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二百六十九A生目 憤怒

 スイセンは自身にひっついてきているニンゲンたちの住む村を見下ろす。

 やけに静かである。

 普段はスイセンを見た途端大騒ぎするところなのだが。


「チッ、汚染されているか」


 だが神力の気配を探ればすぐにわかった。

 スイセンいわく……

 あの女の残り香がする。


 おそらく歯牙にもかけず通っただけなんだろう。

 それでみんな家の中でどうなって苦しんでいるのかまでは……

 スイセンにはまったく興味のないことだった。


 ではなぜ気にかけたのか。

 それはもちろん自分の持ち物だから。

 ほぼ使わないような倉庫の品でも他人に触られるのは腹が立つという認識らしい。


 助けることもせずさっさと次の場所へと飛んでいく。

 ここの村は間違いなく相手の狙撃範囲。

 うっかり入り込むとおそらく死ぬので。


 そこからさらに山側へ飛んでいく。

 スイセンが拠点を決めるさいに閉じられた地形を好む。

 周囲が山やら谷やら多く攻めにくい。


 今回ももれなくそうなので実際のところ飛べさえすれば狙撃可能ポイントは多い。

 問題としては家の置く場所はその全てに対応可能にしてあることだが。


「こういう時に下調べが肝心だとはいえ、かなり面倒なことには変わりないな。ボクはこういうことが苦手なんだが、やれやれ、やるしかないか……」


 絶対得意だろうお前。

 地道なことなので美しくないという感覚なだけだろうな。

 というわけでそこからは時間をかけての調査。


 なにせ勝てないかもしれない相手に勝たないといけないのだ。

 スイセンにとってそれは大きな重圧になる。

 本来は逃げ一択だがコレクションであるミューズを置いていけない。


 そして何よりブチギレている。

 それは何秒たとうが変わらず煮えたぎる。

 ただダダをこねて無駄に暴れ体力を浪費するという美しくない行為はさけられた。


 なのでこのブチギレを後は相手の顔面へ叩き込むだけだ。

 顔の花は不気味なほど優しく咲いていたという。





「このあたりのチェックはだいたい終わったかな」


 スイセンはその言葉をつぶやくが顔の花はどうも元気のないしおれ方。

 

「駄目だ、勝ち筋が見えてこないな」


 トントンと地面に貧乏ゆすりしながら考えをまとめようとしている。

 しかしてスイセンの計画的にはどこから狙っても破綻していた。

 結局倒しきれそうな位置はほとんど無い。


 まず大前提として向こうはスイセンより強いだろう。

 1撃で落とせるような戦闘能力差じゃない。

 スイセンとしては是非苦しむ顔がみたいもののやはり直接撃破は難しいと切り捨てる。


「そもそも、殺したら後でどうなるかが読めなくなるのがな……きっちりあの鼻を明かし意趣返しして、どう追い出すかだ」


 そしてすぐ思考を切り替えた。

 スイセンはこうみえて……本当に意外なことに……直接的な殺害をしない。

 それはスイセンの考えの気質にあると私は考えている。


 優しさとは逆の冷淡さというか。

 たとえ相手がどうあろうと自分にかかる迷惑に繋がる可能性を忌避する。

 殺しが殺しを呼ぶことを経験上知っているのだ。


 そのうえで……スイセンはもはや何に対してもリスクを感じるようになっているらしい。

 どう考えても今回の場合神が居座ってるんだから一回(たお)して月へ帰ってもらったほうがいいが。

 まあこの時のスイセンは月からの神だなんて知らないのだから仕方なくもある。


 敵の状態は常に探りを入れつつスイセンはさらに移動していく。

 攻撃するやり方を考えつつやり方を変えるようにした。

 単なる狙撃では無理だ。


「この戦いは、そもそも相手は動けないことを利用しなくちゃいけない。ボクは幸いこの地域ならば多くのことがわかった状態だ。相手が気づかぬ間に罠にハメて落とす。ボクの家に入り込んで居座ったこと、後悔させてやる……!」


