二百三十五A生目 改式
切り裂いた兜の傷。
それ以上に頭が大きくブレた。
衝撃がしっかり伝わったのだろう。
きっちり斬り返してきてグレンくんは受けきれず思わず軽く後退させられる。
足で踏ん張っても限度があるからね。
いわゆるノックバック。
「あっぶな……！」
グレンくんは自分の首がまだまだ繋がっていることを見て安心する。
次が飛んでくるとグレンくんは思ったが来ない。
ゼロエネミーとクライブの追撃が人形を襲うからだ。
剣ゼロエネミーの利点はとにかくリスクが薄いこと。
持ち手がいないため連続で攻め続けられ行動力もらくらく。
なにより被弾がほとんどない。
ゆえに人形へ張り付くようにスキを狙っては斬り裂いている。
ニンゲンたちの呼吸と呼吸の合間の弱点を縫って人形の行動を阻害。
持ち手本体が無く軽いという弱点を補ってあまりある。
大太刀は明らかに業物であり剣ゼロエネミーですら斬りあうだけで切り裂けない。
まあ光をしっかり纏っているか守られているのもあるが。
剣ゼロエネミーで何回も打ち合っていると不意にタメが入る。
ディレイではなくタメ？ と思った瞬間に。
「フンッ！」
素早い一閃が振られ剣ゼロエネミーもそれに合わせて弾
あっ。
打撃の重み。
武技で……手を変えられた！
快音とともに剣ゼロエネミーが打ち上げられる！
「ああっ！ ローズの剣が空に！」
うわわーーっ！！
やられた！
あまりにきれいなカチアゲを食らってしまった。
勢いつきすぎてちょっと止まらんぞこれ！？
「問題ない、元々俺達２人の仕事だ」
「成程、ナカナカノ腕前」
クライブが大太刀へと振るい鍔迫り合いが起こる。
力と力の組合い。
だが当然横槍はある。
グレンくんが低く跳んで刃が振るわれる。
ギリギリで人形は鍔迫り合いから地面を蹴り離れたが刃は胴に吸い込まれる。
……入った！
ズバリとした快音と共に傷が入る。
人形だからわかりづらいがしっかりダメージが入っただろう。
耐久力を削れて人形がずざりと後方へ流れる。
ダメージとしてはわずかなものだ。
だがこの差は大きい。
斬れるなら、倒せる。
ふたたび互いに向き合う姿勢へと戻った。
わずかな切り合いの間で互いに傷が増えている。
だがいまだ致命傷はなし。
しずかに緩やかに大太刀を構えつぶやく。
「ツワモノヨ。吾ハ戦闘長ガヒトリ、十三改式。参る」
「ただのグレン！ だからこそ、一市民として抵抗させてもらう！」
「……クライブだ。冒険者をやっている。仕事は、失敗しない主義でな」
グレンくんは刀を軽く振ってからタンカを切る。
クライブは大剣を下段に構えながら静かに答える。
全員の圧が増した。ここからが本番だ。
そして。
上から剣ゼロエネミーが落ちてきて地面に刺さった。
あっ抜けねっ！
そうして再度斬撃の応酬が始まる。
剣ゼロエネミーをぬくまでの間にあちこち場所を変え飛び交い互いの体に傷を入れていく。
追いつくだけで大変だ。
「体、あったまってきた！」
グレンくんはついに全身がなにやらキラキラファンシーに輝き出す。
それどころか刀を振るう事に様々な光が周囲に生み出される。
光の球やら雷やらのそれらが追加で十三改式の体をえぐる。
もはや単純な技量勝負の段階は終わりで互いの得意を押し付けるフェーズに入ってきた。
もちろん十三改式もやってきている。
大太刀を振るうごとに凄まじい圧が生じている。
それは剣圧としてしっかり避けても吹き飛び突き刺さりそうになるほどの。
「くっ、シャレにならない！」
グレンくんの剣から放たれる光の数々すら追いやっていく。
可視化できるほど唸る剣圧は剣のエネルギーを飛ばすのとはわけが違う。
あれとは違って剣の軌跡が見えづらく同時にそんなにぶった切れる力はない。
代わりに吹き飛ばし殴打して何よりも軽く連発できる。
武技としてエネルギーを浪費しぶっぱなす必要がまったくないのだ。
その威圧は大剣すら押しのけて避けた先にもまだ当たる。
見た目よりかなり範囲が広いうえ早い。
衝撃波なので勢いよく飛んでくるからだ。
剣ゼロエネミーもなかなか近づけずクライブもまともに斬り合うことすら苦戦する。
「ならば、やり方を変える」
クライブは飛ばされた先で着地。
大きな輪を取り出す。
昔の巨人的な王の指輪だ。
さらに怪しげな宝珠を取り出し掲げる。
クライブの体に２つの光がおりた。
「がぁぁぁ……！」
「そ、その禍々しい気配……使って大丈夫な奴なの！？」
「今使わないよりは、ましだ」
「……分かった」
グレンくんにもあれは劇物だとすぐに分かっただろう。
