二百二十一A生目 自然
魔力結晶体たちは自我が薄い。
そもそも生物ではないので仕方ない。
自然現象だ。
寒い地域に氷のエレメントが。
熱い地域に風のエレメントが。
マグマの地域に炎のエレメントが。
迷宮内には自然に発生して……時折とんでもないことを引き起こす。
魔力を感知するとその相手に襲い掛かるのだ。
彼らは魔法のエキスパートだ。
さらに一切の物理攻撃を受け付けないという霊体のような特徴もある。
そして自然発生程度のやつならその場の魔物たちとそんなに強さは変わらないのだが……
迷宮になじんでない者たちが戦闘を行いだすと話が変わってくる。
詳しいことは研究中だがとにかく新しいエネルギーが刺激となるらしい。
5人まではどの迷宮でもエレメントパニックが起きたことはない。
そのため冒険者ギルドでは基本5人戦闘までを徹底させている。
まあそれ以上に5人くらいが迷宮内でまともに動ける最大単位でもあるんだけれど……
白帯はこの迷宮のエネルギーに染め上げてある。
だから味方軍の中で普段アノニマルースにいないメンツもエレメントパニックを引き起こす率がほぼない。
ここらへんは私が迷宮の管理者ゆえに出来る裏技のようなものだ。
だけれども敵はそうじゃない。
荒野の迷宮ができうる限りエレメントパニックを起こさないようにしていても……
万単位で戦闘が行われれば話が変わる。
そもそも5人がどうこうという話だったのにそんなにきてあばれるのだから。
エレメントパニックが何を起こるかと言えば……
「あぶねえ、伏せろ!!」
戦場で誰かの声が響く。
……巨大な岩塊が突如あちこちから落とされた!
魔法だ。とんでもない威力と規模で敵軍が一気に薙ぎ払われていく。
最初のころはおそらく適度処理を行って間引いていたのだろう。
魔法結晶体は発生したてが一番こわくない。
だがこちらの反撃が始まってどんどん手が足りなくなってきた。
エレメントパニックは魔法結晶体の大量発生からのそこから引き起こされる惨事について指定災害。
魔力刺激によりどんどん発生する魔法結晶体。
そしてさっき話した通り魔法なら反応するのだこいつら。
つまるところ……発生した魔法結晶体自身を魔法感知して襲い掛かる。
それだけならまだいい。
だいたい属性が同じで同じ属性だと吸収していくのだ。
やがてどちらかが大きくなり喰う。
そして次々と魔法結晶体が生まれ魔法ぶっぱなし喰いあう……というのが繰り返されていく。
当然原因となった犯人たちも感知され襲われる。
「ええぇ……いきなり天変地異が起こりだしたんだけれど?」
「誰かが間引きをさぼったんだな。忙しさにかまけて。ものの数分でこれだ」
本来そっとしとけば何もしないし何も起こらない迷宮の風物詩みたいなやつらが一瞬で巨大化し吸収して強力化してどんどん繰り返されることによる余波を食らう。
それがエレメントパニックだ。
「ズウオオオオオオオ……」
声ではないと思う。
あの大きすぎて魔力がまぶしいほど高まっている土塊がうごめく音だろう。
観察しなくても分かる。あれめっちゃ強くなってる。
ちなみにエレメントパニックが起きたときの最良の選択肢は『全力でその場から逃げる』だ。
もともとひと季節越えられないはかない自然現象の彼ら。
急激な超強化により消耗がマッハになりその場が大荒れになった翌日きれいさっぱりなくなることも珍しくはない。
彼ら軍勢にそんな小回りが利くか? という多大な疑問がここに残るが。
「あーあーあーあーあー……逃げれないよなああの数じゃあ」
「うわ、私たち結構走ったのに本体が見える大きさになってる。地殻変動起きているし、これウケる」
「味方軍も巻き込まれているし、かなりシャレになってないけどな」
起こるかもしれない。
そういわれてあくまで一般人扱いのふたりは協力を申し込まれ承諾していた。
すでに合図は送ってある。味方軍は全力後退しているため実質被害はないがすぐそばを岩槍が生えていく光景はどう見ても危機一髪。
敵軍は完全にひどい。
横側にしっかり5メートル以上大きくなってしまった魔法結晶体がおり小型もぽこじゃか追加でわいて魔法を放っている。
軍同士の戦いは戦略上敵をキルするのではなくボコボコにするのが主体だが第三勢力の魔法結晶体はそんなことおかまいなしだ。
もうこういうトラブル自体が戦略的に味方軍も被害を受けている状態と言える。
単なる余波で命が散っていくのはかなり気分の悪いものだ。
自然災害のキバはいつどんな時代も最も恐ろしい。
そして、それを食い止める奴もこの世界にはいる。
「あ、ダカシ見てあれ!」
「……来たか」