二百六十八A生目 逆転
「「まだ立ちますか。既に勝敗は決したのでは?」」
「まだまだ……お楽しみはこれからだヨ」
強がりだ。
生まれたての子鹿より全身がプルプルしている。
けれどそれで電磁浮遊し立てるなら結構。
VVは あくまで強がりを維持しつつ叫ぶ。
「さあ、みんな!」
両性の神にではなく。
「最後のパワーを、アタシへ!」
VVが大きく手を広げる。
届ける声の先はカメラ。
こんな状況でも……VVをどこからも映すその姿。
実際VVが一番マズイと思ったのは神域が乗っ取られたこと。
アレで機材がだめになっていたらカメラを通じてVVのファンに訴えかけることは出来なかった。
実は移動し起動させスポットライトまで浴びてわざわざ目立つようにしたのは……全部この配信に載るという行為のため。
神の力は神への信仰心により高まる。
VVは初めから自身の力で勝てるとは思っていなかった。
そこそこ戦える。そこそこ子の過酷な世界で旅ができる。
だがそれだけだ。
その先の狂気にひとりで歩めるほど強くはない。
だけれども流れてくる力に身をおけば……勝てる。
「「何かをしようとするのなら……」」
当然敵も黙っていない。
両性の神は再度拳にエネルギーをためる。
またあの小さな隕石のような飛来する拳圧で止めるつもりだ。
「みんなぁ、行くよぉ!!」
だがVVももう準備はとっくに終わっている。
神の力は原理を超える。
一瞬にしてVVの周囲に展開される光の雷撃は形を伴う。
それはVV全てを覆うほど大きな装置。
まるで二股の槍だがあまりに雷撃が走っている。
そして真ん中に空いた隙間から膨大なエネルギーがためられて。
「「マズイ……」」
武技で拳から圧が放たれる。
それは陸から放たれる光の隕石。
前VVを打ち抜いた拳。
このまま何もさせられず叩き伏せられるのか。
そのイメージは……VVにはなかった。
「撃ち抜け、レ〜〜〜ルガン!!」
もはや話している間に発射されたそれ。
雷撃でできた二股の間からはエネルギーの塊が渦巻く雷雲のように閉じ込められた球体が発射される。
ただあまりの勢いと速度に光が尾を引いてビームのようだったとか。
凄まじい轟音はまさしく落雷のよう。
空気を裂いてなお一切衰えぬ砲弾はVVには早すぎて目で追えていなかった。
しかして両性の神は別。
「「っ!?」」
拳圧の武技が一瞬にして押し負けた。
それを悟った両性の神は反動を無理やりキャンセルして横回避。
しかしもう遅い。
横っ飛びで転がった半身が雷撃で撃ち抜かれ貫通して。
「まだ! 当たれぇぇぇぇっ!!」
しかして終わらない。
みんなの想いは1つ。
それを神力で束ねて神の概念付与するのは難しい話じゃなかった。
急速に砲弾が曲がり気付いた両性の神は両腕をクロスし守ろうとして。
今度こそ完全に直撃した!
