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二百七十九生目 急襲

 機械の目は無機質さをむしろ感じさせない。

 有機的に機敏に細かくレンズ周りが回転しピントを絞ってこちらを見てくる。

 カメラの目と似ているけれどさらに複雑で美しい。


 ……いやいやいやいや。


「なんでこんな中途半端なところにラスボス野郎がいるんだよ……」


 イタ吉が全員の心を代表して言ってくれた。

 当然みんな戦いに備えてフル強化してある。

 だがそれと心がまえは別だ。


 私達の目的は人形の神から私の身体の奪還。

 つまるところこの神との戦いは副題なのだ。

 最悪逃げても良い。目的が達成できれば改めて大神たちに敵をなすることもできる。


「フム、随分な驚きようじゃないか? 私がでてくることは予想出来たはずだ。何せ今、ここの塔全体で戦っている面々に、私は見覚えがある。それとも、私の顔を、もう忘れてしまったのかね?」


 小首をかしげて聞いてくるがそれすら背中に寒気が走りそうな美しさだ。


「知ってるからびっくりしてんだよ……」


「なるほど……話に聴いていたが、会うと凄まじい圧だ……なんでアンタがこんな下にいるんだ。もう我が主の身体はいいのか?」


 アヅキが腕を組みなんとか強気に返す。

 本当になんでなんだよ。

 私の身体返してくれよ。


「残念ながら、アレはもう我が手中にあるものだ。貴殿らに返却する予定はない」


「貴様ッ!」


「そして、はっきり言ってしまえば、もう私にできることはないのだ。ひたすら、その時を待つだけ。このエネルギーは、月と地上をつなげている。月はだね、長く暮らしている月に囚われた神から、永続的に神力を徴収する仕組みなのさ。やがて神たちは地上ではまともな神力を振るえなくなる。供給もほとんど絶たれるからね」


 神の神力たるものは誰かの信心からなる。

 つまるところ誰かに思われたエネルギーが神の力になるのだ。

 全てから忘れられた神はどうなるのか?


 普通はそんなことは起こり得ない。

 しかし月はそれを人工的に再現しようとしているらしい。

 完璧ではなくても末恐ろしい装置だ。


「随分詳しいねえお姉さん……お姉さん? この計画を建てるのに、調べまくったってわけ?」


「調べる必要はない。創ったのは私だ」


「なっ!?」


 アカネの軽口に予想外の返答が飛び出してきてみんな固まった。

 この月を……創った!?

 た……たしかに大神クラスの気配は感じていた。


 大神クラスといえば間違いなく蒼竜とか朱竜とかの存在としての格が違う者たちだ。

 まあ大神内でも差異はあるけれど……

 少なくとも目の前の相手は5大竜と並んでも遜色ない力を秘めているのは感じ取れていた。


 だから創ったというのもなんとく本当だとわかってしまったんだよなあ。

 

「おいおい、かなりの大言壮語(たいごーそーげん)じゃないかよ」


「……随分と古い場所のように思えるが? それにお前は、牢屋を自分で創っておいて自分で壊す気なのか?」


「開発者というのは得てしてそういうものだ。作ると使うはちがうものだ。常に開発者の意図など無視をされ使われる。ここだって、本来は天国(パラダイス)にするつもりで設計したんだ。君たちも見てきただろう? 美しく、のどかで、どこまでも続くような自然豊かな光景を」


 全員それには納得する。

 神々には魔物以上に様々なタイプが存在するけれどそれら各々に対応するかのごとくたくさんの種類環境が用意されていた。

 資源の宝庫だ。


「うん、ここは医学的見地からしてもかなり快適に保たれるよう努力された跡があった。自然というより……造った自然みたいだ。本来の自然は案外危険だからね」


 自然というのは放っておけば互いの生存権をかけて命をしのぎ合うように生息しているあまりにヤバいところだ。

 森の迷宮なんかまさしくそうだ。

 まともに道がならされてすらないから直線に動けるところがない。


 対してここだ。

 明らかに開けた景色が多く大自然の脅威より感嘆を受けられる場所だ。

 丁寧に場所を整えられ執拗なほどに違和感を消していく作業をしなくては得られない光景だ。


 しかも一体それをいつからやりつづていたのか?

