二百九十五A生目 白化
「エネルギーコントロール……魔法詠唱……保留……混合……出来た!」
反発し合う別属性エネルギーを内側で生み出し一時的に膨大なエネルギーを保留することで自身の肉体的力を1段階増す。
それが進化だ。
ならば神力で解釈を広げてやることで身の内だけに留める必要はなくなる。
自分を中心にもっと外側。
宇宙に連なる惑星たち。
小さな世界として無数に浮かぶ迷宮。
全てからほんの僅かずつ力を得るんだ。
あの時は時間もなかったし直接神力浴びせられまくって感覚が全開きになり物理的にも世界と繋がっていた。
今回は月の神力だけに頼る必要は無い。
少しずつ焦らないようにあの感覚を取り戻していく。
それを理論だてして脳内処理し実行する。
言ってしまえば魂の業なので脳はサポートに回るしかない。
理屈では納得しがたい領域。
それは光の速度が比較時に保たれるように。
それは球体の内側に物が引かれ地上に張り付くように。
時が、進むように。
その性質が自然現象であると刷り込み認識し振る舞う。
その先に……私がいる。
「進化!」
カッと目を見開いて感じていたものを収束させていく。
宇宙が集積し形となっていって。
私の体がバラバラに破壊される。
(っ!)
この感覚はなれない……!
何せ痛みは無いのに感覚だけはある。
内側から全部体をぶっ壊されるような圧倒的な不快感。
ただやっていることを考えると実際そうなんだろう……!
一度即死して肉体を解析。
そして再構築……!
うぐぐ……
そうれ!
構成完了。
全身の肉体が出来上がり宝飾のついた宝石が浮く。
私が私として出来上がった。
進化完了!
光が晴れて形がなる。
2回目の進化完了!
1回目より時間がかなりかかったが実際はこんなもんだ。
「次からはもう少し最適化出来るかな……っとそれより」
うーーおう。
落ち着いた時になるとすごく嫌な感じだ。
この身体は本当に1から構成が直されている。
内臓ないから心拍や息が事実上ないしやることもできる。
瞬きをクセでやってしまいそうになり気合いで止める。
今やったらまた衝撃波がでる!
あの時はヌルがメインだったから体を外から動かしているような奇妙な感覚だった。
今は確実にちゃんと動かしている。
指1本のしなりが気色悪いくらい細やかに動くなあ……
感覚が鋭敏。
毛先ひとつうごめく体の先ひとつ。
分かりすぎて適度に慣れないと体なんて動かす場合じゃない。
「よし、さあっ……!?」
へっ!?
シュンって何の音!?
いやこの脱力感。身体が進化から戻ったんだけど!?
はっや! 1分じゃん!
カラータイマーだって3分だよ!
カラータイマーって何? 自然に単語出てきたけれど……
ともかくこれはマズイ。
お腹減った!
なんで!?
まさか今のでエネルギーを使い果たした……?
最初の時はもうイケイケだったからなんとかなったけれど。
もしやこれで進化分のエネルギーを浪費したの!?
うっそやん。
これは要訓練。明らかに練度不足。
そうさっきのは効率がまずゴミだった。
「えーい!」
やりきれなくなり地面に書き込み物事をまとめていく。
めちゃくちゃ流れをただして……ああお腹空いた!
異空間から高カロリー食をいただく。
いろんな栄養素が無くなった訳では無い。
カロリーだ! 明らかにカロリー!
こういうときの冒険者メシである固め焼きだ!
穀物をあまーく焼き固めたものではっきり言えば食事としての楽しみは何段階か落ちる。
だがカロリーはある!