「「ガッアッ……!?」」
貫く。
それは雷撃なのだ。
感電すれば筋肉は収縮し腕は変に縮こまって。
さらには体の内側全身を焼いて吹き飛ぶ。
両性の神は今度こそその身を後ろへと……
「「そんな……」」
倒れた。
辺りの景色が戻っていく。
神域を制圧しなおしたのだ。
VVは激闘ゆえすでに倒れ込みたかった。
けれど。
あくまで勝者として笑うのだ。
「みんな、コメントみれてないけれど応援ありがとう!! 今日のバトルがよかったら、どんどんお金ちょうだいねー! ではでは、みんなのVVでしたー!!」
杖で降ってカメラとマイクの電源を落としていく。
配信オフ。
そうしてVVは電磁浮遊すら維持する力がなくなって倒れた。
「ぶっ殺した!」
VVは普段はしないような真顔をする。
真顔は意識しないとでないようにしていた。
だがVVにとってこっちが本来の顔だ。
「フフフ……良い視聴率、取れたんじゃねえ? ねぇ、エイナ……」
消えていく両性の神の体を見送りつつ意識を手放す。
ちょうど駆けつけてくる足音を聞いて。
残りの後片付けをみんなに任せまどろみの中に入った。
スイセンは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐な神を除かねばならぬと決意した。
スイセンには神事はわからぬ。
スイセンは、美貌の神である。
美貌の女を愛で、永久保存し遊んで暮らしてきた。
けれども醜さには人一倍に敏感でもあった。
というわけでスイセンは泥まみれにされていた。
「あのクソクソクソ女、殺す、いや殺すだけじゃ許せねえ、グチャグチャに汚して殺してやる……!!」
スイセンは顔に睡蓮を咲かせていた。スイセンなのに。
スイセンの顔は他者から見た時に花が咲いているようにみえる。
それはスイセンがコントロールする花。様々な花がときと場合と感情により咲くが今はキレている割にキレイな花だった。
泥に咲く美しい花でも表していないとスイセンは頭がおかしくなりそうだった。
(さっきの戦い……いや、戦いになっていなかった)
スイセンは振り返る。
あの時は一方的だった。
ある意味普段通りの日に警戒はしていなかった。
というよりそんな普段から張り詰めて生きている者なんてそういない。
野生の魔物じゃあるまいし。
なので気付いた瞬間たまたまだった。
ギリギリガードが間に合い。
その上からぶち抜かれてめっちゃ吹き飛んだ。
神域である家から吹き飛ばされただけでなくそのまま追撃。
威力そのものよりも派手な吹き飛ばしを食らったスイセン。
その途中で見たのは空に浮かぶ笑顔。
あざ笑う姿すらあまりに美しい。
きっとニンゲンがみたら耐えれないだろうほどの美しいという概念を纏った存在。
それはまさしく……絶世の美しさ。
「アハハハハハ! きったな」
「おまえええええぇぇぐはっ!?」
そして今こうなる。
スイセンが遠く自宅を見ると居座る他者の気配。
最悪の居座りである。
スイセンの貴重なコレクションである保存された女性たちがいる。
ちなみにミューズというらしい。
魂を抜かれて死してなお生きているかのような美しさを保つ体たち。
まあめっちゃ悪趣味だがスイセンにとって大事なのはかわりない。
それが神域ごとのっとりである。
両性の神みたいに塗り替えているわけではないが時間の問題だろう。
完全に家への強盗である。
「まずは……!」
絶対何のどんな神かは知らないが許せない。
そう思いつつもスイセンは立ち上がったあとに家とは真逆に行く。
戦って取り戻すよりも大事なことがある。
「体、洗う!」
もはや怒りのせいで独り言すらカタコトになっていたそうだが。
泉は清らかだ。
川のように上方からの糞尿を気にすることもなく。
水生生物たちの無遠慮さも全て底に沈む。
多少草花が邪魔だがどかせる範囲。
念力で確保したエリアで身を浸らせていた。
1枚の額縁に飾られる絵のような美しさがそこにあるはずだが。
「ないよりはマシか……」
中味は愚痴をこぼしていた。
ずっとぐちぐちとこぼしながら体中の泥を落とす。
仕上げに自身を中心に念力を放出すればさっぱりと水をはじく。
「それと……」
とはいえ体の細部に取り込んだ水はそれで消えない。
だから魔法を応用し発動させた。
……スイセンから水蒸気があがっていく。
しかしてその水蒸気は熱を持っていない。
むしろきらめく氷の結晶を伴っていた。