 スイセンはブチギレてはいるものの時間をかけることにした。

 普通の行動範囲では相手の裏をかけない。

 こっちを始末できていない間は家の破壊とかもできないだろうと踏まえての行動。


 コレクションであるミューズたちは全部に検知用の神力が組み込んである。

 他者がいじったらすぐにわかるはずだ。

 幸いスイセンがときおりチェックしているが絶世美の神は大した動きがなかったらしい。


 ある意味……傲慢。

 そして時間間隔のズレによる怠惰。

 絶世美の神は本格的に数日単位で構えるつもりらしくのんびりしている。


 食料を漁ったりベッドの上で寝たり。

 そしてこちらの様子を探り。

 狙撃されやすいポイントにバリアを張り込んだり。


 スイセンからしたら腹は立つものの実に悠長だった。


「神は時間が無限にあると勘違いしがちだもんなあ、こういう所にも現れている。ボクが怒っているって気づかないもんなのかな? わからないだろうねえ、そういう機微がわかるなら、神なんてやっていない」


 それは自分も神なことに対するなんかの皮肉なのか。

 いやシンプルに自分だけナチュラルに除外したんだろうなあ。


「この調子なら、ハメられる。そのためには準備がいるけれど、たっぷり時間かけてやる。攻撃してこないことを良いことに、ずっと動けないだろうしな……」


 そしてスイセンがしびれを切らして攻撃してくればカウンターで倒せると踏んでいるからこその自信。

 その実力差をスイセンもなんとなくはわかっていた。

 だから……攻撃しないプレッシャーを与える。


 何もしてこないということはまだ相手は力を蓄えた状態ということ。

 魔法も武技もそれこそ念力も使うのにタメとスキがある。

 特に意識がそれるという意味では大きい。


 常に何をしているのかこっちを探って来てはいる。

 見えないように隠蔽しつつやってるから常に視界を得ているわけじゃあないが……

 だからこそ何を仕掛けてくるかと常に待ち構えなくてはならない。


 ゆえに慎重な立ち回りを……つまり家から下手に動かない立ち回りをもとめられる。

 籠城は強いが行動は制限されるのだ。

 特に強みをたいして活かせていない神相手ならば。


 スイセンは隠れながらも結構だいたんな策をとることにした。


「実用的ではないとは思っていたが、相手がアレほどバカっぽいのなら、使えるな。ボクの能力的には、氷と念力……この2つを組み合わせる」


 念力とは力の直接的な使用だ。

 魔法とは違って詠唱ではなくパワーエネルギーを自身を通し直接的に出す。

 簡単そうに見えて実際はかなり本人の特質による。


 だいたい世に影響を出すエネルギー捻出はやはり武技や魔法が効率いい。

 だが者によってはそうじゃないこともある。

 念力出力に特化しているということ。


 内側のエネルギーを操り遠く空いたところに炸裂させる……

 そんな頭の痛くなりそうな技工こそ念力。

 スイセンの力だ。


 もうひとつは普通の氷魔法だ。

 こっちは特質がない。

 強力に扱える以外至って並。


 だが同時にあつかえるのが1番のウリ。

 詠唱中に念力が出来るのはスイセンの間違いない1つの強み。

 それは利き手で文字の書き取りをしながらもう片手で射撃するかのごとく難しさ。


 ただスイセンにとっては日常的に行える作業だ。

 なぜならコレクションであるミューズは女性の生きている冷凍死体。

 意思とは関係なく魔力抵抗する魂を同意の元引き抜き同時に冷凍。

 それと並行で完全な保存のために場所を変え変化をうながして……やることが多い。


 これからやることはそれのほんのわずかな応用だ。





 スイセンの念力攻撃には距離しか関係がない。

 スイセンは範囲内ならすべて視界を得られる力があるし細やかに念力を放つ力がある。

 だから今数時間かけてせっせと拠点の1つを作っているのは洞穴内だった。


「全ポイントを作って1つにつなぐ。アイツの狙撃は物的衝撃を伴って、家ごと貫いてから破壊してきた。結界能力の対策のためでもあるだろうが、明らかに射撃だ。そうか……場所も見ておかないとな」


