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二百九十七A生目 新人

 こんにちは私です。

 あの時からしばらくは忙しく過ごした。

 何せ世界単位の事件かつ神の事件だ。


 せっかく月へ行けたのに冒険も出来なかったので再度行ったりもした。

 バタバタしていたからね。

 正式パスをホルヴィロスのママであるケルベロスのペロに通せばワープできる。


 なおなぜかドン引きされた模様。

 やはり月へ行くのはレアらしい……

 だけれども月旅行もたまにはいいものだよ。


 みんなが降り立った場所は大自然エリアだったらしい。

 複雑な道を降りていくとアンデッド神のような気配うごめく暗い土地も見つけた。

 おそらくここが前魔王戦で地上に顕現した場所だろう。


 月は見た目とは違ってかなり多重構造かつ空間拡張されており広々とした。

 月の探索で前悪魔として絡んできたやつらがいたり……

 そいつらをぶっ飛ばし返したりはしつたが。


 まあそこはいいのだ。

 結局月の神達は世界を滅ぼすキッカケになりうらない。

 月の神より厄介なのは私の中の呪いなんだから。


 いろいろなところに出した連絡返事はかえってきたものの結局のところ空振りに近い。

 神々ネットワークをもってしてもそう大した情報がないのがこれだ。

 ただ近々封印系を得意とする神にはアポイントを取れたけれど。


 つまるところ私は今その神待ちだ。

 ここで数年待たされるほどみんなは呑気では無いが……スキマ時間ができた。

 本来の仕事として冒険者ギルドに顔を出したら。


 今ここで面接官側の椅子にすわらせられている。

 どうしてこうなったし。


「なんでこうなったんですかね?」


「正式な依頼ですから」


 隣に座るニンゲンのギルド長さん。

 そう言われたらもう反論できない。

 ここまでの経路はこうだ。


 珍しく皇国の都へ行こうかなと足をのばし。

 すごく平坦な場に作られた都観光して。

 冒険者ギルドについた瞬間引っ張られ依頼を受託させられた。


 以上である。

 割とひどない?


「話はつけたではないですか。いまや冒険者ギルドの中では知らないものはいない、有名人の貴女ならば、これからの面談でも気合いを入れて挑んでくれるはずですからねえ」


「そんなに有名なんですかね、私。あんまり冒険者たちには知られてないんですが」


「それはそうですよ。冒険者たちは自分たちが成り上がるのに必死で、まだ見ぬ偉人の顔まで調べているものなど希少ですから」


 あんまり感覚はなかったが冒険者ギルド……さらにいうと皇国と帝国あたりではとんでもなく顔認知率が高いらしい。

 情報のやりとりが活発な冒険者ギルドならではだ。

 何せ戦いの多くは多数の勇姿によって行われている。


 私はそのうちの1だ。


「冒険者ランクもゆっくりしか伸びないから、そんなに高い評価じゃないと思っていたんですけれど」


「信じられないくらい高速で上がってますよ。まあ……それでも冒険者としては若すぎるので、ストップがかかっているぐらいなので」


「それって表に出していい情報なんですか……?」


「こういう場に呼び出しておいて、貴女は信用低いのでお伝えできません、は、義理が通らないので」


 ギルド長は正装なのかかなり変わった格好をしている。

 昔の皇国における高位な者の格好らしい。

 いわゆる平安貴族的な……


 それで凄く真面目に義理の話をするゴリゴリの強面おじさんなのでギャップがすごい。

 言葉遣いは丁寧だし。

 腕の筋肉の盛りとかみるに明らかに冒険者なのに……


「ありがとうございます。それにしても、私がいるだけでやる気とか変わりますかねえ。人生を左右する話なのだから、みんな気合いを入れるのでは?」


 昇給試験らしい。

 私は面談受けたことないなあって言ったらしょっちゅう話していたアレがもはや合格扱いだったらしい。


「冒険者の多くは、その常識は通じませんよ。命を左右する現場よりは軽いですから」


「ああー……」


 そんな言いようで納得してしまうあたり私も冒険者だ。


「さ、そろそろですよ」


「あれ、資料って……」


「貴女には資料無しで見て、先入観を無くして信用を見て欲しい。どうしても手元にある資料は各自の色がついていて、まあそれも信用の積み重ねなのですが……冷静に見極められない可能性があります。貴女の目を信じますよ」


「いきなり緊張してきた……」


 それはそういうプロに頼んでほしい。

 私置物じゃないの!?


