二百三十二A生目 無人
戦争でぶつかり合い魔法と矢と弾が飛び交う空間ではまっとうな戦力ではまっすぐ歩くことは難しい。
さらにはあえて無視して進むなど正気の沙汰じゃない。
それをやるニンゲンふたりは……まさしく異常だった。
「本当にいるのかなあ!? こんなただなかに!?」
「情報精度は確かだ。向かうしかないだろう」
グレンくんとクライブ。
言葉はまるで違うふたり……のはずが。
グレンくんが話していたのは翠の大地に使われる言語だった。
当たり前のように話しているがつい先日まで話せなかった。
なんか1日ヒマしている間に話し言葉を覚えたらしい。
さすが元勇者……スキルがそれそのものないはずなのにとんでもない学習速度。
持ち前のスペックでクライブから言語を学んだグレンくんは戦場を駆けながらもしっかり翠の大地国の言葉を交わしていた。
「言葉、変じゃないかな?」
「いささか硬いが問題ない。ネイティブでなくても意思が伝われば良い」
「よし、もっとうまくなるようにしてみるよ」
超人同士の会話だった。
これを戦場で駆け抜けながらしているのだから……
ふたりが向かった先は戦場のかなり先。
そもそも荒野の迷宮は整備された正面以外めちゃくちゃ道が複雑で入り組み平野が少ない。
まあ荒野っていってるんだからそうなんだけど。
正面道も重力を傾ける仕組みで大通りは直進できているだけだ。
迷宮の仕組みを私が管理していじった部分ね。
壁のような崖やなだらかで遠い橋もまるで平地のように移動できる。
範囲ははっきり舗道されており一目見てわかる。
そこを今がっつり敵軍が占拠しているわけだが……
当然広がるのが荒野ならばそこだけに面々が集まっているわけじゃない。
今現在は荒野の迷宮あちこちで戦闘を起きて戦線が生まれている。
これは半分こちらの策略でもう半分は向こうの行動だ。
向こうは数が多く生かしたい。こっちは膨大な数を少しずつ削りたい。
それに向こうはこっちの土地カンはあまりなく地図を作りながら進んできている。
当たり前だがこっちも軍事的に有利ポジションや有利導線をいくつも生んである。
正面扉破壊からの均衡によりどちらも小手先をしたい頃合いということだ。
それに向こうの軍は完ぺきな統制とは言えない。
やはりある程度自主性が見られる。
魔物たちの群れが各々やりたいようにアノニマルースを攻めているわけだ。
人形たちはいるもののやはり荒くれを統治するのは限度があるからね。
人形たちの意思にさえ沿えばある程度自由にやらせている。
「情報通りならそろそろ見えてくるはずだな」
「気をつけろ。戦闘長というのは、今まで戦っていた量産型とは一線を化しているらしい。特化しているから、戦い慣れていても上をいかれるぞ」
「もちろん。数的有利は絶対条件だな」
コレまでの交戦でも有利を取れているか数的有利か初見殺しでしか勝った報告はない。
しかもみんなボロボロになって。
実は敗退報告はその10倍はある。
その報告そのものは軍上層部が握っているためみんなは知らないが。
だがどんどんと運び込まれるけが下魔物たちがいる。
肌感覚で順調においつめられているのがわかってしまう。
今回も戦闘長1体のためにこれまで保存しておいたふたりをわざわざ投下することに決めた。
彼らは軍人ではないが承諾してくれている。
戦えるものとして。
これでもかなりけずっているが今までの情報からして戦闘長に数押しは犠牲の数をいたずらに増やすだけだと判断されている。
ふたりと戦闘長撃破を経験している剣ゼロエネミー。
このチームこそが今回の相手に最適だと送り出されてきた。
「俺たちはこの先もあるから、出来うる限り完全に勝ってほしい、だなんて無茶なオーダーも受けましたよね」
「ああ」
「今回は今までと違って多少は情報があるから、なんとかするしかないな……」
ふたりが駆けていくのは崖のスキマと隙間。
飛ぶと音が立つのでわざわざ蹴って加速し風切り音を最小限にしていた。
地面を蹴る音も正直この戦場ではあまりに溢れた足音の1つで目立たないからだ。
ふたりの動きは冒険中としては非常に目立つ。
しかし戦場としてはたった2つの影。
さっさと消える少ない何かに注目を払うより目の前で斬り込んでくる骸骨のほうがよっぽど脅威度は高く見逃される。
そして偵察班から連絡を受けてたどり着いた先。
明確に意識して挑む初の戦闘長戦。
これは反撃ののろしだ。
「いたな」
クライブの指摘通り。
そこの崖上に静かにたたずむ人形が。
周囲に敵兵の姿すらない。
ただ孤独にあぐらを組み静かに待つ。
その姿が1番恐ろしい。
グレンくんとクライブはふたりで急襲した!