二百八十六A生目 技量
ヌル側は大地たちが酷く揺れながら大量の岩石が飛び出し地面を駆け抜けるように生えていく。
雷撃と地割れ。両方が中央でぶつかり合いシーマとヌルが前へ飛び込んで互いに取っ組み合い。
(いけ〜! やっちゃえ〜!)
「なんてパワーだ……!」
「恐ろしいですね。取っ組み合うだけで身が削れるのですか」
みるとヌルの組んだ手から淡く光が漏れている。
多分あれは血の代わりだ。
シーマの方もすごい。
見えないはずのイバラをすべて雷撃で焼いているのだ。
確かにエリア攻撃すれば見えなくても関係はないけれどね……
「ハアッ」
「ワッ」
そうこうしている間に予想外のことがおきた。
シーマが膝蹴りをヌルに食らわせたのだ。
軽く吹き飛んでいくヌル。
(えええ〜〜!!)
何今の、ねえ?
(行動があまりにチグハグだったな。普通はとっくんだ瞬間の力量差でどうするか決めるのが基本だぞ。それに、なんか掴んだ後普通に悩んでなかったか……?)
私の気のせいじゃなきゃヌルは掴んだ後のこの考えていなかった気がする……
特に対策もなかったのでヌルは追撃を受ける。
両腕を強力に振るう。
遠くからクロス状の斬撃が放たれていた。
見えないイバラで受けつつも……?
ああっ!
(普通に貫かれてるじゃんかよ)
当たり前だが貫通狙いの強攻撃は受け逃して反撃を狙わなくちゃいけない。
ただなんか正面から受けてイバラ斬られてそのまま吹き飛ぶ。
なんなんだ今の。
メチャクチャ動きが硬い。
その後もとにかくでっかい魔法を連発。
そうして近接までもつれ込むとしょうもないとっつかみをする。
とっつかんで……何をしたいんだい!
(すっご〜い力おしすぎるな〜)
(う、嘘だろ? コイツ、もしけして……!)
私達の戦闘経験値を受け継いでいない!
凄まじい戦闘音痴!
「くっ……私の、私の蓄えた力が!」
「どうしました? まだ余裕そうに見えますが」
「そちらもな。だが、私の力はそういうものじゃない。永いあいだ蓄え続けた代物なのだ。無理やり今は蓄えた力を摩耗させているのだ。本來はこの力を十全に戦争へ向けるはずだったのに、まさかこうなるとは……」
「なるほど? もしや回復が遅いタイプなのですね」
「貴殿が早すぎる」
それはそう。
色々話を聞く限り私の回復速度は異常だ。
終末の獣なんちゃらの効果……うーん? 本当か?
(効率良くやってるだけな気はするけどな)
(そもそもコカツはよくしてたよ〜な)
そうなんだよなあ。
私、そもそもうまく終末の獣たる証をうまく扱えてない気がする。
無限のエネルギーとはまるで違う。
回復速度はぶっとんでいるが回復が絶え間ないなとは違う。
量もたくさんあるがどっちかって言うとうまいこと節制し溜め込んであるだけだし。
巨大な魔法を使うには多少は必須なのだ。
なんというか紛らわしいけれど勘違いされていそうな気配あるんだよなあ。
ただまあ現場は別だ。
そうこうしている間にもシーマは様々な超火力で攻めている。
そしてバカ正直に正面から受けるヌル。
とにかく魔法やイバラでカウンターというか……攻撃を攻撃で押し返している。
めっちゃ喰らってる。動いてくれよ!
喰らったのを片っ端から治してごまかしている。
もうめちゃくちゃである。
確かに今ヌルの体は恐ろしく強い。
だからそういうこともできるけれど……
戦闘というよりもなんというか……
固定砲台の撃ち込み?
対してシーマは非常によく立ち回っている。
ヌルを基点に素早く空中をかけて的を絞らせない。
吊られている独特の動きなため非常に読みにくい動きだ。
巨大な魔法を放ちつつも物理的な広範囲斬撃で世界ごと斬り払っていく。
ここの世界は斬ってもすぐ再生するからね。
大地ごと何度もひっくり返されている。
「いやあ……見ている時は、私でも行けるんじゃないかと思ったんですが、思ったより……避け方がわからないなですねえ」
小声でヌルがこぼす。
だめじゃんか!!
