二百八十一生目 力差
「まったく、絆とやらの力かい?」
「いいえ? 私達の繋がりはそういうフワフワしたものだけじゃないけど?」
「だとすると?」
「目的意識と日常的な訓練に戦闘。その積み重ねよる時間の消費だよ」
「時間の消費……?」
アカネがシーマに語りつつもうさぎ足に変化させて高速で駆ける。
両腕は虎のような重い爪。
シーマが放ってくる手刀の斬撃光飛ばしは下手な弾丸より速い。
兎にも角にも避けてよける。
そのまま懐に潜り込んで斬撃合戦。
互いに攻撃を紙一重で避けるようなひと息つく暇もない大攻防。
そこに突如として雷撃が走った。
アヅキの魔法だ。
ガードするためにシーマが一瞬固まり……
そのスキをアカネが振るってついに斬撃を食らわす。
以外にもアカネは武技そのものは結構使う。
今の爪ならば高度な上下斬撃を3連撃合計6回一気に切り裂く技だ。
最後の1撃で吹き飛ばされたシーマは大きく吹き飛びつつ耐える。
あんまり端に行くと外にでて地の底から出る神力に身を焼かれてしまうからね。
「しつこいっ!」
シーマは足を踏みこんで地面を割る。
当然それで終わらない。
地面から這うようにエネルギーが迸る。
私達の方に向かってこの床から炎のようなエネルギーが吹き出してきた!
「「おわっ!?」」
「なるほど、な!」
誘導性や速度だけでなくタイミング自体をズラして当ててきた。
無事だったのは空へすぐ避難したアヅキくらいだ。
カウンター気味に空から急襲する。
さすがにすぐには反撃に移れなかったらしいシーマ。
空中下段蹴りを腕で受ける。
地面に刺さった足を抜いてその勢いのまま蹴り上げた。
空に向かって蹴られた足はアヅキを見事に蹴り返し。
そのまま連続で蹴って吹き飛ばした。
……それを腕の手甲でアヅキは受けていたが。
「チッ、どんな威力だ……!」
さて一方そのころだ。
これは後から知った話だが……
そもそも作戦として最初からこちらの動きは陽動だったらしい。
今回の作戦は敵の撃破ではない。
私の救助だ。
だからこんなところで足止めを食うのは良くない。
ホルヴィロスの分裂体がおっちらほっちら登っていく。
感知される可能性を考えて後方の味方から隠蔽の支援魔法を受けた状態だ。
とりあえず誰にも見つからず結構塔を登っていた。
(分かれ身の貧弱な姿だけれど、全速力で登ってきた。あとわずか……!)
ホルヴィロスはホルヴィロスと分かれていても意識は同じだ。
なのに操作はそれぞれで分かれている。
便利通り越して理不尽なほどの能力だ。
向こうの戦局も良くないことはわかっていて足を急いでいた。
ラストの坂を駆け上がりやっとこそ頂上へつく。
そこにあったのは……巨大な拘束具。
と言うか私が磔にされた謎機械だ。
メチャクチャデカく床から離れた空にある。
そう空中だ。
(うわっ)
私の体が暫定あるはずの場所。
そこは神力がバンバン集中していた。
ええ……どこに吸い込まれてるのかと思ったらこの機械なのか……
しかも浴びまくっているということは中心にいるはずの私も浴びまくっている。
肉体なんで死んでないんだ。
これが例の終末の獣なるものの効果か。
ちなみになんで私がいるはずと仮定なのかというとあの神力たちのせいだ。
神力たちが常におびただしいほど流れ込んでいて視覚情報的になんも分からんかったらしい。
(これはちょっと……困ったな。けれど、やるほかない!)
下ではいまだ本体が戦っている。
なのでここが解放チャンス。
ホルヴィロスはツルを伸ばして自身のちいさい体を浮かした。
そのままさらに別のツルを伸ばす。
この機械にとりつかなきゃいけないからだ。
「よっ」
そうしてなんとか端っこにまで伸ばすと端っこを結ぶ。
ツルの距離を縮めて飛んでいく。
フックショット的な移動だ。
ちかづくとこの巨大な謎機械は案外細かくデコボコしているのがわかったそうだ。
このデコボコのスキマをグングン神力が引き込まれていく。
毛細管現象かな?
