二百二十三A生目 兄妹
人形とアカネ。
ふたりが対峙する中当然足りないものがある。
「おおーい! 待てって!」
背後からの呼び声。
ダカシだ。
私こと剣ゼロエネミーつき。
ダカシは背中からコウモリのような翼を出して飛んでいる。
ただあんなコウモリの翼はないが。
なんでハート模様だのラメだの入っているんですかね。
どう考えてもジャグナ―の中にいる悪魔の魂の欠片による意思だ。
前まで意思疎通が出来ていなかった。
翼なんて出せなかったはずだ。
だからあれからよく進展したわけだ。
「あ、ダカシ! 先に帰っていればいいのに!」
「そんなこと、するわけないだろ!
もう、二度と!」
「あ、ごめん」
ダカシは妹だけを飛び出させることだけは二度とやらないだろう。
小さい頃それをやって離れ離れになったのだから。
ダカシのおもわずの強く言い切る顔にアカネもおもわず怯む。
「仲良しコヨシハモウイイカネ? サッサト終ワラセテ帰リタイノダガ」
「……あれ? もしかしてふたりで真面目に戦うのは初めて?」
「細かいのは置いておくと、ガチのは初めてだな……」
「そ。デビュー戦としては悪くないんじゃない?」
アカネが拳を戻し元の細身な子どもらしい体に戻る。
出しっぱなしだと次何をするかわかりやすいからね。
そこらへんの訓練に付き合ったので知っている。
そしてアカネは……
「デハ、サッサト死んで貰うカネ」
「ぶっ壊す!!!」
……バトルジャンキーだ。
凄まじい速度でアカネが前に出る。
結界は修復されている。
話している間にちゃっかりだ。
ダカシは見送る前に何か唱えだしている。
剣ゼロエネミーも直線的に向かっていく。
「ウガッ!」
アカネが振りかぶる前に何かへぶつかって不格好に叩きつけられた。
あのガラスみたいな挙動。
結界か!
「来るト分かってイテ放置スルワケナイガネ?」
悪辣な笑い声が人形からもれる。
「アカネ!」
「へー、きへーき……!!」
ダメージは大してない。
そのかわり時間がかかってしまう。
魔法が発動した。
さっきまでの氷ではない。
アカネの体が風の刃で切り刻まれる!
「おおっ」
アカネは結界を蹴って位置を変え体の全身を切り刻む風から距離をとる。
光がハッキリしていて見える分威力は高い。
アカネじゃなかったら普通に危なかったかも。
「血ハ出ているガ効かんカネ?」
「さすがにナメすぎじゃない? 私、弱くないんだけど?」
「デハコレハドウカネ」
とたんに空に雷雲がつのる。
そして……突如雷が落ちた!
剣ゼロエネミーが受けたが。
剣ゼロエネミーは雷撃吸収だ。
エネルギーを全回復!
「まあ? すさまじい威力だね。関係ないけど」
「フム、雷殺しカネ。ナラバ別の」
「忘れてないか俺を!」
ぶん殴る勢いでダカシが割り込む。
ダカシの魔法はかなり小器用だ。
大きな威力を期待するというより相手を妨害し味方を輝かせる。
人形の周囲から闇の色をした鎖が伸びる。
鎖が巻き付く光で一瞬にして巻いたかと思うと消えた。
そして新たに鎖が伸びてアカネの腕にも巻き付き消えた。
「何今の!?」
「距離魔法だ! アカネが思い切って戦うための!」
「攻撃能力ガ無くて結界デハ防げナカッタカネ。コレノ効果ハ……」
「とりあえず、悪いものじゃなければいい!」
アカネがふたたび飛んで結界を避ける。
当たる直前までわからないけれど逆に言えばギリギリまで近づけばなんとか見えるらしい。
高速で無理やり飛んで無茶苦茶な軌道で迫っている。
アカネのバトルスタイルは豪快の一言。
肉体の複雑な変化による繊細な操作のわりにそこからひねり出される強力な力で相手をぶん殴るスタイルだ。
あっという間に人形へひっ迫すると人形の姿がかき消えた。
「あっ!?」
「付き合ワケナイガネ」
人形がワープして豆粒程度まで小さく見えるようになり。
「カネ!?」
グンッと人形が突如引っ張られる。
それはアカネの方向にだ。
「なーるほど」
アカネの腕に鎖が一気に引き込んでいた。
アカネの動きが阻害される気配はない。
アカネはニヤリと笑う。
腕変化足変化肩変化体部変化。
全身巨大化。剛力かつ重厚。
ドラゴンの翼で一気に加速。
両腕を1つ合わせ巨大な刃へ。
ああいう魔物はいるけれどそこからさらに変化させて大量に生やした腕を1つにしてある。
脚すらも巻き込みまさしく突貫体勢。
音を置き去りに飛び去り。
人形は体勢を崩していて。
「貫け!!」
刃が結界に深く刺さり……
そのまま向こう側へと突き抜けた!