二百六十四A生目 二頭
茂みの中は視覚だが流石に駆ければ無限の神も気づく。
通常なら。
(幻惑の鈴、まだギリ効果はある。ならばここで霧を作る!)
魔力発生がバレてももう押し切る。
風魔法で加速して特殊な魔法で霧を生み出し拡散。
一気に周囲が白に染まる。
「ギュアアッ!!」
警戒の音をたてて無限の神は首を伸ばす。
シンシャがバレた。
だが無限の神は動かない。
バレはしたがおそらく無限の神からしたらいくつもの魔力の影が見えているからだ。
霧の中に浮かぶ幻影。
それを特定できず一瞬固まる。
その一瞬で数歩詰める。
2足だしオジサンなシンシャは速度が遅い。
(まだ遠い!)
無限の神がくちばしを開く。
そこから一瞬で極光が放たれた。
シンシャの真横に着弾して思わず驚いてビクりと体を固める。
「あっぶないってのっ!」
だが動きを止めている場合じゃない。
すぐに動き出す。
そして無限の神も飛んだ。
「どこへ!?」
別の場所にある木が弾け飛んだ。
急襲した無限の神が蹴り倒したのだ。
僅かずつ選択肢を潰しにかかっていている。
シンシャが1歩駆けるたびにどこかが爆発する。
近くまで来ていたはずの神力塊があまりに遠い。
残り数歩。
「ギエエッ!!」
(まずっ!?)
かなしいかな。動体視力がまるで追いついていないシンシャは無限の神を目で追い続けることは出来なかった。
だから背後に飛び込んできた無限の神に反応が遅れた。
もはや真後ろにいる。
跳んで避けるには間に合わない。
というか能力がない。
だからここで普通なら吹き飛ばされる。
それがシンシャの生涯。
(じゃが!)
「ギュアッ!」
ここで倒れるわけにはいかない。
その思いが次の一手をシンシャ自身も信じられないほどスムーズに出した。
無限の神が飛んできて凪ぐように翼を広げ急加速で突っ込んできている。
その軌跡が光で燃えていたという。
本来なら直撃を喰らい一瞬で吹き飛ばされていただろう。
だが……無限の神は手応えのなさにブレーキを慌ててかける。
その焼けた草原には。
顔を腕で守り駆け抜けた……少年がいた。
「ぬあっ!!」
必殺……年齢偽証・少年! とシンシャは言ってくれた。
シンシャの能力は年齢操作。
液体金属の中に閉じ込めた寿命の多さで調整。
シンシャは身体から水銀をたくさん纏い一時的に寿命を伸ばす……つまり異様に若返って子供になっていた。
14歳から一桁台への大きな変貌。
「子供だなんて乳臭い、足も遅いし力も弱い。でも、小柄で避けやすい!」
子どもの声で何かを言い出すシンシャはともかく。
無限の神は振り返る。
そこには少年シンシャが神力塊の輝きへ手を触れたところ。
その輝きが液体金属の中に飲まれ……
「やっぱり、無限は弱い」
液体金属が小袋へ合流する。
輝きが一気に溢れ風が流れ出す。
霧が……晴れていく!
「いや……儚い、のか。そうだよ、な!」
「キアアアッ!」
それで何が出来るのだと無限の神はつんざくように吠える。
シンシャは素早く小袋に手を突っ込み。
中からズルリと長い液体金属が取り出される。
長い形状を持ち紫に強く輝く。
もはや怪しい通り越して危険な雰囲気。
恐ろしさは武器になる。
「これは……矢?」
矢。
1本の危険そうな矢。
シンシャは一気に冷や汗が湧き出た。
弓がない。
(え? どうするのこれ。本当に出たとこ勝負だったじゃん。逆転の目はこれしかないんだけれど?)
少年らしくなく最悪な想像が頭を駆け巡る。
顔色を青く変えていても目の前の脅威は……
(アレ? 動きが変わった、攻撃してこない? そうか、この武器と化した無限の力アンド年齢の力の存在は向こうもイレギュラー。そんなこと起こるとは思っておらず、逆に警戒しているんだ)
そう。向こうもばかじゃあない。
バカではないというのは時には毒となる。
目の前にビカビカ光る自分の力と得体のしれない力のミックス品があれば……怯む。
そして引くべきかも悩む。
さっと引いてどうにかするほどのものなのか。
それの観測が終わっていない。
明らかに自分では対処出来ないものなのか。
それとも自分ならどうにかできるものなのか。
それを悩み動きを止め睨みつけている。
その威圧を受けて青い顔がさらに青くなりながらシンシャは考える。
考えて。
「ええい!! なるように!! なれ!!」
真似事をした。
少年だった体は僅かな時間で変化していく。
内側からあふれる液体金属が身にまとわりついてそのたびに青年。中年。そして……老人へ。
その状態で矢をつがえた。
老獪の狩人のように。
無駄に力まず矢だけを……引き絞る。
無限の円環は……働いた。
矢しかないはずの武器。
しかし無限はそれを許さない。
弓が空に光として描かれていく。
確かな実体がそこにのる。
年齢の力と無限の力が欠けることをゆるさず。
要素があれば勝手に保管され揃うように。
そこには確かに弓矢が揃った。
「老人は酷い。体の節々は痛み、かび臭く、心は汚れているのにもう染み付いている。だが……」
無限の神はくちばしを開いて閃光が瞬く。
「想いだけは他者に譲らん」
一矢放つ。
吸い込まれるような矢の軌道。
無限の神から閃光が放たれて矢とぶつかり。
あっさりと貫いた!
