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二百六十一A生目 権威

 実際の所威光の神はまったく弱くない。

 対神以外は簡単に平伏させて無双し。

 対神でも何もかも弾く光に貫く光。

 さらに切り裂く光まで使ってくるのだから。


 これらの攻撃1つ1つ丁寧に神力の威光がこめられている。

 それは攻撃1つ1つに恐れおののかせるような能力があるということ。

 さらにいうと単純に威力も高い。


 リュウが権威の力で対抗していたから良かったけれどもしこれが不死の力……とかなら。

 食らっただけで恐れおののいてしまう。

 それは戦いを成立させない絶対的な力。


 その絶対的な力を持つ威光に対してやすやすと対抗神力できるリュウの権威。

 果たして本当に下位互換だったのだろうか?


「ぐうぅぅ……!」


「まだ起きるか? いい加減自分のみっともなさを見直したらどうだ? そうしたら二度と起きる気も起きないだろう!」


「うぐぐぐががが……!! な、なぜだ! なぜ私がこのような辱めを!!」


「事前に告知もなしで来た無礼者が、恥ずかしくないとでも?」


「な、なにぃ!?」


 彼が拳を握りしめ……そして手を開く。

 頭上へと拳をかがけた。


「これだけは……これだけはこの星で使わずにおこうと思ったが仕方ない……我が威光の力! 太陽よ! 水の地を、灼き尽くせ!!」


 光が、集まる。

 急速に膨らんでいく濃密な光の塊。

 ソレは光球。


 空に浮かぶ太陽のように。

 もはや周囲に殴りかかってくるのをあまんじて受け入れながらも。

 空に浮かべ終えた。


「マズイ……ッ!」


「死ねぇぇい!!」


 リュウはこのときは真剣に焦ったそうだ。

 なにせ近づく腕たちが蒸発したのだ。

 腕たちは水がベースとはいえ実体を持たせてある。


 それなのにまるで意に介さず水に戻し水蒸気にする。

 熱そのもので押し付け圧力が発生している。

 空気の層というやつだったか。


 それが手から放たれる。

 光の竜は動けない。

 ぐんぐん迫る中腕や足が対応に向かう。


 だが一瞬で押しのけられ無理やり進めばリュウの神力を剥がされて水として蒸発させられる。

 そして。



 その日王宮の一部から太陽がでたという噂がでた。

 大河王国王都の民たちが王宮に太陽を見出したのだ。

 まこと輝くそれにみなが頭を垂れたのだとか。


 


「ハハ、ハハハ、どうだ……! あれほど五月蝿(うるさ)くわめいていたやつが、水の音が、枯れたぞ……!」


 ……圧倒的だった。

 1撃を全力で放った。

 それだけでこの神域が崩壊する力としては十分すぎた。


 滝が枯れ光の竜は光の玉へ融解し消えた。

 その後ろには空。

 どこまでも続く空があった。


 そこからは本物の太陽の輝きがよく見えたという。


「なんとも、あの牢で見るときよりも眩しい気がするな。あちらの空はいつも昏かった」


 だからこそ。

 本物の輝きに目を奪われたこそ。

 それに気付けなかった。


 空を舞う小さな影。

 逆光の中に飲まれて光によって見えず。


「ガッ!?」


 剣が斜めに振り抜かれる。

 斬撃がその体を捉えた。

 さらに急速な力で首元を捕まれ力強く投げ飛ばされる。


 威光の神は初めてその椅子から離れた!


「どうした? 死んだはずの相手を見つけたような顔をして」


「お前……ありえん……あの爆発を生き延びて……! そ、それにそのスタイルは、なんなんだ!? なんだその、無惨な、おぞましい、何かの姿……!」


「なんだ、それほど特別ではあるまい?」


 言われた相手……つまり威光の神を投げ飛ばしたリュウは暴言を吐かれむしろニヤリと口元を緩める。

 リュウはあっさりと光の竜を見据えた。

 元々それがリュウのスタイルだ。


 たとえそこが圧倒的な力を放つための場所で今まで優位性を保っていたとしてもだ。

 リュウは良くも悪くも手札を使い捨てまくる。


 派手な光の竜と灼熱光の衝突を隠れ蓑に準備。

 それが今のスタイル。

 それは……権威たる王の神としてはまるでふさわしくないが。


 口に剣。義足は変形し獣関節のように。

 投げ飛ばしたのは自前の竜尾。

 大きく太い竜尾だ。


 腕がないからこそそうなる。

 ある意味ではとても王道な姿であり。

 同時に王としての立ち姿からはひどく遠い。


 まるでそれを表すかのように頭のトゲ角にかかっていてた王冠は今の動きで吹き飛んでいった。

 戦うことなど考慮などされて作られていないのだから。

 ……リュウは自身の水能力でキャッチはしていたらしいが。

 

「戦いに出向く以上、本来王が、余が直接戦うなど赦されぬ。だが戦うとなったならば余にかかるのは国全てぞ。だったら、腕前無くとも足掻くしかあるまい」


 それでもきっとどうしようもなく。

 その堂々とした立ち振る舞いは王の器そのものだっただろう。


「みっともなく、生き恥を……!」

 

