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三百二A生目 暗殺

 そう言う趣味はないがなるほどレーネ殿下は品がある。

 あれは産まれてから訓練を重ねてきて自然に出来るようにしてきたものだなあ。

 人身を捉えるための技だ。


「……そんなことよりだ。どう動く」


「そんなことで流していいような軽い内容ッスか!? 天上の人っすよ!? あ、立ってるのは失礼かな、ハハーッ」


「問題はそこにはない。俺たちが、この後どう動くかだ」


「まあねえ。思っていたのとなんか違ったし。ああそうそう、こっちはキミの素行調査にきただけなんだよね」


「えっ、僕!? そんな、僕ほど品行方正で、美しく、レディファーストな紳士的冒険者は他にいないというのに……」


「自分で怪しいのを把握している言い回しじゃないかよオイ」


「そもそもここに来るのに、徹底的な防衛と罠それにたくさんの追跡を撒く前提の行動と周囲警戒、明らかに怪しい人の動きですからね、冒険者ギルドによる素行調査くらいされるよ」


「そ、そこまで怪しかったかな!?」


 怪しいでしょそりゃ。


「そこまでバレてるの!? いや、ここまで来れたってことは、まさか着けられていたのかあ……気付かなかった」


「さらにこの覆面たちも、ここを特定したみたいっすね。何か知らないけれど、まずいんじゃないっス?」


「こいつらなあ。話を聞く限り、総当りと脅迫でここを当てたらしいんだけれど、相手がそこまでするのだなんて、なんともおぞましいことだね」


「……」


「ああ、アタシらみたいに1発でツケてきたわけじゃあなかったんだあ」


「そうなの!? どうやって、怖……」


 エイヘムが腕を肩にやり身を震わせる。

 そこはともかくとして。


「事情を深堀したいけれど、確かに今後の方針を決めるのが先かもね。エイヘムさん、レーナ殿下の今後のご予定は?」


「はっ!? そ、そうだなあ、もうここは使えない、レーナ殿下の御身を護る立場としては、確実に僕たちだけで判断出来る範囲から逸脱しているんだよね。だから、上に判断を仰ぐよ」


