二百二十A生目 恩義
帝国が来る。そして大河王国も来る。
ダブルブッキングである。
うれしいがこの2国は歴史的に仲が悪かった。
なので帝国と大河王国でめちゃくちゃモメたのだ。
まさか戦場で揉めたままの2国を並べるわけにはいかない。
そもそも政治的やり取りが多く行われまともに参戦することができるかも不明だった。
その状態を皮肉っていつのまにアレ呼ばわりされていた。
だが実際すんごい勢いでドタバタを片してやってきたらコレである。
精鋭たちが選ばれやってきているはずなんだけれどすさまじい人数と勢いでの行進だ。
「帝国でこのメンバーを選出するのが大変だったんだ」
そこには久々に見た顔が戦術塔にいた。
辮髪かつ蓄えた髭の長い威厳のあるおじいさん。
彼は帝国での地方を任される王だったはず。
私の……というか剣ゼロエネミーを見かけて独り言のように流す。
「全員、あの時の恩をとすさまじい気力でな……まあ、鍛えなおした腕の持って行き所を探していたのも事実なのだろう。今ここにきている者たちはまさしく選ばれし英傑たち。数合わせはひとりもおらん。存分に頼ってくれ、アノニマルース。それは帝王の意思だ」
帝。前の戦いで一命を取り留めたが健康を維持できているというのとは別。
もともと表に出て敏腕を振るうタイプではなく象徴的存在だったのにより内へ籠ることとなった。
つまり病人である。虚弱体質を引きずって戦場に来るような愚行は当然しない。
だが彼ら帝国民は帝その人を尊重している。
特に地方の王ともなればなおさらだ。
それから伝えられた帝王の意思は重く意味が強い。
この戦いは帝が見ている。
国家の威信をかけた戦いだ。
そう宣言しているのと同じだった。
これはもはや彼らの戦いである。
どうしても他国介入というのは他人事だ。
状況が悪くなれば手を引いても帰る場所があるのだから。
だが彼らは自分ごとにして士気を限界まで高め突っ込んでいってくれた。
これほど頼もしい援軍もない!
「進めー! 数を押し返せ!! 道を作るんだ、敵の要への!!」
指示の声が響く。
そして軍全体に強化術式が入った。
彼らにもこちらの作戦は提示してある。
まず戦闘長を引っ張り出して叩く。
大型人形はこっちの大型魔物としばきあいをして下がらせて時間稼ぎ。
異様な敵の量は時間をかけることで向こうのリソースに負担をかけつづけていく。
アノニマルースの反撃が今始まった。
「エレメントパニックが起こりだしているな」
「まあ、これだけひしめいていて今まで起こってないのが異常だったんでしょ」
小高い崖の上から偵察するふたり。
ニンゲンながらふたりの風貌はどことなく独特だった。
「おそらくはいままで軍力で封殺できていたんだ。あまりに強い暴力は、迷宮のシステムすら黙らせる。もともとこの迷宮は起こりにくくされているってローズに聞いたし、白帯は迷宮になじませる効果を込めてある。だから味方側ではエレメントパニックは起こっていなかったしな」
ひとりは青年。
黒の毛皮を持つ首のたてがみのないライオンのような姿。
なにより本人の漂わせる雰囲気にしては服装がファンシーだった。
フェミニンにギリギリつっこまないようなそれでいて本人にマッチした不思議な姿。
あれは彼の中にある悪魔の今日の気分ファッションであり強固な武具でもある。
魔人ダカシだ。
「そうだね……ダカシ、一回撤退するよ。巻き込まれたら楽しくなっちゃうし」
「さいですか」
そしてもうひとり少女。
明らかに年端もいかない見た目ながら雰囲気だけはまるでニンゲンのそれではないひとり。
全身はあまりに軽装で戦場にいる気配はない。
ただしその中身はニンゲンの形に押し込めた、改造されしモノ。
改造体の『成功』品。
人造魔人アカネだった。
ふたりは兄妹で今は軍の指示により偵察任務を行っていた。
とある予兆について察知するためだ。
それがエレメントパニックというもの。
「初めて見たな、エレメントパニックなんて」
「そうなん? 冒険者していたのに?」
「ああ。というより冒険者のほうが見たことはほとんどないんじゃないかな。冒険者が少数……最大5人程度で潜る理由は、エレメントパニックを避けることで、必ず伝えられる。エレメントパニックを故意に引き起こせば場合により刑罰もあるしな」
「……そんなにヤバいの? あのふわふわ浮いているのが?」
迷宮はエネルギーが満ち満ちている。
それが自然に発生する魔物がいる。
それが魔力結晶体系の魔物だ。
ほとんど不定形でふわふわ浮いているので見た目は地味だが……
魔法を感知すると爆弾よりも危険な存在として牙を剥く。