 リュウが口に咥えている剣はカンダという種類の武器だ。

 よく見ると持ち手が特別に加工してある。

 王があるいは最後に命を輝かせるために。


「くそう、私を斬りつけ、あげく投げ捨て……! 早く、我が椅子へ戻らねば」




 威光の神が慌てて椅子の方へ戻ろうとするのを見てリュウはどう思ったか。

 飽きれ。落胆。だが……好機。

 そのダバダバした走りは……


「今のお前の姿が、一番みっともないぞ」


「なっ!?」


「だから朽ちろ、みっともない恥を晒したのだから、そのざまを誰にも見られぬ場で、ここで散れ」


 リュウは駆けだす。

 それはハンディキャップがあるとは思えないほど軽やかな走り。

 ……義足の扱いを日々の訓練で会得した動き。


 獣関節の義足はスムーズに体を運びあっさりと追いつく。

 同時にリュウにも変化が。

 全身に細やかなヒビが入る。


 そして斬る。

 口に咥えたそれで(エフェクト)を生み出し背中から。


「あ、なあ、く、来るなぐえぇ!?」

「……!」


 返事の代わりに口を締める。

 振るうのは腕を封じられた牢獄のニンゲンらしくみっともないものではない。

 その口は変貌し敵をも噛み砕くアギトへと姿がかわり。


「がはっ!?」


 返し振るう。

 それは騎士のような正々とした正しさがあるものでもなく。

 代わりに割れた皮膚から流れた血液は水分。

 全身を白く鱗で覆っていく。


「ま、まて!」

「っ!」

「私はいだいぎゃああああっ!!」


 剣の向きを変えて体ごとねじり。

 高く飛ぶ勢いのまま振るう。

 そうその剣技はきっと。王族として風靡(ふうび)たる立ち振る舞いそのものだった。


「お前は他者を見下しすぎだ。そういうものは得てして……断頭台の上へ寝かせられるのだよ」


 リュウの姿は腕が無く足も欠け身も細い。

 だから威風堂々とした竜とは違うだろう。

 だけれども白竜と呼ばれる神は今ここにいた。


「ば、ばかなぁ、今までで、一番強い……!?」

 

 威光の神があとわずかで椅子と言うところで転がる。

 震える指先で放とうとする光のなんとか細いことか。


「な、なぜ……?」


「剣技の方がお前に傷を与えた理由か?」


 リュウは先程の大型白竜より断然小さい。

 本來ならこの白竜形態とはいえ明らかにさっきよりは攻撃の迫力がない。

 だが……


「う、ぐはっ!?」


 リュウは気にせず靴の方で威光の神を背中から踏みつける。

 そうして。

 肩をひねりその剣先を刺した。


「があぁぁぁぁ……!」


「お前が全て奪ったからだ。余は余の失った様々な物を水として呑み込み激流へと変える。お前であれ、余がやったであれ、な。貴様、余の神としての力をしっかり警戒していたようだが……これは余の昔から持つ単なる能力だ。余がまだ何も持たず、失うものも無い頃に持っていた数少ない能力。余はこれで足1本と、余の人間としての生を失った代わりに神として周囲全てへ復讐した。復讐者(アヴェンジャー)、実に人らしい、愚かで良い能力だろう?」


 光が消えていく。

 それは戦いの終わり。

 威光の神が負けたことをこの上なく示していた。


「ふむ、ひとが語っている間に死ぬとは失礼な。二度と来るなよ」


 そんな聞かせる気がない語りをしたあとにリュウは……

 残された椅子の方を見る。

 威圧感と異質さがある不可思議な、椅子。




「それで、貴様はどうすれば帰ってくれるかな? ご老公」


 リュウは剣を構える。

 椅子に対して。

 静寂の時が訪れた。


 ある意味正気とは思えないような光景。

 だがリュウは一切その目を緩めること無く警戒していた。

 むしろ先程よりも強く。


 やがて風が流れ雲が生まれて。

 雨が降る。

 急な天気の変化。先程の攻撃の熱量と空へ向かった方角による気象変動。


 あれほどの滝が枯れたのだ。

 水だってその場にあるしすぐに冷える。

 濡れるリュウは自身の姿をまるで気にせず立つ。


 それだけで風格がきっとあっただろう。


 ……時間がたって。

 最初は囁きのような。

 どこか遠くから響くような何かが。


 やがてそれはくぐもったうめきにも聴こえて。

 少しずつはっきりと。

 老獪した笑い声へと変わっていく。


 耳に漂うのはどこからともなく耳元に囁かれるような小声。

 それらはナニカの言葉を成していない。

 または鼓膜では捉えきれない理解不能な言語なのか。


 そして笑い声の出どころは1つ。

 目の前の、椅子。

 笑い声は不気味にこだましていく。


 ぜったいここ洞窟みたいなものではないのに。

 もはや『何か』が変わってしまっている。

 やがて。


 椅子の背もたれに3つのシミができた。

 ニンゲンとかは3点のくぼみなどに顔の目と口を想像する。

 まるでそれのような何かが生えた。


「ハハハ、ハハハ………なんだぁ、座ってくれないのか」


 ゆっくりとただ面白いだけのように。

 そこに悔しさや悲しさなどはまるでなく。

 同時に底冷えするようなおぞましさは含んだ声だ。


「座るか。御老公にすわったらああなるのだろう」


「まったく、まったく。ひどいじゃないかを立派な椅子に座らないだなんて。どこで気付いたのだい」


 ニコリと。

 何も表情などわからないのに笑った気がした。


「あれだけ傷つけて一切壊れぬ椅子などあるまい。そもそも、アイツはあまりに馬鹿すぎた。言動も時折おかしい。受け継いだとはいえ威光を名のる器にはない」


「ああ、あは。そうだねえ。少し、まだ彼は幼いね。良い子だったけれど、月で調達できる分には、まともだったんだ」


 ぞわりぞわりとする声で。

 それは存在を露にす。

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