全身斬り刻まれ内臓あったら死ぬクラスの攻撃を受けている。
淡い光たちが華々しく漏れていて何も考えていない後ろジャンプしつつ回復。
考えてないので着地狩りされている。
(避ける気概見せろやぁ!!)
ドライも怒っています。
子供が強い銃を片手に乱射しているくらいひどい。
どっしり構えて迎え撃つやり方ならもっとやりようがある。
どうしようこれ。
勝つ負けるという不安もさながら恥ずかしい。
コレ私の戦いだと見られるのちょっとつらいんですけど!
(ふぬぬ〜! かせ〜! というか返せ〜!!)
シーマが大地に足を踏み込むと一瞬で全体地面がひび割れる。
これはまた大地のエネルギーが噴出してくる大技だ。
だのにヌルはモタモタしている。
そいや1回も飛行してないよな……
……まさかヌルは飛行経験すらもない!?
全員本格的にマズいと思ったところで。
(ぬぅ〜〜〜!!)
アインスが気合をいれるとヌルが一気に空へ跳ぶ。
さらにはそのまま背中から翼の針を展開した。
前よりボリュームアップしており見るものによってはちょっと神々しいかも。
「おや?」
ヌルが驚く間に地面から大量のエネルギーが吹き出ていく。
それらを器用に避けつつ指を鳴らした。
するとシーマの目の前が光の球が複数炸裂する。
「ウッ」
小技だ。
シーマは操りされている関係上視界潰しもきかない。
だがダメージのある爆発の関係上無視できず怯んだ。
これでいい。
シーマが再び正面を向いた時には見えないイバラガ襲っていた。
(やっちゃえ!)
しかも単なる見えないイバラではない。
空中用イバラトゲ弾たちだ。
どうしても空気を裂く関係上若干感知できるが。
これは高速でイバラを振ってこなかったヌルでは得られなかった女恵方だ。
そらとぶトゲイバラミサイルたちはシーマに降り注ぐ!
「これはっ!?」
シーマも気付いたが警戒が遅れていた。
やはりパッと見ではわからないって強い。
避けるのが間に合わず広範囲にばら撒かれるトゲをその身で甘んじて受けてもらう。
防御をしているが連続で当たっていくトゲが凄まじい轟音と共に簡易結界を砕く!
「くおおっ!?」
なんという威力と圧力!
元々トゲミサイルは凄まじい雑魚制圧力があった。
だけれどこれは格上にも通じている。
今までのトゲミサイルでは牽制にも使えなかっただろう。
だが今は明確な脅威となっている。
脅威攻撃は牽制として十分。
(おおい! もしやアインス、操作できているのか!?)
(なんかできるー!!)
おおっ! それは良い!
降らせるトゲの嵐にシーマをひるませたあと……
大きめの魔法をぶち込む!
地魔法……
(ファングビーストグラウンドッ!)
地面が反応し岩と機材たちで獣の姿が組み上がっていく。
どうやら歯車たちも巻き込んだらしい。
だがあっという間に完成し問題なく吠えて飛びかかる!
「これはもしや、みなさんがお目覚めになられた?」
「ぐうううっ!!」
ヌルが自分の変化に驚きつつも攻撃をアインスがさせていて……
シーマはトゲ弾の終わり際に飛び込んできた猛獣の相手をさせられている。
シーマよりかなり大きいので取っ組み合いにもならない。
だがシーマも強力な神だ。
そもそも組み付かれるのを拒否する前提で飛び回っている。
斬撃を連続で放ちつつ効果が薄いとみると指を組み連続で衝撃波を放つ。
ある意味ヌルのまばたきに近い。
さすがにまばたき衝撃波は無法だったが。
やはり魔法は強力で1回の振りごとにシーマを着実においつめていく。
アインスがやれるんだったら! 私もやれるはずだッ!
ぐぬぬッ……! せい!
