二百八十四A生目 降臨
シーマに対してイバラを叩き込みつつみんなに回復魔法をかけていく。
ホルヴィロスのサポートだ。
「ろ、ローズ!! 大丈夫なの!? 助かるけれど!」
「大丈夫! 今、負ける気がしない!」
「いやそっちの大丈夫かじゃなくて……」
ホルヴィロスの問診に今は時間をかけていられない。
ひとまず火魔法〝フレイムピラー〝を〝二重詠唱〝で神力強化し燃やしていく。
炎柱が2つ立ち上り混ざり合いすべてを巻き込んでいく!
「グウウッ!?」
「効いている! 効いているよローズ!」
グレンくんも応援してくれている。
間髪入れず鞭剣ゼロエネミー。
イバラごと振って武技〝すくい上げ〝そして〝連牙〝による素早い二重攻撃。
魔法をつなげ時空魔法。
[ディメンションバースト 次元と次元の衝突で爆発を起こす]
本來は球形の疑似別次元同士をこすって爆発を起こすものだ。
次元を削れた時消失エネルギーを爆発に転換する。
ただ今回は神力まぜて強化。
「な、何を……!?」
シーマが脱出しようとしてももう遅い。
魔法により吸引された先では上下に巨大な次元。
光が輝き音も轟音。
上下から迫ってきたそれらがシーマを挟み込む!
「ま、マズい!」
全身をシールド光で覆うシーマ。
それでも上下に挟まれ世界が明滅するほどの爆発。
いやこれ強すぎないか!?
「うわっ」
『ローズ!? これ大丈夫なのか!?』
轟音でみんなの悲鳴がかき消される中念話で声が響く。
ジャグナーの声じゃん。
どんな距離で響いているんだ。
『大丈夫、だとは、思う!』
味方識別はできている。
眩しいだけでみんなを被害に巻き込んでいない。
やがて世界を巻き込みそうな光も収まっていく。
そこには全身に隠しきれない傷を負った姿のシーマが。
さっきまでハツラツと相手を追い詰めていた姿がなくなっている。
生物見たく辛そうにしてはいないが明らかに体がもう持たない。
「この力って……」
「なぜだ? その力は……あれほど酷使していたのなら、もはや戦えるほどの余力はないはずでは?」
「よくわからないけれど、これでトドメ!」
私はイバラを更に伸ばしてシーマへ叩き込む。
シーマは全身からエネルギーを放出しリング状のエネルギーをあたりにまき散らす!
いやこれっ!
「ここにきて新規技!?」
範囲が広すぎかつ量多すぎで避けるのは諦める。
土魔法〝ミノライゼーション〝を使う。
みんなは各々防御しているところの上に土魔法〝ストーンウォール〝。
土の強靭な壁がみんなを覆いつくし自分は一瞬で石化する。
動けないかわりに攻撃を無効化するレベルで硬く重くなる。
相手のこうげきが終わった段階で解除。
やはり土壁は下手な城壁より厚く硬くしたのに突破されていた。
幸いそれで軽減されたのかみんなは防御でやりすごせていたが。
私自身も無傷だ。
そしてイバラをまっすぐ振り抜く。
本來威力が乗らないが……その先にゼロエネミー。
切っ先がシーマを貫いた!
「ガアッ……!?」
「やった!」
アカネが歓声をあげる。
たしかな手応えにまるで周囲がスローモーションのようになっていくような。
そういう不思議な感覚。
だから気づけた。
感触の違和感に。
「あっぶなっ!!」
人形の機械仕掛けの目から放たれた光線。
さらには上空から膨大なエネルギー砲。
降り注ぐそれを連続回避しつつ……うわっ!
