二百二十八生目 民間
「ようこそ。ここは初めてですか?」
「はい」
受け付けに向かえば職員がにこやかに対応してくれる。
そこでの説明は基本的には知っていることだった。
まあ冒険者ギルドそのものはもう間接的に何度も利用しているからね。
「それで、今回は依頼の発注か受注かどちらにしましょう?」
「受注利用の登録をお願いします」
「わかりました。通行証の提示をお願いします」
言われたとおりに通行証を渡すと一度奥へ引っ込みそして別の紙も含めて持ってきた。
どうやら冒険者ギルド身分証を発行するための手続きらしい。
言われるとおりに紙を受け取って執筆していく。
内容はどちらかと言えば読む事がメインのものだった。
なになに?
ようは利用規約かな。
気になるところは……
意外に福利厚生がしっかりしている。
勤務中に怪我や死亡した場合の保険やら資格支援。
変わったのだと子育て支援もある。
前世の企業ならともかくイメージとしては逆だ。
冒険者にいたれりつくせりだが逆に言ってしまえばここまで保証しなければいけない程度に危ない仕事だと自覚して挑めということか。
それと依頼を受けるさいはそれの難易度に合わせて手数料が取られるそうだ。
達成すれば戻ってきて失敗なら戻ってこない。
後は依頼の信頼について。
基本は調べ上げているもののそれでも騙す悪党は絶えないのか騙された時の申請方法も書かれている。
つまりギルド側としては冒険者を守るために動いてくれるそうだ。
逆に。
依頼を達成したと誤魔化し嘘をついたり何らかの方法で依頼主やギルドに不利益をかけるように冒険者がした場合。
ギルド側は国として一切容赦せず追い詰めてくるようだ。
ここは私達にとっては重要だ……
それと……これは?
冒険者ギルドそのものは国の運営で巨大だがだからこそ目が行き届かない。
なので同時に民間人経営の冒険者ギルドに入るようにとのことか。
小規模ギルドにそれぞれ管理させているわけね。
「父さん、この民間ギルドってどうしましょう?」
「ふむ……まあ、この後オススメでも聞こうか」
近くにニンゲンたちがいるので演技しつつ情報のやり取りをする。
まあそれが無難だよなあ。
ほかにも読み進めたが特段問題はなさそうだった。
必要な項目へ記述し最後に書いてあることへの同意にチェックする。
紙を受付に提出すればまた一旦奥へと引っ込み少ししたら金属板と共に返ってきた。
小型で名前が魔法か何かで書かれているこれはもしや……
「こちらがギルドカードになります。それぞれ貴重品ですので出来る限りなくさないでくださいね。最後にカードの中央に指をつけてください」
やはりそうだった。
言われたとおりに自分のギルドカードへ指をくっつける。
淡い光が一瞬またたいた。
「はい、これで登録完了です! 本人の魔力が登録されましたのでこれで本人証明が行なえます。本人が服越しでも触れば何も起きませんが、他者が触ると常に赤く光ります」
そう言って受付さんが触ると赤くギルドカードが光った。
離せばまた元に戻る。
なるほど顔写真の代わりにこんな便利な機能が。
「それではAマイナスから始まりになります。冒険者民間ギルドへの登録を済ましてから依頼を行ってくださいね」
「ああ、そのことなんですけれど、まだこの街についたばかりで。民間ギルドでオススメってありますか?」
「ええとですね、それだと……」
民間ギルドに訪ねているその時。
建物の扉が開き中にニンゲンが入ってきた。
それだけなら誰も気に留めないのだが……
「あ、あの! もしかして新規登録の方ですか!」
「え? あ、はい」
民間ギルドを探しているむねを話した直後に背後のその入ってきたニンゲンから話しかけられた。
驚いて思わず返事してしまった。
見た目は男の子のようで身長もあまり私と変わらないようだ。
「だったら、うちにぜひお願いします!!」
勢い良く告げられたその言葉。
勧誘だった。
受付さんによると冒険者民間ギルドに関しては見て回るのも決めた後の変更も可能とのことでとりあえずその男の子についていくことにした。
「ええと、先程は突然すいません。僕はバローと言います」
「カムラです」
「ローズオーラです」
バローと名乗った少年が特徴的なのはその目やくちばしか。
まんまるな目にくちばしそれに髪かと思ったら羽毛で時折曲げる首の角度はどこまでもぐるりと曲がる。
フクロウの特徴をいくつも持っているわけか。
翼はないが飛ぶ方法もあるのだろうか。
「それで、どうして突然私たちに?」
「それは……実はうちはそこまで強くないギルドでして。その、少しでも人手がほしいと言うか……」
なんとも歯切れが悪くそう話した。
"読心"すると……なるほどね。
詳しいことは聞かないとだな。
「あ、ここです! どうぞ中へ!」
そうこうしているうちに案内された場所へついた。
少し裏通りに入った所に有るこぢんまりとした店だ。
そう、見る限り看板は宿屋だった。