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二百九十A生目 完了

 グングン道なき道を落ちていく。

 赤いライトと神力の通る閃光のような光が無機質な地下を照らしていく。

 なんとか底までいけばそれらしい場所にたどり着いた。


 周囲にたくさんの計器類が見える。

 ただ意味は全然わからない。

 まあ間違いなくシーマがわかればいいとされているものだからなあ。


「ええっとぉ……ここらへん適当に壊せば良いのかなぁ」


「ローズ、機械は詳しくないけれど、肉体だとするとそれでコントロールがメチャクチャになる可能性があるなら、やめたほうが良いとおもう」


「そうかあ……」


 ホルヴィロスにそう言われたらメチャクチャにすることは出来ない。

 というかまあシーマの話が本当ならば誰にも止められないということだ。

 壊して止まる程度のヌルい作りはしていないだろう。


 それにしても……いや……



「もしかして……」


「何か気付いたの、ローズ?」


「さっき、戦っている時に相手から一瞬伝わったイメージがあって……アレ単体だと意味がわからなかったけれど……もしかして、止め方につながっているかもしれない」


「ええっ!?」


 あのイメージどおりにやればいけるかもしれない。



 機械たちを避けて奥へ行く。

 神力のたちのぼる目前に向かうとシンプルな机がある。

 いや……そう見える場所ということだけど。


 ここの前に立ち手を触れ神力を流し込んでいく。

 すると光が流れ込んで行き……

 空中に立体ディスプレイが浮かんだ。


「うわっ!? これは?」


「隠し操作盤だね。幸い文字は解読できる……よし」


「ローズ、すごい勢いで読めるようになるんだね……」


「わりと得意分野だからね。ただ、読めたとて、やっぱり切るための操作はできないみたい」


 2足型に戻り空中モニタを眺めながらイバラの先でいじる。

 ただやっぱりここからどうにかできる装置ではない。

 ただし制御はされている。


「うーん、スイッチは切れないから……かわりに封印媒体でもあれば……でも、神殺しはもう使っちゃったからなあ」


「じゃあ、ローズの首にかかっているアクセサリーはどうかな? 見るからに、凄まじい一品だけれど」


「え? これ? 私の神力を隠すためにって、蒼竜が渡してきたものなんだけれど、これってそんな力あるかな……」 


 この神力を封じて見えなくておくお守り。

 蒼竜の鱗と爪の欠片が使われたもの。

 あの蒼竜なので雑に渡されたしそんなに深く考えていなかったが……


 よくよく考えればこれは大神のアーティファクトなのでは?

 たしかによくよく見れば手の込んだ品ではある。


「うん、いけるとおもう。少なくとも、一時的になら」


「だったら、まずこのアクセサリで1段階目を封じて、私達がその上から再度封印、後に時間が出来たらケルベロスさんあたりに完全な機能停止をしてもらおう」


「うん、(ママ)ならできるとおもうから、それでいこう。ただローズ、さっきのこともあるし、病み上がりみたいなものだから……無理しないでね」


「ま、これが終わったらはさすがに休ませてもらうよー!」


 ホルヴィロスが心配するのはわかるがやはりこちとらすごく調子が良い。

 多分今なら普段出来ないことも出来るのだから。

 

 まずここでさっきチラリと見えたイメージどおりの画面にして……

 お守りを首から外し掲げ念じる。

 蒼竜の加護よ! 無理やり乱された神力を抑えて!


「あっ」


 手から蒼竜のお守りが離れだし輝き出す。

 どうやら何か起こったらしい。

 まあ普段から私の神力制御をやってもらっているからそのノリだろう。


 ――一瞬にして強烈な光が展開し結界のようなものが有機的に生えた。


 え?