「いった!」
余波が当たって吹き飛んでしまった。
ビーム爆発するなら教えておいてほしい。
大きなダメージではないものの体勢を崩してしまった。
「今のどこから!?」
「フフフ……なかなかやるじゃないか……今のは焦ったぞ。だが、まだだ、まだこんなところでは負けない……!!」
シーマの姿は既にボロボロで戦えるようには見えない。
だけれども宙に浮く。
吊られるように。
「あっ!?」
誰もが声をあげていく。
初めて見えたその影を指して。
シーマは本当に吊られていた。
そこに見えない糸が空に消え……
消えた先に距離も次元も無視して遥か高いところに巨大な影が。
「アレが本体……?」
それはまるでニンゲンなどの上半身。
だがそれは無機質な構造を組み合わせたものでシーマよりもだいぶニンゲン味が薄い。
「いいえ、あれは私を操作させるための物ですよ。私は機械、誰かに使われなければ動けない……ゆえに、使う者を生み出しました。今ではもはや1つの姿です。だからこそ、こんなこともできますよ」
シーマは笑顔のまま指を鳴らす。
すると上からいくつものパーツがおりてくる。
あの巨大すぎて背景みたいになっている存在が吊り下げているようだ。
吊り下げられたパーツたちは一瞬でシーマにとりつくと……
古いパーツと変換されていく。
最後頭に西洋兜のような美しい造形で防具にみえないものがハマった。
「姿が変わって修復された……!? みんな、気を付けて! 圧が違う!」
ようし久々の〝観察〝!
[シーマ Lv.108 比較:とても強い(?)]
[シーマ 遥か昔、別文明があったころに栄えていた信仰をその身に受けて来た。しかしその文明は滅び、1つの時代が終わりを告げた頃、今度は失われたそれに執着しだす……]
[とても強い(?) 自己の強さがさらに引き上げられる可能性があります]
ん? なんなんだこの結果。
耐久力が完全回復しているのはともかく。
まず相手の強さが跳ね上がっている。
おそらくコレが最大パワーだ。
糸らしき線も多く見えて同時に大量のエネルギーを放出している。
もはや隠蔽にすら気を割けず戦闘力最大の状態ということだ。
でだ。
何? |(?)《かっこぎもんふかっことじ》って。
それもすぐにでてきたけれど謎。
私は今攻撃を食らったのに最高に体調がいい。
そして今なら壁を超えれそうな気がしている。
これのことかな?
ずっと進化はできそうで出来なかった。
それは私が強くなりすぎたからだ。
進化は基本的に自身の中に眠る可能性を引き出して一時的に化けることを指す。
進化は基本的に弱者のためにある牙だ。
なのである意味私が使えないのは納得していた。
魔法をこれ以上内側に混ぜ込んでも出来上がらないと。
だから構想だけはしていた。
もしやるならば神力だ。
神力を用いてなにかをすれば……と。
今ならばできる。
その謎の確信があった。
――のちの振り返りでこの時のことを語る。
無理をして神力大量に浴びて私は供給口も排出口も明らかにおかしくなっていた。
本來神ってやつは自分の神力を抑えて過ごすことなんてできない。
一時的にやるのはともかく全力で常に抑えるなんてやりもしない。考えもつかない。
なぜなら神にとってそれは生理現象だからだ。ただあるだけで自動的に調整される。
恒温動物が勝手に熱を発したり抑え込んだりして体内温度を一定に保つのと同じだった。
だから神力をどう操るかときかれても困っていたんだホルヴィロスなんかの神たちは。
私が神力を操れるという異常が見過ごされた原因でもある。
そして私は普段からまあいろいろ自然レベルまで落としている操作をしている。
神力だけじゃなくてね。
それで生活しているしその力で生き抜いている。
じゃないと放つ圧だけでみんなが逃げて行ってしまうからね。
だからこそ……気づけなかった。
これで異様に鍛えられた神力の器がどうなるかだなんて。
それは私もそしてシーマすらも。
シーマは私の無限のエネルギーをなんかよくわからない終末の獣の証によって引き起こされていたと話していたけれど……
私は普通に何度も息切れをしてエネルギーを補給して行動力が満ちるのを待っている。
そうじゃなきゃエネルギー効率なんて求めない。
もっと……もっと根幹的な。
ポッと出のいんちき能力なんて目じゃない所で。
私の力は発揮されていた。
そして今へ戻る。
「進化」
腕を胸の前で構え渦巻くエネルギーを手中に収める。
全身にめぐっていた行き場のないこのパワー。
集めた後に……混ぜ合わせて。
神力を編み込んでいく。
全く違うものを操る関係上本来この2つは混ざらない。
そうじゃないと必要な所に必要なものがいかなくなってしまう。
だからいままで体内内部でこれをなすのは難しかったんだけれど……
今はなんかレベルが違いすぎて出来る。
前までの細々とやっていた時と比べて差がぶっ壊れなくらいに。
もはや全身隅々にいきわたるほどにある。
だからやってしまうことも簡単ッ!
