二百三十九A生目 仮説
クライブのいるはずの場所駆けた十三改式だが……
いきなりピタリと止まる。
そして身を突如翻すと大きな光が十三改式にカスる。
そう。当たったのだ。
それは予知されていた方向とは別。
見ていなかった走って行った方向からの。
これが10秒前後あとの攻撃を見られる弱点。
予告を信じて動いたあとにまったく同じ攻撃を別角度からやられたら。
普通は相手がいるので気づく。今は魔法の煙幕であらゆる感覚系がつぶれている。
それでも視える未来だがおそらく予知の変化告知は技や相手の変化など大きく変わらない限りはされない。
もし直前に自身を吹き飛ばされる未来が見えたとしても……
完全な対応は難しい。
つまるところ未来視は万能じゃなかった。
これがふたりの出した結論だ。
「グッ……」
「今のもほとんど手ごたえなしか。やはり恐ろしく強いな」
そして『移動される』『煙幕を使われる』というのもまた攻撃ではないので察知できていなかったのがよくわかる。
ついでにクライブはスクロールに封じられた魔法を使い短い距離を一瞬で飛んでいる。
つまり『ワープ』も攻撃ではないから感知はできていない。
いろいろな仮説が実証されていく。
だがやはり根は十三改式の技術的な強さだ。
今も大剣から放たれるおおきな光ゆえカスっただけで大きく吹き飛んでいるが……
直撃しないよう流されたともいう。
あの鎧はとにかく直撃以外は大した痛みを相手に与えない。
コレでは相手を倒せないのだ。
あくまで仮説の検証でしかない。
だからこそここからが本番だ。
追撃のように吹き飛んだ相手へさらに光が飛んでくる。
十三改式も当たれば今度こそ危険だとわかりきっている。
未来視でなんとか避けてはいるが……
クライブの剣は恐ろしくだんだんと追い詰めだしている。
無限射程がある大剣の光が敵の体を穿てと振るわれる。
だがなかなか崩れた体勢のままどんどんと追い払っていく。
体幹が削れているのにこれ以上崩せないのはさすがに強いだけある。
クライブはあくまで冷静に振るっていく。
当然これほど巨大化させた刃を振るえば浪費が激しい。
汗が吹き出している。
そうして1つ炎魔法を床から吹き出す。
十三改式が避けるように移動し……
剣が追いかける。
どうやら未来視にとってこれは辛いらしい。
炎を避けるのは簡単だ。
遠ざかれば良いのだから。
だが移動した先の攻撃は視えていない。
なので察知しきれず攻撃できる。
かなり考えたなあ。
それを技量で無理やりしのいでいるのが十三改式。
当然無茶だ。
攻勢に出れない以上破綻は訪れる。
「グヌ」
3度目の移動攻撃時。
ついにうけた大太刀が大きく体から離れてしまう。
倒れそうになり体勢を崩したのだ。
「そこっ……!」
渾身の振りがついに芯をとらえた。
振り下ろしからの振り上げ。
体全体を利用した全身全霊のぶった切り。
ついには芯をとらえぶっとばした!
「……!」
「はぁっ、はぁっ……」
クライブは渾身の力を使い果たしてぐったりとする。
息を整え吹き飛ぶ先を見守った。
吹き飛んだ十三改式は体をまともに動かせないでいた。
「マズイ……ナ」
それは人形としての機能がかなり麻痺しているのと同じだ。
そしてそのうえで無事稼働している部分。
赤い瞳の未来視がきっと告げている。
「避け……ラレヌ」
すさまじいエネルギーが十三改式にたまっている。
ほんのわずかスキがあれば叩き込んでくるだろうほどの力。
それをぶつける機会があればだが。
煙幕の向こう。
空をグレンくんが飛び陣取る。
不思議なキラキラにより飛び回っていた彼はずっと前からためていた詠唱を今終える。
「10秒では離脱できないほどの広範囲攻撃なら、未来視に意味なんてない! はあぁぁぁ!!」
グレンくんは元勇者だ。
しかしてグレンくんは生物として種族的に勇者だ。
たとえ勇者をやめたとしてもグレンくんの肉体は天性の才により武神のごとき力を発揮できる。
それが今発揮されだしている。
武芸に優れているのは前提だ。
その本質は……!
「全て吹き飛ばせ、イカヅチ!!」
グレンくんを中心に巨大な魔法陣が現れる。
そうでなければ術者を守れないという魔法。
魔法陣はターゲッテイングした味方も守るからたくさんの守りの力がいるからね。
生み出されたのは巨大な雷。
むしろ雷が柱のような形に束ねられているというか。
もはやアニメチックなくらい不可思議なものがそこにある。
イカヅチであるはずの大きな柱をグレンくんは渾身の力で腕を振って地面へと投げ落とす!
やがて……
着弾と共にあたり一面雷撃の光が覆いつくした……!