 維持が出来ているという点で全く持って末恐ろしい。

 普通こんな神は称賛されてしかるべきだ。


 しかし……


「私が欲しかったのは、そのような褒め言葉ではなかった。神々が、神々の時代を謳歌するための、次なるステップとして用意され開発された場所だったはずだ。わかるか? 君たちにこれが?」


「うーむ、正直言って神同士のことは良くわかんねえけどよ……」


 イタ吉がそうこぼすが……

 その目はまだしっかりと相手を見据えていた。


「仲間のためのものを敵に蹂躙されたら怒るよな、そりゃ。だったら、俺達の場所も同じ用に考えてほしかったな」


「何?」


「お前たちが仕掛けた場所、ニンゲンや魔物たちの集まりを徹底的に叩いていたじゃないか。もうあそこは俺みたいな生き物たちが暮らしていた場所だ。そこを蹂躙されたら、俺達だってキレるんだよ!」


「なにを一丁前に。そこも全ては我らが神の地だった。ここ最近湧いて出てきた敵を、掃討したいほどの怒りを覚えているのはむしろこちらだ」


「ほおう? とはいえ、その神々とやらも随分と意見が対立しているようだが?」


 イタ吉が腕を振って力説しても鉄面皮で答える人形の神。

 しかしアヅキの煽りにはモロに気に触ったらしい。

 機械の目がいきなりグイグイ動き出した。


「あの蛮神どもは裏切り者でしかないっ! 私の楽園(パラダイス)を、監獄に変換したのだ! 彼らはさらなる飛躍よりも、自らの終わりすら選びだした……! 信じられない……」


「フン……あくまで神々しか目にない、というわけだ」


「……そうだ。貴殿らはあの蛮神と比べれば、些細なものだ。だからこそ、称賛に値する。ここに来たということは、あの襲撃を生き延びたのか? 実はまだ手持ちの情報が少なくてね。すくなくとも、負けたことは知っているがな」


「確かにこっちは重傷者が多数に破壊されたしアンデッド兵はボコボコに壊された。けれどね、ふふっ、ほとんど誰も死んでないよ。ご自慢の軍隊だったろうけれど、御生憎様っ」


「……何? どういう、ことだ? アレは神々すら追い詰めるための兵だぞ? 量も質も、現場の策も高度なものを集めた。それを貴殿たちアノニマルースの存在が? バカな……」