「なんだと!? そんな力が、さらにある……!?」
そらまあ驚くだろう。
今の私の神力はまるで大神クラスの圧を感じているはずだろうから!
私の全身が光に包まれていく。
変身は一瞬だ。
だが感じ取れる変化はしっかりしている。
この力はあまりに強大なのだから。
まずは体の内側が焼き付くように熱が爆発的に広まった。
不思議と痛みや不快感はない。
かわりに足先から変化していく。
砕けたのだ。
そのまま全身が砕けて散っていく。
それをどこか遠くで見ている私。
宝石だ。
胸の中央にあったあの宝石だけが美しくそこにあった。
宝石が濃密な神力縁どられまるで装飾品のようになっていく。
いや……そうか。これだ。この宝石が私なのだ。
そう思えてからは早かった。
全身を宝石から再生してく。
ああそうだ……シーマと同じだ。
私の体はあくまで私の体でしかないんだ。
もっと高次元な所に私自身がある。
精神が体から離れていた経験も得難いものだった。
自分自身というものの解釈がどこまでも広がって行っている。
私はここに有る。
体はひもが結ばれるように出来ていった。
宝石は宙に浮いたままだ。
胸の前で漂うのみ。
もはやまるで白く染められたかのようなその肉体に生命活動に必要な器官はない。
2足型で精密に生み出された偶像。
なるほど今までの私の感覚じゃあこの進化にはたどり着けないわけだ。
弱者が持つ牙たりうる。
それは今ままで自分にできなかった何かをやり遂げてしまうということなんだ。
目の前にある私を見て理解した…………
「ふうっ、進化が終わったか……!?」
「どうなったんだ、ローズ……!?」
「主……? この気配は一体……!?」
各々が反応を返す中すさまじい光と渦巻く空気の圧力が解放されていく。
アヅキやアカネの進化とは明らかに格が違った。
世界が跪くかのようだと表現されるその中に。
ソレはいた。
普段は2足型だと纏う冒険者の服もなしに。
ソレはローズオーラにしては青ではなく白をベースカラーにしてあった。
目立つのは全身に這うようなイバラのような模様。
前は左右ワンポイントにあっただけなのに今では全身に刻まれている。
四肢や体は前よりもむしろ細身に傾倒している。
息を飲むような造形美は無駄を削ぎ落としたというよりもまさしく創り変えたという言葉がふさわしい。
スラリと伸びる尾と健在のアホ毛だけがローズオーラらしさを演出していた。
全体的な背丈や雰囲気としてはむしろ小柄。
静謐で圧すら全くなく凪。
ソレが呼吸1つ心臓1つ動いていないなどとむしろ誰が思うだろうか。
大きく伸びている獣耳も全身を纏う無垢な白毛も何1つ動かない。
宝飾品のように美しくかたどられた宝石が不自然なくらい胸の前に佇んでいた。
3つ目も閉じられており完成された立ち姿は生気すらも感じられなかった。
「ローズ……?」
インカが思わず声をかける。
ソレがらなんなのかわからなかったからだ。
確かに見慣れた顔ににおいのはずなのに。
そこにいるのが自分のきょうだいだとなんとも実感し難かったのだろう。