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二百五十九A生目 悪神

 悪魔とは月にいる神が不本意な形で地上におりた時の姿だ。

 たいていは神の分神をして隠ぺいを重ね不法脱獄してそれでも変質した姿。

 地上の何かに寄生あるいは召喚してもらわねば生きられず……それでも地上の存在からしたら驚異的な力を誇る者。


 月にいる神は大きくわけて2つ。

 管理側と……悪神。

 はるか昔神々の時代に2つの勢力で分かれて戦った中でさらに最悪としか言えない存在たち。


 月ではなく惑星の上にも迷宮の中にも多くの神々はいる。

 彼らのほとんどはニンゲンたちの邪神だの善神だの利益不利益で勝手に呼ばれている。

 実際どうしようもないようなやつらもいる。


 しかしだ。

 月にいる悪神とはそう言った段階にいないのだ。

 死なない神に対して無限の牢獄に封じるという措置を取らねば『星が破壊されかねない』という神々。


 そんな神たちを封じる場所と現世が直接パスが渡ってしまった。

 それがどれほど恐ろしいのか。

 まだ私たちは理解していなかった。



 アノニマルースが戦争を吹っ掛けられている傍ら。

 荒く息を吐いて床に倒される姿。

 その者には両腕がなかった。


 片足もよく見たら義足だとわかるだろう。

 普段は纏うその力によりあるかないかがわからないようになっているが。

 だけれども間違いなくここにいるのは無力なひとりだった。


 ここは王宮の奥にいる場所。

 ここにくるまで遠く長い道のりと……

 大量の水が周囲に流れる幻想的な神域で路々にはたくさんの女性たちが。


 彼らは全員主を守ろうとして……そしてただ範囲内に入っただけで。

 全員がなんの抵抗もできず膝を抱え蹲っていた。


「グッ……!」


 腕のない少年は……リュウは必死に体を起こす。

 目の前のソレに対抗できるのは権威の神たるリュウだけなのだから。


「ほう、今代はここまで若い個体とはなあ」


「なんで……月の神が、ここに!」




 また別の場所でも。

 顔のない神と自称している4柱たち。

 あのどうしようもない神たちが……全員傷を抱えうずくまっていた。


 美貌に関する神のスイセンが泥にまみれ。

 年齢に関する神のシンシャが逆さ吊りされて。

 性別に関する神のVVが頭を壁に叩きつけられていた。


 そして戻るのはリュウ。

 権威に関する神が今頭を垂れている。

 その相手の姿は……輝いていた。


 地面に足をつけず浮いた椅子に座る。

 その椅子はとても精巧かつ高級な雰囲気を漂わせていたが……それ以上に拒絶的だった。

 その椅子に座る者は誰にとっても頭をあげるべからずとするかのような。


 その上になんの気もなしに当然のように座る存在。

 ニンゲンなのか。ニンゲンではないのか。

 そういった輪郭すら掴ませない輝く何かがいた。


 見下ろす目だけがいやにハッキリと認識させられる。


 リュウはそれを頭を伏して感じていた。

 その頭のトゲ角に王冠をかぶせながら。


「月の神、か。我々は代々、あの土地からは出ていくつもりでしかなかったのだがね」


「っく!」


 リュウの義足が唸り回転してリュウの体が跳ね起きた。

 半自動起き上がり機能だ。

 これでリュウがやっと相手へと直視できる。


「余のことを(わっぱ)と罵る割に、貴様も随分と若いじゃないか。月に封じ込められし者はその神性を喪うと聴いたことがあるが、なるほど真実が含まれた噂だったらしいな」


『口を閉じよ』


「むっ…………!」


 その言葉は先程までと違った。

 念力のような圧力がありリュウの口が縫い付けられるかのように閉じられる。

 かわりに唸って対抗する。


「なんとも、口数だけは多いのう。自身の権力に、自信がない証拠よのう」


「ググッ……!」


 それの声はニンゲンのものとは思えなかった。

 威圧的かつ機械的。まるで洞穴の風鳴りがたまたま人の声に聴こえたかのような。

 それでいてハッキリと言葉として聴こえるのでなんとも気味が悪いとのこと。


「似たような力に惹かれ来てみたら、まさかまだ()()()()が絶えたり蘇ったりとして、存続しているとはのう……我々が冥界の牢に閉じ込められたというのに、あまりに尊大な態度ではないか?」


 静かにゆっくりと諭すように。

 リュウが怒りまくし立てていたのとはまるで逆。

 力の差を見せつけるかのごとく。


「……ぐっ!」


 リュウが声の代わりに腕を振るう。

 すると呼応するかのように左右から水の塊が飛んできた。

 それが拳のような形を作り圧倒的な質量で……潰すように。


『腕よ止まれ』


 ピタリと。

 それらの水が止まる。

 同時にリュウの口が閉じられていたのが急に開いた。


「っは、上位互換だと嘯くわりには、ずいぶん弱々しいな。やはり、自分の力を本格的に使えたのは初めてだな? たとえ前のときの記憶があったとしても、昔とは勝手が違うと見たな」


(コイツが古代の神そのものだったら、何も出来ずに終わっていた!)


