二百三十一生目 走鳥
街から出る時に初めてカルに乗る事になった。
用意された3体の足自慢だ。
さて、私は街に入る前に"観察"してカルクックの言葉を覚えていたので……
「よーしよしよし、俺がぶっちぎってやるぜ」
「私が私が私ががががが」
「はえーやつ、オレひとりいれば十分なんだよ!」
やべーやつしかいないのが乗る前からわかってしまった。
真ん中の子あまりに落ち着かずに穴掘り出しているし3体ともかなり険悪。
バローくんは向こうでカムラさんと打ち合わせしているから……今のうちに。
「ねえねえみんな、ちょっと話をしたいんだけれど」
「「「…………」」」
あれ、カル語で話しかけたのにガン無視!?
「ええと、あの私ローズオーラと言いまして……」
「「「…………」」」
「な、なあ、あいつ、もしかして俺たちに話しかけている?」
「オレたちの言葉で!?」
「絶対ヤバイやつだってヤバイやつ、狂人が変人かクルクルパー」
……斬新な反応をされた。
あれだ、完全に街で飼われ自分たち以外とは話が通じないという環境で育ったせいでより変に思ってしまったのだろう。
「聴こえてるよー」
「ヤベッ、目を合わすな!」
「煮て焼いて切って食われる!」
「ぶっちぎりにやべえ……」
うーむ顔すらそらされてしまった。
ただ話は聞いてもらわないと困る。
仕方ないのでメスのカルクックと無理矢理顔を合わせる。
「実はですね……私、まだカルに乗った事が、無くって、ですね!」
グルングルン顔をそむけられるななんとか食らいついて話す。
「それで! なんとか! うまく乗れるように! 協力してほしいんてすが!」
「えぇ〜、言葉は話せるのに、乗った事が無い!?」
「もったいないな、オレたちに乗ったことないなんて。『風』、感じたいんだろう?」
私から解放されたオスの2匹が後ろからやいのやいのと言葉をかける。
あとは目の前の1頭に話を聞いてもらうだけなのだが……
「とにかく! 乗り方教えてください! 何か上げますから!」
ピタッ。
急に動きが止まった。
「……おやつ」
「え?」
「おやつで手を打つ打つつつ!!」
「あ、ずるい、オレもだ!」
「俺も!!」
……というわけで。
もともと『仲良くなるために』とギルドマスターのタイガから指示を受け買っておいたおやつを彼らに渡した。
いわゆる根野菜や実にだけ用がある野菜の葉部分のみを集めたものだ。
実においしそうにもっしゃもっしゃと食べる。
……おいしいのかな?
……口に入れた瞬間なんとも言い難い耐え難い青臭さが広がった。
「よしよしよししし、私への乗り方、レクチャーしようじゃない」
「というか今回どこへ行くんだ?」
「それは、かくかくしかじか」
「なーるほどな。普段はどこがゴールかイマイチわからず走っていたが、案外わかるだけで気が楽だな」
「近所だな。すぐだすぐ」
カルクックたちと話してレクチャーを受けていたらバローくんとカムラさんがこちらに近づいてきた。
話し合いが終わったらしい。
「んじゃ、後は習うより慣れ。話が通じればいけるいけるるる!」
なぜ会話の途中ですぐに掘り出すのだろう。
「では打ち合わせ通り、通常安全移動だとカルでも片道1日程度かかってしまうところを、出来るだけ悪路や魔物がいる所も突っ切って半日程度で行きます!」
「わかりました、ついていきます」
「カルの足や僕らの体調を考慮して一定時間ごとに小休憩、半分程度で大きめの休憩を取ります! 特に熱には気をつけてください。暑いですから」
うーんやはり少し暑いのか。
私はなんか暑いのかなと思う程度で平気だったのだが……
これも属性の耐性効果なのかしら。
みなそれぞれのカルクックに無事乗れて最後の打ち合わせを終える。
ここからが移動の本番だ。
「さ、落ち着いて足の位置を合わせて。私に合わせないとすぐに落ちるよ!」
「あ、はい」
メスのカルクックに話しかけられたとおりちゃんと足を乗せる位置を合わせて、と。
ずいぶんと視界が高くなった。
それだけで気分も変わる。
「では、よろしくお願いしますね」
「やべえ……このオッサンの言うこともなんでかわかる……変わって……」
「俺はやだよ!」
「まあまあ、取って食ったりはしませんから」
そういえばカムラさんは受信機つけているから翻訳されるんだった。
カルクックたちにとって新しすぎてついていけないようだ。
そんなこんなありつつも……
「では出発です!」
先頭にいたバローくんがカルクックにピシャリと手綱で叩くと軽快に歩き出しそのまま速度を上げる。
私達も同じように後に続いた。
「……あのピシャリって言うの、痛くないの?」
「全然? あんなの痛がるカルはいないよっよっよっ」
こっそり聞いたがまるで平気なようだった。