二百三十生目 急務
「なるほど、あんたたちなら安心だね。ほぼ初対面で悪いが、この子を守ってやってくれ」
「もう、おばあちゃんたら……コホン。改めてお二人ともよろしくお願いします!」
ジト目でバローくんが祖母のベニを睨むが知らん顔。
いつものやり取りなのかギルドマスターのタイガは笑っていた。
「そうそう、単独を止めた理由はね、ワタシゃ今回の件、嫌な予感がするんだ」
「え、縁起でもないですね……」
「おばあちゃんのカンはよく当たるからなぁ……」
「バローまで言うか……」
「ま、根拠はないから行くこと自体には反対しないよ」
その嫌な予感が私達の事ではないことを祈るしか無い。
その後は話変わって具体的な中身に移った。
「まあええと、そもそもうちが弱小なのは変わらないからいつでも加入は歓迎なんだがな」
「考えておきます」
「それでだ、今回頼みたいのは推定ランクBマイナス、ようはAプラスの上の採取依頼だな」
「僕がAプラスでひとつ上の依頼なら受けられるので、その付属という形でみなさんも受けられます。報酬に違いはありません」
つらつらと情報が紙に書き足されていく。
[A-→A→A+→B-……]
Aマイナスが私達、Aプラスがバローくんということか。
「依頼は実力のほかに信頼の積み重ねも必要だ。ギルドや国が信頼できると思ったやつだけが上に行ける」
「僕も始めてまだ日が浅くて、地道にココまで来ました」
「それと、冒険者の本分とも言える国の発行する冒険依頼はその昇格判定によく使われるな。それまでは経験を積むために採取や討伐依頼をこなしていくことになるな」
「冒険依頼っていうのは俗称で、正式には『未開拓地調査依頼』ですけれどね」
「まあええと、今本隊が行っているのもそれだ。だからしばらくはつきっきりになる予定だな」
ふむふむ、ここまでの話は分かった。
カムラさんも問題なくついていけているようだ。
「ところでその本隊はどこへ?」
「『荒野の迷宮』だ。最近入口付近にいた大鷹がどこかへ行ったらしいからな。改めて内部調査だ」
軽く聞いた内容でガンと殴られたような錯覚に陥った。
簡単に言うとつばを噴き出しかけた。
表面上は取り繕ったがめちゃくちゃ焦っている。
「なるほど、何人の隊なのですか?」
「5人だ。個々の強さはともかく5人揃った時の力はなかなかのものでな。」
ありがとうカムラさん!
カムラさんが話を代わってくれた今のスキに……
"以心伝心"発動!
『ジャグナーーー! マズイ!』
『ど、どうしたどうした?』
『そちらに、というか迷宮にニンゲンが向かっているらしい! 冒険者たちだ! 数が5で強さはそこそこあるっぽい!』
『わぁかった! 警戒を強化する! 接近されたらどうする?』
『なるべく穏便に済まして。難しそうだったら臨機応変に! それも難しそうならまた連絡ちょうだい!』
『ああ!』
何とか連絡を終えてひと安心。
目の前の話のやりとりもまとめに入っていた。
「……つまりここの山岳部でこの『悪魔の爪』と呼ばれる植物を一定数確保して2日以内に帰還。いいな?」
「距離に対して日付がやや心もとないですな」
「ま、そこらへんの融通が利かないのが緊急依頼ゆえだからな。その代わり足の速いカルを借りれる」
絵を見ると悪魔の爪は黒っぽい草で少し上に伸びた後に4つに枝分かれしているものだ。
自然に頭が垂れていて確かに爪のようだ。
おどろおどろしい見た目と違って効能は炎症や痛みに効くそうだ。
話がまとまり早速出発するということで私達も準備することにした。
「あ、まだ宿が決まってないんですよね」
「ならここでどうですか? ふた部屋程度ならとりあえず確保できますし、こちらが出しますから」
「それはそれは、ありがとうございます」
バローくんの提案にカムラさんがお礼を言う。
願ったりかなったりだ。
早速借りた部屋の中へ。
あまりおろす荷物も無かったが不自然にならない程度に物を出しておく。
さらになんとも緊張しっぱなしの身体をほぐす。
様々な事に気を使ったが1番はニンゲンたちの近くで魔法を使ってバレないかということだ。
何せ30分くらいでこの姿は解けてしまう。
その前になんとか魔法を隠蔽しつつ唱えて魔力を溜め再進化していたからだ。
さらにこの状態は臨戦態勢の維持に等しくあまり心休まらない。
だからこういう機会にたっぷり休んでと。
"以心伝心"!
『さっきは助かりました。群れに連絡が取れて何とか対処してくれるそうです』
『それは良かった。私にとってユウレン様の無事は第一ですから』
別室のカムラさんとそうやって少しの間言葉を交わす。
しばらくするとバローくんも準備が終わったということで私たちも向かうことにした。
いざ依頼の地へ!