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三百三A生目 溶岩

 私はエイヘムに目線を向ける。

 それはもうもはや同情。

  

「エイヘムさん、闇仕事をやってたのね。別に良いけれど、大変じゃあ?」


「闇といわれると困るけれど、この国で上から言われて断れるニンゲンがどれほどいるかってことだよ。あ、レディ達は安心して。もし厄介な案件が持ち込まれたら、必ず僕が何とかして見せるから!」


「この案件も、女の子にすがられて受けたっスね……」


「ウッ、まあ、そうなんだけど!」


「そこは済まないな。こちらも冒険者ギルドを通して公にすることは出来なかった。だが、確実に裏切らない者が欲しくて、情報を集めていたんだ。すると、女子供からの依頼に関しては最優先、かつ必ず確実に命を掛けてやり遂げる青年がいると聞いてな。ツテを辿って、遠回しに依頼したのだ」


「見事に一本釣りッスね。よっ! 釣り上手!」


「ハハハ、うっかり私が頼んだとバレたら絶対逃げられるだろうからね、うまく私には合わず、レーナ嬢からの依頼という形にするのは大変だったよ。そのあと正式に私からも話はさせてもらったがね」


 男の影を感じさせない立ち回りしたわけか……

 というか評判がすごいな。

 女性と子供ならなんだってやる! みたいな雰囲気なのか。


 こんな真面目な場じゃなきゃ私もちょっと笑うところだった。

 冒険者としてもかなり尖ったスタイルだなあ。


「ほんと、大変でしたよ? レディの涙は男として絶対に守らなくちゃいけない。それなのにここまで苦境に立たされるとは。今回は、特に死を覚悟しましたもの。もちろん、頂けるものは頂いているので、そう言った不満点はありませんでしたが」


「妙に手入れが行き届いた格好なのって……」


「おや、マイレディ、お気づきになられたか。貴族御用達のブランドで風呂に入ることすら報酬権利の中なのだ。何せ、高貴なる御身、そして数多くのレディ達のために、自身を磨くのは当然の権利。つまるところ、この身はレディたちのために!」


「はいはい、つまり貴族からの依頼で儲かってたんすね」


「それに、僕は元々レディを助けるために街の依頼(シティクエスト)が多かった。長い間都にいても、変に思われなかったのさ」


「ふむ」


「確かに、外に出るかどうかで汚れは大きく変わるもんね」


 身なりが良い理由は納得した。

 冒険者なんて金が入れば酒や装備に金が消えていくような輩ばっかだからなんだか新鮮である。


「っとそうだ、それで、ここからどうするのかって事ッスよね?」


「ああ、ここからは私が話を引き継ごう。まず現状、かなりマズイ。レーナ嬢の囮班がばれてこちらに向かってきということなのだからな」


「彼らが負けるとは思いませんが、だからこそ陽動だとバレたのかもしれません……」


「その可能性は高いだろう。罠にハマってくれれば返り討ちに出来たんだがなあ。そして今、暗殺者たちをこっちが捕らえている。あれで全員とは思えない。報告を受けるためのメンツも、いるはずだ。帰ってこないと悟った今何をするか……」


 そのような話をしていた時だ。

 外から突如バタバタと騒がしい音が響く。

 いやわたしは耳がいいからもっと先に何があったかわかってしまった。


そして扉が乱暴に叩かれる。


「急報でございます!!」


「どうした? なにがあった、入れ」


「ハッ!」


 さすがに嫌な予感が隠しきれないのだろう。

ナブマサもすぐに入るよう促して。

 そして入ってきた騎士はこう告げた。


「都に巨大な魔物が突如出現! まっすぐこちらへ向かって来ます!!」


「何!?」


「どういうことっスか!? そんなでかいなら、なぜ近づく間に気づかなかったんスか!?」


「まさか……」


「どういうことだ、詳しく報告しろ」


「はっ、それが、街中に突如、何事もない広場に現れたそうです。今多くの建物を破壊しながら向かってきています。すぐに避難を!」


「くっ! 敵がなんらかの方法で召喚したんだ! レディと非戦闘員たちはすぐに避難を! 男の戦闘員はすぐ前へ! 戦闘員のレディたちは避難員を守ってほしい、こういう時に裏から突かれたら大変だ!」


