三百一A生目 公爵
飛んできたナイフは固めた拳でたたき落とした。
光があるから掴んだりしても弾かれる可能性があるわだよね。
ならばこちらも攻撃で相殺した方がいい。
「何っ!?」
「シャアっ!」
エイヘムが飛び込む。
覆面のニンゲンの前まで行ってショートソードを振るようにして。
もう片手で持つ何かを地面に叩きつける!
閃光と共に周囲に一気に爆煙が広がる。
煙玉的なものだ。
「うわっ!? ゴホッ」
「吸わないで!」
「……」
「ぐあっ、目が!」
「ガハッ、ぐっ」
「目くらまし、か!」
エイヘムがどこかに走り去る。
においも強いなこの煙。
早く倒して後を追わないと。
「風よ!」
覆面の女性っぽいひとりが魔法を唱えると乱風吹き荒れて場の空気が一層される。
屋内で使う魔法じゃないせいで乱れまくりあらゆる物が吹き飛んだが。
「くうっ」「クッ」
「見えた!」
向こうから高速で飛び交う魔法とナイフ。
ツバキたちは動けそうにないしそもそも狭い。
両腕を広げ結界を展開。
防いで弾いたらシローが動いた。
「うおおっ!!」
「アタシも!」
「暴行を確認! 確保!」
冒険者は警ら隊では無いので逮捕権はない。
しかし武力による緊急確保と捕縛は許されている。
このふたつの違いは捜査して捕まえられるかそしてしょっぴけるかの違いだ。
逮捕権がないのでどちらの権利も私たちにはないが……
目の前で攻撃してきた奴らを捕まえるのは当然できる。
シローは大きく剣を振り構えてそのまま盾を構える。
覆面の敵に一気に体当たりをぶちかました!
覆面たちは剣戟を当然警戒していたので虚をつかれる。
なにより攻撃したばかりだ。
防ぐことにワンテンポ遅れていた。
「「ぐあっ!?」」
「突撃は、華!」
ツバキが光で周囲に花びらのようなものを出しながら高速で突撃する。
残った覆面のもの達は連続突撃に対処し切れず光の勢いに巻き込まれ弾き飛ばされた!
この狭い室内で平気かなと思っていたがまるで問題ない活躍ぶりだ。
私はふたりのあいだを抜けつつ補助魔法をかける。
「これを! ここを頼んだよ!」
「うわっ!? すごい力湧いてくる、これならっ!」
「ああ」
実力的にはシローがいれば何とかなる範囲とみた。
サポートでツバキがあるのも大きい。
狭い室内では敵たちが囲むのも難しいだろうからね。
かけていった方向はわかっている。
おそらく非常用出口だ。
パッと見はわからないが今は大荒れしていてかくしていていたものが顕になっている。
結構出遅れている。
一気に駆け上がると追いかけている覆面の女性。
「ここまで来たか!」
「邪魔だよ!」
覆面の女性が何かをたくさんばら蒔いてきた。
嫌な予感がして触れず一気に駆け上る。
すると足元から爆発した!
ジャンプだジャンプ!
「うおわっ!?」
瞬時の判断が危険を回避できた。
とくに敵が爆弾のほうを避けるように階段上へ駆けようとしているのを見た時は。
私自身が爆発の勢いより早く先へ!
そのまま敵の後頭部へ肘を叩き込む!
「なっ!? ぐああっ!」
「こうしてこう!」
パッと観た感じ力量差はかなりある。
技術的な差異は不明なのでそこは気をつけつつ。
吹っ飛ばしたあと上に飛び乗って急所に攻撃を叩き込む。
意識を刈り取ったあとちらりと後ろみると通路が崩壊していた。
こりゃ戻れないなあ。
急いで階段を駆け上がった。
もちろん小脇に気絶した覆面を抱えて。
こんな崩れそうなところに置いては置けない。
上まで登ると扉。
半開きになってるのでそのままつっこむ。
外は……えっここってどこの家!?
家から出たと思ったら別の家の中だったでござる。
ふざけている場合では無い。
大丈夫足音はする。
部屋から出て外へ向かう人影を追う。
窓から見えるのは……なんとこの場所は貴族街じゃないか!
