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二百八十九A生目 帰還

 ホルヴィロスの内側から強烈な光が溢れ出す。

 神力が実体化しだしているんだ。

 種類としては陽光に近い光。


「はああぁ……………!」


 ホルヴィロスのこの身体はあくまで分神だ。

 本来の出力には足り無い。

 そこで私達の力を合わせる。


「さあ、神の力とやらよ。なんかうまいことやってくださいよ」


 ヌルが剣を掲げる手に力を込める。

 ええっとホルヴィロスに合わせるように神力を……出す。

 ゴウン! という音と共に神力が実体化して吹き出した! うわっ!? 何これ!?


 ああそっか。まだ弁が壊れたままなのか!

 やばいやばい。この勢いで噴出したらうまくいくものもいかない。

 神力がガス欠して終わりとか話にならないのでなんとか必死に抑えていく。


 光や圧が収まっていく。

 良かったぁ……


「す、すごいちからだね……!? この後で頼りにしてるよローズ! さあて……禁忌の牢獄を砕きし者よ、我が声に平伏せ」


 ホルヴィロスが謳う。

 読み上げると言うより1つ1つの音に意味を込めて深く言葉を吐いていく。

 それに神力が反応しはじめ共鳴の音が鳴る。


「いけーっ!」


「俺が斬る!」


「どけっ! そこを退け、単なる生物たちが!」


 みんなの叫びもシーマのあがきも。

 1つの音よりもホルヴィロスの謳い上げに飲み込まれていく。

 

「封印の鎖、絡みつくのは囚人の足」


 あたりの景色が少しずつ変化してきた。

 淡い空間の中にいるかのような見た目。


「封印の枷、閉じるのは囚人の手」


「ハアァー!!」


「ウワーッ!?」


 シーマが凄まじい勢いでタックルしみんなを吹き飛ばしている。

 後わずか……みんな耐えてくれ!


「我が意志、封印の壁となりて、逃れるものを捕らえん」


 ホルヴィロスから放たれていく神力が増してきた。

 よし合わせるぞ。

 うわっ! また光が強くなりすぎた!


 世界が光の霧に包まれているかのように幻想的な景色が広がる。

 濃密な光の波が複雑な色合いを見せているのだ。

 戦闘の激しさに反比例して揺蕩うような優しい世界。


「閉ざされし扉、再び開かれることなし! いくよ、ローズ!」


 周囲は既に濃厚な光の波動で溢れている。

 景色そのものが飲まれてしまうとは。

 それでもホルヴィロスははっきりと感じられた。


 ホルヴィロスが自身から光を放ってシーマへと向ける。

 ようし私も神力ビームだ!

 2つの神力がかさなりあって渦を巻き1つの神力となっていく。


 それは膨大な力となってシーマへ向かう。


「舐めるナァ!!」


「全員離れるぞ!」


 アヅキの掛け声でみんな一斉に引いてくれた。

 しかしてシーマは極限まで光を高める。

 そして……明転。


 白に染まったエネルギーの奔流が爆発を生む!

 ヌルとホルヴィロスから発せられる光が双方の体を混ぜていく。

 先に放ったビームがまずシーマの爆発にぶつかり……


 こっちの発する神力の輝きへとぶつかってやっと拮抗した!


「ローズ!」


「な、なんとか張り切ってでてください!」


 今度こそ出力前回!

 一瞬押し負けそうだったけれど再度押し込みにかかる。

 こちらの輝きが増していきあちらの滅ぼす光が混じっていく。


 すべての景色が強すぎる光の中に消えて……

 暗い波動が迫る。


「うわっ!?」


 ヌルの体が衝撃を受ける。

 吹き飛ばされないよう全身を固め足を踏ん張るがそれでも後ろへジリジリ押されていた。

 見えないイバラが一瞬で吹き飛んだんだけど!


 シーマは見えない。ホルヴィロスは大丈夫?

 でもこちらの封印神技はまだ続いている。

 信じて神力を送り続けるしかない。


 間違いなく生身なら何本か骨折っていそうなほどのパワー。

 今は私が進化しているからなんとかなるだけだ。


「まだっ!?」


 追加の衝撃波が襲う。

 ヌルの全身から光が舞った。

 あまりに強い衝撃にダメージを受け続けているんだ。


 音も強く響きにおいなんて完全に飛んでいる。

 もはや五感も六感も働かない状況に追い込まれて……!



