二百八十A生目 抗戦
人形の神ことシーマにキレていても状況は進む。
というかアヅキ対他である。
この状態ではアヅキの被害を抑えつつアヅキをしばき倒さないといけない。
「その……私が言うのもなんだが、もう少しシリアスにやってくれないだろうか? 仲間割れだぞ?」
「でやあぁ!!」
「ぎゃあぁーー! お、お前ー! 避けろよ!!」
「ぎにゃああーー!! こ、こんなの真面目にやってられないさ!! ははははっ!!」
アカネが笑いながら獰猛に拳を振るう。
まあ真面目にやることはない。
明らかにこれは遺恨を残すための策だ。
もともと敵から見たら数の不利こそが弱点となる。
ならば相手の仲間同士で潰し合ってくれれば問題ない。
シンプルながら悪辣な手だ。
「こなくそぉ! くっ、だめだ! 本気で身体は制御できん!」
「進化したら……って思うけれど、多分こんなに神としての実力差があると難しいよね……!」
「そらぁっ!!」
イタ吉たちが寄って集ってアヅキをころばしにかかる。
アヅキ自体は飛んで避けて上空から雷を落とし始めた。
……進化は私だとあっさりやっていたんだけれど彼らによるとかなりの困難らしい。
開始も維持も結構難しいらしく決め時じゃないとね。
時間はドンドン減っていく。
アヅキは既にボッコボコだ。
顔がとんでもないことになってる。
もはやギャグみたいだが実際はかなり厳しい戦いだ。
そもそもアヅキの攻撃自体が結構みんなをえぐっていく。
アヅキが制御できないので全力で殴られることに変わりがないのだ。
アカネが膨れ上がって何かの魔物に化けたところをアヅキが重々しい両腕を振るう。
アヅキのパンチは手甲ごしで早さより重さに比重がある。
ちなみに蹴りは逆に素早く鋭い。
フカフカした毛玉腹アカネの体にしっかりアヅキの拳が刺さって……
刺さった。抜けない!
これはまた変わった変化を見せてくれたらしい。
「おおっ!? 止まった!?」
「どうだ! 物理がきかない魔物のでかい腹で!」
当然アヅキの思惑と違ってさらに蹴って抜け出そうとした。
深すぎる毛皮はあっさり足も飲み込んだ。
「ま、マズイ!」
「あ、なるほど!」
アヅキが急に焦りだしたのを見てアカネガ緊急的に戻った。
すると腕と足から大量の雷撃が放たれる。
あっぶな。警告されてなかったら丸焦げだ。
アヅキは手を抜いてくれない。
かわりに警告が的確だ。
アヅキがどう動くかはアヅキが1番わかってる。
「あと僅かだぜ!」
「止まれやぁ!!」
イタ吉がもみくちゃになりながらアヅキを取り押さえる。
最後の歯車が……朽ちた!
「まさか、このような突破をされるとは」
世界が砕ける。
再び足元がふわりと浮き景色が明暗。
元の場所に戻った。
シーマは残念そうではあるがそれ以上に苦しんではない。
結局長年生きた神にとって所詮は手段のひとつでしかないのだ。
結界がなくなることでシーマは身構える。
早速雷撃迸る拳が突き出された。
アヅキだ。
シーマは受けないようにして丁寧にさがる。
「散々いたぶってくれたじゃないかっ」
「おや、いたぶったのはそちらの仲間では?」
「ふん、論点のすり替えでしかないな。殴られる原因は明らかにお前の人形劇のせいだったが?」
「それは手厳しい」
アヅキは深追いせず距離を取ってから風を撃ち出す。
風は光を伴ってシーマの体を衝撃でえぐりに行く。
だがシーマは意に介さず適当に腕で弾いていた。
当然アヅキ以外も攻める。
周囲からシーマに対しての肉薄。
ニンゲンサイズしかないシーマ相手にこれをやるのは念話でリアルタイムに互いの動きを把握しているうえで何度も訓練したからこそ。
じゃないとたがいの腕を斬る。
「アンタはどれだけ強いんだ!?」
「ご期待に添える程度には」
「私が治している間に、ふたりは攻めを途絶えさせないで」
「りょーかい!」
アカネが相変わらず戦闘民族じみたことを言っている間。
ホルヴィロスは本体がアヅキの回復をした。
アヅキは背後にさがった理由はケガだ。
そりゃあみんなからしょっちゅう殴っている。
それで相手の動きを止めるためにね。
アヅキは斬撃を当てても止まらないからね。
相手を制圧するには衝撃を与えるのが1番だ。
相手を傷つけるのと目的が違うからみんな武装を殴り系に限定していた。
魔法もどこまで傷を増すかわからないので今回は使っていない。
逆にシーマはぶん殴られるのではなく積極的に切り裂く。
イタ吉は尾刃を振り回しアカネは両腕を竜の手のひらに変化させ襲い掛かっている。
「進化ってやつは!?」
「ま、まだ無理……何より……ぎゃあ!」
「よそ見をしている場合ではないよ?」
丁寧に口へ指を添えつつ片手を手刀にしアカネへ斬撃。
アカネの竜爪が負けた!?
