表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2374/2401

二百八十二A生目 天秤

「ホルヴィロス、動けないのか!?」


「だめだ……思ったより強い!」


「無駄だよ、我が力、軽々しいものではないのでね」


 ホルヴィロスの動きが制限された。

 いわゆる操り状態だ。

 神力自体操っているのかなこりゃ。


 だが神力はホルヴィロスだけではない。


「だったら俺の力を喰らいな!」


「私の悪魔の力も……どうだ!?」


 アヅキとアカネの神力が放出される。

 アカネは改造されて悪魔と一体化している。

 悪魔は月の神の片鱗。つまるところ神使クラスの神力なら取り扱える。


「これは……!」

 

 神力がうずまいて形となり1つの姿になる。

 すさまじい迫力を伴った鳥だ。

 概念としてしか存在しないはずの歯車にとりついて攻撃しだす。


 言ってしまえば生命力ゲージを直接殴っているほどの行動。

 シーマもこれには焦ったが今すぐどうにかなるわけでもない。

 全員が急いで下がる瞬間にホルヴィロスから無数のツルが伸びる!


「うおおっ!?」


「あぶなっ、どんな手数だ!?」


「普段からこのぐらいやってよー!?」


「回復と防御と毒を考えてたら、こんなことできないんだよー!」


 ホルヴィロスのツルは無尽蔵に出されみんなを追いかける。

 たしかにこれでは操る本体は固定放題にならざるをえない。

 イタ吉たちは目の前に来たツルを爪でドンドン切り払って逃げていく。


 アヅキは雷撃で焼き払った。

 アカネは亀のような甲羅に閉じこもったあと高速回転。

 一気に振り払っていた。


「回復はできないから本当に気をつけてっ」


「くおおっ! 猛毒の嵐!」


 今度は白い雪のような毒がドンドン放出されていく。

 そりゃあ近づくなって言うわけだよ。

 アヅキと対処法は真逆だ。


 アヅキが連続で扇を仰いでどんどん白い雪を払っていく。

 みんなはとにかく逃げつつアヅキの背後に回った。

 ゼロエネミーも全力撤退!


 アヅキが必死こいたおかげでなんとか敵側に白い景色を押し込める。


「おおっ……なにも見えなくなってしまったね。まあ、結界に隔たれているからどうともならないけれど」


「確かに、これどけ毒をばら撒かれたら普段は戦いどころじゃないな……ちゃんと防衛に徹する理由がわかるな」


 絶対結界は残念な白い毒に侵されるほど弱くはない。

 というか何においても突破されないのが結界だ。

 制約として時間がとても短く本人も何も出来ないというものだが。


 そのかわりホルヴィロスだけは猛烈にこっちを攻めてくる。

 1対多が得意なホルヴィロスの攻撃。

 厄介だ!


「うわあっ! ツルも飛んできている!」


「やべぇぜこれ!? 手数が足りねえ!」


「強すぎないか!?」


「変に強くてごめん!!」


 全員が困惑するような状況。

 だが転機はすぐに訪れた。

 鳥を模した神力がついに歯車をくちばしで叩き割った!


「クッ!?」


 コンコンコンと心地よい音と共に歯車が破損する。

 ホルヴィロスを縛っていた神力が霧散し……

 そのままなんとかホルヴィロスが逃げ出す。


 世界がそのすぐ後に砕け散り元の空間へと戻ってきた!


「よし、さっきよりだいぶ早いぞ!」


「対抗が出来そうってわかっただけでだいぶやりやすいな? ギア上げてくぞ!」


「助かった、みんな、怪我を治すよ!」


 ホルヴィロスが分かれてみんなを回復していく。

 シーマの結界が壊れてまた足を連続で踏み込む。

 踏み込みの回数だけみんなに連続で足元からの炎のようなエネルギーが包み込む。


 ただみんなわかってきたのでうまいこと跳んだり転がったりそれこそ浮いたりして回避。

 踏んでから吹き出すまでは一定なのでリズムゲームじみている。

 賭けているのは命だけれど。


 ゼロエネミーは空から鞭剣を振るいシーマの動きを食い止める。

 シーマも鞭剣の威力は無視できないのだ。

 もうちょっとまともに当たったら腕の1本でも切り裂くのだが。


「見た目よりもかなり重い剛剣……受けないに越したことはないな。それに……」


 シーマは手刀で鞭剣を受け流しつつ背後へ下がる。

 そして全体をジロリと見た。


「この前哨戦でここまで苦戦するとは。こうなれば仕方ない……力を、使うか」


「ゲッ、まだ力の引き出しあるのか!?」


「まあ、察してはいたのだろう? 力をセーブして戦っていると。私個人で戦いぬかなくてはならないのでね、君たちをナメていたわけではない……だが今から、さらに危険度を上げる」


 シーマが全身を振るわせる。

 同時に大気も振動しだした!