氷魔法応用のかわかし。
冬場の朝に湖から霧がたつような美しさ。
温度差を利用した蒸気霧だ。
現象を起こすための魔法のためすぐに全身が乾く。
服がパリッとした。
このときスイセンが着衣したままか脱いでいたかは聞いていない。
その次は大きく移動する。
やられたことを考えたからだ。
「間違いなく、あの時したのは狙撃だった。しかもボクの感知範囲外から……」
怒りの形相で歩みを進めていく。
なお顔は真っ赤な花が咲き誇るように見えているのだが。
やられたことは単純。
狙撃だ。
それしかないとスイセンは考えた。
スイセンは別に戦いのエキスパートではない。
確かに危険をさけるために感知範囲を常に広げていたりはするもののソレはどちからといえば戦いを避けるため。
だけれども今回はどう攻められたかを察するにあまりあった。
なぜなら……
「ボクと狙撃勝負ということか……!!」
スイセンも狙撃能力の持ち主だ。
つまるところ神としての能力も似ていながら神以外の部分も似ている。
それは性格……まあ多分似ているけれど。
性能。戦い方だ。
スイセンは氷魔法は持っているがこちらはどちらかといえば自身の趣味嗜好に回したがる。
実用性より美術性重視の魔法。
生活においてパワーを高めることへの意義は少ない。
そしてもう1つ美しさを感じつつも高い性能で戦えると感じているのがある。
狙撃だ。
狙撃は芸術である。そうスイセンは主張する。
古来より特権階級において尊ばれているのは狩り。
泥臭く戦うことはなく。
そのかわりひたすらに調べ耐えて……その先に撃つ。
スイセンもあまりしないがやろうとすれば出来る。
なぜならそこに美しさを感じるから。
神にとって自分の納得は何よりも大事だ。
普段戦いといえばせせこましいような嫌がらせみたいな念力の使い方しかしないが……
逆に言えば超遠距離で無視覚だろうとそのぐらいは簡単にできる。
マジでしょうもない念力の使い方を反省してもらいたい。
「ああ、なんでボクがこんなこと考えてやらなきゃならないんだ。そもそも山を歩く羽目になるのが最悪過ぎる。下手にアイツの感知範囲を探知すると危険だし……なにより、あいつ! 途中からこっちをなぶるようにしてきやがって……!」
そう。敵の絶世美の神柄は殺意があまりに薄かった。
戯れという言葉がよく似合う。
狩りですらなくただ転がせた相手を面白がっていただけだ。
効率よく追い詰めるわけでも的確に弱点を撃ち抜くでもない。
とにかくふっとばしてその様をわらう。
明らかにいい性格していた。
「……だが、単純な撃ち合いで勝つのは無理だ。全く持って強い。一発撃ち抜いて勝てると思えるほど甘い相手じゃなかった。むしろ今も狙ってきているとみるか。ボクなら、狙撃してくるポイントを警戒して防いでくるはずだ。少なくとも、自分が撃った場所からの襲撃は潰したい。本來居場所がバレた状態で居座りたくはないけれど、あのクソは乗っ取るのが前提の動きをしている。中からは出れないだろうな」
スイセンが相手の動きを想定しつつさらに家から離れてくる。
こんなところでは家に近すぎると。
数百メートルの戦闘だなんて……神の狙撃戦ではあまりにショートレンジだった。
とにかく狙撃の戦いは地味なものだ。
派手な侵攻とか大きな軍勢の動きとか。
ダメージレースと呼ばれる命の削りあいなんてめったに起こらない。
それでもここを怠れば一方的に負ける。
スイセンはそれを理解していた。
「だいふ探知をくぐり抜けるように移動はできた、か……そろそろだな」
スイセンも別に好き好んで徒歩の移動をしていたわけではない。
念力で自身の気配を消すことに全力で意識を傾けていた。
特に感知に対する感知などスイセン内で完結しているスキルコンボをフル稼働。
だいたい相手が探れる範囲を理解したので念力で浮いて移動する。
これで撃ち抜かれてしまったら読みが甘いかったと割り切る。
これ以上は効率が悪いからだ。
「それに、来るとわかっていれば防ぎようはある。ボクの念力で空気の層を多重に仕込んで真空を挟めば気配は断てていたけれど、高速で飛ぶのとは相性が悪いし。ここからは一方的にあのアマをなぶる。そのためにはもはやバレたっていい。手出しさせずに殺す」
スイセンは血に飢えていたようだ。
普段とは真逆の好戦モードにスイッチが入っている。
普段臆病なネズミの追い詰められた時の反応みたいな感じだなあ……