二百十九A生目 帝国
キサラギの絵画ははっきり言って詐欺だった。
キサラギを確かにうまいこと違う世界線でちゃんと育ってしかも年齢を重ねたらこうなる……みたいな。
じっさいはお肌つるっつるのちっちゃな男の子にしか見えないわけだが。
しかし実際のところキサラギ自身はそれなりの年齢と聞いた。
少なくとも成長期はもう……
うん本人が気にしていることは触れないでおこう。
面白いのは写し絵の箱……つまり写真でも似たような絵が出力されるということ。
これはただ個人によるイメージをいじった幻覚ではないということだ。
「権威の神、リュウの加護がかかった品は、オレを見る目がないやつらのファーストインプレッションだけはごまかしてくれる」
「ほんと眉間のシワの寄り方だけは同じですね」
「お前尊重という言葉知っているか?」
リュウの息がかかった認識阻害一式。
それらはハリボテ以上に神力を持った意味のある品になっている。
パブリックイメージの権威たる姿を大多数に見せつけることができるのだ。
ただしあくまでイメージだ。
実際の中身が伴わねばいずれ破綻する。
前王は権威の力に喰われ破綻した。
加護といいつつリュウはニンゲンが大きすぎる権力に喰われることをまったく止めることはしない。
キサラギはそれに対して警戒しケアして蝕まれないように割としっかり警戒している。
手紙やり取りしているアール・グレイが周囲を巻き込みつつちゃんと監視しているそうだ。
「ふたりで話しているところ悪いが、俺は結局ここにいて平気なのか? その権威とかいうやつ、重要なんだろ?」
「重要だ。ゆえに明かす相手は選んである。馬鹿みたいに閉じこもっていては、せっかく敵を一撃で砕ける銃を持っているのに部屋の中で震えているのと変わらん」
「つまり?」
「その銃を向ける先がいずれ自分しかないと気づいたとき、悲惨なことが起こる」
「ああ……」
つまりわざと権威を抜いていた。
ニンゲンからしたら超殻者でもないのにあまりに強い力に洗脳されないように。
あの事件からしばらくしてキサラギは力との向き合い方を見定めていた。
「それと、赤字らしいな。悪いな、無理言って」
「ああ? ああ、違う違う。別に他国救助に対して文句を言ったわけではない。むしろ大河王国はこれからグローバルな世界にいちはやく乗り出して、世界中から『権威』を受ける国になっていく。だからこそ市民を蹂躙する前提の敵共に文句を言っただけだ。神を名乗る邪霊の尖兵か何かしらんが、あまりに迷惑だ。戦争経済なんぞわりにあわない幻想だ。戦争が起こるかもしれないという状態と起こらなかったという状態の繰り返しなら、まだわかるがな。ああ、今のはオフレコでな。戦争を望んでなどまったくいないが、戦争を望んでいると切り取られるのは困る」
「心配しなくてもマスメディアの目はここにありませんよ」
「口をすべらすなってことなんだよなあ」
明らかにふたりのやりとりは軽い。
ゆえにジャグナ―は若干の場違い感を醸し出していた。
それに不安に感じていたことも結局はなんともなさそうだし。
ただそれらを全部板書きしてみんなに見えるようにするのでジャグナ―が省かれているわけではない。
つまるところジャグナ―の役割は。
「それで、この後の予定は?」
進行役である。
ざっくり会議が進行していく中私は電気エネルギー補充を終えて再度飛び立つ。
ちなみに大河王国が調整に時間がかかったの騎士たちでも皇国への交渉……でもなかったらしい。
1番時間かかったのは……今戦場に直接いる。
ということで会いに来たんだけれど。
「お、押し返せー!!」
「バカな、なんでこんな兵力が!」
「ふざけるなよ、話がちげえ! 骨でもを相手すれば良いんじゃないのか!!」
そこは混戦に……なっていなかった。
戦場で兵と兵が塹壕や壁を盾にしてぶつかっている戦場で混沌さが生まれていない。
敵側には一方的にうまれているが。
そこに並ぶ旗は穢れもなくなびき。
異様な熱気が部隊を包んでいる。
全身を鎧で固めた兵たちは一糸乱れぬ行進と共に敵軍勢を圧殺していた。
人の壁。
そう表現するのが正しいほどの練度と勢いで敵軍勢へと迫っていく部隊。
味方への誤射などためらわないかのように一切よどみなく放たれる弓と銃。
それは隊が乱れたりしない限り味方に絶対あたらないという自信。
さらに言えばその高い軍練度による生まれる隊列魔法や軍隊魔法などの効果。
彼らは恩義にあつく二度と敗北しないという意気込みを持った戦場帰りたちだった。
「帝国の威信を賭けて、完勝せよ! あの地獄を思い出せ! ともに乗り越えし友を思い出せ! ここをあの時の屈辱のように決してするな!!」
「「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」
……帝国の参戦だ。