ホルヴィロスはツルを伸ばしてひょいひょい登っていく。
意外と渡れる余裕はありつつも流れる神力はホルヴィロスの肌を焼く。
正確には毛茸。
攻撃能力こそしょうもないらしいがかわりに高い回復能力をこの姿でも持っている。
ジリジリ焼かれた先から回復して無理やり歩みを進める。
とにかく道なんてものはない。
だからツルを利用して神力の流れていないスキマ時間を利用し凹凸の凸部分に張り付く。
そうすることで比較的安全にわたり飛んだ。
いやまあホルヴィロス意外が真似したら焼け飛ぶとおもうんだけど。
そうしてやっと中央付近にたどり着いた。
そこにはやはり……いた。
磔にされ気を失っている私が。
「ウッ……これは!」
そうしてさらに……見ただけで身のすくむ思いをするものが。
こっちのほうが大きくて私が良く見えなかったのだ。
広がる暗黒が。
ホルヴィロスから見たらこうなっていたのだ。
ブラックホールでもあるのかというような暗黒がそこにある。
私から見たらなんか燃えている石だったからなあ……
そして何よりこのブラックホールはとにかく根源的な恐怖を呼び起こすらしい。
シーマが私から離れたのもしかして終末の獣たる証から離れたかったんじゃないのか。
ホルヴィロスはそんな推測をたてたらしい。
「一応……触れても大丈夫……なはず……」
ホルヴィロスは震える体を抑えつつさらにツルを伸ばしていく。
私の拘束をはずすヒントを得るためだ。
そこでわかったのは以下のとおり。
まず私は生きている。しかも傷もなく元気だ。
意識が意図的に奪われているのは把握。
そこでホルヴィロスは毒薬を調合して注射をする。
いわゆるきつけ薬だ。
少し時間はかかるだろうが目覚めるだろうとのこと。
問題は機械だ。
私は四肢を磔にされているが物理的な拘束は見えない。
念力のようなもので貼り付けられているようだ。
肩外れてないだろうな……
ただどこに繋がっているのかは見えた。
……四方に散らばったところにある光の塊だ。
神力に紛れていて一瞬わかりづらいが確かにあちこちに浮いていた。
どうやら凸部分にあるのも良い。
さっそく近くの光にホルヴィロスはツルで叩く。
パリンと軽い音を立てて砕けた。
どうやら壊すのは簡単らしい。
ホルヴィロスは次の場所へ取り掛かる……
場所を戻って。
何事も作るより壊すことの方が簡単だ。
何が言いたいかと言えばみんなのダメージ具合だ。
序盤戦闘はホルヴィロスの回復が追いついていたが明らかに追いつかなくなってきている。
これはホルヴィロスの腕のせいではない。
むしろ私より回復能力は上だ。
全員が血泥によって体のあちこちが黒ずんでいる。
正確にはホルヴィロスだけ単に汚れだが。
ホルヴィロスは血液通ってないからね。
ホルヴィロス自身も攻撃は一部を回避できるだけで殴られたり燃やされたりと効果的な技を見つけ出されてきている。
回復していれば隙もおおきくなりどんどん向こうも対応してくる。
「そこっ!」
「ううっ!」
ホルヴィロスの分かれ身が回復していたアカネ。
アカネの影にいたそれをめざとくシーマが見つけ踏み込んで斬撃する。
空中で何度も切り刻んでアカネが受けるように下がって……
追撃で足で踏み込む。
地面から炎のような光が飛び出し影に隠れていたホルヴィロス分身が焼かれ消えた。
「まだ途中だったのに!」
「これ以上たくさん治されると、ダメージレースで負けてしまいかねないからね。妨害させてもらうよ」
そうこう話しつつシーマは今度手に光を集めていく。
そのまま力強く握ると……
魔法がホルヴィロス中心に巻き起こる。
白く輝く光がうずまき銀河のような輝きと共に爆発が起こる!