「うわっ、さらにかな?」
おおっ、魔法権利にアクセスできた。
岩獣の動きにサポートエミュレーションつけつつ相手が取ってくるだろう対処をざっと脳内書き出し。
そこから導き出される魔法最適化を構築し3枠詠唱。
つまりいつものだ。
もう1枠は今岩獣放っているからね。
岩獣は〝二重詠唱〝の効果で効果時間や大きさそれに強さが全体的に凄まじい補正が入っている。
シーマがしかたなく当たるたびに空へ吹き飛んで行っている。
あれはわざと吹き飛ばされることで距離をとりつつもダメージ軽減されているなあ。
もちろん動きが粗く跳ね飛ばしてしまっているのあるが。
だからここからは動きを変える!
今まで攻撃されても攻めていた岩獣。
急に制動して走る向きを変えた。
「一体なにを?」
これだけで相手はこちらを警戒し行動を変えざるを得ない。
そのスキに足元から土槍を生やす。
シーマがこれに対処出来ないはずもなく避けた。
そこに連続で火弾を飛ばし……
シーマが切り裂こうとしてすぐにやめる。
地面に着弾した火は紫の炎を周囲に撒き散らす。
それは地面すら溶かす威力の爆炎。
まともに触れないのが吉だ。
まあシーマなら耐えるだろうが。
それでもダメージにはなるからシーマも高速で避けざるを得ない。
意識がそれたそこに……
横からダイナミックエントリー!
タックルしてきたのが岩獣だ。
「うわぁーーっ!?」
これにはたまらずシーマが吹き飛ぶ。
しかもまともに食らったから衝撃逃しじゃあない。
そのまま岩壁に衝突させた。
これぞ魔法コンボである。
「さっきまでと動きが変わった……!!」
「さっきまでと動きが変わりましたね?」
シーマとヌルが同時に驚いているのはなんなのだ。
ヌルと私達で連絡の取りようがないもんなあ。
(ズルいな! 〝私〝にもやらせろ!)
「わあっ」
そしてついにドライも動き出した。
ヌルが間の抜けた声(私の声だが発生が違う)を上げている間に突撃していく。
シーマはすぐギリギリと音を立てて無理やり起き上がり反撃。
シーマの驚きつつも的確に反撃するのは練り上げられた訓練を感じる。
本当に準備きてきたんだなあ。
シーマがとっさにばらまいてきた攻撃は無数の突き。
突きが弾丸のように光が飛んできて襲ってきた!
それをフルスロットルで駆け抜けていくドライ。
透明なイバラが多少弾き残りが少しだけ腕なんかをかすめていく。
だけれどもそれは多少わざとだ。
ドライの狙いは初めからそこにある。
(お返しだ!)
武技の〝肉斬骨断〝の効果でほんのわずか受けたという判定で……
より苛烈な攻撃を相手に叩き込めるのだ!
灼熱のように鮮烈な赤の光がヌルの拳先に集まる。
(こう!)
シーマももちろんガードにまわったがズラして防ぐには先程の遠隔攻撃のスキが余計だった。
1撃2撃は拳を交わして腕でずらしたがすぐに間に合わなくなり。
3と4と5を防ぎきれず崩壊。
狙いすました尻尾打ちをつなげた!
「なっなぁ……! さっきまでと、まるで戦い方が違うではないか!」
「驚きです。理想の動きですね……!」
なぜかヌルに褒められているけれどドライの動きはまさしく拳法を学んだ動きだ。
流石に冒険者喧嘩戦法感が否めないがヌルのもたもたした動きとは根本的に違う。
どれにどう計算して叩きつける動きである。
(ようし、こうなりゃさっきまでのお散歩は終わりだ。〝私〝たちで勝つぞ!)
うんうん。やろう、私達でシーマを倒し、装置を止める!
(さらわれたうらみ、今はらすべし! べしべし!)
アインスは飛行制御を完璧にやっているため動きはしないが声だけ言えばパンチしまくっているようなもんだ。
実際個人的な恨みはデカい。
拉致監禁で世界崩壊の素材にされたあげくみんなで作り上げたアノニマルースぶっこわしにきていてコレである。
アノニマルースはリソースもかなり使ったし思っているよりはヤバいだろう。
ほとんどの者がなんらかの形で傷ついている。
世界中で似たようなことを起こした相手を許す気はない。