地下でドヤ街と貴族街が繋がっているのだなんて。
こっちのルートは使われていなかったらしく暗くほこりっぽい。
明らかに豪華な屋敷に踏み込んだ。
「きゃあ!」
「失礼!」
明らかに何人か足音が増えた段階で察していたが当然住んでいるらしい。
女中さんらしきニンゲンの悲鳴を聞きつつ駆ける。
こんなところでは常識的な速度しかだせない!
正確に足音を聞き分け外に向かうやつを追う。
庭を抜け正門近くまで来てやっとその姿を視界にとらえた。
さすが斥候だ。ルート取りが完璧。
「エイヘム!」
「もう追いついてきた!? ってさっきの……!?」
「冒険者! 冒険者だから! ちょいとまって!」
「くっ、レディからの希少なお誘い! だがどうすれば、さっきの暗殺者共は……」
「暗殺者? さっきの覆面ならもうここにはいないよ! と言うかこいつだし!」
私は暗殺者らしき覆面を掲げる。
「えっ、伸びている人間をそんな軽々しく……? そ、それはともかく、助かった、のか……?」
「エイヘム、私は大丈夫です。周囲に悪意も感じませんし」
「うっ、レーナ殿下……わかりました。ただ警戒はさせてください」
エイヘムはお姫様だっこをしていたらしい女の子をおろす。
というかレーナ殿下って。
お姫様をお姫様だっこしているのを初めてみたかも。
「ところで、こっちはだいぶ状況が読めないんだけれど、これは一体?」
「うう、背後と前に花、こんな良い状況で頭を悩まさないといけないとは……」
「あー、その、そこから冒険者である証明をおだし出来ますか?」
「ええ、はい」
それはそう。
今度は冒険者証を出す。
「見えますかねー!」
「エイヘム」
「はい、レーナ殿下ただいま……ううーん、本物のようですね、しかも多分、高位ランクのような。ただ油断はなさらないよう。私たちの事は殆どの者が知らないこと、彼らがここに居るのも異常なのです」
「まあ! 彼女にも助けてもらいましょう!」
「殿下!?」
「大丈夫、私から見ても善い方です」
おそらく斥候のエイヘムは遠視系能力を。
女の子レーナ殿下は読心系スキルだろう。
お眼鏡にかなったらしくレーナ殿下が歩いて来る。
それを肩を落とし追うエイヘム。
チャラ男なのに苦労人そうだ。
さて屋敷が騒然としだしてきた。
そりゃあ不法侵入が3人だものなあ。
貴族なら私兵くらいいる。
「……とりあえず、詳しい話は私の仲間と合流してからにしましょうか」
「ええ、先程の方たちですね。無事だといいのですが」
「そのためにも、少し急ぎましょう」
「ええっ、あれほど苦労したのにまた元の場所へ!? ……わかりました、行きますよ」
エイヘムはしぶったがここは本丸をたたいておきたい。
私はエイヘムとレーナ殿下を連れてドヤ街の方へと駆け出した……
あと小脇に掲げた人質も。
「はぁ、はぁ、こいつぅ……!」
「……ふぅ」
「クソッ、この男、妙に人と戦い慣れてやがる」
現場へと急行するとまさしく世紀の戦いが決着を迎えようとしていた。
ツバキの槍はとっくに地面に転がり代わりの短剣が暗殺者の短剣とかちあい吹き飛ばされる。
敵のこり2人だがこのふたりな数合わせではなく強豪なのだろう。
シローはツバキより傷が多そうだがままだまだ戦える姿勢を見せる。
おそらく致命を綺麗に避けているからだしレベルの差だろう。
そのままシローは冷静に盾を構えカタールを下げて構える。
「合わせるぞ」
「っ! ウス!」
シローが前に踏み込むと暗殺者はカウンター狙いで下がり構えをかえる。
ツバキが後ろで別のことをしているのでまずはシローを囲んで落とすための動きだ。
実際ツバキは対人にそこまで向いていない上メインウェポンの槍はこの部屋に大きすぎる。
だからツバキが動けるのはシローを邪魔しない後。
シローが踏み込み暗殺者と肉薄。
交差は一瞬の出来事だった。
「なにっ……!?」
シローは間違いなく盾を持って敵のカウンターを防ぎ刃の拳を叩き込んだ。
しかしてそのままでは2人目に倒れる。