範囲が広いとはいえ爆発までに時間がある。
ホルヴィロスはステップで距離をとってから中心に向かってツルを固めガード。
「ううわっ!」
聖なる極光の魔法でも爆発は爆発だ。
ホルヴィロスは大きく背後に吹き飛ぶ。
ギリギリ床からでない用に受け身を取って着地。
そのまま前へと転がるように駆け出した。
「うむ、思った通り防御性能はそこまでではないな」
「あぶなっ」
そこに追撃の地面からの炎のようなエネルギー。
ホルヴィロスが吹き飛んだところを狙われていた。
ホルヴィロスは自身を癒やしつつ連続での爆発を避けていく。
イタ吉とアヅキがシーマを挟むように殴りかかる。
両腕で受け止めたところを鞭剣ゼロエネミーによる縦斬り。
回り踊るような回避とともに蹴り払いしてふたりを倒れ込ませる。
だが何かに気づきすぐ跳んだ。
さっきまでいた地を氷のビームが薙ぎ払っていく。
アカネによる狼のような口から放つ冷気ビームだ。
このビームを避けつつ空から手刀を振るうシーマ。
手刀は倒れ伏したふたりに当てられ……る前に小イタ吉たちが割り込んでふたりを引っ張った。
それでなんとか圏内から逃れる。
「おや、恐ろしい。コンマ1秒でも早ければ味方に直撃コースでは?」
「いいや、まだ詰められたね。ごめん、撃つタイミングをひよった」
「構わん。やってることが多くなったとは言え、相手は個人だ。こちらは数で少しずつ押し切れる」
アヅキの言うことはたしかでこっちは凄まじく削られホルヴィロスに治されの繰り返しで追い詰められてはいるのだが……
言うほどシーマに余裕があるように見えない。
それに口に出してないが時間は私達の味方だ。
後詰めのみんなも徐々に状況改善してきている。
やがてこっちに追いつくだろう。
相手がここで足止めするのも限界がみえだした。
「それに、そろそろ私達もやれるもんねえ?」
「ああ、いくか!」
そしてアカネとアヅキの姿が変わる。
進化をしたのだ。
アカネは成長したようになりアヅキは鋼のような羽根をまとう。
別に出し惜しみしていたわけだはなく準備をしてちゃんと追い詰めて使っただけだ。
最初から必殺技を出して見切られるだなんてシャレにもならないからね。
アカネがアヅキの翼を背中から生やす。
そしてアヅキと共に飛び上がり……
ふたりは同時に技を放った。
アヅキは扇を大きく叩きつけるように振って突風。
アカネはドラーグの口を瞬時に生み出してドラゴンブレス。
両者が合わさり混ぜ合って凄まじいエネルギーの砲撃に化ける。
「おっと!?」
シーマは思ってもいなかった勢いで来た砲撃を避けきれない。
砲撃が地面とシーマへ当たり爆発する!
爆炎の中飛び出す影。
やはりシーマは、その身を防御結界で守っていた。
腕をクロスし守っている。
簡単なガードながら衝撃を減らせるから多くの戦闘員が覚えている基本的な技能。
当然減らすだけなのでやはり全身に傷は見える。
「直撃は無理か……」
「上等、倒れるまで叩きつける!」
「まったく、パワーが先ほどと段違いだ。強い神力も感じる。神使としての力を目覚めさせているのか? 厄介だな……」
ただシーマ側は思ったより不快感を表していた。
やはり神力が問題ある。
神力は神の存在を絶対にするものだ。
まったく持たない者にとって神への対抗は直接的に害をなすことはできないほどに。
逆に言えばその絶対性は持っていることで簡単にひっくり返せる。
今シーマのもつ優位性はかなり揺らいでいる。
「ならば、その力試させてもらう!」
シーマが最初の時みたくポーズをとってあたりの世界が一変する。
紋章の床と広がる闇の世界。
今回は誰が捕まる。
「ウワッ、私だ! 距離をとって!!」
ホルヴィロスがそう叫んだ。
神を制御しようとしてくるか!