「ああ」


「わ、わかったっス!」


「うん、加護を!」


 私は手早く全員に魔法をかけていく。

 魔法は火力系中心。

 大型相手なら下手な防御は難しいから断然こっちだ。


「うわっ、一気に力が増した感覚が! これは……愛!?」


「少なくともそれは違うことがわかったっス」

 

「助かった。行くぞ」


「おおお、一瞬でなんという力が!」

「これが貴族に雇われる冒険者の実力か? すごいな」

「違う、当主様に雇われていたのはあの金髪男の方だ」

「何っ、ではあの獣女は一体……」


 言われたい放題だがそれどころではない。

 それに当主であるナブマサが真っ先に出ていくことで現場が動き出した。

 なにせナブマサも着替えだしたのだ。


「私も出る! 武装を準備しろ!」


「えっ!? お偉いさんが出るんス!?」


「ははっ、なぜ私達財閥当主が、昔から貴族と名乗っていられたか……それを示すときが来たようだな」


 その顔にはどこか獰猛な顔つきの笑顔が。

 そしてなにより。

 全身から立ち昇る戦意と魔力がその実力を示していた。


「では、貴方にも」


「これは助かる! ふむ、これは……すまないが、こちらの騎士を避難側にひとりまわす。君はこちらへきてくれないか。名前は?」


「ローズオーラです!」


「よし、ローズオーラ頼む! ……ローズオーラ?」


 是非もなし。

 私はナブマサとたちとともに外へと出た。





「君、この中で一番強いだろう?」


「おや、観ましたか?」


「いや、だが魔力の質が異常だった。あんな魔法を受けたのは初めてだ」


 観察系をされた場合探知が結構きく。

 ただそうか。魔法を受けた時の感触はごまかせない。

 たいていの相手はすごい! 終わりだが彼の場合はもはやソムリエのようにかぎ分けている。


 これが貴族というやつか。

 ……いや今までも何回も貴族にあってきたけれど彼が特別すごい気がするな。


「恐縮です。そこを褒めていただけるとは、さすがの感性をお持ちのようですね」


「貴族界など、ほぼ感性だけで生き抜くような職だからな。そこを褒めらると、なんともこそばゆい。さて、準備は終わった。食い止めるぞ!」


 私達はみんな外の広場へと向かう。

 エイヘムは私が来ることを嫌そうにしつつもむしろキリッとなった。

 自分が守り切るつもりみたいな空気感だ。


 シローは寡黙だが自身の強化を粛々と行っている。

 もともとソロビルドだからね。

 ひとりでやれることは全部こなすのだろう。


 そして肝心の相手だがあっさりみつかった。

 というよりも明らかに大騒動しているんだもの。

 見つからないほうがむずかしい。


 大きな魔物がこちらに向かって一直線に建物薙ぎ払って迫ってきているのだから!


「きゃあああ!!」

「うわあああぁぁ!!」


「ガアーーッ!!」


 悲鳴飛び交う中こちらに来るのは……何?

 全身から謎の溶岩じみた液体を撒き散らす竜みたいな巨大サイズの魔物。

 ただなんとなくその体が痛そうにもみえる。


 “観察“!!


[マグマトロン Lv.32 比較:少し弱い 危険行動:マグマウェーブ]


[マグマトロン 普段は火山の奥地でおとなしく眠っている。だが抱卵期になると、見境なく暴れナワバリを確保する]


 迷惑!!

 ということは女性のドラゴンかな。

 スキルにより自動的にマグマトロンの言語を習得する。


「狭い!! 寒い!! 全てマグマに変えねば!!」


「ちょっと! ここは貴方の場所じゃない、こんなところに召喚されているだけだから、暴れないで!」


「知るかっっ!! アタシが暴れたいから暴れるのだ!! 邪魔するものは燃え尽きて死にな!!」


「帰すって言ってもだめなの!?」


「関係ない!!」


 ああもうこれだから!