そのはずが2人目は動けなかったのだ。
「散々戦っている間に見たんスから、まぐれでも使えなきゃウソっすよ」
風の刃。
二人目の暗殺者が驚きのあまり大きく避ける行動をした原因。
ツバキがいままでまったく使えなかった魔法だ。
それはこの戦闘中でも明らかになったのだろう。
警戒するにしても魔法とは思わず飛び退いたといったところか。
抜群のセンスですぐ自分の物にしてしまうのは若い力ゆえなのかしら。
もちろん魔法としてはつたなく途中で霧散してしまうできそこないだ。
だが問題ない。
敵の連携は崩れシローという獣の牙は解き放たれた。
「うおおおおっ!!」
「グアアアッ!!」
シローの刃が思いっきり暗殺者に突き刺さる。
暗殺者はやはりそこまで重装備じゃなかったのか横腹を貫かれ吹き飛び壁に激突して倒れた。
1人目は叩き込まれた痛みで蹲っていたので追加でツバキが顎を蹴り込む。
冒険者の靴はどこでも歩けるように加工されたものなので頭がいい音をたてていた。
うーん。あれは痛い。1発で気絶したし。
「みんな、何とかなったみたいだね!」
私達はそこで合流できる。
扉は開けっ放しだから透視出来ていたのだ。
「ウス、ローズオーラさん! っと……エイヘムに、女の子?」
「レーナと申します」
「あ、はい、ツバキっす?」
「……」
そうこうしている間とりあえず全員を捕縛する。
後回復。
まあ派手に出血しているのは最後のひとりだけだが転がっているみんな骨位は折ってるので。
味方も治していく。
エイヘムは怪我が無いが抱き抱えて限界まで駆けたせいで腕と足が実はガクガクだった。
ツバキは最後の魔法で余力を使い果たして前のめりに倒れていたし。
シローは余力があるとはいえ明らかに痛々しかった。
「……凄まじいな」
「こんなポーションでもないのにガンガン治るもんなんスか!? ウス、ありがとうございやっす!」
「これが高位冒険者の力、なのか? これほど一瞬で、しかも元気まで湧いてきた! 前受けたのはすごく痛かったのに。レディはとんでもないなあ」
「私が今使ったのはあくまで一時しのぎ! ちゃんとした治療は受けてね」
各々が好きな反応をしているなか傷のないレーナ殿下は先程抜けた道の方を見てきていた。
「ダメですね……完全に道が塞がっています。もうこの地下は完全に廃棄するしかないでしょう」
「それでええと、レーナ殿下……? そろそろネタばらししてくれるとたふかるのですが」
「私ですか? そうですね、今この場においては他に目はありません。話した方が良いでしょう」
レーナ殿下は改めてといった様子で礼をとる。
非常に美しいながらもきづいた。
皇国の礼ではなくもっと別の国でやられる礼だ。
「皆様、この度は助けていただき、感謝の念にたえません。私はレーナ・フォン・メルカルナ、海外で公爵令嬢を賜っているものです」
「うわっ……失礼」
思わず本音の部分が漏れてしまった。
それほどヤバいこと言い出したもの
海外の公爵の令嬢。
つまるところ国賓である。
本来ならば。
こんな所にいる時点でわけありだ。
そしてそれを匿っていたエイヘムはとんでもなくわけありの中にいた可能性しかない。
こ、困るーー。
公爵とはぶっちゃけ王族だ。
王様ではないがほぼ親族が担当する。
その令嬢といえば実権はともかく扱いはとんでもなく良い。
「いえ、その反応で当然かと」
「ええっと、ローズオーラさん、こうしゃくれいじょーっていうのは……」
「ざっくり言うと、天の上の人」
「拉致監禁は重犯罪っすよエイヘム!!」
「僕がレディにそのような非道な扱いをするはずないだろう!! キミにだって常に優しいから、そこはわかるだろう!?」
「怪しいっすねぇ、常に下半身で動いてそうなエイヘムッスから」
「ばか、おバカ、高貴なるレディの前でそのような言い回しはするな!」
「はっ! すみませんッス、つい!」
「フフフ、いえ、私も別にうぶな存在ではありませんので」
レーナが笑っただけで花が咲いた幻視をした!