二百二十九A生目 親子
ソレはダカシの口から出たと思えないほどに緩やかだった。
先程まで叫んでいたニンゲンが話すとは思えないほどに明瞭で。
そして異様なほどに心を揺さぶられる。
まるでとろけ誘うような甘い言葉にも。
妖しくも心をなぶるかのような。
残虐で嗜虐的な声が重なった。
「「膨らめ」」
大量に刺さった剣が結界の中に入り込み。
結界を内側から破壊していく。
大量のエネルギーが送り込まれ一瞬で膨れ上がり。
爆発した!
ついには16になったダガシの剣からそれだけでは収まらない力の渦が放たれていく。
獅子としての形を得たエネルギーは巨大な威力そのものとなり。
「マサカ!」
ウォイズを一瞬で飲み込み砕き吹き飛ばしていく。
結界竜が全て砕け散って……
ここで勝利したことがはっきりした。
ゼロエネミーと触手がダカシたちに向けられる。
「「おや?」」
『ダカシを返してもらおうか』
「「必要だと引き出されたのに、なんともひどい。悲しいね」」
『その声で、話すな悪魔。ダカシの中で力だけ貸していろ』
そのダカシらしい声の持ち主は喋るたびに心をざらつかせる。
笑顔があまりにも妖しい。
そのダカシたちがおぞましく笑って一か所に集っていく。
ダカシとダカシの境界線が消えていき肉と剣が全てくっついていく。
景色としてあまりにおぞましい。
まともな生き物として成り立っていない。
ぐちゃぐちゃと音をたて互いの肉を食らいあう。
蠱惑的でどこか禁断の行為のような雰囲気。
「「残念。いずれ仲良くしよう?」」
『永遠に来ないことを願うね』
拒絶だけは本当に残念そうに悲しみをたたえた表情をする。
そして……全てのダカシは1つのダカシになる。
この表現が正しいかはわからないがダカシはひとつとなった。
「……ん、戻ったか。ってアカネ!?」
『ダカシ、一体あんなやつに体をあずけるなんて何を考えて「いやそれよりも! その体、半分以上凍ってるじゃないか!」
ダカシが遮って話した通り既にアカネの体は半分は氷雪の中に閉ざされていた。
動けるのがギリギリだ。
『ああもういちいち心配しない! いま溶かしているから!』
「そ、そうか……ありがとうな、そんなに体を張ってくれて」
『それダカシがいう……? 説明してもらうよ、今の現象を』
アカネが呆れつつたずねるとダカシは思い返すように考えながらうなずく。
ダカシ自身はさっきから頻繁に自分の身を触って払って整えていた。
何か気になるらしい。
「ええっとあれは……なんていえば……そうだな……俺の子だ」
『は?』
「怒るなって! 俺も完全に把握しているわけじゃない! ええっとなんだったかな……」
ダカシは爆弾発言をしつつも本人自体がしっくりきてなさそうに頭をかく。
「端的に言うと今の俺の中にいる悪魔ラバーが引き出せた能力は繁殖というもので、力の一端は今見てもらった通りだ。俺が増える。しかも俺の増えた数分俺が増える」
『それ、私の物理分身と何が違うの?』
「かなり違う……厄介なことに。お前は本物がたくさんの肉体を持った偽物を作る技だ。というか、ほとんどの分身系能力はそうだ。俺の使ったのは異常で、分神じゃあない。親が自身と同じ姿の子を産んでるんだ。過程を全部省いて、結果的に子が成るという概念だけ。剣も服もこの状態なら自身の一部扱いだから増える。そして全ての意識は引き継がれていて、統一化されている。俺から分かれているけど、俺の体のような……説明難しいな」
単植繁殖に……細胞分裂に近いことをしている?
ただそれを『全て』にやるのはかなり脳が狂いそうだが。
……ああそうか。
『いや、何を言っているのかさっぱりなんだけれど……』
「そう、俺も全部分かってやってるわけじゃない。というか、俺だとできない。俺がふたりいるってだけで頭がおかしくなってくる。だからラバーに託すしか無いんだ」
『そんな恐ろしいことよくやるね……?』
「まあ、そう。そう思われるのもわかるけれど、これでもラバーは奇跡的に
ちゃんと言うことを聞いてくれるんだ。ほんと、メチャクチャ、かなり、すごくあったからな……」
ああ。ダカシがどこか遠くへ目線を飛ばしてしまった。
戦い方1つみても明らかに直近まで苦難を乗り越えていた証だった。
防御術もしっかり冴えていたし。
思い切りも良い。
逆に言えばダカシが元々欲しがっていた妹との平穏無事な生活……なんてものは縁遠く生きていたってことだろう。
うまくいかないもんだね。
ただそれが今ここにつながったのだが。
『で、最後のメチャクチャキモいのは?』
「全員本物だから、とりあえず全部くっつければもとに戻る……らしい。いや、その顔されなくてもわかってるよ! 俺もわけわかんないんだからこの力!」
明らかに人知を超えたものなのは確かだった。
ダカシとアカネ勝利!