 リュウはそうここで確信したらしい。


 リュウと対峙する神。

 それは月から脱走した神だ。

 悪魔に身をおとさずに直接来ていた。


 それなのにリュウはその力が落ちていると断じた。

 それはなにか。


「フンッ、確かに代替わりしてからは初めてだが、負け惜しみを。今も何とも出来ていないだろう? それよりもだ」


 余裕な態度ではあるものの初めてイラつきらしい様子を椅子に座る彼が見せた。

 ……古き神たちは地上にまだ来ていない。

 それだけでもかなり大きなアドバンテージだった。


 彼はあくまで代替わりしたらしい存在。

 おそらく月生まれだ。

 顔のない神たちも代替わりをするらしいからそれに近いものなのだかろうかしら?


「お前は我が軍門へ下れ。これから世界が大きく変わるのだ。この青星が、本来の形に戻る。その時、各々の軍勢の大きさこそが『威光』の神としての力に、今後の覇権に繫がる!」


「フン、『威光』と名乗りだけは立派だが、そのご自慢の力で他の神を従わせられていないようだな。それで情けなくも他の神の力に縋るということか。所詮月のもとでしか光が確保出来ない程度の光量なら、この星ではさしずめ松明の火くらいか」


 威光の神。

 それはリュウの権威すら部分的に縛り打ち勝っているようにも見える。

 だが確かにそう見えるだけだ。


 威光の神は指を椅子で鳴らしイラつきだす。


(古代の神そのものだったら力量の暴力で潰されていた。だが空いては代替わりしているらしい。力量がリセットされているということなら、相手の力は思ったより大したことはない)


「まったく、この私をイラつかせることだけは一人前だな……我が威光の前に全てがひざまつくのが当然なのだ。他のわからずや共を黙らせるためには、判り易い力が居るだけのこと。それは我が配下の数よ」


 この時リュウは水の腕を解除しようと試みていた。

 だけれども彼の力でか解除すら出来ない。

 新たに水の腕を発生させることもできなかったらしい。


「数にしか誇る点がないのなら、威光などという物に随分と振り回されているようだな。大方、昔の時に負けて追放されたのも、お前の腹心に裏切られ、誰もついてこずに背中から斬られたんだろう? お前の放つ光で、随分と影が濃そうだからな」


「あいつらが! アイツラが私たちの偉大さを理解できなかっただけだ!!」


 ドンと拳で椅子を叩く。

 同時に周囲に光が迸った。

 リュウがその光に押され吹き飛ばされる。


 今度はなんとか倒れずに済んで耐えたが……


(なんだ? 代替わりした割に報復心がまるで当者のものだな)


 リュウたち顔のない神は代替わりするが話によると『引き継ぎ』に近い。

 あくまでベースとなったニンゲンの延長線上にあり神としての知識と記憶は他者の物を引き継いだ感覚に近い……と。


 だけれども目の前の相手はそういう雰囲気ではない。


「自分のことのように怒りを騙るじゃあないか。その報復心、誰に教えてもらった? お前自身がなぜ怒っている、月の神の代替わりとは、そういうものなのか?」


「黙れ!」


 再び光が吹き飛びほとばしる。

 それだけでリュウは水際まで押し飛ばされた。

 作り的にここは高い。


 もしこれ以上押されたら水の滝へ堕ちてしまうだろう。


「なせま余が黙さねばならん。そもそも貴様が勝手にズケズケとここに入り込み、ここで小物らしく喚き散らしているだけだろう。余の配下たちを無理やり屈服させて満足か? ならばさっさと月へ帰るが良い。お前の生まれはあっちだろう? 祖の存在はともかく、お前自身がここに執着する理由など見えんがな」


「私は脈々と受け継がれし意思、その意思の先にいる。お前のように浅薄な存在とは根本が違うのだよ」


「確かに根本が違うようだ。祖先という他人の意思に自分を汚染されているとは、随分と主体性のない操り人形とはな」


「お前、我が一族を、我が祖を愚弄するか! もう赦さぬ、お前が我が軍門に降らぬというならば、ここで排除する!」


 椅子の上の人型が怒りに打ち震え体を震わす。

 それを見てリュウは鼻で笑った。


「フフッ、まるでクソガキだな」


「そのような浅い挑発を!!」


 だが効果はあったらしい。

 椅子の上に座る人型が拳を固め……

 真っ直ぐ振り下ろすと光の波動が放たれる。


 リュウが身をよじったが避けきれず。

 波動が腕なき無防備な体を焼き体勢を崩す。


「グオッ!」


 勢いに負けて。

 そのまま足場を越え。

 滝へとその身が落ちていった。


「この程度で負けるやつなど、どちらにせよ我が軍にはいらなかったな……」


 滝はただ流れていく。

 威光の神の声すら飲んで。

 ……その背後の丸まったニンゲンたちに一切気を払わずに。


 それらが音もなく水に攫われているなど考えもせずに。

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