「ここか? 入るぞ」


 来た!

 言葉遣いは当然冒険者には求められる物じゃない。

 敬語とかはむしろ普通の民にはあんまり通じなかったりする。


 だから私が見るところはそんなところじゃあない。

 マニュアル欲しいな……


「どうぞご自由にお入りください」


「ウス……誰?」


「まあまあ、座ってもらって」


 席を勧める。

 入ってきたのは思ったよりも小柄な女性だった。

 子ども……だろうなあ。

 まあ今の皇国ならギリ成年扱いか。


 獣の耳としっぽを持つトランス第二段階くらいの子かな。

 しっぽは長く先に飾り毛がついている。

 勧められて椅子に重く座った。


 確かに入る瞬間までは緩かったのに私を視認した瞬間動きが重く構えるように変化していた。

 服装はいかにも冒険者服。

 歩いていた体の動かし方的に普段は胸当てをつけているはず。


 座り方は大胆不敵に見えて足の重心がひそかに偏っている。

 指を閉じている割に動作が開き掛け。

 おそらく普段は何かを握っている。


 槍かな。それも両手用。


「本日はよろしくお願いします」

「よろしくね」


「ウス。で……」


「紹介します。今回は彼女に同席してもらっています。ローズオーラさんです」


「どうも!」


「ウス。アタシはツバキ。今日はよろしく」


 目つきの動きが全体を俯瞰しているように見えてこちらを重めに見ている。


「うむ。それでは早速始めましょう。貴女の昇格試験についてです」


「今回初めてじゃないっすか。なんで? 今まで通りじゃだめだったの?」


「冒険者の昇格には、ギルド側の信用もいるということだ。特に、低級範囲から中級範囲に行くには、な」


「ほーん、ついにアタシもベテランってわけだ」


「それはこれから決まることだな」


 軽快なやりとりしつつ私は置物になる。

 なにやりゃ良いんやら。


「とりあえず、前回のご依頼は無事完遂ですね、お疲れ様です」


「もちろん、アタシたちのチームがミスするわけにはいかない依頼だったからねえ」


「どんな依頼だったんで?」


「巨大未確認魔物の撃破。もし迷宮の守りを突破されていたら、アタシたちの故郷の村になだれ込んだかもしれなかったからな。氾濫が起きかけていたから他はそっちに当たって、アタシたちのチームが飛び込み。他が芋引いていても、やるしか無かったからね」


 なるほど。

 村の仲良しなどで冒険者になり固定チームを組んで成り上がる。

 迷宮が魔物氾濫の兆候見つかり付近の村への被害が予想されたが迎え撃つ算段。


 だけれどもそれを見過ごせるほど地元チームは臆病ではなかったと。

 だから自分よりも格上の可能性のある未知の相手……氾濫のキッカケに立ち会ったと。

 そりゃすごい。


「良いね。結局どんな魔物だったの?」


「ああ、化け物といって差し支えなかったなあ、あれは悪魔と言うんだっけか」


「おお、悪魔かあ! よく無事だったね!」


 悪魔種。魔物に良くないものが取り憑いた存在。

 その悪魔の正体は月の神が散々格を落としてなんとか地上に潜り込んだものだ。

 つまるところこれもシーマとの攻防の余波である。


 世界では至る所に知らず知らずの英傑談が生まれているんだなあ。

 なんというか感慨深い。


「ウス楽勝! って言いたいところだけど、アレは本当に関わっちゃいけない相手と感じたね。なんとか倒したけれど、体より心を削られたなあ……みんなもう回復しているけれど、まだ夢に見るよ。アレとは二度と戦いたくないけれど、きっとこの先も似たようなのはいるんだろうな」


