二百二十七生目 種族
「お手数をかけました」
人狼衛兵がそう言うと別の所から衛兵がやってきて新規発行された通行証を持ってきた。
ふう、身分証もなしに通れるのかと思ったがなんとかなったようだ。
やっとひと息つける。
「ありがとうございます。じゃあ行こうか、ローズ」
「あ、うん父さん」
危ない、一瞬カムラさんの演技に戸惑った。
何度も練習はしていたから何とか対応して椅子を立つ。
通行証を受け取り門から中へ行こうとして。
ふと"読心"で巧妙に隠されていた人狼の心の言葉がつぶやくように聴こえた。
『最後まで油断しなかったのは、やはり怪しい……が証拠が何も出ないなら仕方ない』
こ、怖っ!
カムラさんの演技が無ければ詰んでいた。
懐に持つ対"観察"での種族誤認させるものも石型じゃなきゃやばかった。
門をくぐったその奥。
そうそこがついにニンゲンの街だ!
「先程は助かりました。事前に調べていたんですね」
周りに聴こえないように小声でそうカムラさんに言った。
カムラさんは言葉に気づき少し思案してからひとこと。
「ああ、あれは当てずっぽうですよ」
「ええ!?」
うそん。
あれすらも嘘なのか。
何が本当なのだ。
「ただこの街の外からの様子、今までの話の流れから考察したまでです。外しても噂話を耳にした体ならば嘘にはなりませんから。言うだけ得です」
「なんというか……敵ではなくて本当に良かったです」
「それは光栄です」
……敵じゃあないよね?
そんな会話を交わしつつも改めて街の中に入れた感慨をあじわう。
見渡す限り堅牢な家たちが立ち並び今も新しく家が立ちそうな場所もいくつもある。
『ドラーグ、どう?』
『すごい活気ですね! 僕達の群れとは比べ物にならないほどに……あ! アレはなんでしょうか?』
『気になるなら行ってきても大丈夫だよ』
『それでは行ってきます!』
"以心伝心"でドラーグに話しかけたらすっかり興奮した様子だった。
影の中にいたドラーグが別の影を伝って離れていったようだ。
存在を知っていればわかるが知らなければ探ってもドラーグは見つからないだろうから放っておいて大丈夫だろう。
特にドラーグは今回の主役とも言える。
この中で1番多くのことに気づき持って帰れるだろうからだ。
私も前世との違いを良くみておかなくては。
まず驚いたのはニンゲンそのものに関して。
理解はしていたがまるで多種族が入り乱れて生活しているようだ。
普通のニンゲン、犬顔、猫耳。
長耳種、長毛種、有角種……
変わったのだと小兎種に小鼠種それに腕翼種かな?
なるほどここまで多種多様であればチェックが難しいのも頷ける。
実際私からしてもニンゲンかそうでないかすらわかりづらいもの。
ただ大半のニンゲンはあの結界を魔物が越えてくるとは思っていないだろうし例え私達を通してしまってもあまり責められないだろう。
そして彼らニンゲンに共通するのは全てベースが同じということ。
ただのヒューマンから彼らは全員トランスして姿が変わったのだ。
ざっと見た感じ割合としては5割がただのニンゲンっぽい。
3割が亜人で1割が獣人のようだ。
残り1割はその他。
そんな彼らは彼らの特徴を活かして生活している。
力のある種族が物を運び魔法に長けた種族が火を起こし水を流す。
空を飛べるものが手紙を配達し地を駆けられるものが荷物を渡す。
私達の魔物だらけの群れも考えてはいるがここまでキレイには回っていない。
なるほど確かに参考になる。
さらに道行くニンゲンたちの中には強そうな者もいる。
1つは兵。
衛兵のほかに本格的に攻めや防衛のための兵士が訓練するために移動している姿も見受けられた。
もし彼らに攻められたら私達の群れは落ちるだろうか?
脳内シミュレートしておく。
もう一つは冒険者たち。
全身でコーディネイトがバラバラだったりツヤ消ししてあったり雰囲気が違うのでよく分かる。
もちろん武器もしまいこんであるしね。
「彼ら……冒険者たちについていってこの街の冒険者ギルドに行きましょうか」
「そうですね。観光はそれと宿をとってからにしますか」
提案にカムラさんが頷く。
というわけで冒険者であろうニンゲンたちと同じ方向へと歩みを変えた。
複数のかたまりが同じ方向へ行っているから間違いはなさそうだ。
歩くこと数分。
とある建物に入っていった冒険者たちのあとに続く。
看板にも国営の冒険者ギルドであるむねが書かれていた。
中はそこそこ空いている。
確かに時間が時間だ。
お昼付近の時間ではめぼしい依頼は持って行かれむしろ簡単な依頼ならば帰ってくるニンゲンもいるはずだ。
私たちはここで本物の身分を手に入れる。
そのためにやってきたのだ。




