二百七十四A生目 先進
はあ~~。こうなっているとは思わなかった。
本当に空気きれいってなる。
いや前いる地上も空気はきれいなんだけれど。
空中に漂う魔力もずいぶん濃そうだ。
そうこうしている間に地上付近。
第一村人発見。神だろうけど。
ずいぶんとよわよわしそうな姿だ。
半裸で肩に荷物をひっさげやせ細った旅人のような。
皮膚っぽく見えるものが蝙蝠の被膜みたいで赤褐色だからだいぶニンゲンではないけれど。
「※※……? ※※※※※!?」
あ。久々に何言ってるかわからないや。
明確に言語で慌てているけれど。
剣ゼロエネミーは彼の上空でスルリと軌道を変える。
そのまま空へと飛んでいく。
うむ。別に敵でもなさそうだし刺激する必要もないだろう。
それにしても思っていたより……こんな場所に閉じ込められる神なのに弱弱しそうだったなあ。
神力をほとんど感じなかった。
この世界の事を詳しく知りたいしどこに私の体あるか気になるけれど……まずは合流が先だ!
みんなの行った方向はわりかし空にいた時に見ていた。
身軽な少人数チームからあたっていく。
「助かりましたーー」
「機能問題なし」
謎のツタ神にぐるぐる巻きにされていていたところを助けたのはローズクオーツのノーツだ。
ツタ自体はそんなに強くなかったしあっさり逃げて行ったようだ。
幸いローズクオーツやノーツは可能性の選択から無事生き残れたらしい。
「こんなに自然豊かな場所だとは思っていませんでしたね。もっと殺伐としているのかと」
「月の地表との一致はなし。大きく場所が違うと推定」
「……ちゃんと神の牢獄にたどり着いたんですよね? ローズオーラさまのいるところにたどり着いてますよね!?」
「……測定不能」
そう一応話の通りならばたどり着いたのだ。
だが確証は持てない。
確かに異質な雰囲気だけれど地獄っぽいと言われればわからない。
確かに移動しながら見かける神たちがなんとなく貧弱そう。
この時はまだ不明だったが月の神たちは月では神の力の大半を封じられている。
ゆえに神にしてはなんというか理不尽感がゼロ。
「※※※、※※※※※※※」
「ふぅ、本当に神様ばかりなんですねえ」
「戦闘終了、敵影なし。魔物ではなく神のみで敵が構成」
今のところ話の通じない相手は斬り捨てている。
全員神だ。
神の掃き捨て場なのかもしれない。
いや本当にそうなんだろうな……
ちゃんとここが掃き溜めなんだ。
やっぱりここは月の牢獄なのだろう。
そういう点ではきちんと目的地につけたということだ。
さらに移動していくと崖際で巨大な壁にジャグナーたちが押されていた。
背後から助太刀し斬り裂いたらどこかへ飛んでいった……
アレもまた神なのだろう。
「助かった、なんなんだここは?」
「ふぅ、危なかったですねえ」
「パパとバラバラになっちゃった……」
ジャグナーにたぬ吉そしてコロロ。
コロロはドラーグがいなければほぼ無力だ。
テンションがダダ落ちしている。
そのあとはどんどん合流していった。
ホルヴィロスとユウレンとインカ兄さんにクライブがいた。
何か稚魚みたいな魚の群れが空中から囲んでいたので逆に追い込み猟をした。
一箇所にまとめると固まって1つの大きな人魚になり……
そのまま泳いでどこかに行った。
神はよくわからんなあ……言葉がわからないと特に。
「はあぁ、なかなか災難だったなあ、ローズの元に行きたいだけなのに」
「まあ仕方ないわね。ワタシたちは完全に外野からきたし、ほぼ珍獣でしょ」
「あれっ、ハックそっちにいないのか?」
「かなり合流してきたな。それに、目標はあそこだろう」
クライブが指した先にはどこかで見た塔が浮いていた。
まああそこだろうなあ私の体。
人形の神もどこかにいるだろう。
さらにめぐっていけばすぐに残りの面々も見つかった。
弟のハックにイタ吉。グレン君とダカシにアカネ。そしてアヅキにドラーグだ。
結局ドラーグが合体し大きくなったことですぐ合流できたのだった。
「みんないたぁ!」
「俺と俺と俺、全員同じところにいたんだよなあ」
「ここに突っ込む時が一番死にそうだった……」
「よ、よし、さあ、行こうぜ」
「ダカシ、さっき女になっていてまだドギマギしてるんだよ」
「やっとここまで来れたのだ。必ず主をお助けするぞ」
「クワァコロロ! いて良かったぁ~!」
もはや木っ端な神たちにかまって浪費している場合じゃない。
ドラーグとノーツに乗っていざ塔へ!
