二百五十五A生目 士気
アノニマルースの1番しんどい戦いを潜り抜けた。
みんなはボロボロ。
ワープで帰ったら即ホルヴィロスに治されていたが。
ドラーグとそしてコロロもダウン。
ドラーグは大きい分回復にもそこそこ苦労する。
戦時中だから巨体に本気の食事させるわけにいかず……ちゃんとした復活は戦後とされる。
コロロも目の前でドラーグの分かれ身が死ぬということがこたえたらしい。
本体から引っ付いて離れようとしなかった。
まああれはあれで良しとする。
さあ3日目の最初に来た大波は跳ね返した。
「次の波を警戒する前に朗報だ」
ジャグナーが作戦会議室でにやりと笑う。
「うちの殿様出勤する大部隊が、来てくれた!」
……外の世界と荒野の迷宮をつなぐ出入口。
その付近には大きなワープゲートがつけられている。
荒野の迷宮に入るためには山中の深い崖に行かなくてはならないのを全カットするため表世界の平野へと繋がっている。
今は使われないはずのそこが。
最大出力で大きく開いていた。
「お、おい、あれを見ろ!」
それは敵か味方かはたまたどっちもか。
誰かが指をさして言う。
「伝令ー! 伝令ー!!」
敵も味方も電流走るかのごとく。
大騒ぎになる遠景のそれは。
「あの旗は……皇国軍の軍隊だ!」
多く揺らめく掲げられた旗たち。
それは所属を誰何するものであって……
皇国のそれであった。
数十万規模の大軍隊が意気揚々に獲物を狩りに来たのだ!
「皇国軍、これより自国に入りこむ怨敵を討ち滅ぼさん」
軍の指揮官が剣を掲げ叫ぶ。
声が魔法で拡張され指揮スキルが全体に伝播していった。
「「おおおおおおおぉぉぉ!!!」
割れんばかりに鬨に戦場が揺れる。
敵たちは明らかに動揺していた。
「本当に、相手に助けが来るだなんて……」
それは1兵士の心の吐露だがきっと全体にあった感情でもあったのだろう。
ここまであれこれ私が知ってるのは後の記録にあれこれあったからだ。
「殺すなとは言わねえ、戦争だ。だが殺す事に執着するな! ぶっ飛ばしたらすぐ次へ食らいつけ! 数を削れ、リソースを割かせろ、味方に被害を出すな、一気に追い込めぇ!!」
「「ガオオオオオッ!!」」
ジャグナーの号令で叫ぶ。
アノニマルース軍も指揮スキルによる強化が入っていって。
もはや戦いの勢いは反転したと見ても良いほどに。
「やっと、活路が開けた!」
グレンくんが高台から戦場を見下ろしてうれしそうにそうつぶやいた。
そこからの戦いはまるで逆転したかのようだった。
まず皇国軍。
常備軍は少ないもののかわりにエリート揃い。
逆に徴兵に応じた民衆たちもメチャクチャ気力が高い。
これなんでかは良くわからなかったけれど……
あとで調べると色々混じっていた。
まずつい最近人形にあちこち襲われていたこと。
それにより戦いが身近になった。
脅威に対する意識が上がったともいう。
さらにはアノニマルース自体にも思いがあった。
参加者たちはとうぜん腕に覚えがある者たちが中心で。
「あの街が襲われるなんて許せねえ!」
「冒険者の俺達にメチャクチャ良くしてくれたあそこが……!」
「アイス、メシ、アイス!」
「魔物たちの天国なのによぉ〜〜許せねえよなぁ〜〜!」
……なんか色々混ざっているけれど。
少なくともアノニマルースが存在感を出していてここまでやってこれたのが大きい。
私がそんなに口出ししなくてもどんどん街が大きくなっていったからなあ。
経済的とか希少性とか観光地的とか。
様々な方向でアノニマルースは存在感を無視できないほどになりつつある。
それは確実に皇国の民たちに大きな影響を与えていたのだ。
私自身がそんなに皇国であれこれしたわけじゃないがアノニマルースがあるのは確かに皇国だ。
皇国の中の迷宮内にある自治区だ。
皇国エリートの月組と花組がちょくちょく訪れる場所だ。
そして……自治区と銘打って他国とのつながりがやたら太い場所でもある。
このパイプは当然皇国にも伸びていて……
自治区を通しているから本来の国際的政治やり取りとは別に恩恵が発生している。
今更皇国にこの都市を捨てる選択肢は与えていないのだった。
「攻めろ! 挟み撃ちだ!」
「逃すな! コイツラは世界の都市を破壊する奴らだ!」
まさしく互いの呼吸を合わせての全力攻撃。
当然腕輪による通信も仕込んである。
向こう側とこっち側を完全に合わせるという不可能に近いやり方で追い込めば……予想以上の変化が訪れる。
それは士気の高さだ。
敵軍が明らかに士気がさがりだし全体的に崩れだした。
それは戦場の風向きが変わったことによる……勝ち戦かわからなくなったことによる不安。