二百九十九A生目 追跡
話がまとまった後ははやかった。
組長とギルド長が裏でアレコレして顔をたて地道な支援団体が立ちそうだ。
最初はまず動かしてみないと分からないということで規模をおさえる。
別の顔が出来た組長はこれで一応問題はクリアというかたちに。
大事なのはこれからだ。
頼むよ組長さん。
ツバキへの面談はその他もろもろを聞き取り終えて無事終了。
結果は後日だがまあ受かっただろう。
さて。
私は今外にいる。
ギルド長も共にいるわけだけれど。
ツバキの面談が終わったら何が始まると思う?
そう次の面談である。
今共にいるのはりひとりのおじさん。
ツバキとは色々と真逆な雰囲気だ。
寡黙に腕を組み訓練所に佇んでいる。
「シローさん、準備が出来たらいつでもどうぞ!」
シローという彼。
同じく昇格待ちの冒険者だ。
面談そのものはつつがなく終わったというか……
あまりにつつがなすぎた。
ほとんどの話に、
『ああ』
『違う』
のふたつで返して終わりだった。
それじゃあと返答が文になるタイプの……つまり意気込みなんかを聞いたらスクッと立ち上がり。
『言葉は苦手だ。見せる』
って言われてここまで来た。
ギルド長は最初から見越していたらしく「実技になると思ってました」と笑っていた。
シローの実績はまさしく中堅。
寡黙ゆえ無愛想だが仕事はきっちりこなす。
一部同性からふと見せる優しさと強さで評判が高いらしい。
ただ見ての通りコミュニケーション難。
ツバキとは違って固定チームを組むことなくだいたいはソロだ。
民間ギルドに所属はしておりそこを通してチーム依頼をこなしている。
民間ギルド内ならば彼の性格がわかっているのでトラブルにならないからだそうだ。
話さないのもこだわりじゃなくて寡黙なだけらしいし。
緘黙というわけではないので話すことが苦痛ではないのが幸いか。
「ああ」
シローは打ち込み用の丸太かかしに向き合い武装を持つ。
訓練用の盾を左に右手には……
握る部分が横について拳を守るようにカバーがつき。
その先に潰した刃の木刀身がついている。
「かなり独特なスタイルだねえ」
「ええ、このギルドでも記録上初めての組み合わせです」
まず盾。
盾を扱えるかどうかは肉体の作りがセンス的に向いているかどうかで左右される。
体躯がなければ受けれないし逃すにしても体の捌き方が身につくかどうかになる。
そして盾そのものの重量。
木だけで出来ていても防ぐためにはかなり重くいるし。
敵の突撃を防ぐならもう地面に食いつける金属の大盾じゃないと無理。
金属だけで出来た盾? それを腕に括り付けて受けたら腕折れますよ?
ってことらしい。
私は盾使わないから何とも言えないけれど。
だから対魔物相手用の冒険者が盾を扱うことは少ない。
それでも扱うということはそれ相応の自信が伺える。
もう片側の武器はかなり独特だ。
握って扱う分突くのに向いていそうだが。
確かカタールだっけ。
シローは息を深く吐いてから一気に前へ駆ける。
重厚な見た目に反したバネのある立ち上がり。
つまり速い。
光を纏って盾を構える。
「フンッ!」
腰を低くぶちかます!