空に飛んでいく2つの大きな影。
塔から向けられる殺気。
全員すぐに気づいた。
「き、来ます!」
ドラーグが叫ぶと同時に回避行動。
ノーツとドラーグが分かれるように避けると中央に突き抜けられるようにビームが放たれる。
人形が撃ってくるアレの巨大版だ。
そのまま翼をはためかせさらに浮き上がるように避けていく。
次々と飛んでくる大小の射撃。
一瞬にして美しい空は戦場へと塗り替えられた!
「うおおっ、だ、大丈夫かドラーグ!」
「僕は何とかいけます! だけど、これじゃあ、近づけない!」
よく見ると塔の方からワラワラと人形のような姿。
まだあんなにいたのか!
いやむしろ戦闘長ぽい雰囲気を感じないあたりあの人形たちは予備戦力なのは間違いない。
おそらくは向こうからしても急襲だったのだ。
どうやらこちらの襲撃が成功している形の模様。
そのことにすぐ気づいたのはジャグナー。
「……塔を守るには思ったより戦力が少ないな。それに、馬鹿みたいにワラワラ出している。これは慌てて防衛を展開しているな。おそらく量産っぽいやつしか見えねえ。俺たちがここに来る方が、逃げかえったやつらがたどり着くより先だったんだろうよ。いよっし! こうなりゃ、むしろ強気でいくぞ!」
「「おおーー!」」
「戦闘開始。姉妹機ローズクオーツ、ともに戦線を切り開くことを提案」
「もちろん!」
ノーツのなかにいるローズクオーツが応じる。
ノーツは高速で飛び回りドーラぐより前に出た。
さらに武器を持ち射撃し敵へカウンターをしていく。
反撃を受けた敵たちも動きを見せる。
各々が自由に散って行っているようだ。
まとめて薙ぎ払いにくいが代わりにこっちの弾幕圧も下がる。
「助かります!」
そしてドラーグがそのスキで一気に加速。
人形たちの追跡攻撃すら跳ねのけるような光を纏っていく。
ドラーグの突撃攻撃だ。
「やぁぁぁぁぁ!!」
「サポート開始」
ノーツがあえて全身に出した兵装をばらまくように放つ。
真っ先にレーザー系が敵の体を焼いて。
銃弾系を避けるために大幅な回避軌道を取らされて。
その先でミサイルが来るので迎撃のために攻撃を別方向に傾けなくちゃいけない。
その間ドラーグは信じられない速度で突っ切っていた!
あと少しで塔だ!
「あっ」
だけれども。
真正面に見えたそれはドラーグを正確に捉えていた。
最初の砲撃である塔の巨大砲台。
それがドラーグを撃ち抜いた!
「パパっ!」
「うぐ、ぐ、ここで、負けるかあっ!!」
結果的に光のぶつかり合いで互いの最大攻撃が潰える。
衝突爆発を起こして双方に痛手を与えたのだ。
ドラーグは完全に勢いがなくなったし砲台は煙を上げて次弾発射まで時間がある。
「ここは僕たちがなんとかします!」
「ああ! 頼んだ!」
「やろう、パパ」
そしてドラーグの背中からみんなが飛び立つ。
巨砲はドラーグとにらみ合う形になった。
「中には入れるのかしら!?」
「前来たときと違って、塔自体に結界がなくなっている……うん。武器も今なら通るよ。やっぱり向こうは完全じゃないみたい」
「そりゃあ、ここから地上まで道を無理やり繋げているということなら、どう考えても無理をしているものな……」
「まあそうだよねえ……私たちが来ること自体そんなに想定していなかったみたいだし」
すでにいろいろとバテバテなスイセンがどこかで休みたがるがみんなはどこからでも入れるからとまっすぐ空を目指す。
ここまでくれば私も感じるぞ。
強大な神の気配にもう一つ独特な気配。
これは私自身だな!
