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二百六十A生目 白竜

 リュウは滝に落ちた。

 威光の神はそのやらかしにすら満足そうにうなずく。


『腕よ解放だ』


 途端に水でできた巨大な腕はただの水に戻りその場で落ちてなくなっていく。


「さあ、あとはこの場を制圧するか。我が城へと変貌させよう」


 威光の神は既にあった玉座へ近づく。

 リュウの玉座は太い尾を通すための穴が空いており独特な形をしていた。


 そしてその玉座を……光の力で吹き飛ばす。

 転がった玉座を放置し座っている椅子ごとその場所にゆっくり近づいて。




「威光とは」


 それはささやくような声。

 最初きっと威光の神も聞き違えかと思ったのだろう。

 動きを止めてじっと待ったという。 


「威光とは、おのずからうやまうような、犯し難い圧倒的な威厳のことだ」


 今度ははっきりと。

 地響きと共に聞こえてくる。


「何だ!? お前っ! どこにいる!」


 リュウの声。

 威光の神が周囲を見渡す。

 地ひびきは周囲全体から鳴り響いていた。


 やがてそれが顔を出す。

 滝の中からあふれんばかりの光と共に。

 それは世界に騙った……つまり嘘のはずの偽典。


「余こそが! 光の竜である!! 控えよ!!」


 光り輝く白い竜が滝の裏から実体化していく。

 それは威光の神をやすやすと上回る大きさで。

 上半身だけの奇妙な姿をしていた。


 さらにその上半身も肩から先が滝に突っ込んでいる。

 随分と変わり種な姿だったが。

 その竜の顔は伝承の美しさと威厳さを兼ね備えていたという。

 私この場にいないから本人談なんだよねえ……


「竜、竜! 邪悪なる地上の竜神! それの力か!? お前、底に落ちたように見せかけて、準備していたな!?」


「何のことやら。さあ、月へ還れ!」


 滝の水たちが不自然にうずまきさっきまで美しかった水たちが濁流として濁っていく。

 そして中から光の竜腕や竜足が飛んでいく!

 爪が太く殺意がこもった力で。


「ふざけるな! 『腕よ止まれ』!」


「どれだ? そしてどこまで止められる?」


 途端に竜の腕が崩壊していく。

 水に戻りまた光を帯びて別の形の竜腕へ変化。

 しかも2つではなく多種多様に多数生えて襲いかかる。


 確かにどれかへ効いたのか動きが鈍る腕はあったがそれだけだ。

 全体の動きは止まらないし足はそのまま踏み潰しにかかる。

 光の竜として水が変化する様はきっと異様だっただろう。


 そもそもリュウの見た目からしてこんなふうに戦えるとは思っていなかったはずだ。

 私も思っていなかった。


「クッ! 散れっ!」


 当たる直前に威光の神は光を放つ。

 やはり光の波動は実体を持って襲いかかる。

 足に当たり爪で弾ける。

 ただ。


 1つ2つ砕いた先で3つ4つ飛んできている。

 威光の神が思いっきりぶん殴られた!


「ぶべらっ!!」


 椅子に叩きつけられるように威光の神は押されたという。

 光の竜と化した部分は本物のような威力を持つ。

 特に硬さが。


 水という不定形に形を与えている。

 詳しくは話してくれなかったがそれこそがリュウの技なんだろう。


(やはり、力量は大したことがない。許容範囲内の格上だ。それになにより、戦い慣れていない。泥臭く、互いの生き死にをかけて戦った経験がない。神ではじめから生まれた神の持つ戦闘経験のなさ。まるで地上の神のごときうぶさだな)


 その間もリュウは徹底的にぶん殴り続けている。

 椅子の上に陣取る相手を殴りけり翼で打ち不意に濁流をあびせかける。


「き、傷を! この私に傷を!!」


 ヒステリックにわめくその姿はあまりに戦い慣れしていない。

 いつも圧倒していたのではないだろうか。


(ここにきた時も、そういえば圧倒してただ正面から来ただけだったな。戦術もなければ、ただ感覚で直線的に来ただけ。神力が負けている以上、隠蔽しきれなかった上、近づいてきた相手は全て平伏。ここに王族がたまたまいなくてよかったが……)