重い物がガッツリ当たる重厚音。
それだけでは済まない。
固定された丸太を無理やり倒したあと自分は倒れないようにふんばる。
代わりに右手の刃を鋭く丸太側へ向ける。
光を伴う突き刺しが決まり同じ木同士なのに先端がガッツリと刺さった。
シローはすくっと立ち上がってこちらを見る。
グッと親指をたててみせた。
「おおーー!」
パチパチと拍手する。
今のは良い動きだった。
「シローの必殺連続攻撃ですね。この連撃をモロに食らって、生き残れた相手はいないほどだと言われてますよ」
「なるほどぉ、シローさん、対人慣れしてるね?」
「……」
今妙な空気が流れたな。
シローが私の発言に反応した。
「いや、それで何って訳じゃないんだけれど、筋肉の付き方も日銭暮らしの冒険者というより、じっくり鍛錬を繰り返してただしく身につけてきた感じがあるし、今の動きは集団対集団で一気に押し倒すか、それかひっそりと夜中に押し倒して斬る動きだった。ま、元は何であれ、うまいこと動けているから良いんだけど」
「……ああ」
動揺のにおいがすごい。
顔には出ていないけれど何の肯定かもよくわからないし。
「まったく、相手が困っているでは無いですか。他にも何か見せてもらうことは、可能ですか?」
「ああ」
シローは気を取り直して他の動きも見せてくれる。
私はそれら各々に評価を口にしていった。
良い悪いじゃなくてそれがどう有効で何がすごいのかみたいな解説だ。
それらを聞いてギルド長は追加で書き記していく。
よしよし。かなり動きまくっている。
大丈夫かなと思ったが良かった。
「なぜ……?」
「ん? どうしたのシローさん」
「……いや」
再度シローは残っている丸太に向かい合う。
本来は魔法とかぶつける為の大的だ。
いままでのものとは違って押し込めない。
「うおおおっ!!」
「おおっ、今度は遠方から斬撃を三回とばした! 卓越した技術が必要なんだよね。そのまま加速して一気に回り込んだ。足元を斬りつけてから上へ跳ひつつ突き。光をまとった1撃は勢い留まらず爆発的にダメージ。まさしく奥義って感じだねえ。相手がどれだけ大型でも無理やり近づき、そこから相手が大型故に持つ重量を生かした連撃。対人用のものを対魔物に切り替えて使ったんだと思う。本来は多分対魔術師用で、ヒトの顎を揺らす殴りで制圧するのが目的かな。魔術師は考えられなくなれば詠唱はもう無理だからね」
「なるほど、あれほどの鍛錬は並大抵ではありませんね。記しておきます」
たくさんの大技を使った反動で彼は肩で息をしていた。
シローが息を整えつつこちらに近づく。
もはやあたりはボロボロだがまあ見たいと言ったのはこちらだから良しとしよう。私のじゃないし。
「……なぜだ」
「なぜ、とは?」
ギルド長が聞き返したがシローが怪訝な顔を向けてきたのはこちらだった。
「情報が正確すぎる。初見だろう。何者だ?」
「え、私は……」
「まあまあ、いいでは無いですか? データも多く取れましたし、これでいいでしょう」
露骨な話題逸らしに顔をしかめるシロー。
しかしそれだけで頷きこの場を立ち去っていった。
ギルド長の判断を信じたといったところか。
「よかったので? さっきのツバキさんにも明かさなかったけれど、今回は私名乗ってすらなかったし」
「ええ、名乗ったら聡い彼の場合気づく場合がありますから。この後のお楽しみがなくなるでしょう?」
雅な声で悪く唇の端が上がるギルド長がそこにいた。
本日最後の3人目。
今度はかなり変わっていて素行調査だ。
ギルド長はまさかのお留守番。
かわりに私と先程のふたり。
最終試験ということでなんかふたりを連れて行けということだ。
今回は逆にふたりはサポートの位置で私がメインでやるらしい。
素行調査対象をチェックし結果をまとめるのは私の役割だ。
「ウス、ふたりの足引っ張らんようにします!」
「……ああ」
ツバキは元気いっぱいにシローは寡黙に頷いた。
どちらもやる気はありそうで良し。
私たちはギルドで落ち合ったあと出て少し行った道中で資料を渡し合う。
その道すがら歩いて確認だ。
「名前はエイヘム……ああ! あいつかあ! キザなヤローだね」
