんみたいなのは初めてッすし……」
「ああ、そういえばマイレディは見た目だけならば、触れたら手折れてしまいそうな弱さや、儚いほどの存在感を感じるのに、実体はまるで違いそうだよねえ?」
「そう、それ! エイヘムの言うとおりッス! 確かに力の一端は見たけれど、それでもよくわかっていなくて……とにかくすごいのはわかったッス!」
「俺は、納得した」
ふたりは興奮していて逆にシローは現場の様子を見つつ静かにうなずく。
シローは私がなんなのか自分の中で決着がついたらしい。
「シローさんは私のこと、ちょっと知っていたらしいよね」
「ああ」
「くおーっ!? アタシも気になるー!! ローズオーラさんってどんな冒険者なんスか!?」
「ああ、それは……」
「マイレディのことか、うーん、少なくとも冒険者証を見るにかなり高位ではあったよね。遠目からしか見てはないのだけれど」
なんか推測が始まったので見守る側に回る。
「えー、ヒントは、手前味噌ながら結構有名人です。ただ、そこまで顔は売ってないかも」
「まあ、僕がマイレディのような美しい女性を見たら忘れるはずがないがね。まあ、寡聞にして知らず、写し身の絵が載るような媒体ならばきっと別なんだろうけれど」
「エイヘムのやつすらしらん、と。まあ冒険者なんて、そんなに本を読みあさったりはしないッスからねえ……うーん」
「ヒント2つめは、皇国出身の女性冒険者!」
ここで見ればわかる話をぶち込む。
だが推測している時などの考え中は見えないものを見ようとしている。
逆に見えていた前提を完全にすっぽ抜けることは多々ある。
今回は知っていた情報を扱えていないパターンだ。
「そりゃあ、そうッスけれど……」
「女性冒険者でここらで有名なのは、『嬲る微風』サクラちゃんとか、『夢惑う天使』アイリスちゃんとかだよね。ローズオーラちゃんの名前って独特だから、きっとこの国ではない、とは思っていたんだけれど、この国出身だったんだねえ……」
「んあ、そういえばそうっスか。流暢だから海外っぽい名前とか忘れていたッス。だとすると……だとすると? え?」
今の、え? はわからなかったときの疑問符ではなかった。
まさか。の疑問符を感じた。
その証拠というわけでもないがツバキの動きがピタッと止まる。
そしてぎこちなく私の方を向いた。
もうギリギリとへんな音してそう。
「え?」
「おや、ツバキちゃんは何か気づいたのかい? 悔しいね、女性のことなのに、僕がピンと来ないのは?」
「……え?」
「ヒント3つめ。冒険者ギルドから特別に、私を象徴する言葉をいただいています」
「はいはいはいはい!!」
「それっ、て、まさか!」
「ローズオーラさんは、いや、あなた様は! 自由の冒険者!!」
「正解でーす」
その瞬間にツバキは後ろへ吹っ飛んでいった。
どんなリアクション!?
シローは静かにうなずき納得している。
やはり合っていたらしい。
エイヘムはどこかここじゃないどこかに目線をとばしたあと……
ゆっくりとこちらに向き直った。
そして。
「じ、『自由』!? あの冒険者協会がプロパガンダで作ったと言われるほどの逸話を持つ、あの!? 複数人説すらあった!?」
「そのかはわからないけれど、一応『自由』の名をもらってるよ」
「本物!? なんと、なんとぉ!? あの令嬢ゆえに顔を広告に載せないと言われていた、あの!?」
「顔をそんなに載せてなかったのは、まあ私はメインじゃなかったというのと、人気スターになりにきているわけじゃないという点でね……」
皇国で有名なのは魔王討伐時だ。
あのときのスターはもちろん勇者……なんだが。
勇者グレンくんは国家に保全されるレベルで安寧な暮らしを要求していた。
というか寝込んでいたからね。
力を使い果たした関係で。
じゃあ代わりに近い人物に聞こうとなると私になる。
そこで私が矢面に立つこととなった。
幸い私は別にどっちでもよかったので……
ただあの時は量がえげつなくて疲れたなあ……
いけないいけない。
無駄に記憶で精神疲れしてしまった。
「ぉぉぉおおおお!!」
そうしたら今度はツバキが突っ込んできた。
冒険者の全開タックルではあるものの攻撃性の光はなかったのでガッツリ受け止められた。
「ほ、本物の『自由』の!! 失礼しましたッス!! ありがとう!!」
「落ち着いて落ち着いて、すごいことになってる、体液が」
ベチャベチャになっているツバキは引き剥がそうにも子犬のようになっている。
尻尾も子犬のようになっていた。
そんなブンブンするタイプの尻尾じゃないんでは……まあニンゲンだしいいけれど。
「う、うわぁっ! まさかマイレディが!! その内側から放たれる美しい輝きは、皇国最高の冒険者故の! はぁぁ、美しい女性は、その実力すらも際立っているものなのか!」
エイヘムが屈みながら私の方へ手のひらを向けてくる。
いわゆる忠誠を誓うみたいなポーズ。
または求婚。どちらでも困るなあ!