 この時ちょうど王族組はアノニマルースで暴れていた。

 元第一王子が国の宝剣を壊していたりするがソレはまた別の話。


 そう今はリュウと威光の神との争い。

 威光の神はまるで争いの勢いがない。

 確かに攻撃全般は強い。


 1光の波動でいくつもリュウの腕やら爪やらを破壊している。

 リュウ本体にも届きうりそうになる。

 だがそれだけだ。


「技に芸が無いな! それだけか!?   ならばこのまま叩き潰させてもらう!」


「ぐううっ、大した威力でもないくせに……!」


 辺りはひび割れ水は濁流に。

 というかもはや階段がメチャクチャだ。

 この時点であちこちが氾濫していたらしい。


 そのほとんどはリュウの攻撃によりもたらされている。

 純粋に強いのだこの威光の神が。


「お前! こんな、いいのか! お前の領域、お前の配下ども、みな飲まれていくぞ!」


 威光の神がそう怒り吐いた。




 威光の神に対してリュウは笑う。

 光の竜本体の中で。


「なんだ、そんなことか? もう既に余の手の者共は避難させてある。それにすらやはり気づいていなかったか。まるで感知系の能力も弱そうだな」


「何!? いつの間に!」


「そして……余の場所は余の物。故に、余がどうしようと問題ない! はあぁ……!!」


 さらに地ひびきが起きる。

 滝が崩れだしもはや濁りきり。

 この場所が全て河の中に沈もうとしていく。


「グオオッ! くそっ、我が身を汚すな!」


 飲み込まれそうになった威光の神は慌てて浮上する。

 確かにビチョビチョだったらしい。


「ははっ、随分と情けない姿になったじゃないか! それで威光があるのか?」


 威光の神は椅子に座っているという見た目どおり早くない。

 重めの挙動しかしていないようだ。

 光でなるべく攻撃を弾いているのがメイン。


 あと単純に頑丈。

 レベルが格上ゆえの堂々とした構えだ。

 それでも大して効いてないんだから。


「舐めるなぁ! これならどうだっ!!」


 ただし心には大ダメージ。

 威光の神は光を指先に集めだす。


(あれはマズイな)


 指から収束された光が放たれる。

 光の腕も足も爪も貫いて。

 光の竜本体の上半身を焼いて貫く。


「よ、よし! 当たった!」


「その程度で満足するとはな!」


「ぐわっ!?」


 リュウからの追撃。

 確かに光の竜を焼いたものの全体にたいしてはそんなにダメージ量がない。

 

 リュウからは詳しいことを教えてもらえなかったけれど推測はできる。

 おそらくは使役概念系だ。

 光の竜という創られた物語をベースにして大量の水を基盤に幻想を現実化し使役している。


 ゴーレムが土や岩がベースになった無機物でこちらは多くのニンゲンたちが持つ共通イメージの中から形を持ってきている。

 神は多くの祈りを……想いをエネルギーにする。

 ならばこういった幻想の存在を神の力で引っ張り出すこともできるのだ。


 ただこの世界には固着していない。

 そこをリュウの神力で水に縛っている。

 憑依型とも言えるかな。


 そんな推測はともかくリュウは手を抜かずガンガン叩き潰そうとしていく。

 威光の神は正面から受けつつも貫通ビームを連射し始めた。


 白い竜の体が徐々に焼き切れ出す。


「どうした、そのようなか細い線では光の竜は焼ききれんぞ!」


「くそう、さっきまでは勝っていた、それなのに……!」


(さすがに正面戦闘になると分が悪いか)


 煽り言葉ほど余裕があるわけじゃない。

 威光の神はそういうことに気づいてなさそうだが。

 明らかにさっき油断していたこいつが悪い。


 勝負は僅かな差でひっくり返るのだから。


 威光の神に濁流が襲い掛かっていく。

 言葉の威光で一瞬動きを止めてから変化するまでの間に抜けていく。

 座っている椅子の移動速度は遅いのでずっと動かしまわっている感じだ。


 変化した先のたくさんの腕や足。

 連なり重なり合うそれらは遠目に見るとまるでい1つの巨大な生き物のようで。

 ある意味これこそがリュウのコントロールの秘訣なのだろう。


「まとめて焼き払うっ!」


 リュウの概念付与で指示を出し操るのはおそらく軍。

 リュウ自体は語らないが最初からそのように認識して全体把握していれば。

 一見多種多様な存在の浴びせかけるような連撃がなぜ成り立つのかが見えてくる。


 ただ軍隊指揮だなんてやられる側からしたら見えてこないだろう。

 大量の腕や足や爪に襲われいるだけだ。



「数が多いっ! 『腕よ止まれ』っ、今度は『爪よ止まれ』! 光の数をもっと増やして……くそっ、なぜ私がこんな煩雑な作業をこなさねばならん!」


 直前まで迫った腕を止めてからビームで焼き背後から蹴りこんできた足も止めてビームで焼く。

 両手の指2つでバンバン焼いているもののまあまにあっていない。

 数が多い以上に編隊がうまいのだ。


(戦いという行為に不慣れで一方的な殺戮に慣れているやつは。タスクが多くなるほど疲弊し錯乱する。そろそろか)