 ふと暗闇にいた。


(静かだ……)

(なにこれ、どこ?)


 わかんないなあ。

 なんの探知もきかない。

 

 もしや自爆で意識がとんだ?

 それにしてはしっかりとした感覚が……あっ!

 ヌルがいない! 体が自由に動く!


「なぜ、抗う?」


「この声は……シーマ?」


 ふと完全に黒に染まった闇の中。

 向こう側に立ち上がる1つの姿が。

 シーマだ。


 その姿は最初のもっとも自然体の姿と同じ。

 本来はありえない姿だ。


「私達だけ悲劇ぶるつもりなど、毛頭ない。だからこそ、自ら立ち上がり、私達の未来を取り戻そうと躍起になっている。どちらかがその場に立つには、どちらかが堕ちるしか無い。限らられた場所で生きるとは、そういうことだろう?」


「……私達が、抗う理由は簡単だよ。ここから落とされないため。そして未来を掴むためだよ」


「ならば、私達は同じ穴のムジナということか?」


「少し……違うかな」


 互いに身構える。

 わかっている。この言葉を交わす本質の意味はない。

 だけれど互いに言葉は止まらなかった。


 これはそういう戦いだ。

 勝ちと負け以外の重要な……

 本質の戦い。


「違う?」


「私達は、余裕があった。誰か苦しむ相手に手を差し伸べる余裕が。君は、その余裕がなかった。だから、蹴落として奪うことだけを考えた。私たちは、多くの問題を共に解決しなくてはいけなくて……その体制を整えようとしていた」


「甘いな。だから付け狙われるのだろう。私は絶対的な力で、そんな相手をねじふせる。そうしてきたし、されてきた。私は、私達が安住し発展するために、どのような火の粉も払う覚悟だ。それが神の生きるということだからだ」


「それも、ある意味世界の正しい面でもある。だけれど、それだけだと世界は止まる。死んでしまう。復讐の連鎖だけじゃあ、私達はここまで来れなかった。本当は、君たちとも、もっと話し合いたかった……」


「何がだ! 私達は既に何もかも奪われたんだ! ソレは強者の戯言に過ぎない。私は何世紀、何百世紀経とうとも、必ず成し遂げると決めている。その先に立つのが貴殿でも、別の誰かでも、もはや止められない」


「その先には、暗い未来しかないから止めさせる。何度でも。君が諦めてくれるわけはないけれど、君が納得出来る何かへ、導けるまで」


「納得……か」


 シーマは口を結んだ。

 これ以上何か語るつもりはないらしい。

 シーマは見た目と違って非常にまっすぐて熱情的だ。


 だからこそこんなたいそれたことを成し遂げたし……

 相手をなんとしてでも許せなくなってしまったのだろう。

 この空間だとそういう細かいこともなんとなくわかる。


 だからここは心理世界だ。

 そう理解したら私の姿が解れていく。

 元の状態……2足の方で青い毛並みなローズオーラが戻ってくる。


「君の考えは多くの者を不幸にする。それは看過できないし、納得できない。だから、納得させて欲しい」


 来い、とシーマがジェスチャーする。

 そう。ここは心理世界。

 つまり心理を語るのは言葉よりも大きいものがある。


 心とは……


「行くよッ!!」


 時にはぶつかり合いに勝るものはない!

 全力で駆け出す。

 向こうも遅れて駆け出した。


 本来の私達ならばひと息でつけるはずの距離。

 それなのに今私達は1歩1歩確実に走っている。

 全力で駆けているのになかなか進まない。


 遠く進んでいく。

 まるでこの体の重さこそが隔たりに感じる。

 〝無敵〝がなければきっとここで耐えることすら出来なかっただろう。


 それでも数秒もあれば近づいていく。

 この心の世界で時間なんて本当は意味ないのかもしれないが。

 それでもシーマが必死に走り全力で拳を握ったのを見た。


 私もそうだ。

 この世界でものを言うのはもはや拳。

 防御は考えない。


「シーマァァ!!」


「ローズオーラっ!!」


 私は左の拳をストレートに叩き込む。

 シーマも左の拳。

 互いにクロスする。


 拳が鋭く滑り互いの顔に刺さった!


