二百三十四A生目 国宝
グレンくんが振り抜いた刀は確かに人形を捉えた。
上段構えに対しての胴薙ぎ。
しかし。
身をわずかにひねると刀が鎧の上を滑った。
「はっ!?」
鎧の力だ。
硬い以上にずらされた刃が食い込まずぬるりと滑る。
表面に塗られた加工が見せた技。
次に早いのは大太刀。
人形は上段からの斬撃をあますことなくグレンくんの頭へと叩き込む。
そのままでは大ダメージだが。
「ふんっ!」
クライブはもともとグレンくんの攻めが成功失敗どちらでも人形は切ってくると読んでいた。
ある意味グレンくんもそうだ。
グレンくんは何も言わずにかがんで……その上を巨大で肉厚な刃が滑り込んで来る。
大太刀と巨剣が交差し互いに弾き合い。
「ッ!」
グレンくんが返す刀で足元を斬りつける。
人形は切り払いながら下がり刀を避けた。
それでも浅くは入ったが。
ふたりは念話してイメージを共有して攻めているはずだ。
それでもまるで勝てていない攻防である。
剣ゼロエネミーも追撃として袈裟斬りにかかるが兜でぬるりと刃が滑る。
これでは斬撃どころか衝撃すら与えられない。
あくまで切り裂けないわけではないはずだ。
だが現状打点はない。
足元の一撃もたいしたものではなかったし。
攻撃をいなし直撃をひねって回避するあたり攻撃が通らないわけでもないだろう。
互いの刃がきらめく。
それは光としてあたりに散り。
斬撃の跡を残していく。
空中にきらめくそれらはほんの僅かな時で消えるが……
互いの刃が振られる速度はそれを越える。
先程の連撃みたいなことをほんの僅かな秒数で繰り返していく。
1手1手に致命を狙いに行く連撃。
数秒の間に周囲が光で埋まっていく。
互いに浅い傷を作っていくが人形にはろくにインパクトを与えられていない。
しびれるような衝撃自体が大きな内部破壊の傷でもあるのだ。
それらの勢いをぬるりとよけられてはこううまく決まらないわけだ。
つまるところ立ち回りを変える必要がある。
「穿て!」
剣でのお試しは終わりだ。
グレンくんが風の刃を放つ。
牽制にもならず大太刀で薙ぎながら突っ込んでくる。
それでもいい。
手数が増えれば状況が変わる。
気にせず連続で唱えながら刀で大太刀を弾く。
クライブは大剣に炎を宿した。
衝撃斬撃の通りが悪いのなら焦熱。
単純ながら1番効果的な解決策だ。
大太刀が鋭く突きしてくるのをクライブは身を買わしてよける。
そこから流れるような横払いを大剣を振って払う。
重さという点でいえば大剣のほうが勝っている。
もちろん技量や動きの勢いそれと姿勢にパワーも歓迎してくるため絶対有利を取れるわけではないが。
それでもかなり有利だ。
「ハァ……!」
ついにクライブは大太刀ごと振り切り人形が吹き飛ぶ。
人形の力がクライブの大振りに負けたのだ。
打ち上げられ低く飛んだところに剣ゼロエネミーが飛ぶ。
剣ゼロエネミーがスキの大きい体に複数回切り刻みクライブくんが先回りしていく。
ほんと切り裂きが全然入んないな!
何も当たらないわけじゃない。
スキが出来た今斬ったからわかる。
わずかな斜め方向全て滑った。
その代わり鎧に対して直角なら当たる。
硬いからぶった切れるわけじゃないがしっかり斬撃の跡が残った。
衝撃も入る。
……いややっとそんな序盤の糸口みたいなもの掴めたわけだが。
「それって! なるほど!」
そしてふたりともそれを見ていた。
グレンくんは素早く刀を構えなおす。
人形も地面に着地する瞬間に姿勢を直した。
大太刀をグレンくんの方へと振っていく。
とはいえ先回りしていたグレンくんのほうが振りは早い。
金属の光が当たる音が響き連続で弾き合う。
そして風魔法で斬撃。
それも弾く。
早い刀。それも弾く。
そうしてわずか数秒で10回以上切り裂いて行った先に。
大太刀での手数が足りなくなった。
素早い兜割りによる頭部への切り裂き。
斬り……裂いた!
「ホウ」
鎧に刀の切り傷がはっきり残る。
とんでもないパワーでとんでもない能力の刀。
そういえば勇者の剣は使えない状態だけれどこの刀も明らかに異常な物質だもんなあ。
グレンくんは勇者のころ武器の価値を引き出しすぎて刀なんて枝みたいなものだった。
ポキポキ行く。
今はそれほどじゃないとはいえやはりかなり武器が損耗してしまうはずだ。
それなのに振り回す刃に陰りは見られない。
ゼロエネミークラスの武器かも。
つまるところ勇者の剣並ということである。
どこで得たのか国宝クラス。
まあ本当に初めて見たので秘蔵なのは間違いないだろう。