「上? というと……」


「ここの繋がっていた貴族の家、みただろう? そこの家の主だよ」


 うわぁ、嫌な事起こらないと良いけど。

 何せさっきバッチリ不法侵入したんだから。





 貴族というのは皇国では少し前まではバチバチにあった高位の立場だ。

 ただいくつかの大きな政変があって皇国は全員の扱いが平民と同等となった……建前上。

 貴族だったもの達はそのすぐあと財閥という大規模な会社を生み出した。


 それにより特権が同等以上に発生。

 結局今も天上の人々はみな貴族扱いされているというわけだ。

 そもそも世代交代がまだらしく生きている現役貴族が普通にいるんだもの。


 それではまだ変わらないというやつ。

 建前上平等だが実際は前より格差が酷いとも言われていた。

 そんな相手の実家に正面から行くのだ。


 貴族の家というのは住家兼会社。

 本来ならアポ無し訪問はできないし部外者は一目中を見ることもままならない。

 実際来てみたら明らかに『厳戒態勢!』って感じだ。


 街中で見たことの無いほどのフルプレートアーマーを着込んだ騎士たちが門の前でものものしく待機している。

 まあ冒険者でああいう格好したのは見たことあるけれど……

 少なくとも華やかなこの場には似つかわしくない。


「僕とレーナ殿下がまず行きます。着いてきてはダメですからね!」


 どうも私たちが追跡(ストーキング)のプロだという認識になってしまったらしく変に釘を刺されてしまった。

 好き好んで権謀術数渦巻く場に行きたくはないのだ。

 エイヘムがまさか物語の主人公みたいな展開に巻き込まれていそうなのを遠くから見ていたいだけ。


 少し話してからしばらくすると戻ってきた。

 どうやら話はついたらしい。


「行こう、全員呼ばれているみたいだ」


「ひええ、だ、大丈夫なんすかね!?」


「悪いことにならない、と思う。少なくとも、暗殺者どものひきわたしはしなくちゃ行けないからねえ。さ、レディたちは先に。男は運ぶぞー」


「ああ」


 実は暗殺者という覆面軍団も連れてきていた。

 カゴ車……つまり大きめの猫車を借りて積んできたのだ。

 総勢6人。多いって。


 まあさすがに2対6なら完封可能ですらあっただろう。

 人数逆転したあげくエイヘムと違ってこっちは武装済み。

 急襲に長けた暗殺者が急襲されたら脆いのはいたしかたない。


 あとレベルがどうも低い。

 技術面は長けていたが集団でツバキひとり殺れていない。

 多分まだ経験の浅いメンツだったのだろう。


 ただ今回それでも必殺の陣だったのを運負けしたので暗殺者なんてやるもんじゃないね。


「お前たちが話にあった冒険者か」


「ああ、そうだよ。彼らの身元は冒険者組合(ギルド)が保証している。通してもらうよ」


「む、そしてそこで寝ているのが……なんというか、犯罪者共の運び方というより、野菜の運び方のようだな……」


「……」


「人数多いんすよ、これ」


 私も手伝おうとしたがシローとエイヘムが協力して運んできた荷車。

 このでかい猫車的な物の上に雑に重ねて縛っている暗殺者たち。

 ニンゲンを運ぶ環境としては最悪といっていいと思う。


「それはこっちで承ろう。こちらで絞れるものを全部絞ってやる」


「わぁ、お手柔らかに」


 彼らの運命は財閥に握られた。

 いや正式な裁きは国家が持つけれど……

 財閥に有利な判決になるのは目に見えている。


 さて。

 私たちが中に通されるものの持ち物チェックはくらった。

 魔法で取り出したりは出来るのは仕方ないが手荷物としての剣や槍は一時預かりだ。


「ええっと……」


「どうした? その剣を早く渡せ」


「この剣、意志があるんですよ。だから基本的に持ち主以外に持たれるのを嫌がるというか」


「なんと……本物の魔剣か。少し失礼」


 身長に鞘ごと外した剣ゼロエネミーを騎士さんが持とうとする。

 だがすぐに騎士さんの体が動かなくなった。

 いや……両手で持っているのにテコでも動かないのだ。


「お、重い……!! なんと……!!」


「無理しないでくださいね、保管庫があるなら、そこに」


「こ、ここだ……」


 さすが貴族の家。

 武器を一時的に収めておく為の箱ですら豪華に飾り付けられている。

 鍵をこわせなくても外箱だけで価値ありそう。


 私は自力でその箱内におさめる。

 騎士さんが露骨にホッとした表情を浮かべた。

 ああ……重みで破壊されるかもと思ったのかな。


 大丈夫。立てかけたりしまったり手入れするには大人しい子なので。


「ほ、本物の意思ある武器っすか! ウス、すげえっすねえ! やっぱりアンタ、ただ者じゃないんすか!」


「やはり……」


「おお、レディは高位冒険者らしい装備だね。高位冒険者は、やはり装備も一流だ」


「高位冒険者!? 高い冒険者なんスか!? 聞いてないっスよ!」


「まあ、一応ね。とりあえずまずは行こっか」


「アッッ、そうだった」