「え?」


「す、すごい……これが5大竜の力……」


 それだけでとどまらない。

 立ち昇ってくる神力に無理やり絡みつき片っ端から氷結させていっている。

 すごい。物質を持たない神力に体して強引に構造変化に巻き込み物質化差せ神の力で凍らせる現象を起こしている。


「いけないっ、手伝わないと!」


「そ、そうだった!」


 ホルヴィロスに言われ慌てて前へ出る。

 ホルヴィロスも隣に並び立った。


「どうすれば!?」


「さすがに私もこんな状況を封じるのはやったことも見たこともないから、ぶっつけ本番!」


「そ、そうかあ! お、落ち着けー、だとしたら既存の物から考えを流用して、だとしたら……」


 魔法の理論を使いまわしつつ封印に持っていくのは……いやここの蒼竜の封印を参考にして、なれば周囲の状況からむしろ組み上げて、ああ神力が下からさらに突き上げてきていてまずい、だけれど氷結しているのは使えるからより深く、ならばこの術式を神力で展開して……


「よし! やろう!」


「今度はローズに合わせるよ!」


 私は急いで神力により新しい結界を構築していく。

 スキルの銀の盾ではこの神力が立ち昇るのを抑えられない。

 根本的にメタる必要がある。


「なんだろう、すごくスイスイやれる……今だからわかるけれど、前までは明らかに体に神の力が馴染んでいなかったんだろうなあ」


「ローズ! この大規模な魔法陣を神力で作っているけれど、平気!?」


「意外と大丈夫! ホルヴィロスは!?」


「私は合わせるだけだからね、苦労はしない、さ!」


 ホルヴィロスから感じられる神力が増していく。

 私もそれにつられて更に加速した。

 このチャンスを逃す手はない。


 今私が想像よりずっと大きく物事がやれている。

 おそらくほんの一時の加速。

 いつ切れるかわからない過剰な高テンション。


「さあて、あと少し!」


「蒼竜のお守りももう少しで耐えきれなさそう!」


 氷がどんどん砕かれていく。

 蒼竜の力が大量の神力に押し流されてきているのだ。

 さすがにこんな小さなもの1つじゃ対処しきれない。


 というか蒼竜本体がいたとしても蒼竜1体と月全体の神力ではさすがにおしまける。

 結局は時間稼ぎの時間稼ぎだ。

 封印を施す結界構築はまだ未完成。


 とはいえ蒼竜のお守りを参考にして下地は完成した。

 あとは清書こと本番書きを完成させることなのだけれど……

 これが大変だ。


 紙の上に字を描くのではなく神力に干渉する空間に直接神力と魔力で描いていく。

 そうするとほんの僅かな違いで壊れてしまう。

 本来こんな繊細な図を描きたくないのだけれどたたき台の時点で複雑怪奇だった。


 くっ……簡略化と調整したかった!

 でも時間がないからやるしかない。

 やるっきゃないからやるっきゃない。


「マズい! もう氷がそこまで砕けだしたっ!」


「うん、わかってるッ」


 蒼竜のお守りが作り出す凍った神力は新たな神力でどんどん砕かれているが……

 いよいよ層が薄い。

 チラホラと光が漏れ溢れている。


 ここを完全に突破されたら今造っている創作結界が無意味に帰す。

 なにせこの蒼竜のお守りを基点にした結界なのだ。

 基点がなくなったのにそれを利用する魔術だけあっても無意味である。


 魔法陣構築は1秒を争う中でほんの些細なゆらめきにすら気をつけねくてはならない。

 へとへ、レとし、ノとJでは意味が全部まったく違うことになるようなものだ。

 それでも今歴代最高に調子がいいので!


 魔法陣の隅々までにエネルギーを行き渡らせる。


「できた! これで、完成!」


「よしっ、ローズ発動させて!」


「もちろん! 行けえッ!!」


 早速発動させる!

 ただしこれが間に合うかどうかはわからない。

 なにせ試験すらしてない神の魔法だ。


 成功させる自身はあるが発動完了までがネック。

 私でもどこで発動完了するかわからない。

 完成してもそれは蓋が出来るだけだ。


 蓋は最終的に閉じなければならない。

 それをホルヴィロスと全力で押し込むことになる。

 宙に紋様が描かれていき結ばれていく。


 おおっ! すごい勢いでてきていく!

 完成度が高くなっているんだ。

 しばらくやっていくと氷が残り2回耐え分くらいで発動。


 光が何重にもブレて黒い重そうな結界が生まれる。

 さらに蒼竜のお守りに鎖が伸びる。

 凍結の柱が一気に伸びだす。


「ホルヴィロス! パワーを込めて一気に抑えて!」


「わかった! はああぁぁぁ!!」


「やあぁぁぁぁ!!」


 ガタガタと揺れて出来たばっかりなのに吹っ飛びそうだ!