「おや、存外弱腰なんですね」


「弱腰にもなるさ。死んだら冒険はおしまいなんだ」


 存外その目は死んでいない。

 苦労を語る時にもっとくらいにおいを出してもおかしくないと思ったんだけれど。

 きっちり線を引いてどこか遠くから見ている感じがありつつその見下ろしている中に小さな自分も含まれている。


 そんな感じかな。

 リーダー気質だ。

 ギルド長の煽り口も流している。


「それでは……そうそう、先日の件、どうにかなったのですか? 貴方のところのチームメイトであるひとりと、裏通りのヤクザどもとの争いは」


「アレなあ……」


 話しづらそうな顔で髪の毛をいじるツバキ。

 さっきまではハキハキ話していたのになんというかいきなり触れたくなさそうだ。


「ヤクザとの抗争?」


「んあ、ローズオーラさんは知らんのか。その、なあ。少し前にチームメイトがヤクザと揉めたんだ。理由は、襲われていた店を正義感で助けたんだ。まったく、普段からよく考えずに首突っ込むなって言ってあったんだがなあ」


「おや、それはなんというか、冒険者っぽい」


 物語の中のね。


「ま、後先考えず争いごとに突っ込むって点は、だな」


「私が知りたいのは、その後の経過のことです。揉めていたでしょう?」


「ウス、そうだな。はぁー、こう言うのもなんだが、アイツらもアイツらで愛されてるよなあって……」


「愛されている?」


「敵の本拠地まで殴り込んで、殴り合いで認めさせ、友人関係になってんだよなぁ……何やってんだろほんと。アタシの見ぬ間にアチコチにさあ、知らない関係できてる上、冒険者よりアウトローときた。こんなの真っ当には報告出来ねえって」


「それはそれは、心温まるね」


「温まる要素ある?」


 ツバキのジト目は流しつつも見事な王道展開に内心拍手していた。

 そうそうこういうのでいいんだよこういうので。

 私とは無縁だからなあそういった世界。


「しかし困りましたね。ギルドとしては、ヤクザとつるむ者を昇進させていいものやら」


「ええっ!? あー、だから言いたく無かったんだ!」


 それはそう。

 真っ当な組織の長が非合法暴力組織との関係性を認めるはずは無い。

 それを隠して話せば良かったのにツバキは腹芸は苦手らしい。


「じゃ、呼んできましょうか?」


「へ?」

「……ちなみに、誰をと聞いて宜しいですか?」


「今話に出た、ヤクザの長です。場所を教えてくだされば、数分で行ってきます」






「ううっ……何なんだ、ここはぁ」


 持ってきましたワープで。

 普通に座ってたのでちょっと借りますーって行って。


「嘘だろ……警備とかガードとかどうしたんだよ……そもそも距離もかなりあんのに……」


「普通に、全部すり抜けて。ここまでは、みてのとおりワープで」


「なんだか私、既にヤクザなどどうでも良くなるほどの暴力を聞いたような気がしますね……」


 冒険者の冒でお願いします。

 ……ちっとも危険性が薄れていないな。


 さて拉致……ではなくて目の前に協力者として連れられてきたのはこれまたコワモテのニンゲン。

 ギルド長とゴリゴリのコワモテ対決が出来そうだ。

 ただヤクザの長のほうがいくぶんか危ない香りがする。


 ギルド長はヘンテコな格好とはいえ正装。

 意外と理を感じるが……

 対してヤクザの長はバチバチに袴を着込み同時に物々しい雰囲気をさせている。


 いきなり連れてこられて最初は目の焦点があっていなかった。

 衝撃もそうだが多分ワープ酔いだ。

 1度目はよくなる。


 しかして今バチッと目を合わせギルド長へ目を向ける。

 そのあと私……を見逃してツバキへ。


「いってえなんなんだこりゃ? カチコミってわけでもなさそうだな? ツバキちゃんよお」


「ぶっちゃけアタシもそんなについていけてない」


 キモが座ってるなあ。

 こんなわけのわからない状態をふてぶてしい笑顔で迎え入れた。

 それはもはや獰猛で攻撃的と言っても差し支えない。

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― 新着の感想 ―
前話の途中からと同じ内容なので前話の中身を削ったほうがよいかもです。
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