二百七十七A生目 限界
ホルヴィロスの分神体は間違いなく非力である。
これはホルヴィロスの問題ではというより分神はそもそもそういうものなのだ。
戦いは向いていない。
そしてホルヴィロス自身はヒーラーとしての自負がある。
私はマルチなサポーターって感じだがホルヴィロスは見た目白い犬と違い徹底した回復役。
攻撃もスイスイ避けちゃうし相手してもかなり面倒。
だからこそ戦っていると勘違いしてしまう。
ホルヴィロスって面倒だから放置していいよねって。
「コ、コンナノ認めラレマセン!」
白は全身の武装を変更し射撃とミサイルに変える。
もはや物理的なパワーではどうしようもないと悟ったらしい。
全身から大量の土魔法や火魔法を……つまり弾とミサイル発射をした!
これなら本人のパワーは関係ない。
ホルヴィロスのツルも弾丸はともかく燃やしに来るのはどうしようもないからね。
実際ホルヴィロスもツルの追撃を残しつつ引いた。
「助かった、これで戦況を整えられる」
「いやあ、本当はグズグズに溶かしてしまいたかったんだけど、出力不足だね」
アヅキがやっとなんとか帰ってこれてホルヴィロスと並び立つ。
ホルヴィロスの本領は単独だ。
白き毒沼を広げて浸かり白き毒を降らし続け。
白き領域に相手を引きずり込んで感覚を狂わし。
毒による無限再生とそれで生み出される万のツル。
もちろんレベルが高くなった今はさらに分神体ともども強くなっているだろう。
だがホルヴィロスにとっての実力というのはそういう不壊再生による絶対的な待ち攻防だ。
今さっさと上に行きたいうえ複数匹味方にいるのはあまりに不利。
戦争の時も実はホルヴィロスの本体が門の前で寝る案があったが後々の汚染とホルヴィロス本体は『医者』であって戦略兵器として運用するのはナシという人道的見地からだった、
それに味方からしたらやっぱり邪魔なのは……どうしようもなかったからね。
というわけでホルヴィロスの今の戦いは新たなる模索の結果だろう。
神の白い毒に敵味方選別はない。
ホルヴィロスがいけると思ったのなら行けるんだろう。
あの分裂し回復してまわるのもホルヴィロスの出した結論だろう。
だからこそ今ここで戦っている。
そういった工夫と覚悟と力を白はナメた。
そのツケを支払う時は今なのだ。
「手ヲ貸してクダサイ!」
「ヤリマショウ!」
白と黒がまた空で腕を向け合う。
またあれだ!
その瞬間剣ゼロエネミーがやっと抜けた。
ナイスタイミング!
引っこ抜けた瞬間に大盾化する。
地面へ食い立つかのように広く結界じみた姿へ。
みんなも悟って急いで寄ってきた。
「「ダブルエクスプロージョン!!」」
再度空間が縮むような感覚。
ギュッと引っ張られ地面を掘り進むように耐える。
みんなはあまりの勢いにゼロエネミーに体を預ける形になっていた。
「「うあああぁぁぁぁっ!!」」
そして爆発。
あれ魔法みたいなもので敵味方識別できるらしく黒白に一切の被害をもたらさない。
だが明確に違うことはある。
それは距離だ。
さっきは完全に引っ張られそのすごい勢いで地面に叩きつけられた。
まるで小さな太陽のようなエネルギーと惑星爆発を想起させる吹き飛ばし。
それらのコンビネーションこそがこの魔法の最大威力を発揮するコツ。
逆に言えば……
引きずられるのを最低限大盾ゼロエネミーが塞いで。
吹き飛ばすのを大盾ゼロエネミーごと受ければどうなるか。
「今度コソ、多少ハ大人しク……」
「御大層なこったなあ!」
「ナッ!? ウッ!?」
「エッ!? ヌゥッ!?」
イタ吉たちが差し込むように黒と白をぶん殴る。
体を巧みに活かした回転撃。
ふたりはおそらく見えてはいたのだが……反動中でどうしようもなかったのだろう。
当然叩き込んだ先は尾刃イタ吉が待ち構えていた。
「オーライ!」
「調子ニ!」「乗ラナイデ!」
「「クダサイ!!」」
無理やり体勢を立て直し白は全身から乱射。
黒は巨大な刃を纏い回転。
イタ吉は弾丸程度目で見て避け……
黒の刃も尾刃をかち合わせる!
