二百二十二A生目 変異
ダカシたちが見つけたもの。
空中に浮かぶそれはダカシたちからしたか音が遠すぎて拾えないだろう。
ということでちょっと聞き耳を立ててみた。
「全く、コレハ私ガヤラナケレバイケナイ仕事カネ? 適当ニ数ヲ集めて砲撃スレバ良イモノヲ。エネルギー射撃で事をスマセラレルだろうに。ソモソモ、現場は何ヲヤットルカネ。ドウセ攻メラレテソレ二カマケテ処理ヲ怠ったノダロウネ。ヤレヤレ、コレダカラ凡庸ハ」
その人形はまさしく異様な雰囲気だった。
まず長髪である。
人形たちの疑似髪は多種多様にあるがみんなほどほどの長さや短髪だ。
あの人形は違う。スーパーロングヘアというやつだ。
しかもまるで手入れされておらず髪の毛が跳ねたいようにはねている。
一切身の回りを気にしないニンゲンならああなるかも……といった雰囲気だ。
さらに服装も変だ。
ダボダボの白服で服には様々な色の汚れが。
目の悪くならない人形がメガネまでかけている。
それと……空中に立って魔力結晶体を見下ろしている。
人形たちはみな飛行能力はある。
翼とかでブースト噴射して飛び回る力。
けして空中に生み出された結界の上に立つ力などはない。
あとなんかずっとひとりで喋ってる。
コワ……
「全ク、面倒ダ。魔法デ吹き飛ばセバ速いカ」
そして堂々と本を構える。
戦場だとは……そして眼下では惨状が起こっているとは思えないほどゆるゆるとしていた。
しかも魔法である。
魔法を使えば感知される。
それを知っていてなおまるで無警戒な動きだ。
そして唱えだすと雰囲気が一変する。
周囲が圧を感じるほどの魔力が漂い出す。
強すぎるエネルギーが集まった結果風圧すら生まれている!
こんな隠す気がさらさらない魔法の使い方をすれば当然魔力結晶体には感知される。
巨大な土エレメントが人形を捉えた。
人形の真上と下から大地が生まれ隆起していく。
「カカッ」
笑い声が響く。
すると上下からすり潰そうとしていた地形が何かに阻まれた。
結界だ。
「知性ナキ魔法デハソノ程度カ」
お返しと言わんばかりに魔力が形を成す。
盛り上がった冷気が形をなして一瞬で吹雪く。
それは冷気の風。
もし魔力をそう見れないものなら侮っただろうけれど……
結果は土エレメントが体を張ってみせた。
一瞬で風を浴びたところが凍結。
そのまま凍結は全身へと広がって。
一瞬でカチコチに凍ってしまった。
「全く、ツマラナイ的撃ちダネエ」
そして小さな氷塊を撃ち込むと着弾したところからヒビが走り砕け散る。
大きく全身が砕け散り全てが壊れた!!
恐ろしい強さだ。天変地異を起こしていた相手を一方的に完封した。
下の軍勢たちなんて何が起こったかすらわかっていない。
しかもおまけみたいに次々と氷塊が小型の土エレメンタルを撃ち抜いている。
あれほど大荒れだった場が一瞬で片付いてしまった。
「私ハ研究デ忙しいンダ。モウ呼バナイヨウニ」
「た、助かった……!?」
「あれほどいた結晶どもが一瞬で……」
それはまさしく嵐のような出来事。
人形だけがのんきにしており帰ろうとして。
「ハッ!」
「オヤ」
結界がガゴンッ! と重たい響きが鳴る。
結界の形が大きく凹み人形を遠ざけた。
「ココデ襲いカカッテ来ルカネ?」
「当然! あんた、強いやつでしょ!」
「戦闘ハカラッキシダガネ」
ぶん殴ったのはアカネ。
強烈なパンチはドラゴンの翼で飛んで行われていた。
手は巨大化しガチガチに甲羅で覆われている。
これがアカネの能力。
全身部位変異だ。
あらゆる魔物の因子を取り込んでいるアカネにとってニンゲンの身体は生活しやすい形態のひとつにすぎない。
ふつうこうなったら精神か脳か魂かどれかが壊れるのだがそうはならなかった。
克服自体も幻覚を一月ほど見ていただけだ。
もっとこう……苦しんだり折り合いをつけようとしたりとかあるのかと思ったら当たり前のように楽しみだしたからね……
どうやらアカネは本当に『素質』とやらがあったらしく今こうなっている。
「それにしても、破る気で殴ったのに、まさか完全に防がれるだなんて!」
「野蛮ダネエ、マトモナ教育ヲ受けてイナイノカネ」
「おっと」
当然人形側も反撃する。
ダルそうだが本の構えはしっかりと。
あらゆる方角から飛び交う氷塊を凄まじいまでの速度で飛んで避ける。
ドラゴンの翼がはためく度に人形の周囲様々にその体が移動する。
その速さに魔法をついていかせているのだから人形側もとんでもない。
「ナンダソノデタラメナ動きハ」
「ひゃー、危なかった!」
二人は改めて互いを脅威として見る。
戦いはここからだろう。
……剣ゼロエネミーも合流しなきゃ。