冒険者が外で飯を食うのが困難な場所で戦いながらでも食べられる品だ。
いわゆる携帯食の1つである。
こいつを私の口に放り込めば二三口で飲み込める。
ニンゲンの口と違って長いからね。
「味はまあまあ、香りがなあ」
現在絶賛改良中だったこの品。
甘く焼き固めニンゲンには好評なのだが……
いかんせん香りが犠牲になっている。
あったかい食事に敵わないのならともかく複雑なハーモニーや繊細さが全部甘みに塗りつぶされている。
動くエネルギーを得る為のものとはいえもう少し何とかしたいな。
ちなみにエネルギー吸収率も高く魔法的効果で1分前後からエネルギーチャージが始まる。
うーむむ。溜まってきた。
よしもう一回やろう。
3回目はさっきのものにアレンジを加えてさっくりできた。
まあそりゃそうか。繰り返せば繰り返すほど慣れはうまれる。
その慣れの中からさらなる改良を見つける作業だ。
まず改めて“鷹目”で全身を見る。
「わあ」
今2足モードなんだけどなんというかすごいね。
まず真っ白。
昔の進化みたいだがあの時より……安っぽく言うと神々しい。
ホルヴィロスと並ぶとわかりやすいと思う。
ホルヴィロスの白さは結構しっかりした白さだ。
私のこれは透明で透き通り光り輝く白。
つまり色が抜け落ちている。
毛を光に通し透かしてみるとわかるが軽く発光している上向こう側がはっきり見えている。
それらが自然により集まることでこの光景が再現されているようだ。
あと顔やスタイルが異様に良いと思う。
別にベースの私が崩れているわけじゃないんだけれど……
言葉にしづらいが魅力がとんでもなくアップしている。
後。
「なんでか服がないなあ」
服がない。ただ内側にあるかなこれは。
いつも4足の時は服の能力効果を受けつつも表面化しないように自身の内側に存在させていた。
今それに近い。
表面化しようとすると弾かれる。
どうやら私の毛皮たちの神力が高まりすぎて服が耐えられないらしい。
全裸……毛皮があるので全裸では無いが服がないというので姿がやや神々しく見えるのもあるのか。
気分はメイクアップな自分。
肉体からコーディネートして贔屓目に見ても今の自分はオシャレ美人さんだ。
再構築された自分というものは悪くない。
ペタペタ触って本当に生き物として重要な器官がないことを確認。
つまるところ生き物としては破綻しているのだ。
まあ神としては……戦う義体としてはただしいが。
そして全身を走るようにあるイバラの紋様。
もともとあったのはもっとワンポイントにあった。
今はくっきりと大きく全身を這っている。
いくつかあるこれらは四肢の間を抜けるように動くみたい。
変わり種だねえ。
見えないイバラを動かす度にうごめくけれど感触そのものはない。
本当に見た目だけの変化だ。
神力的には変化がある。
解釈を変えてイバラが生えて振るうさいのデメリットを紋様の動きに転換しているっぽい。
これが余計に神秘的というか……なんというかちょっと不可思議で怪しい雰囲気をかもしだしている。
ズズズ……って感じ。
さて毛並みの見聞は終えた。
しっぽはいつもどおりゆらりと可憐で。
目は三つとも魔眼らしく異様な雰囲気を持つ揺らめく色。
牙はどれ1つとっても乱れのない精巧な刃。
爪は丹念にとがれかのような刃物じみて。
さあどうしようかというときに。
シュンと。
「またかい!」
時間にして1分半。
伸びたね! お腹空いた!!
