二百二十六A生目 結界
「あ、アカネ!」
「私は、平気、それより!」
「っ! ああ、分かった! アイツの結界は表面的には恐ろしく硬い、けれど中からの圧力に弱い。魔力を通して貫通できた。単に魔法をぶつけただけだとわからないけれど、あの結界は多重構造になっているんだ!」
「うん、わかった」
アカネが顔の血を拭いとる。
その間にダカシと剣ゼロエネミーが空中にある結界と魔法を切り裂いていく。
「それとっ、武装だ! アイツは人形たちが装備する武装をほとんど持っていない! 多分遠隔に特化した個体なんだと思う」
「戦闘長、ってやつか」
アカネは再度肉を増していく。
当たり前だがアカネ自身の生命力は無限じゃない。
喰らい捨てればそれだけ減るものがへる。
なじんだコアはアカネの心臓部としてどんどんとエネルギーを生み出していく。
とはいえアカネのそれは理性で抑え込める範囲。
もしタガをはずすと理性が飛んでしまうだろう。
だから戦える範囲で全力を尽くすとどうしても供給が追いつかない。
戦闘力は無限のエネルギーよりも冷静な立ち回りのほうが上回ることがある。
アカネの戦いは己との戦いだ。
「はぁ、ああああぁぁぁ……!」
自身の内側の力を引き出すようにアカネは身構える。
対してダカシは冷静に戻り剣を構え攻撃に備えた。
静と動ふたりの構え。
「私は偵察遊撃部隊の怪物アカネ!! 私達の恩人をさらったお前たちは赦さない!」
「月解放軍戦闘長がひとり、ウォイズ。魂ガ堕チル先デ名前ヲ持ち帰るトイイガネ」
「ダカシだ。妹を傷つけるやつは殺すし、アイツ自身には言えないが……感謝しているヤツを捕える奴は殺す」
この中で1番ブチギレているのはダカシだった……
ダカシは剣に力をまとわせながら前に出る。
アカネはふたたび髪を伸ばして切り落とした。
攻勢が一瞬で整えられる。
しかし人形ことウォイズもまったくもって油断も隙もない。
構えを変えて空中を結界で移動しつつ何かを唱えている。
先ほどとはまた違うがまた悪寒のする何か。
ゼロエネミーは変化。
刺突剣ゼロエネミーだ。
先端が鋭くそして長い。相手を刺すことだけを考えた刃。
「ぶっ刺して!」
ダカシが結界の一枚に剣を思いっきり刺す。
「爆破する!」
アカネはあまりに大きすぎる蚊のような頭の角を生やしそれを結界へ。
一瞬で膨大なアカネの中のエネルギーが送り込まれ。
結界がまるで使いすぎたバッテリーのように膨らむ。
そし2枚の結界が一瞬で爆破された!!
「僅かタッタ1つ壊せた所デ何モナランガネ」
だが結界はいまだ多く有る。
なぜなら次々生み出せるから。
もちろん同時維持数は限度が有るだろうけれども。
ウォイズは高くその身体を浮かせていく。
そして本が燃えた。
明らかに異常な行動にアカネたちも身構えて観察する。
「戦いハコレカラダガネ?」
燃えた紙が散る。
ウォイズは悪辣な笑みをこぼしながら両腕を振り上げる。
すると何かが……ウォイズの周囲の空気が生物的にうごめく。
「な……なんだ……この圧……!」
「一瞬、見えた……やられたっ」
「結界展開、ドラゴニック」
ちらりと一瞬光を通して見えた造形。
それはウォイズの全身を覆ってなおより広く大きく。
それは結界というよりまるで生物で。
巨大な竜のような結界が生み出されていた!
「そんなの、ありかよ」
ダカシは汗をひとつこぼす。
ウォイズは既にもう片手に新たな本を用意していた。
つまるところウォイズはまだ本気を出していなかったのだ。
「コンナコトデ本ヲロストシタクハ無かったノダガネ」
「うわっ!?」
「ソチラガソノ気ナラバ仕方無いガネ」
「ちょっ!?」
「全力デ叩き潰すダケダネ」
「「うわあっ!?」」
今目の前で恐ろしい光景が繰り広げられている。
何もない空間に……殴られているふたり。
結界という何も見えず殺気も生物気配も空気の動く音以外聞こえない何かで。
彼らはギリギリ眼の前に来たなにかに対処はできる。
だがそれは本当に見て身構えるだけのもの。
ふたりは見る間にボコボコな姿にされていく。
「あ、アカネ、血は!?」
「ぐっ、だめ、ちょっとした血液じゃあ、弾かれてる!」
確かに着色は最もこの場で考えられる対策だ。
しかして少量の血をかけたところであっさり払われている。
血液量に対して効果があっていない。
……だったら。
刺突剣ゼロエネミーに伝えふたりから距離をとる。
ウォイズを中心に据えて……剣先を向ける。
そして勢いよく水の弾を発射した!
水の弾は1発でもニンゲンの頭を覆うくらいのサイズ。
ウォイズ付近に当たると弾けた!