イタ吉の尾刃の連続振りを全て紙一重に避けたあとに指を一本開く。
「ポン」
「くそっ!」
指先から鋭い射撃。
イタ吉の体を吹き飛ばすほどのまるで砲撃だったが。
とんでもないパワーだ!
そしてゼロエネミーを鞭剣で振り回していくのをあっさり距離とり避ける。
行動はほぼかみ合った同時だ。
小イタ吉が攻めないことで周囲をまわりシーマの動きを制限している。
「早いし、強い。しかも丁寧だな。技術的に余裕が見える……」
「力量も技量もたっけえなあ、オイ!」
尾刃イタ吉が受け身を取って立ち上がる。
アヅキの傷はだいぶ治った。
やはり斬り裂いていなかったのが良かったみたいだ。
ただ問題は戦闘のほうである。
ふたり……正確にはイタ吉たち3匹とアカネひとり。
それでぜんっぜん抑えれてない。
ここから切り抜けるには進化して4匹+ゼロエネミーでなんとかしなければ。
イタ吉は魔法が得意ではないが魔法みたいなことは得意だ。
移動するたびに自身にそっくりな影を増やしていく。
実体のある分身というやつだ。
一斉にシーマへ襲いかかる!
「甘い甘い」
「「ウワワァッ!!」」
だがよってたからられると共に人形が前進しながら手刀を振るう。
一瞬で周囲に斬撃の嵐が発生してあっさり蹴散らされてしまった。
だめじゃん!
そのまま連続で踏みこんで斬撃を放ってくる。
武技か!
移動のたびに無数の斬撃を繰り出すうえメチャクチャ範囲が広い。
「ちょおおっ!?」
「まだまださっ」
アカネが巻き込まれて斬り刻まれる。
慌てて全身を石のような硬質に変化させていたが全然怯む様子はない。
普通にアカネの全身が刻まれてしまった。
当然すぐに変化させて裂傷をアカネは閉じる。
追撃を避けるため大きく背後へ跳んだ。
シーマは最後大き踏みこんでアヅキとホルヴィロスに向かった!
アヅキは風を暴発させ反動で吹き飛ぶ。
正確な動きはわからなくとも距離さえとれればいいという動きだ。
ホルヴィロスはあえて受ける。
斬撃に斬り刻まれ小さくホルヴィロスが分かれる……が。
その間にいくつもの強靭で細いツルが。
罠だ!
手刀による斬撃で切り裂かれている中で不意に動きがギリギリと遅くなる。
イタ吉の分身は全員かき消されてしまったが……
まだ本体が虎視眈々とスキを伺っていた!
「ラァーーッ!!」
小イタ吉の爪蹴り込みと尾刃イタ吉の駆け込み斬り。
拘束が解けると同時にぶったぎった!