「ギャアッ!?」
それを目で追えたのは無限の神だけである。
身をよじろうとするが変に攻撃したのがまずかった。
反動を「ころしきれず動けない。
目に、射る。
「ギャアアアアッッ!!」
神を堕とす矢。
どんな相手でも目に矢が刺さって済まし顔は出来ない。
しかも液体金属のよう神力で出来た無限の矢だ。
風切りの光が美しくそして凄まじい。
大きな無限の神はその鳥巨大を見事に吹き飛ばして。
「ハァ、ここから……!」
体に纏っていた液体金属を体内に戻し14の青年に戻ったシンシャ。
弓もなくなって急いで駆ける。
まだやることがあるのだ。
吹き飛び倒れる無限の神。
しかしていくら常識外の存在とはいえこれで死ぬのかどうか。
それは……否。
「これは儀式だ、アンタを、無限という淡い存在を、儚い幻影を打ち破る!」
全力で息切れしながら走っているせいでどうもしまらない。
だけれどもシンシャのその宣言は大きな意味を持っていた。
これまでシンシャが見つけてきた記憶から推測出来た真理をぶつけて神秘を剥がす。
「アンタの正体は……!」
追いついたシンシャは体を必死に乗り越える。
見た目は灼熱だがどうやら少し熱い程度だ。
よじ登って首元まで這い寄って。
必死に目へ刺さった矢を掴む。
すると矢は嘘のようにどろりと姿を変える。
そう本来は刺さるはずもない……液体金属のような力なんだから!
液体金属は内部へと入り込む。
シンシャは液体金属を操作して……
「よし」
「ギルルルルアアア!!」
無限の神が再度動きだし暴れ出す。
だがその動きはシンシャを弾き飛ばすようなものではない。
むしろもっと体の内側に這いずり回るものに対して意識が向けられていた。
やがて。
全身が大きく震えひび割れたかと思うと……
破砕音と共に無限の神は砕け散った!!
「正体は、小さなスライムじゃい!!」
羽根が散る。
たくさんの羽根が。
シンシャが飛び込んだその先に……
液体金属が飲み込もうとする変な小さな何かがいた。
ハッキリ言えば異物だ。
必要もないのに貼り付けたような目が浮かんでいる。
スライムだった。
まごうことなきスライムの……神。
無限に分裂し無限に育つ原始的生物。
羽根たちの擬態がほどけて半透明のゼリー状のナニカにかわっていく。
「……本当にこんな小さいのが、無限の神なんじゃな。ひでえ詐欺だ。まあ、儂と近しい時点でそうじゃろうなあ。無限とは普遍的な感覚からは遠い。むしろ願望のような、夢のようなものとして扱われる。現実は冷たく、辛いからこその寄る辺にすぎん、ということじゃな……」
シンシャが得た10個目の情報。
それはまさしく無限の神そのものへフォーカスしたものだった。
無限とは寿命不死と同じようなもの。
ほとんどのものが得ることはなく。
そして得たと思った先から破綻していく。
シンシャは無限の神ことスライムを掴む。
そして思いっきり地面へ叩きつけた!
グニョりと跳ねて転がっていく。
「流石にそこまで弱くない、ってことねえ」
スライムはその性質上様々なタイプがある。
相手は小さくても腐っても神。
叩き付けた程度ではスライム特有の柔らかさでカバーされる。
ならば別の手段。
シンシャは魔力をため魔法の準備。
スライムはいっきに加速しシンシャへ突撃していく。
「ゆる、ゆるさなあああい!!」
「アンタ、喋れたのか、よっ!」
飛び出してくる瞬間。
斬撃の風が吹く。
思ったより速いスライムタックルがシンシャの顔にあたり……
そのすぐ後に風の刃がスライムをズタズタに切り刻んだ!