5回目。
「そうれっ」
運動調査開始。
まずは軽く跳ねてみる。う
能力がヤバかった感覚はあるのでここでお決まりみたいな暴走はしない。
一回強制ならし運転しただけある。
ただ進化前と比較すると本当にちょっとした動作でパワーが発揮されてしまう。
「日常生活は無理だなあ、これ」
スポーツ用の高速マシンで一般道路走るくらいの無茶だろう。
小回りきかなすぎる。
感覚1パーセントのパワーで持ったスプーンを粉々に破壊できるだろう。
という訳でチンタラ動くのではなくあえて軽快に動く。
軽く蹴って駆ければもはや空を舞うかのごとき。
ゆらりゆれり身をひるがえせば楽しい。
「お、ローズじゃん」
「イタ吉! なんでここに?」
「特別訓練所にきたらやることは特訓に決まってんだろ」
イタ吉たち3匹が揃ってゾロゾロきた。
3匹で1体のイタチ魔物だ。
まだ加減は完璧ではないというか加減の減が利く体ではないので勢い良く離れて飛び降りる。
「その姿で、意識は……いつものローズみたいだな」
「そうだね、それで体を完全に扱えるように……うわっ!?」
また姿が戻ってしまった。
ちょっと気を抜くとこれだ。
今回は2分。まあまあかな。
「なんだ、まだそんなにコントロール出来てないのか? よくぶっつけ本番でやったな」
「あの時が1番出来ていたよ。はて……進化!」
「おおー、すげえエネルギー」
「やっぱ変わるもんだなぁ、良いじゃないか」
「よっ! イケてんね!」
「冷やかすな、冷やかすな」
イタ吉の言葉が本心なのはよくわかる。
だかま本心と共に冷やかしてくるのをやるのがイタ吉だ。
私は距離を取るように跳ぶ。
「じゃ、近づきすぎないように!」
「あいよ!」
特別訓練所での接近行動は原則禁止だ。
違反したらどうなるかって?
そいつが使おうとしている技が暴発してモロに当たる可能性があるよとだけ。
十分イタ吉と距離をとってから崖に向かって基本動作を繰り出す。
その姿でやれる攻撃行動を絡めたコンボを組むのが大事だ。
きっと今しか出来ない組み合わせもあるはず。
スキルで大打撃を狙うにはまず基本動作をしっかりしないといけない。
あのヌルみたいなガタガタした動きでは無理。
「シッ」
軽いジャブからの連続蹴りこみ。
4足歩行だとどうなるかも試してみよう。
相手である崖がとんでもない音と共に崩れだしているがまあ気にしていたら仕方ない。
徐々に威力を考え光も込めていく。
広がりすぎているチカラを鋭くすぼめ。
そのまま影響を及ぼす範囲を縮めていく。
スムーズに動かせる肉体の躍動。
エネルギーの移動もいい感じだ。
「これとこれが繋がって、だから、こう!」
最後の回し蹴りが破壊された崖の向こうへと刺さる。
そう砕けたりはしなかった。
光が鋭く刺さったのだ。
「よし」
ゆっくり体を元の体勢にピッタリ戻す。
進化がまた消えた。
体の感覚のブレが収束してきているなあ。
今のは打ち込みに2分使ってしまったから……
今度はあの倍の速度で動かないと。
実戦クラスだとさらに倍は必要だからなあ。
10回目。
もはや食糧補給もて慣れてきている。
問題は在庫の方だったり。
結局試作品なのでそんなにもってきてはいないんだよね。
そもそもホームすぐそこだし。
これが終わったら一回帰らねば。
「「うおおおりゃりゃりゃ」」
遠くを見るとイタ吉が100体どころじゃない数に膨れ上がり周囲が風の斬撃に包まれ嵐になっていた。
向こうも新技色々やってるなあ……
派手だし効果範囲も広い。イタ吉向きだ。
私はまずベースを完成させた。
とりあえず見えないイバラの動きふくめて連続攻撃は完成。
ならば大技だ。
まだ色々と分かってないことも多いがそれは調査しないと。
この進化は今までとはだいぶ毛色が違うからなあ。
「瞬き同時」
この姿になってわかったことは瞬かないで戦うことは思ったよりも利点があるということ。
目を保護するために重要なまたたきはどうしても自然にやるしそれで大きな隙がうまれる。
視界が閉じることよりも意識が一瞬散るという隙だ。
さてこの体は瞬きすれば衝撃波を放つ。
正確には目だ。
閉じられた目が開いた際に魔眼からエネルギー波が放たれそれぞれの方向へ撃ち抜く。
同時にやるとどうなるか?
今やったみたいに前方の空間が破裂する!
崖が大きく吹き飛んだ!