「脆いな……! そんなに脆弱な威光だからこそ、お前は真っ先に地上へ来れたんだな? ほかのストッパーに引っかかるほどの能力ではなかったわけだ」


「お前っ、お前お前お前!! 我が威光の凄まじさを理解していないだけだろうが!! そんな愚物だから、我が力に屈しないだけだろうが!!」


「そら、スキだらけだ」


「グヘッ!?」


 リュウが投げかける言葉は攻撃の応酬よりも致命的だ。

 ……リュウはのちにこう語る。

 神同士の争いは基本的に不毛なのだと。


 どちらも存在単位でいえば不滅といってもいい。

 相手を害せば勝てるわけじゃないのだ。

 徹底的に心を折る。そんな戦いをしなくてはならないと。




 心を折る戦い。

 それが神同士の争いのすえだ。

 こいつに二度と関わりたくないと思わせるのが最もいいらしい。


 特に心は神力操作そのものに直接繋がっている。


「どうした? 威光のかがやきが曇っているぞ」


「し、しまった!」


 光線が光の竜本体へ当たる。

 しかし何度も当たるうちに先程のようには焼けていない。

 徐々に威力が落ちて来ていた。


 光線が揺らぎ少しブレだす。

 そうすると貫通力が一気に落ちて腕や足を焼き払えなくなる。

 そのまままた吹き飛ばされていく。


 なんとも強いはずなのにどうもキレが悪い。

 威光の神は明らかに戦い慣れしていないようで右往左往している。

 一方リュウは口で煽りつつも冷静。


 大量の腕足を犠牲を出しつつもその上から的確にぶん殴っていく。

 一撃で決めにかかったりせず僅かずつの削り。

 量を飽和させ相手にまともな対応をとらせない。


「クククッ、これなら、カードバトルで戦いをつけたほうが良かったな? 余はこの身になって幾度もの戦乱を生き抜いた、このような戦いは、何度もくぐり抜けてきたぞ!」


「か、カードバトル? 何を言っている! お前のようなタイプがまともな戦闘などを……! 下々の者にやらせるものだろう!」


「なるほど、お前は配下が優秀だったんだな。そのうえで、お前はその配下を自分の力と過信した。だからこんなところまでノコノコきたんだな。まったく、上が立つものがこれでは苦労するな。余は常に上に立つものとして意識し、研鑽して生き抜いてきた。余の生き様は、少なくとも椅子の上で胡座をかいたものよりは鋭いぞ!」


「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な!! わ、私が弱いはずがない、負けるはずがないのだ!」


「その姿を自分で思い描けないものが、何をのたまうか」


「っ!?」


 威光の神が両手指から交互にビームを乱射する。

 さっきよりビーム本数が減ってはいるものの分散せず的確に近づいてくるものを焼いていく。

 集中するものを片手ずつに直したのか。


 リュウのいる光の竜頭付近がビームを焼く。

 が、まあそれだけではまだどうもならない。

 光の竜が目をギョロリと傾けた。


 たくみに腕と足が配置しなおされビームを放つ方向を……そして連続で焼かれないように調整される。

 光の竜本体は動けない。


 座っている威光の神もまあ遅いかなり遅いから油断したら正面戦闘となる。

 単純な力での殴り合いで勝てると思うほどリュウはぬるくない。

 なので意識的にビームが本体へ飛んでこないようしていた。


「ぐうう、ま、まずい! 逆転の目がわからん!」


 そうして正確な判断を誤らせる。

 本当はそこまで有利や不利の対面を気づけていない。

 着実に有利盤面をリュウが奪っていく。


 ただ同じように大質量で四方八方殴りつけているように見せかけて……

 実体は丁寧にコマをボードの隅へ追い詰めるかのようなさばき方。


「な、ならばこうだ!」


 だからこそ奇策に走る。

 両腕を広げてから前へ突き出す。

 指を合わせて薄く光を伸ばしていく。


 そのまま長く広い半月を描く。

 半月が鋭い刃と化して一気に腕たちを切り裂いた!


「ハハハハッ!! やはり私は! 私はやれるんだ!」


「おい、そんなことしてしまってどうするんだよ」


「ハ?」


 斬撃は多数の腕なんかを切り裂く。

 一方向。一回を。

 その間他の方向からは攻め放題で誘い放題なわけで。


 左右から拳で思いっきり潰されていた!


「ブッ!?」


 なんというか……本当に間が抜けているというか……

 戦いにおいて視野の取り方が下手くそだ。

 それで平気そうにその場から椅子ごと抜け出しているのだから育たない理由も察するにあまりある。


 さらにリュウは才覚を見せつける。


「いいか? こうやるのだ!」


 光の竜がいななくと濁流のいくつかが変化する。

 滑るように水流が変化して。

 多数の水の弧が描かれる。


「ええいっ! そんな真似事など!!」


 それにたいして威光の神は再度光線斬撃を放つ。

 今度は改良して細かくあちこちへ放った。

 ……それらはただの水だった川をすり抜けたのだが。


「何いっ!?」


「ハハハ、ここまで何をやるか読みやすい相手は楽しくなってしまうな……それ」


 今度こそ形を取って爪となり斬撃を振るう。

 全方位からの連続斬撃!

 その勢いは濁流すらも斬り裂いていく。


「カァッ……!」


 その斬撃を受けてなお威光の神も椅子もかたちを保つ。

 自己治癒能力が多少あろうとも明らかに強い。

 強さをまったく活かせてないだけで。


 まさしく固定砲台。

 戦場に座り込み全体指揮を取りながら砲撃の圧倒的な能力と狙撃対策に自前のタフネス。

 それは勘違いする。自分はサシでもやれるって。

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