 こっからは力技。

 下から突き上げてくる神力の圧力に負けないように押し込まないといけない。


 もちろん魔術的には圧倒的に有利だ。

 ただその圧倒的な差を覆すほどに下からの突き上げがある。

 こっちが1000倍有利なところを1000倍の力で押し返してきておるのだ。


「せーの!」


「「ふぬぅぅぅ!!」


「やっば……おも……い……!」


「ろ、ろーずぅ……!? これっ、て、ちゃんと、とじれる、んだよね……!?」


「も、もちろん……!」


「うぐくくぐぐ…………」


 何か手順をミスしたのかと思うくらいしまらない。

 だがちゃんと機能しているし蒼竜のお守りはしっかり無事だ。

 壊されそうになっていた氷結も壊され2回分と1回分を行き来している。


「神力が来るのは、ムラがあるから、それに合わせて……!」


「うん! ホルヴィ、ロス!」


 正直かなりきつい。

 これはまさしく……月の神たちの永い間積み重なった怒りか。

 これがもはや「私ですら止められない」とシーマが言っていた力……!


 もはや大きな渦の力。

 潮の流れのようにこの神力たちは止まらない。止まれない。

 なんと力強くそして悲しさを感じるものなのか。


 怨霊たちのなげきみたいに荒らして回るのならば……


「ここで止める!」


「今だ!」


「「はああぁぁ!!」」


 少し途切れた瞬間に力を込めてぇ……!

 私とホルヴィロスから放たれる神力がうなりドンドンと魔法陣に飲み込まれていく。

 黒い重しのようになっている部分の揺れが少しずつ収まっていき……

 やがて。


 ゴン! と重い音と共に揺れが完全に収まり落ちた。

 周囲が一気に冷凍される。

 氷が空気中に結界に無遠慮に絡みつく。


 そのまま下の方までドンドン凍っていき……

 やがてこの場の空気が冷凍室の中のように寒々しい場に変えた。


「さっむ……!」


「で、出来たの、ローズ?」


「うん、なんとか一時的な封印はできたよ。あとは……根本的な解決を、別の神、ケルベロスさんに頼まないとね」


「ほんと! やった、やったよローズ! ふたりの共同作業が身を結んだよ!!」


 ホルヴィロスの妄言に苦い顔をしつつそれが日常が戻りだしたことを指すかのようだった。






 連絡はホルヴィロスがやってくれた。

 ただやはり返答はこないらしい。

 死んではないから激務に追われているのだろうとのこと。


 そもそも神に時間感覚をアテにしてはいけないからね。

 即レス寿命ある者の感覚だ。


 表で全員と合流したら改めてもみくちゃにされた。


「「ローズぅ!!」」


「ぐえっ」


 そのあと脱出したり感謝の言葉をかけたりして……

 たくさんのことを話し合った。


 今ここを離れるのも無責任だし。

 私達には話すことはいくらでもあったからだ。

 全員ボロボロだったのもある。


 笑って。ないて。喜んで。

 そんな生き抜いたみんなと過ごす時間は。

 ほんの数日のはずがなんだかとてつもなく久々に感じた。


 そして……






「事態は急速に収束しつつあるんだよ」


 ホルヴィロスのママことケルベロスのペロさんが来た。

 初見!!


「姉のキルルには会ったコトあるよね? 私はペロ。次女でね、もうひとりスージーが妹にいるんだ」


「こんにちは、ホルヴィロスさんの親とお聞きしています。いつもお世話になっています」


「いやいや、うちの子が押しかけたんでしょう? いつも面倒を見てくれねありがとうございますね」


 し……親しみやすい!

 片折れ耳で寝癖にも見える跳ねたたてがみが魅力的な獣型の神だ。

 それにしてもこの放つ内側からの神力……


「ママ、相当戦闘してきた直後でしょ? 神力のないみんなが気圧されているよ。、ママまで駆り出されるなんて、かなりの激闘だったね?」


「アレ?、ごめんごめん、まだ日常に戻れていなかったね。さっきまで合体していたから余計にね」


「合体」


 合体……ケルベロス三姉妹が?