「単独が相手ではないのでな」
「まだ真骨頂、見せてないんでね!」
アヅキが両腕を振るわせるようにして風を纏う。
アカネが両腕両足全てを違う魔物の部位へ変化させる。
双方が各々白と黒へ振り抜く!
アヅキは射撃を全部見えていてもそれを全部防ぐ速さはない。
だがまったく問題はなかった。
アヅキはこんな攻撃の嵐……とっくの昔に経験している!
拳同士をぶつけると嵐が巻き起こりアヅキの周囲を覆う。
当然飛来する弾丸とかミサイルを弾いて。
まっすぐその拳を頭へと叩き込んだ!
そしてアカネが黒へ四肢を振るう。
黒はイタ吉との鍔迫り合いを跳ねて反動でアカネを迎え撃ち。
すぐにそれが甘かったことに気づいた。
全身がいくつもの強力な魔物の部位へ変貌するアカネ。
当然チャンス時に弱々しいものに化けるはずがない。
強力かつ巨大なものはとにかく時間がかかるのが欠点だが今回は時間が稼げた。
足2つが大木のように変化している。
それだけならいいがその表面はまるで平らに削られていた。
これは巨木で出来た……叩き挟む武器だ。
元の魔物は大木の姿をした魔物だ。
あまりに太い枝を腕のように振り回し相手をはさみ潰す。
そうして狩った体液をすするという結構怖い魔物だ。
それが黒にあてられた。
黒は刃をしまう判断をしたが間に合わなかったのだ。
「グッ!?」
当然食い込むだけで切れない。
腕や足があるので刃渡り以上のものを斬るという想定があまりされていないためだ。
しかもフックのように変に引っかかってしまう。
凄まじい圧で潰そうとするが黒は耐えた。
耐えた……が。
まだ両腕が残っている。
それは剣に魂が宿ったとされる魔物。
その中でも巨大かつ特質な刃。
霊の巨剣。
そこから繰り出される斬撃は物体を貫く。
同時に斬りたいものだけを斬るのだ。
まさしく何かに挟まれたものを大上段で斬るのに向いているような剣の刀身。
逃げ場をなくしたこの状態で。
上下に大きく振りかぶった!
「ヌゥアァッ!!」
「グアァッ!!」
斬撃をまともに受けた黒と。
顔を殴られた白。
まさしく致命的となる一撃だ!
アヅキの渾身のストレートパンチは風が反対側に突き抜ける。
その勢いで白も吹き飛び……
さらに黒は斬撃と挟撃両方喰らって致命打。
地面へ力なく落ちた瞬間をイタ吉が尾刃でスラッシュし急所追撃!
イタ吉にとって案山子斬りのような遅さだ。
通りざまの一撃はかなり重い。
「これで、どうだろうか……!?」
ホルヴィロスが双方が見える位置に移動する。
ここから逆転されたらシャレにもならない。
冷静に立ち回りを変える。
イタ吉とかもそうだが基本的にどっしり構えるのはホルヴィロスやアカネのような受けて返せるタイプだ。
アヅキやイタ吉はこういったスキマ時間こそ駆けたり飛んだりする。
相手が自分ならいつどこを狙うのかをわかっているからだ。
だからこそ。
「ムッ、活動限界デスカ。後ハ頼みマシタヨ」
黒がパリパリと音をたてて崩壊していく。
そして黒の内側から何かが飛び出し白へと降り注がれていく。
黒は機能停止した。
「全く、戦闘体ガ破壊サレテシマイマシタカ。シバラク戦え無くナッタヨウデスネ……私ヒトリトハ、コレハ困りマシタ」
「ああ、前もあの煙が出て動かなくなったんだ。だからてっきり完全に破壊できたものだと思っていたんだけれど……どうやらそういう感じじゃないらしいからね」
ホルヴィロスだけがそのことに気づけた。
前も見ていたからだ。
そして受け取った白は全身から凄まじいオーラを立ち上らせる。
白の傷が……塞がっていく!?