体の関節を的確に斬っていく斬撃。
「クッ」
「カッテエなあ!」
動き続ける敵の腕や足の関節を狙うのはほぼ困難なのでこういった時にイタ吉の腕でやっとやれる。
だけれども大したダメージをあたえていなさそうだ。
とはいえ少しでもダメージを与えられたことは朗報。
なんとこれだけ戦ってやっと初のまともなダメージ。
ほとんどアヅキと戦っていたからね。
ただこれで……
「よし、まったく通らないってことじゃないってことが分かったね!」
「いくぞ、ここからだ」
アヅキが体についた血泥を払う。
その下にはもう体の傷はなかった。
正確にはふさがっただけだが生命力が戻ったのでよし。
アヅキはそのまま空へ飛ぶ。
肉体が大きめだし四肢が立派にあって邪魔になる。
そのため実は空戦が得意というわけではないらしい。
ただしこういった密接の戦闘では別だ。
シーマが指を2本添えてアヅキに向ける。
すると弾丸のようなエネルギーが高速で飛ぶ。
連続で飛んでくるそれをアヅキは片手に扇を持つ。
発生した扇で仰ぐと突風が発生する。
その間もみんながシーマをぶん殴ろうとして蹴り返されているが逆に言えば制御が利いている。
突風と弾丸がかち合って弾丸のほうが抜く。
だが光がしのぎを削っている間にアヅキは回避運動をとった。
シーマは連続射撃をしてアヅキは突風で対抗。
突風はとにかく範囲が広い。
しかも概念としては短縮された魔法のようなものだ。
種族魔法という。
アヅキは雷撃のほうは普通の魔法で風が種族魔法と聞いた。
あの扇をひるがえすだけでどんどん風を生み出せる。
しかも攻撃性のついている光つきだ。
攻撃能力はこの時点でも高いがやはり進化したい。
進化すればこの風が極悪になる。
私はアヅキが敵の行動を制限しているのを把握しつつ鞭剣を振るう。
鞭剣はぶん回すと味方ごとえぐりやすい。
だから振るうときは見極めつ必要がある。
しかも念話パスつないでないからやりづらいんだよなあ!
とはいえ4名で囲んで叩いていてもまとめて吹き飛ばすほどの力は相手にある。
ニンゲンサイズだが暴れ狂う竜でも相手にしている気分だ。
だから抜けてきたところを的確に……振るう!
「くっ! 浮いている剣か……誰の人形なんだ……?」
「ローズの剣だよ! どうだいお味は!」
アカネがかわりに答えてくれる。
振るった剣はシーマの腕を浅く引っ掻いた。
一応ガッツリ斬りこんだはずなのに本当に頑丈だ。
もちろん1回当たったら連撃を込めていく。
小ぶりから大振りに繋げつつ連続鞭うち。
そのまま最後は勢いよく弾き飛ばした。
追撃に入ったアヅキたちの攻撃を眺めつつこの後の動きを思い浮かべる。
とにかく最初の大技と敵のシンプルな攻撃1つ1つが危険だ。
今も蹴り上げ1つでアヅキがガードの上からくの時に折れ曲がって吹き飛んだ。
そこから流れるようにこちらへ肉薄。
早い! 剣の振りと同時に手刀が来た。
ぬおおおぉぉーー!! 1発で吹き飛んだ!
強いって。白と黒とでは少なくとも打ち合えていた。
とんでもないパワーだし戦い慣れている。
正直やりあいたくない。
神にしては地味な戦闘スタイルだとは思うがそれが弱さに繋がっていなかった。
いやーな感じなんだよなあ。
こういう時って相手はまだパワーを隠している。
とはいえ追い詰められるときにどんどん追い詰めていこう。
相手が余力を残したいと感じているときにこっちが詰めていくと最終的には上をとれる。
敵にとっては前哨戦でこっちにとっては大詰めという差を利用するのだ。
「ふむ、やはりここまで来ただけあって、やるようですね。感心しました。そもそも、アレだけ殴り合ったのに、まるで足並みが乱れていない」
「ヘッ、この程度で仲間割れするほど暇じゃないんだよ!」
「お前らとの腐れ縁も、なかなか長くなってきたからな……まったく、本気で殴りやがって」
「そっちのほうがいいだろ? 後腐れ無え!」
「まあそうだな。俺がお前たちを無駄に傷つけるよりまったくもって良いことだ」
アヅキとイタ吉は不敵に笑い合う。
まだ共同で戦い出した段階だったら違ったんだけどね。
もう何度も戦線をともにしている。
今更どうこう言いっこないのだ。
ここらへんの感覚は神として永く生きてきた者と違いがある。
と言うか普通の相手ならばちゃんとこれでギスれるから有効手ではあるんだよね……