「グッ」

「ウッ」


 拳が深く刺さったし、させられた。

 シーマは人形の顔ゆえ歪まないが拳が入った頬から砕けだし……

 私は歯が抜けたような感覚と共に毛皮が波打つ。


「ぐぬうおぉぉ……」

「がうぁぁぁぁ……」


 不思議と痛みはない。

 殴った拳がむしろ痛む。

 そして……痛烈にフラッシュバックするような一瞬流れすぎていく景色が見える。


 私の知らないものしかない。

 これは間違いなくシーマのものだ。

 同時に想いが伝わってくる。


 怒りだ。深い怒りだ。

 過去の記憶にすらおよぶ怒り。

 過去そのときどう感じていたかなんて記憶は案外すぐに変わる。


 過去の良い記憶すら怒りに塗られるのは……

 なんとも悲しい。


 だが拳はやがて離れていく。

 触れ合うのはほんの一瞬。

 互いの衝撃と共に……吹き飛んだ!


「「ウアアッ!!」」


 重いパンチだ。

 体が浮いたり崩れたりしないよう気をつけつつ足で踏ん張る。

 一瞬ヒザにきたのを耐えて後ろへズザリと押し下がりつつ立つ。


 シーマの方は手応えでわかった。

 首が物理的に回りつつ大きく吹き飛んだ!


 そのまま地面に跳ねて受け身すらとれず倒れ伏す。


「フゥー……」


「……私の いは変わらない。私は、私として抗い続ける。だけど」


 シーマは動かずそのまま話す。

 同時に闇へと消えていくようだった。


「貴殿に負けたことは、納得できた」


 闇へ消えていった。

 その闇の向こうへ言葉をかけようとして……

 世界が光に包まれていく。






「ここは?」


「ローズ!」


 気づいたら寝ていた。

 ホルヴィロスが近くに来ている瞬間に起きたらしい。

 つまり実際の経過時間はほんの僅かだったのだろう。


「シーマは!?」


 それに進化の姿も戻ってる。

 2足のままではあるけれど。

 上半身を跳ね起きさせる。


 すると神殺しがそこに落ちていた。

 シーマはいない。


「よかった、ローズ帰ってきたんだね! シーマは、ほら、ちゃんと封印できたみたいだ」


 ホルヴィロスについて歩いていくと神殺しの近くまでくる。

 持っていたはずなのにこんなに飛んでいるとは。

 確かにシーマがいたはずの位置に似ている。


 神殺しはその全体をグルグルに光の帯で封じられていた。

 もうこんなにグルグルだと歯車は回らないだろう。

 空をみるとそこにはもう既に操りし者もいなかった。


 まとめて封じられたのだろう。


「もう、これで終わ……ってないね!?」


 空を見上げれば同時に立ち昇る光も見える。

 アレを止めないと!


「あの光の止め方かぁ……確かに、この光が止まらないとどうしようもないよね、世界的には」


「ホルヴィロスは何か思いつく? あれを封じるほどの何かを」


「ううーん、さすがにあれはなあ……ちょっと想像がつかないよなあ。だからと言って止めなきゃ、ローズの住む地上がめちゃくちゃに……うーん」


 ホルヴィロスもさすがに閃かないらしい。

 ヌルも今は感じられない。

 寝てしまったのだろうか。


 そもそもパワーでなんとかできる気もしない。

 こういう時は……


「そうだ! 何か入出力できる装置のボタンないかな!? あの神ならそこから止められずとも、そういったスイッチを作っているかもしれない。破壊のヒントはあるかも!」


「よし、それでいこうローズ!」


 一度駆けだしてホルヴィロスがこっちを向いて止まる。

 そして。


「……お帰り、ローズ!」


「ただいま」





 そのあとみんなと合流しもみくちゃにされる……前に手分けして探すよう伝える。

 果たしてそれは地下にあった。

 下から吸い上げているのだからある意味妥当だ。


 大量の神力が立ち昇る中を降りていくのはなかなかの自殺行為。

 なので降りていくのはホルヴィロスと私だけだ。

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