「有名人なの?」
「ああ」
「かなりのね。ハーフなんだけど、とにかく金髪イケメンって感じで気に食わないっすねぇー。女子にいっつも声掛けてるから、素行調査もやむ無しだよ。実力はあるんだけどねえ」
ケッとツバキが顔をしかめる。
どうやら異性に好かれるタイプではあまりないらしい。
冒険者は当然女性も勝気が多いのでこんな反応もやむ無しだ。
「シローさんから見たエイヘムって?」
「……騒がしい。後は、違和感だ」
「違和感?」
「……ウーム」
どうやら言葉に出来るほどに違和感が何かは固まっていないらしい。
同性からの評価はそこそこか。
違和感が気になるが今はいたし方ない。
「それにしても、なんで外で?」
「あー、悪目立ちしていたから。ほら
、これって思いっきり似顔絵ついているじゃん。何人かが見ようとしていたから、全部の視線を切るのが面倒くささくて。だから十分距離の空いたところで開いたわけ」
「えーっ、そんなことしているやついたんすか。ウス、後でシメます」
「やめときなさい」
ひとりが透視してふたりは鷹目のような視界を切り離してくるやつを使っていた。
さすが都。そこらで飲んでる野次馬冒険者の質がいい。
冒険してこい。
ツバキとシローは自前の武器を持ち防具も最低限身につけている。
ツバキの武装は腰に短剣と背中に両手でもつ長槍。
やはりそうだったかとひとり納得。
さておいて向かう場所は決まっている。
今回は下調べが終わっているらしい。
文字が少ししか読めないツバキと喋らないシローの代わりによみあげる。
「対象のエイヘムは、このぐらいの日暮れ時、決まって姿を消すらしい。そんなに多くなく、月に1度くらいかな。めちゃくちゃ怪しいけれど、エイヘムは斥候。尾行がバレては意味無いので、まだ正式な調査はしていないのが現状らしい」
「絶対花街ッスよー!!」
「……」
シローが、女の子はそんなこと大声で言うんじゃありませんみたいな顔している。
残念ながら女の子だってそのぐらいは普通に言うのだよ。
異性がいる中ではあんまり気が回ってないとも言えるが冒険者なんてそんなものだ。
口の上品さで命が繋がる時は全力で口を上品にしていく生き物だが……そうじゃなきゃ優先度はダダ下がるのも仕方ない。
シローが口下手なのもある意味そういった生き方だしね。
「少し早めだけれど、ここら辺が良く最終発見場所になるみたい。行こう」
「ウス」「ああ」
暗がりの中で隠れるには今の状態では目立ちすぎる。
「音は風魔法で対処するとして、全員を斥候から隠すには……」
[キープアップシャドウ 影のように気配を消し影の上にいる時に視界にとらえられなくなる]
影の魔法が黒く光が伸びていく。
紫煙のようなカラーが3人を包んだ。
「うわっ!? ど、どうなったんだろこれ」
「だいぶ見えづらくなったはず。それに……」
私は歩いて建物の影へ立つ。
するとふたりは驚いた顔をした。
「ローズオーラさんが、消えた!?」
「ここにいるよ。こうやって影の中だけ見えなくなるの。存在感が薄くなる効果もあるから、互いを見失わないようにね」
「ウス! すげえ魔法っすね!」
シローも頷いている。
ただ斥候は当然対策くらい持ってる。
闇の中に潜む魔物はメジャーだからだ。
まあ対処の対処はもちろんある。
隠れ潜むパワープレイにせり勝てるかな。
こっちはこっちで斥候を追跡しなきゃいけないんだもんなあ。
私たちはひっそりと影の中潜んでいた。
一応多重に隠蔽を仕掛けているけれど相手に隠蔽がバレたらまずい。
その時点で破綻する可能性が跳ね上がる。
私だけではなく3人っていうのも勝手が違うからなあ。
「うーん、遅いっすねえ……」
「時間的にはまだだ」
「うーー、じっとしているのがなかなかしんどいっ」
シローは明らかにじっとしているのが得意だがツバキは明らかにじっとしているのが苦手だ。
腕を組み目を閉じているシローとウズウズして今にも飛び出しそうなツバキ。
30分前後でもこんな調子なのでなかなか大変なサポーターたちだ。
ただツバキも合格したがっている。
だから今も壁に向かって頭を付けて歩いていた。
そんな解消の仕方ある?