 なんというパワーだ……! みんなもあまりの力の波動に体が固まっている。


 そしてすぐにシーマの動きが変わった。

 さっきまでは自力で動いているように見えた。

 しかし今はまるで吊られているかのように動きを宙で止めている。


「なんだ、ありゃ? ブキミだなあ、おい」


「イタ吉気をつけろよ、力の圧がさっきまでと違う」


「明らかにやっべえよな……いよいよ俺たちだけじゃあ抑えきれないか!?」


 イタ吉が尾刃をクルリと回しつつ冷や汗を流す。

 みんなは実力者だ。

 それゆえに限界の見極めもできてしまった。


「なんかめっちゃ強そう。燃えてきた……!」


 ただこういう時は逆にアカネは頼りになる。

 アカネ自身の無尽蔵とも言えそうなタフネスと精神力が発揮された。

 アカネは傷ついてもたいして痛くないと前話していた。その影響も少なからずあるだろう。


 とはいえ戦いとなるとアカネの性質は頼もしい。

 積極的に前へ出た。

 シーマはひじの部分を浮かして待ち構えるような奇妙な姿勢。


「さあ、第二ラウンドを始めようか?」


「はあぁ!!」


 アカネがやったのは速攻。

 実際何が起こるかわからない時に行動をこまねくのはあまり得策じゃない。

 だからといってまっすぐ突っ込めるのは蛮勇か勇者だけである。


 アカネの直進に対してシーマは腕先に力を込める。

 とはいえさっきまでの手刀じゃない。

 細く指先をすぼめた。


「私の体から武装がでない理由を知っていますか?」


「知らない!」


「私の体が全身武装だからですよ」


 指先をすぼめたままアカネに腕をしならせ一気に飛び込む。

 アカネも同時に踏みこんだ。

 アカネが私の爪をつくりそこから岩石を覆い出す。


 対してシーマは両方の腕をさっきよりも有機的な動きで達人のごとく突く。

 両者がぶつかり合い、すれ違う!


「はっ!?」


「うん、いい感じだ」


 だがそこには驚きの結果が待っていた。

 アカネの片腕が爆散したのだ。

 アカネ自身がそれに対して1番信じられないという顔をする。


 だが戦いは止まらない。

 振り返ったシーマが再度指をすぼめた腕を振るう。

 アカネはとっさに背に大量の針を生やした。


 その針たちも連続の突きでドンドンと砕かれてしまう!


「させん!」


 アヅキの空から急降下蹴り。

 威力の乗ったこれを止めるためにはシーマが振り向く必要がある。

 案の定攻めを止めてステップ。


 距離を取ったうえで跳ね返るように再度指先刺突。

 というか今普通に空中で跳ね返ったな……

 さっきまでそんなことしなかった。


 アヅキがすぐ体勢を直し風をまとった拳をあわせる。

 どのような攻撃も敵に穂先をずらされたら痛打を与えられない。

 この風はそれを意図的に起こす。


 シーマの指先がブレてアヅキの拳は吸い込まれるように胸を穿つ。

 アヅキが手応えに顔を悪く歪ませる……が。

 アヅキの腕や肩の一部が傷をエグり弾け飛ぶ。


「ッオラァ!!」


 だがアヅキは押し切った。

 拳の嵐を解き放ち空へとかちあげた!

