二百四十A生目 壱斬
雷撃の輝きは周囲一帯を全て飲み込んだ。
剣ゼロエネミーも十三改式も……
なんらな煙幕の範囲を大きく超えてこの荒野を。
遠くからでも雷光が立ち昇るのが見えただろう。
この力。
勇者としての単独で持つふざけたほどの出力。
この魔法力にこそ勇者らしさがあるのだと言うニンゲンすらいる。
もともと相手想定が超巨大な魔王なのでこういった魔法は当然使えたわけだ。
グレンくんは荒くなった息を整え刀を握りなおす。まだ終わっていない。
グレンくんとクライブはじっとその時を待つ。
煙幕がすさまじいエネルギーにより吹き飛んで晴れていく。
風圧がすさまじく短い髪も流される。
その向こうがわ。
ほんの数十秒もたたないうちに雷光が収まっていき中身がやっと見えだした。
その中にあるものは……2足で立つ姿。
それはいまだに立っていた。
誰のためでもなく。
ただ己の武勇を誇るかのように。
「ガガ……ガ……我が……力……マダ終わらぬゾ……」
震えながらもけして崩れぬ体。
十三改式は全身に雷撃をまとい鎧が剥がれ落ちている。
中は人形たちと同じように細身の体。
しかし大太刀だけは失わず。
細く美しかったからだを雷撃に焼きそれでもまだ立つ。
「麻痺していてまともに動けぬだろうに、人形なのに気合があるのか」
「気をつけて、ここから猛攻してくる猛獣のような相手を、何度も見てきました」
クライブとグレンくんが並び立つ。
グレンくんは地面に降り立ち刀を中段に。
クライブは自然体に大剣を下げながらも姿勢にはスキがまったくない。
目の前の相手は人形でありながら人形ではない。
武人であり……戦いの獣だと認めているからだ。
ならば勝たなければならない。
まだ戦いは続いている!
「負け……ルノハ……心ガ……折れた時……ノミヨ……」
「……ああ、そうだな」
「いい加減こっちもきついんだ。立っているのはしんどいし、喉はカラカラで、身体はどこかしらも痛い。だから、これが最後だ」
クライブもよくみたら既に黒いオーラと赤いオーラどちらも切れている。
維持するほどの残力がないのだ。
グレンくんも良く見れば生まれたての子鹿みたいになっている。
まあ十三改式のほうがボロボロになっている。
何より麻痺して雷撃が体を巡っているのが光で見える。
大太刀を振るおうと構える姿すらガタガタと揺れていた。
「ココカラダ」
「確実に斬る」
「ここで勝つ」
全員が構える。
それはまるで最初の時のごとく。
だが全員がまるで精細を欠いていて明らかに弱々しい。
それでも最後まで戦場に立ち続けるだけの気概がそこにある。
誰もが明日を見据えている。
そこに差異はなかった。
「「はぁっ!!」」
互いに踏み込み全力で剣たちが振るわれる。
激しい金属の衝突音と互いに致命傷を避ける動き。
ギリギリのリーチで繰り広げられる切り合いで。
もはやそこに美しさや巧さはない。
ただひたすらに泥臭い。
血と脂と木片の飛ばし合い。
例の滑る鎧はもう壊れたためカスればそれだけでも斬れる。
本体が頑丈とはいえ鎧があるなしは別だ。
その上弱っているのだから。
そうした限界のせめぎ合いは……
むしろ余計なものが全て削ぎ落とされていて。
明らかに行く末がわかる戦いであっても。
まるで格の落ちないものとなった。
最後の一刀は脱力した各々の振り。
それはある意味では極限的に鋭い振りで。
全員の振りは全員が当たった。
グレンくんの振りが袈裟斬りして肩から入って。
クライブの一振りは両腕に残った力をかき集めた渾身の力で頭から振り下ろされ。
そして十三改式は。
「そうか……」
「見事」
クライブの左腕を斬り飛ばした。
「……フンッ!!」
問題はなかった。
右腕が残るのならば。
その右腕で最後まで振り下ろせば。
最後の轟音が戦場に響いた。
「腕、平気ですか?」
「問題ない……切れ味が鋭すぎる。治療を受ければあっさり治るだろうな」
3本の剣が刺された広間。
ここはさっきまで殺し合いが行われいたはずの土地。
あまりに激しい戦いと……最後の大魔法が決め手になってここらへんの崖は原型をとどめて居ない。
クライブの太い腕をクライブの右手で拾う。
手慣れているように手早く魔法の回復薬をかける。
もちろんそれだけで治ったりはしないが……
「保存液の効果は出ている。これなら腕の良い治療師さえいればすぐに動くな」
「腕の良い治療師……医者なら、まさしくホルヴィロスがそうだったんだけれど……今どうしているのかな」
「だいぶ追い詰められた様子だったんだな? 気になるな……」
「よっと」
グレンくんがついに剣ゼロエネミーを引っこ抜いてくれた。