 人形の神は明らかにうろたえている。

 それはもう壮絶な闘いをして抜いたとしか考えてなかったんだろう。

 まあ壮絶ではあった。


 現場を見ればまさに死屍累々だ。

 ほとんど衛生兵組の戦いと瀕死時に転移する能力をもつ鎧たちのおかげすぎる。

 そんなことをわざわざ敵に情報を渡してやることはないが。


「ヘッ、怖気づいたかよ? だったらこんなことはやめて、ローズを返すこったな!」


「主は何であれ返してもらう。言葉以上に……拳で押し通すつもりだからな!」


「長々話しすぎたものねえ!」


「私としては、ローズをさらったキミを赦す気はないよ。覚悟は良い?」


 頭が痛そうに抱えていた彼女? だがこっちの構えをみると冷静さを取り戻す。

 あれは怖いな。

 どう考えても実力差があるのはバレている。


「どうやら勘違いしているようなので、言っておこう」


「……何?」


「確かに精鋭たちを集め、直属の部下も敗れた。けれど……私の力は彼らすらほんの一片にすぎない。調子にはならないことだ。この差を……たっぷりと味わいなさい」


 ゆっくりと人形神の体が空に浮かびだす。

 何よりも圧が凄まじい。

 おぞましいほどの神力が渦巻く。


 そして神力が神ではないみんなにもはっきりわかるほどに顕現化する。


「私の名はシーマ。貴殿らに良き旅路を……肉体からのな」


 戦いの始まりはいやに静かな立ち上がりだった。

 魔法をぶっ放すでも一気に駆けるでもなく双方が待ち。

 たたかいの起こりとして非常に珍しい。


 なのに双方の殺意だけはグングン高まってぶつかりあっていた。

 剣士同士の制空権争いとはまた違う。

 場がその時を待っているかのような緊張感。


「……」


 そして数分にも感じられたわずか数秒。


「ハァッ!」

「世界よ!」


 互いが動いたのは同時だった。

 全員前に飛び出したがすぐに異常が起こる。

 人形神が叫んだあとに周囲が明滅する。


 そしてみんなの体がういた。

 地面がなくなりかわりに白く不可思議な紋様が浮かんだ。

 同時に人形神の背後にも同じ紋様が。

 なんかそういう彼女をイメージしたものなのかな。


 全員の体がその紋様に着地する。

 周囲は真っ暗だが不気味なほどに視界は通る。

 人形の神は周囲に多数の歯車を浮かべた。


「我が秘奥。神の御業。従え」


「ぬおっ!?」


 すると突如……

 アヅキがイタ吉を殴りつけたのだ!


「何ッ!?」


「グハッ!? ちょっ!?」


 まともに食らってしまったイタ吉が吹き飛ぶ。

 突然殴ったアヅキが一番驚いていた。


「体が、言うことを利かない!」


 震えるようにアヅキが言い放つ。

 みるとアヅキはこちらへ正対するように構えだしたではないか。

 さ、最悪〜〜!


「フフフ、抵抗自体ができない神技なのですよ。もちろん意思も身体も本人のままなのであしからず」


 人形の神はアヅキの背後にまわると身体が結界に覆われる。

 なんというか攻撃がまったくきかなさそうだ。

 周囲の歯車は噛み合って回りだしている。


 ただ端から歯車は朽ちだしていた。

 おそらく時間消費タイプ。

 ただ長そう!!


「よ、避けろぉ!」


「うああぉぉ!!」


「は?」


 アヅキが両腕に雷嵐をまとった。

 大技の合図である。

 ……その真横から巨人の拳が殴りかかるまでは。


 アヅキがあっさりと吹き飛ばされていく。

 完全な不意打ちである。

 決めたのはもちろん……アカネだ。


「ウワーーッ!?」


「良い? こういった時の味方は、とにかくぶん殴っておくこと。とにかく手出しさせない勢いで。後で治せばいいから。ローズが言ってた」


「そ、そうか、主が……」


 言ってないよ!?

 まあ結論としては同じかもしれない。

 結局混乱したりしている味方は殴り取り押さえるのが1番となる。


 というわけでゼロエネミーもすぐ動く。

 あえて盾モードにする。

 そのままウオラァーッ!


「ヌオオオオッ!! 全員抑えろ!!」


 アヅキは反射のように盾を受け止める。

 シールドバッシュは凄まじい圧のため押し込められた。

 みんながそこに寄って集って殴りだす。


 もうすごい勢いで殴りかかる。

 あくまで素手だがボゴボコである。

 ホルヴィロスだけはツルで捕まえていく。


 本当は関節技とかのほうがいいがアヅキは背中の翼のせいで絶対拘束できない。

 なのでみんなの対処はただしい。

 ただしい……が。


「よくもまあ、それほどボコボコにできるね……?」


「オメーのせいだろーがよーー!! だったらこの術ときな!!」


 むしろ敵である人形の神がドン引きしていた。

 人形の神は何もしていない。

 あの結界多分強固すぎて双方を防ぐんだろうか。


 見たただけで多分あれ駄目だなってわかる結界なかなかのものだ。


「ヌオオオオッ!!」


 だがアヅキも悪いことにやられっぱなしじゃない。

 どうやら本人の全力行動を無理やり引き出されるらしい。

 ボコボコにされたのに全員ふきとばした。


 周囲をみると嵐雲が起こっている。

 確かに突風はなにもかも吹き飛ばすのに有利だ。

 風が当たれば地面に根づけされてないものは例え数百キロあろうが宙に舞うことも前世の世界ですらあった。


 この世界の(エフェクト)アタックならそれすら超えるだろう。

 

「じ、時間は!?」


「まだ半分もあるぞチクショウ!」


 悔しがったのはアヅキである。

 時間内ぶん殴られるからだ。

 そのまま全力で駆け抜けてやる。


 盾で前に出てアヅキの全力雷雲パンチを受ける。

 そのまま耐えつつ押し切られないように地面に指す。

 正直1撃1撃が嵐を受けて止めているみたいでほんま……ほんま人形の神め……!!

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