 そのまま高くとんで蹴り上げる。


 連続蹴りからの巻き上げる凄まじい大嵐。

 進化前と威力がまったく違う風はシーマの身を刻みながら空へ打ち上げて。

 轟音と共に強い吹き飛ばしを与える。


「おおっ、これは……! さっきまでのそよ風とは比べ物にならないね!」


「言うじゃないか。ならば倒れ伏すまでくらい続けろ!」


 アヅキがコンボの途中で風に変えたのはもちろん攻めの姿勢ではある。

 だがそれ以上に距離だ。

 アヅキの片腕が力なく下がっていた。


 いや折れたりなくなったりはしていない。

 だが震えるほどしびれてしまったということは往々にしてある。

 アヅキのもう片手に扇さえあればこの果敢な攻めは継続できるからだ。


 距離を取らねば一瞬でやられかねない。

 さっきまでの戦いでセーブしていたのは事実だったようだ。

 あの奇妙な吊られているかのような動きから不気味なほどに動きに強さが増している。


 不気味になってからのほうが動きが生物的とはなんとも皮肉な。

 元々が精巧すぎる人形の造りだったからだろう。

 当然ゼロエネミーもスキをみてどんどん攻撃を仕込んでいく。


 風の乱撃があちらこちらから来るのをシーマはよけようとあがくのをゼロエネミーで咎める。

 余計な動きでよけようとした時にキツイ斬撃をお見舞いして動きの邪魔をする。

 さらにそこへイタ吉たちが割り込んできた。


「ほらほらどうしたぁ!」


「ふむ! なかなか、邪魔だな……」


 イタ吉がちょろちょろと動き回ると意外なほどにシーマの動きが制限される。

 接近して斬り裂いてこようとするイタ吉を蹴り飛ばそうとして空を切る。

 1撃2撃程度では何も変わらないが5回6回と続くとそこは大きなスキになる。


 新たなる嵐が車の衝突かのようにシーマを吹き飛ばした!


「ッ面白い!」


「ッはぁ、こっちは必死だってーの!」


 そしてイタ吉の行動はあくまで虚実織り交ぜてこそ。

 でなければこの餌で敵の行動は釣れない。

 イタ吉たちの体に少なくない裂傷が走っていた。


 今までの戦いでは大きな傷は避けていたのに今ではぱっくり行っている。

 分かれたホルヴィロスがすぐにとりついて回復をしだした。


「ああっ、回復回復! いきなりパワーバランスがひっくり返された! なんというか……強さの勢いが全然違う!?」

 

「ああ、それは面倒だねえ。強さの勢いか……じゃあ、勢いを見せてしまおうか」


 シーマは高く飛び上がっていく。

 ……吊り上がっていく?

 やっぱへんな挙動してるなあ。


 そしてその華奢な体をぐっと曲げて。

 凄まじい力と共に一気に落ちていく!


「ま、まずい! 何かがマズイ!」


「全員、防御!」


 大盾ゼロエネミーを展開してみんなが隠れ……


 着地と共に床全体がシェイクされ砕け散った……!!





 戦闘の能力に置いて強くなれば強くなるほど悩むことがある。

 被害も大きくなることだ。

 

 そんな味方にも周囲にも被害撒き散らしながら力の指向性ブレブレで戦いたくはない。

 効率も悪いし。

 だから強くなろうと力の集約を図ってうまいこと対象を絞って攻撃するのだ。


 逆に解放したらどうなるのか?

 それが今の状態だ。

 大盾ゼロエネミーにみんなが死屍累々でよりかかり空中からなんとか着地する。


 床ごと完全に破壊しおってからに。

 だが結構シャレにならない状況だ。

 私の意識が冷や汗かいている。


「くっ、くそ……なんて威力だ!」


「悪ぃ、助かったぜ……」


「これはちょっと、回復が間に合わない……!」


「化け物じゃん、こいつ」


 ホルヴィロスがすぐ全体に回復をかけていく。

 とはいえみんな瀕死からの立ち上がりだ。

 そんなすぐには元気にならない。


 唯一アカネだけは全身から血を吹き出してすぐに自己回復に努めた。

 肩で息をしているからスタミナ消費は大きそうだ。


 そしてすぐにアカネが前に出る。

 それもそうだ。

 上からはシーマがやってくる!


「なんだ、まだ全員生きているじゃないかっ!」


「残念、この程度でどうにかなるようなヤワなつくりじゃないからね!」


 アカネは強がって返し飛びかかっていく。

 だがまあ本当にマズイ。

 何が不味いって大技一発でひっくり返る戦力差だということ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