グレンくんやダカシそれにアカネが色々と考えつつ進むと遅れてきた人形たちが道をふさいだ。
「ココは通行禁止ダ!」
「誰でアロウト先へハグフッ」
「邪魔だ、どけ」
クライブがひとなぎで人形を吹き飛ばす。
返す刀で敵の拳を防ぎ踊るようにして攻撃を避ける。
「はぁっ!」
「ギアアッ!?」
そしてグレンくんも刀を振るってあぶれた人形の腕を斬りつける。
逆に相手の動きを的確に封じるにはちょうどいい動きだった。
そのまま蹴り飛ばしてクライブと並ぶ。
太く大きな刃と薄く長い刃が並び立つ。
道が開けた!
「さあ、行け!」
「すぐに追いつくから!」
「ああ、早く来いよ! じゃないと、俺達だけで終わらせるからな!」
ジャグナーが激励を入れつつみんなでさらに飛んでいく。
グレンくんたちは人形たちと戦いつつ塔の方へと巻き込んで入っていった。
ワラワラ来ているが彼らなら大丈夫だ。
私達はぐんぐん塔を登っていく。
反応はもはや間近。
遠かった道のりももうじきだ。
「まだ妨害が!」
アカネがうんざりするように言った空。
塔からはたくさんの小型砲台が生えて追尾してきて。
さらに広く薄い板のような結界が。
雷撃も纏っていて明らかに触れるとまずそうだ。
「だったらここは俺が!!」
「ああいう手合いは任せてくれ!」
ダカシが飛んで砲弾を両手に構えた2本の剣で切り払う。
そしてインカ兄さんがまっすぐ岩槍を放って結界を貫いた!
結界に空いた穴からみんな抜けていきインカ兄さんは飛び込んで降り立つ。
なんと走る雷撃を踏みつけて消したではないか。
どうやら雷撃は効かないらしい。
「大丈夫か!?」
「ああ、俺は平気だし、ダカシも平気そうだ! 道は切り開く、どんどん進め!」
止まるわけにはいかない。
その勢いを殺さずに行くには次々と展開される結界を全部正確に射抜きつつ……
あちこちからやってくる人形に対処しなくちゃいけない。
インカ兄さんは飛べないがまあ代用行動くらいは余裕でできるだろう。
それこそジャンプでなんとかしそう。
「うっわ、すごい数来ているな……」
「大丈夫、俺達なら食い止められるだろう!」
「ローズのお兄さん……少し頼んだよ!」
「任されたっ!」
兄インカとダカシが共同戦線をはってモリモリ湧いてくる砲台に斬りかかる。
連鎖的に爆発が起こっているから任せてもよさそうだ。
「「抜けたぁっ!」」
イタ吉たちが叫んだのはやっとこの防衛網を突破できたからだ。
塔の最上部が見える。
ここに来ると前よりも様子は一変していた。
塔が壊れていたのだ。
しかもバラバラに……宙に浮いて。
奇妙な光景が広がっている。
何とか全員がここに入り腰を落ち着けられた。
「足場になりそうなところが、ずっと上に続いているなあ」
「だけれども、そこまで遠くはなさそうだね」
イタ吉とホルヴィロスが空を見上げる。
ここで一気に駆け上がらなかった理由はあえる。
まず1つは疲労があるためここに後衛組の待機結界を張りたいということ。
それと塔の周囲だ。
崩壊した部分の外側は何やら危険そうな光が立ち昇っている。
しかも広く濃厚に。
足場のある部分は光に飲まれていないもののとんでもないエネルギーを感じる。
ここからは歩きの方が明らかに安全だった。
「これ、とんでもない神力だ。吸い上げて放出しているのかな。なんのために……」
「ま、悩んでてもわからないことは、今は仕方ないだろうな。とりあえず登り切って、そこで見たもので答え合わせしようぜ」