 そうこうつぶやいて情報整理している間に目の前の品が出来上がる。

 氷の立方体が空に浮かんでいた。

 大きな水晶のようで非常に頑丈そうだ。


 スイセンが手を振ると氷から色が失われ床に刺さる。

 力が発揮されていない状態だ。

 これなら探られない。


 1つ作業を終えて洞窟の外にでたところで本格的に狙撃してきたポイントを探る。

 スイセンは別に狙撃のプロではない。

 超遠隔攻撃ができるというだけだ。


「あの攻撃はかなり初撃は激しかった。つまり、どこかに痕跡があるはずだ。アイツの臭い残り香がどこかに残ったままのはずだね。あのブスならば、くっきり跡を残したまますぐ追撃を仕掛けてきたはずだ」


 攻撃してきた方向へ向かい……

 少し神力を探っていれば見つかった。

 ただその位置はスイセン的には意外。


 山向こうのふもと。

 そこに濃い射撃の跡があった。

 地面が強く蹴られ何かのエネルギーが地面を焼いたそんな跡が。


「ここから槍投げの要領で曲線を描き、ボクのところまで当てたのか? なんとも力技だな。美しくない。美し差ポイントマイナス5だなあ。はあ、まったく、なんなんだ。今回の相手はまるで何がしたいかわからんぞ」


 スイセンはこの時点で相手と会話していない。

 互いに罵倒しただけである。

 なのでスイセンからしたら相手が月の神ならば……きっともう少しやりようがあったかもしれない。


 だがこの時のスイセンは知らない。

 敵の正体も。

 迫りくる魔弾も。


「この気配っ!」


 だがスイセンはギリギリ気付いた。

 ただでさえずっと感知を張っていたのだ。

 先程よりだいぶ早く反応できた。


 いくら戦闘慣れしていなくてもずっと構えていれば違う。

 念力を全力で自身に稼働させ高速飛行。

 今さっきスイセンがいた場所に殺到するかのごとく槍のような魔力弾が降り注ぐ。


 一瞬で砕け散る辺り一面の地面にスイセンは怖気たつ。


「あの女は!? ……きていない。あくまで牽制だけか。性格が悪いな、ここにくるまで待っていたな? まったく……」


 超遠距離からの1撃なのにスイセンが飛んですぐに自身を隠蔽しなければ避けきれないほどの爆発範囲を誇った。

 そしてここからはスイセンの能力でも直接家の中を覗けるほどではない。

 遠巻きには見えるらしいけれど。


 それによると相手は動いていない。

 こちらに笑顔を向けてきてそのまま帰っていったらしい。

 当然スイセンは。


「ブッコロすぞ!!」


 バチバチにキレた。

 実際は殺意なんてないが気持ちとしては神として死よりも屈辱的な目に合わせると誓った瞬間だった。


「あいつ、調べに来るのをわかっていて、煽るためにこんな攻撃を! 許さん! アイツ、初めから戦っている気がないんだ! 戦争だ戦争、こんなもん!」


 空中地団駄を踏むという器用なことをするスイセン。

 ただまあ言動がハチャメチャになっているあたり怒りは確かだ。


「はぁ、はぁ、まったく苦労ばかりかけさせられる……! ボクに美しくない行動を取らせるだなんて、なんてアマだ……!」


 ひととおり憤って落ち着いた頃今度こそ移動を再開する。

 ああやって相手が既に探知を置いている場所に引っかかれば向こうは容赦なく攻めてくる。

 そして1つずつ丁寧にスイセンの体力と心を……折る。


 私は話を聞いていてそれをやってるのだと理解した。

 結局月の神たちが欲しいのはこの星を制圧するための足がかり。

 侵略者であって殺戮者ではないからだ。


 スイセンはそれ自体は知らないものの弄ばれていると感じ次の場所へ。

 一切手を抜かず。

 それでいて神らしくはないかも知れない怒りでの勝利を手にするため。






 スイセンが隠れつつ氷結晶の設置を進めているがそのたびに狙われるようになった。

 洞窟から出てきて魔力槍の雨。

 飛んでいたら魔力槍が地面から飛び出して。


 スイセンは語るときに華麗に避けたとか言っていたが嘘のにおいがすごかった。

 なのでやはり徐々に追い詰められるかの如く削られたのだろう。

 幸いなのは1度の攻めに時間が置かれることか。

 ギリギリ回復が間に合っている。

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