「ぐへぇ……痛ぇーーぃ、顔がーーっ」
頭を抱えゴロゴロ転がっているのは勝者側である。
シンシャは無限を看破して紐解いた。
とはいえ無限の神そのものが否定されたわけではないが。
無限の神……小神。
彼の概念は有用そのものでありながら最悪の概念でもあった。
話ができても話が通じないタイプで惑星が無限スライムに覆われる前に隔離されたと後できく。
シンシャはもう明らかに満身創痍である。
火傷を置い全身は疲労で悲鳴をあげている。
長い間緊張行動して精神は疲弊しっぱなし。
「それでも勝ったのか、儂」
よく見ると僅かに手が震えている。
今更になって恐ろしさが勝ってきた。
あと単純に弱っている。
周囲の景色が紐解けるように光へと還っていく。
神域が消えるのだ。
ここが消えれば元の場所へ戻る。
「まったく、月の神の脱走とか、とんでもなく面倒なことになってんな……逃げるか」
シンシャは他の神の顔を思い浮かべることすらなく。
このあと不死旅団と共に警戒逃走したという。
「うへぇ……」
壁に叩き付けられズリズリと落ちていく。
その姿にアイドルらしさはなかった。
それをやった犯人はもちろんすぐそこにいる。
「「あーっはっはっはっはっ!」」
「なんて醜態! 美しくないですわぁ」
「なんて羞恥的、キミのような可憐なタイプのキャラが見せる姿ではないねぇ」
うるせえ黙れ。とVVは思った。
VVが対峙させられている相手は声は2つに姿は1つ。
顔が2つあるという神。
太く長い胴体にきらびやかな飾りつけを。
シックな片側とゴージャスな片側。
双頭となった2つの雰囲気の違う顔は……ヘビ。
大きな双頭ヘビのような存在だ。
いや双頭ヘビにしてはやけに生々しすぎるか。
若干ニンゲンのような風味がかかっている。
結果的に言えばヘビ人間といったところか。
片側は荒々しい風貌とクッキリとしたメイクが特徴で。
もう片方はニヤニヤした顔に長いトサカ……つまり髪。
ヘビの容姿が美しくメイクでまとめられあげられている。
ヘビなのに表情筋……となるが結局はヘビなようなニンゲンなような神。
そして間違いなく月の神である。
VVは普通こんな相手を最奥の自分の神域へ踏み込ませなどしない。
リュウもおんなじだが結局はダイナミックに不法侵入だ。
堂々降臨されあっという間に彼の神力餌食になった。
幸い夜と配信の合間の時間だったから被害そのものは少ない。
真正面からこんなの来たらほとんどのニンゲンは逃げるし……
立ち向かった警備の者たちはオブジェとなった。
そうオブジェ。
全身の体が奇妙な陶器みたいにかたまり……
全員が男とも女ともつかないような気味の悪い姿に。
ドロドロと下半身溶かされたあと結合したかのような……
この神の神力を直接浴びただけでこうだ。
とんでもない能力の持ち主なのは間違いがない。
そしてそれは……VVが目線を送った壁の先の相手も似た被害を受けている。
(とっさに守ったけれど、エイナ……)
エイナも逃げなかった。
ゆえに半分以上陶器のようなオブジェになっている。
VVの力で完全になっているわけではないが時間の問題だ。
それにエイナから敵を遠ざけるために少し移動している。
もはや応援してもらうことも難しい。
VVが勝つしかこの状況を乗り切る手段はない。
「うう、もう! 君がさあ、月の神でなんかもろもろあってアタシを狙っているのはわかったけどさあ、アタシは見ての通り弱いよ!? 放っておいてくれても良いじゃん!」
そう。彼……彼女? はその2つの口でべらべら話しながらVVを吹き飛ばしていた。
完全に片手間。
逆に言えば実力差がはっきりあって手下にする利点が見えてこない。
「あらあら違う、違うのよ」
「わかってない、分かってないねえこの星の神は」
「月にいたワタクシたちより遅れているのかしら?」
「やっぱりトレンドは我らがリードするものなのだねえ」
「うるっさい、両性の神」
彼または彼女は……自分を両性の神と名乗った。
VVは軽口に付き合いつつも戦う道を探す。
自分の顔についたホコリを払いつつ相手の話を聞き流し体勢を整える。
足が無いからふわりと浮いた。
電磁浮遊能力だ。
「ああ、コレは遊び、結局はどこまで行っても遊びなのよ」
「自分が強ければどうこうなんて時代は、とっくに終わっているのさ。誰が最も従わせられるか……所詮ぬるま湯に浸かっているこの星の神たちをね」
「本当に先祖が追放されてどうのこうのと言っていた子もいたけれど、ナンセンスねえ、どうだっていいじゃない、昔のことなんて」
「ああ、今を遊べばそれで良い。だから遊ぶのさあ、キミで」
「なんだろう、凄いムカつくことだけはわかったカナ」
VVはそのままの戦闘力は大したことがない。
ものすごい弱いってわけでもないが……単に戦闘特化ではないというわけだ。
敵の攻撃をもう少し読むのには時間がかかる。
「おや、じゃあ、もう少ししつけが必要そうだなあ?」
「何をっ!」
VVはニヤニヤしている相手へととびかかった!