 私の知っている神話のケルベロスみたいになるのかしら。

 だったらそうとう大暴れしただろうなあ。


 ペロさんが自然に発していた圧力じみた神力がおさまっていく。

 それに従い距離をとっていたみんなも戻ってきた。

 まあそれでも遠巻きだけど。


「すごいな、あれがホルヴィロスの親……どうやったら勝てる?」

「バカイタ吉、アレはアレで勝てんぞ」

「そういいつつジャグナーもさっき戦術指示飛ばしていたような? まあ、あれほど血の気を感じさせていたら、身構えるけどね」


 アカネたちが各々好き放題言っている。


「ふふ、賑やかで良いことだねえ。こっちも大変だったのはわかるけれど、随分と力が抜けていて良い状態だね。じゃあ、まずはみんなの帰還を優先させようか」


「封印は良いんですか?」


「大丈夫、というわけじゃないけれど、これほど巨大なものを本格的に閉じようとすると、流石にパパッとやるのは無理かな。何、かなり安定しているみたいだからね、ホーくんとローズオーラ君がなんとかしてくれたのだろう?」


「ホーくん」


「うん、そりゃあもう、カラッカラになるかと思うくらい……!」


「う、うん。なんとかやらせてもらいました。ただ、どこまで持つかみたいな計測まではしていないのですけれど」


「なんだか、凍てついている以上に神力たちの雰囲気が凪いでいる。どうやら随分と、落ち着かされているみたいだ」


 ああ〜、それは……〝無敵〝の力かもしれない。

 今の〝無敵〝は感情のない無機物相手にも作用する。

 ならば神力にも通じておかしくないだろう。


 それがいい方向に作用したなら幸いだ。


「それでママ、私達が帰るってどうやって?」


「ふうむ? 誰か転移の魔法は使えるかな?」


「あ、それなら私が」


「それじゃあ教えるけれど、ここの住所が……それでパスが……」


「ああ、じゃああの凶悪な門は……」


「そう……だけど大半は使い捨てで、更新しないと……」


「うわあ、そりゃ凶悪ですね」


 その性質や通り方をおそわる。

 結局裏道をとおろうとする程に苦戦する仕組みだった。

 正面からケルベロスの認可を得て突破するのが1番入りやすそう。


 これは語られると分かるけれど突入時はほんとムチャされていた。

 よくみんなやったもんだ……!


「うーん……あ、なるほど、こうか!」


「そうそう。これで私の方に申請が来るから、許可をして……通ったよー!」


 この場に場違いな明るい床が現れる。

 ここに乗れば帰れるってわけだ。

 みんなが床の方を見る。


「後のことは任せて欲しいよ。本当はもっとゆっくり話したかったな……だけれど、きっとこれが終われば時間はまだまだある」


「その、他の戦いは手伝わなくてだいじょうぶなんですか? 神々が大あばれするかもしれないらしいですが」


「ああ、それならもう大丈夫。ここが閉じられたことで大勢は決したからね。残党たちはバカも多いけれど、頭をはる神たちは別。もう既に撤収作業にはいっているよ。地上との激突は、ギリギリで避けられた。そう、君たちのおかげだよ!」


 ペロは私たちを見渡しそう宣言する。

 それだけでなんとなく誇らしい気分になった!

 自慢のみんなだ!


 みんなの反応も上々。

 いきなり出てきた味方とはいえホルヴィロスの親なのは知られているからね。


「みんな! 私からも改めて、ありがとう! 今回は本当に助かったし、キミたちの活躍で、アノニマルースも、私も、それに世界も救われたよ!」


「なあに、普段はだいたいローズが片付けちまうからな、たまには俺も噛ませろってことだよ」


「おもしれー、冒険だったぜ!」


 ジャグナーやイタ吉たちが笑顔で答える。


「2回目は勘弁よ? ワタシはひきこもって作っている方が割に合うのよ」


「私はまたやってもいいが? 次は勝つんだから! どんな相手にも、神にも!」


 ユウレンやアカネも不敵な笑みを浮かべた。

 ほかのみんなもそれぞれに笑いかける。

 正直戦闘跡でまだ敵地だからまとまに休めてないだろうに強がりだ。


 それでもそれがこれ程頼もしく思えるとは。

 やっぱり私はこっちの景色を守りたい。

 私が守られたこの景色を。


 シーマが守りとりもどしたかった神による神のための世界とは決定的に相容れない。

 私は選んだ。私たちは選ばされた。

 それでも先に進むために。


 そして転移陣に私たちは乗りこの場から去った。

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