二百三十三A生目 剣域
クライブは大剣を片腕で構え上部から迫る。
グレンくんはさやに収めた刀をわずかに抜き身構え地面を駆けていく。
そうして挟撃の構えとして上下からあぐらをかく人形を襲い掛かった。
人形の姿はあぐらをかいているだけの異常さではない。
その姿はまるで騎士。
兜と鎧を身にまとい全身が重い守りを手に入れている。
だがそれは人形の姿としては異質。
人形は自身の硬い木材肉体で防ぐ。
ゴーレムだし。
この姿はかなり異質でなんとなく恐ろしい。
静かに待っているというのもなんとも恐ろしい。
その背にある大きな刀も恐ろしい。
「無粋ナ乱入者ガマタキタカ」
グレンくんの刀は既に鯉口を切りクライブの大剣は直下へと鋭く振り下ろされている。
必殺の陣形に対しで人形は片側しかない目を見開く。
もう片側は鎧で完全に覆われていた。
きらめく一瞬。
暗転したかのような強烈な攻撃たち。
しかして何かが斬れた音はしなかった。
「ぐっ……!」
背負った大太刀が引き抜かれていた。
器用に上下それぞれを力強くはじき飛ばす。
まるで柳のようにしなかかかつ強靭に刃を振るった。
そう大太刀。
人形が内蔵された武装ではなく完全外部の武器を5指で持って握力で振るっている。
明らかな異質。ゆえに戦闘長なのは確実だった。
剣ゼロエネミーも襲いかかったが丁寧に刃を返された。
あーこの感じまずい。
武器の師匠と手合わせしているときのような感覚すらある。
つまるところ手ほどきされているかのような丁寧な斬撃。
全然威力を出せた手応えがない!
「強いな……」
「マズハ戦えるモノカ。ナラバ良い。吾ハ弱者ニ興味ハナイ」
「お褒め預かりどうも……!」
目の前の地上へと立たされたグレンくんとクライブ。
グレンくんの顔に冷や汗が流れた。
互いの剣の間合い……剣域をたがいが干渉する距離。
それなのに騎士風人形はあまりにもの静かだった。
これまでの量産人形とは明らかに違う。
「剣域を感じる、か」
「みたいですね……」
クライブの言葉にうなずくグレンくん。
これまでの人形は剣域などわからず剣域展開なんてやってこなかった。
腕が届く範囲の射程圏内であって視覚情報のみに頼っているからだ。
だがこの人形は違う。
明確にここからは自分のエリアだと主張する範囲が感覚的に存在する。
もしここにフラフラと敵兵が来たら何かあったのかわからない間にぶった切られるという範囲が。
今私は剣ゼロエネミーの中にいるから手に取るように分かる。
前方10メートル以上が決死圏内。
後方まで広がっており上も下も視覚はない。
迎撃圏内ならば少なくともずっと遠くまで届く。
クライブやグレンくんは少なくともそんなに遠くない。
格上だ……
「どうやって斬る……?」
「相性が良いって、そういうことか……」
クライブとグレンくんはそれぞれ想いを巡らせる。
この戦い相性が悪いように思える。
実際のところはただ格上なだけだ。
もし銃撃や魔法の後衛がいたとする。
おそらく彼らは圏内に入った時に成すすべなく斬られる。
数が増えればそれだけただカカシのように斬られる。
まともに斬りあえるという点で希少なふたりなのだ。
「デハ、死合オウゾ」
大太刀がゆらり。
しっかり立ち上がり上段に構える。
攻撃的な姿勢。
全員がまともに動かないのは恐ろしさからだ。
動けば斬られる。
そういう幻覚が常に襲う場。
それは人形にとっても同じ。
斬られたところですぐに死にはしないが……
1本とられるということを嫌がっているのか。
そしてそのイメージを相手に持たせている時点で勝負が成立している。
目に見えて緊張するのは生き物のサガだが……
戦闘長も見た目ほど余裕があるわけじゃないのだ。
「やる、かぁ……」
当たり前だがその上で攻めたほうが有利だ。
互いの戦い想定が確実に煮詰まって見えてきてきているだろう。
1手目。5秒後。30秒後。
互いがどう動きどう攻めてどう防いだか。
全員の脳内でシミュレーションがされていく。
互いが剣域圏内だからそのシミュレーションは高い精度を誇るだろう。
逆に言えばそれが収まり先への道がオーラのように見えた瞬間。
全員がそれを掴みに動く!
手が遅れればそれも死で早まっても死。
最も優れたタイミングで動こうとして全員が同時に踏み込んだ!
「喝ッ」
「ハアァ!!」
「ヌッ!」
まるで示し合わせたかのように剣の振りが互いにかち合う。
ただ武器は同じ剣といえど大きく種類が違う。
最速は刀のグレンくんだ。
グレンくんの振り抜かれた刃はまっすぐに光を帯びて人形を切り裂きにかかる!