 ドラゴン種は全体的に好戦的。

 一度火がついたら止まらない。


 声は私が”光神術”で音を生み出し直接耳に届けているから周囲には理解されていない。

 私が直接ふっとばすのは簡単だ。

 今現在もマグマで建物をなぎ払いぶっこわしているし。


 方向が確定しているあたりなんらかの誘導も食らっているだろうなあ。

 被害を抑えるようにしなくちゃ。

 それに……


「うお、おおおっ、い、いくぞ男ども! 貴族様だけ前に立たせるな!!」


「騎士隊、前へ!」


「「ハッ!」」


「やるか」


 若者たちは奮い立っている。

 育成の機会をそぐのはよくない。

 むしろ場さえ整えば安全に命をかけて戦う機会がつめる。


「全軍、全力を持ってして敵を粉砕せよ!」


「「ハッ!」」


 ナブマサが号令をかけ魔法が放たれる。

 部下にあたる騎士たち全員に一瞬で多くの強化が入った。

 これぞ統べる者たちの能力だ。


「みなさん! 私が安全を確保します! その間に戦闘を!」


「一体あのサイズをどうすると?」


 大丈夫。

 相手が神でなければどうしようもある!

 ”守護領界”で”大地の神域”!!


 一瞬で景色が塗り変わり世界の様子が変わる。

 建物はなくなり土と岩がむき出しの荒れ地が広がった。


「うわっ!? これは一体!?」


「敵と味方全員を別世界に隔離したよ! 今ならこっちが超有利!」


「えっ、レディ!? なにその離れ業!?」


「今なら被害なしで戦いができる、か。全軍、改めて行け!」


「切り替えはやっ!?」


 騎士たちは号令とともに大きなマグマトロンへと駆け出して行く。

 ナブマサはゆっくりエイヘムの方へと向き直った。


「驚く心はある。だがそれ以上に頭が今だと叫ぶ。こういったことができてこそ、初めて社交界に立てるのだよ」


 そうナブマサは不敵に笑った。


「冒険者もだ」


「そうか、それは奇遇だね」


「ああっ、わかってる、やるよ、やる! レディのために恥は晒せない!」


 シローが飛び出すとなんやかんやいいつつもエイヘムも飛び込んだ。

 冒険者しているなあ。

 私も負けていられない。


「みんな! 全力どんどんサポートするからガンガンいって! まわりにも被害出ることはないし!」


「ああっ」


 シローが一気に踏み込んで突撃する。

 自己バフしていた影響だろう。

 さっきの戦闘より断然動きがいい!


「強化は1つずつかけるから、具合を確かめながらやって! 次は速度上昇!」


 シローはマグマトロンの跳ね飛ばしてくるマグマを避けつつ足元に接近。

 相手は10メートルクラス。

 当然このままでは対峙にならない。


「小さい小さいっ!」


 当然マグマトロンは蹴り飛ばしに来る。

 巨体は近くでみれば非常に速い。

 迫りくる足避けられるか?


「反撃術」


 盾を腰を落とし構え。

 カタールを前方に突き出す。

 角度を整えてさらにヒザまで地面におろして。


 それはまるで地面に固定されるように。

 (エフェクト)が地面と剣先双方に伸びた。

 しかも時間がたつほど巨大に。


「軍馬刺し」


「しゃらくさい!」


 足はさらに加速し(エフェクト)を帯びて凶悪な爪が小さなシローを襲う!

 だがインパクトの瞬間シロー側の(エフェクト)が力強く伸びた!

 一瞬だけだが相手を確実に串刺しするための力。


「グガッ!?」

「グッ」


 正面衝突。

 だがシローのほうが貫通した!

 おそらくシローの武技はカウンター特性。


 自分から仕掛けない限りは強いという能力だろう。

 当然シローも凄まじい勢いで蹴られたのでかなりの衝動があったはずだ。


 (エフェクト)が消えた瞬間大きく後ろへと流される。

 足で踏ん張っているがかなり体に来たはずだ。

 だがその横からすぐに騎士たちが飛び出す。


 陣形を組んで一丸となり切り裂いていく。

 マグマすら陣形の(エフェクト)で弾いていた。

 まるで1つの生き物かのようにマグマトロンへと食らいついていく。


「このニンゲンたち、邪魔だ……!」


「徹底的に妨害しろ!」


 足や腕の攻撃を徹底的に受けてマグマを切り裂いて弾いていく。

 やがてもう片足に食い込むように飛び込んで切り裂きだした!

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