 そうここはまだ貴族の家の中。

 ある程度は大人しくする必要がある。

 この豪邸で我を忘れはしゃげるあたりツバキは大物だ。


 みんな騎士に挟まれ粛々と進んでいく。

 笑っちゃうほどレーナ殿下を守ろうとする配置だ。

 私たちはむしろ迷惑を広げないよう見はられている形になる。


 1つの部屋につくとやっとサンドイッチから開放された。

 中に通されると広々とした空間。

 集団相手の客室なんだろう。


「ここでしばし待て。御当主が参られる」


「わかりました」


 全員が着席したのを見てから騎士のニンゲンたちも部屋の四方に散る。

 外の騎士と違ってかなり儀礼的な姿をしているものの腰にはしっかりとした得物に厳格な顔つき。

 ものものしいなあ。


 時間にしては少したって。

 ツバキがソワソワしだしたあたりで扉が開かれる。

 私とエイヘムが立って迎えた。


「ようこそ我が屋敷へ、私が当主のトヨトミ・ナブマサだ」


 ナブマサは全身美しいスーツに身を包んでいた。

 海外から最近入ったものを皇国式に変化させたものだっけ。

 ビシッと決まっている男性だ。


 それにしても冒険者相手にも凄まじい笑顔。

 レーナ殿下がいるからかと思ったが匂い的に違いそう。

 これは……羨望? ヤンチャな経歴があるのかもしれない。


 そしてそのあとにレーナ殿下の元に改めて行く。


「レーナ、今回は酷く恐ろしい目にあったと聞く。我々の防衛能力が不足していたようだ。改めて場をもうけさせてもらうが、今謝罪をさせてもらう。申し訳なかった」


「いいえ! いいえおじさま。おかげで命が助かったのです。感謝こそすれど、誰が批難しましょうか。冒険者のみなさん、そしてエイヘムもほんとうに助かりました」


 レーナ殿下が綺麗な礼をする。

 エイヘムも負けじと丁寧な礼をした。

 この2人はなんというか絆を感じるなあ。


「さて、ニューフェイスがたくさんいるということは、既に多くの安全を失っている、とも言えるが、共に命をかけてくれたとも聞いた。詳細に何があったか聞いても?」


「ウス。情報交換するっス!」


「では、それぞれの視点から……」


 かくかくしかじかということで情報を交換する。

 こっち側の騒動まとめを話すと何度も感心するように聞いてくれた。

 そして終わる時には「よくやってくれた」とみんなを賞賛し握手してくれた。


 さすがお貴族様政治がうまい……とナナメにみているの私たち大人組。

 ツバキやエイヘムは素直に喜んでいた。


「では、こちらも説明をしよう。エイヘムには改めてという形になるがな」


「お願いします」


「レーナ嬢の身分は既に聞いらしいが、その周囲はまだらしいな。では事の起こりから話そう。他国のよしみから突然……それこそ先触れすらなしでレーナ嬢が訪れた。驚いた我々は緊急的に招き入れ、そこで事情を聞いた」


「その件は私が引き継ぎます、トヨトミ叔父様。私はここに来るまでに囮と本体である私に別れ、必死に追ってを撒いて昔の遠縁を頼ったのです。私は、自国内から命を狙われているのです!」


「な、なんだってー!? ホントスか!? そ、壮絶っス!!」


 ツバキナイスリアクション。

 暗殺者ってことでなかばわかっていたけれどやはりかあ。

 話が大きくなってきたなあ。


「私から言うのもなんですが、私は自国内ではちょっとした有名人でして、そこそこ相手に心当たりがあるもので」


「フフフ、そこそこね。国内有数のブランドシェアを誇る大手のデザイナー兼ブランドギルドのトップを務めるレーナ嬢が寝」


「あ、あれは家の力も大きいだけですからトヨトミ叔父様!! ただ、それでも若輩者が目に付いたんでしょうね。私は国内貴族と思われるものから暗殺者放たれました。それだけならまだ、家同士の争いで済んだのですが……私の力が政治的に不味かったのでしょう。派閥争いに発展して、私のせいで多くの血が流れそうになったのです。私自身戦う力が無かったのも、良くなかったことの一つでした。本格的な戦いになり、戦力的に不利になる気配と共に……」


「そう、この皇国へ秘密裏に渡ってきた。数ヶ月は隠し通せたのだが、ついにここまで目をつけたらしい。どうもレーナ嬢の本国での抑えが上手くいってないようでな」


「うへぇー! 聞いているだけで頭パンクするっス! フグの魔物みたいになるっス!」


「……」


「つまり、私は命を狙われていて、隠れる場所を求めてここに来たってことなんです」


「か、かわいそうっすーー!」


 ツバキが泣きそうな勢い。

 私は確かにかわいそうだとは思いつつも冷や汗もかいていた。

 冒険者はそういう権謀術数に巻き込まれると弱い!!


 だから冒険者ギルドがあるんだ。

 彼らが政治をこなして冒険者たちに仕事をおろしてくれる。

 だから基本こういった()()な話はなんとかしてくれるのだ。

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