二百四十三A生目 想出
増えていくホルヴィロス。
当然困惑するのは周囲の医療従事者たちもだ。
「え、え」
「先生、先生ですよね?」
あまりに当然な反応をされた。
ホルヴィロスもそういわれるのはわかっていたのか堂々答える。
「そう、私だよ。新しい段階へ進むのに少々本体の方で手間取ってね。その代わりだいぶ新しい力を得られたから、もう大丈夫。ローズに感謝だね」
「ローズオーラさんに?」
私のいないところで私の話が出てきたけれどホルヴィロスならまあ不思議じゃないな……
「ああ。思ったよりも、私は精神的にそしてそれゆえに生きる神としても不安定になっていた。けれどなんとなく、ローズの祈りが届いた気がしてね。それを頼りに、やっと完成させられたんだ。新しくなっても、昔を取捨選択しなくてはいけなくて、捨てたとしても私は私だと、そう想ってくれる相手がいることが……本当に私が求めていたことなのかもしれない」
「はあ、まるでカウンセリングを受けたようですね」
「はは、そうかもしれない。さあ、仕事の時間だ!」
ホルヴィロスのその顔は何かを吹っ切れていた。
ホルヴィロスの捨てたものって……昔語ってくれた内臓についてなのかな。
内臓は弱点となっていて同時に本来はもういらなくもなっていると。
ただホルヴィロス自身がなんとなく捨てられなかったみたいな話をしていた。
だとすればそれを捨てたことは本当に良かったのか?
いやきっと……それで良かったのだろう。
そういう顔をしている。前を向く者の顔だ。
心配で来たのになんともしっかりとした立ち直りだ。
私の祈りが本当に届いたかはよくわかんないけれど。
そうそれはきっと……自分の内側にもっと大事なものが出来た時のもの。
それは形を伴わないかもしれない。自分1柱では完結しないかもしれい。
それでもそれが大事で、自分を構成するパーツだというのならば。
みんなはきっとそれを『想い出』と呼ぶのだろう。
「ありがとうね、ローズ。キミのおかげで、私は、忘れないでいられるから」
ホルヴィロスがこちら……剣ゼロエネミーを見てそうつぶやいた。
え? わかってる? いや剣ゼロエネミーが私の持ち物だからそう言っただけか。
たくさんのホルヴィロスが生み出さたしょくぶつの束はやがて最後のホルヴィロスに巻き取られる。
なんというか……
こんなに増えるとはホルヴィロス。
当然前はこんなことできなかった。
サイズが様々なホルヴィロスがポンポン出てくるなんて。
しかも各々勝手に動いている。
分身って基本的に制御は自分の脳1つだ。
だいたいこうと決めて放つ。
分神みたいな肉体を持つのは各々の魂も関係有るのでもう少し各々考えられる。
今のはそれのどれでもない。
分神ではあるんだけれど……
分神からたくさんわかれて増えていくし力が落ちていないのはどういうことか。
ホルヴィロスはそのあと剣ゼロエネミーには振り返らなかった。
これまでの遅れを取り戻すかのように治療開始。
ホルヴィロスの治しにごまかしはない。
本物の神業によって救済していく。
それはまたたくまにアノニマルース軍医療施設まで届いた。
なんというか……
一件落着なのかしら?
私からしたらなんかスッキリしない解決をしたけれど。
とはいえホルヴィロス復帰の恩恵ははかりしれない。
特に医療にたいして信じられないくらいプラスに働いている。
戦争なんてけがの量産機なのだから医療が完璧になるだけで悲壮感がなくなる。
特にこの世界はもともと多少肉体がちぎれとんでも完治できるからね。
その体勢が整ったとなれば戦士たちもやる気がでる。
というわけでここからは戦いの体制がさらに揃うわけだ。
よしよし。あとは皇国が援軍に来るまで耐える期間だ。
向こうもわかっているだろう。
この夜の戦いは前日より苛烈だった。
相手は明らかにこっちを落とすように兵力を束ねている。
大型人形が出張ってきてアノニマルースの壁とかメチャクチャにタックルしてくるので最悪だ。
荒野の自然地形の壁が多い作りでよかったともいえる。
崖から無理やり中に入り込んで乗り込もうとした大型を1体罠で仕留めたそうだ。
崖の中にいるのを感知して大地に事前干渉しておき……土系魔法でギュッと。
土の加護持ちがこのアノニマルースを作ったのでそこら辺は当然というやつである。
そのあとは一切崖に近寄って来なくなったので効果はあったようだ。
昔私の血を染み込ませまくってタイヘンだった思い出が……あ、なんかクラっと来る。
そんな幻覚貧血を起こしつつもちゃんとした次の場所へ向かう。
次なる戦闘の場は……夜中の戦いだ。
地味だが要人暗殺バリバリ仕掛けてくるし剣ゼロエネミーがやらねば誰がやる!