「何かマズそうだな!?」
「すぐに回り込め!」
「ぶっ飛ばせば、関係ない!」
アカネが体の変形を解除して腕から翼膜を生やす。
腕を広げれば一瞬により滑空し高速で飛び回る。
高速で突撃すれば十分なパワーになる。
それを白は……迎え撃った!
しかも直接前へ飛び出ることによって。
両腕を前にして足で踏ん張るようにして。
アカネを直接……掴んだ!
「ええっ!?」
「ハァ、ヤッ!」
そして地面へと投げ捨てる。
あまりに一連の動きが流暢すぎてみんな反応できなかった。
「なあっ!? なんなんだ今の!?」
「あの人形、さっきまで毒で力が出なかったはずでは?」
「むうう、毒が消えているねえ」
ホルヴィロスが怒ったのは白の体だ。
全身からエネルギーがほとばしり白の色を取り戻してきている。
うわあ、復活した!
アカネは驚いたものの背中をスライムにして受けた。
アカネはぶっちゃけニンゲン的技量はまったくない。
多数の体を操る関係上ニンゲンの動きに縛られる技量は邪魔だからだ。
かわりに隅々まで再現できる魔物たちの知識と実践が求められた。
パワーでごり押しするというのは存外考え続けなければならないのだ。
というわけで体を振るとサソリの尾が飛び出す。
白はそれを正面から受けた。
腕をクロスして防いで尾の先にあるトゲを食い止めた。
「フウッ!」
アカネは受け止められるの前提で腕を振るう。
簡単な変化で腕が伸び蹄がまとう。
ぶん殴られる白は吹き飛ばない。
「ハァッ!」
そしてまだアカネは動く。
白が反撃を差し込むが拳と蹄がかち合った。
互いに衝撃が走りすさまじい勢いで吹き飛ぶ。
「アソコカラ戻すカ」
「痛ったぁ……なんて力。明らかにさっきよりもパワーが上がっている!」
「それにあのビカビカ光ってるの、俺たちの毛皮にピリピリ来る……飾りじゃないみたいだぜ」
イタ吉の分身が近づいて殴りかかろうとして……消えた。
攻撃されたようには見えないがかわりにほとばしるのはあの光。
実体を持ったエネルギーだ。
近寄るだけで削られるのズルじゃない?
アカネもよくみると表面が焼け焦げている。
痛くないわけはないだろうがあえて黙って耐えていたらしい。
コラテラルダメージだと割り切れるのはアカネくらいだ。
他は痛ければ嫌だし止まる。
イタ吉は特に致命的だ。
分身が消されるのだから。
「ハアアァァァッ!!」
「マジかよ!?」
さらに力をこめエネルギーをほとばしらせたかと思うと……
いきなり突撃しだす。
多数いる分身を通るだけで蹴散らして腕をふるった。
その先にいたのは小イタ吉。
凄まじい速さで一期に掴んだのだ。
「いっ!?」
そして足を引っ張ってからのジャイアントスイング。
もう一匹のイタ吉すら巻き込んだ。
トルネードのような光と共に……吹き飛ばす!
「なんなんだこのパワーは!?」
重量が変わらずパワーが増せば速度が足される。
単純な計算だけれどやられる方は最悪だ!
ホルヴィロスが素早く白い猛毒のツルを伸ばした。
だが白はそれすらも掴んでみせた。
「は、はぁっ!?」
「前ノ状態デ効く用ニ調整サレタ毒ハ、今ハ効かない用デスネ!」
手の先から改めて刃を出してから握りつぶす。
それだけでツルたちはなさけないほどあっけなく散った。
ちぎりむしったってことなの!?
「な、なぁっ!? どんなパワーだよそれは! それにっ、毒が効かない!」
「厄介な力デスガ、相方ニ使わなカッタ時点デ、本当ニ私用ナノハワカッテイマシタカラ」
「それでももうちょっとどうにかなる予定だったんだけどなあ……!」
ホルヴィロスは素直に白のツルを引っ込めた。
このままでは足止めにもならないからだ。
ならばあとはゼロエネミーとアヅキだ。
ゼロエネミーはほとばしるエネルギー程度ではダメージを負わないしアヅキは耐えることだけはできる。
問題は痛いってことだ。
一瞬近づいて殴って離れなければリターンが合わない。