二百二十五生目 革幣
「つ、次の方」
なんとか落ち着きを取り戻し動きが再開した。
何が起こったかの全貌把握はカムラさんと私しかしていないから未だ少し動揺が残っているのは仕方ない。
それでも私の目の前の人はつつがなく手続きが終わり……
「それでは、次の方ー」
「はい」
私とカムラさんが同時に入る。
さっきの衛兵さんはなんとか持ち直しているようだ。
机を挟んである長椅子にふたりそろって座る。
「最初にお聞きしたいのですが、通行証または身分証はお持ちですか?」
「いえ、残念ながら」
「ありません」
ふたりそろって否定する。
ここで嘘をついても仕方ない。
衛兵が紙にペンを走らせる。
「それでは……まずはお名前をお願いします」
「カムラです」
「ローズオーラです」
紙に私達の名前が書かれていく。
次の項目は……
「文字の執筆は可能ですか? 見たところ、あまりこの辺では見られない服装で、その、目が見えないでいらっしゃるようですが……」
「ええ、ここから少し遠い田舎から来まして。それでも私と娘共々文字の読み書きは可能です。盲目でも、色々と応用すれば出来るのですよ」
「わかりました、それでは奥で執筆をお願いします」
さらっと混ぜた嘘。
田舎からきた……のはまあカムラさんの場合は嘘ではない。
大事な嘘は親子関係ということ。
そう、私とカムラさんの演技のキモは親子関係を演じること。
カムラさんを父として私は娘として演じる。
それにしても盲目だけど書ける! で本当に通じるとは。
そこらへんはさすが魔法やスキルのある世界か。
この世界を見る方法は何も両目だけではない、と。
奥へ通されると私の前に来た人も立って使う机で書き込み作業をしていた。
不自然にならないように私たちは私達で固まって書き出す。
近くに衛兵はいるがわからないことがあったら聞けと言うことだろう。
ただ項目欄的には問題ない。
性別……女。
年齢……16。大嘘だ。
一緒に来た人がいる場合の関連性……親子。もちろん嘘。
来訪目的……仕事につき働く。要注意として働く場合は明記しないと違法になると書かれている。しっかりしている。
さらに細々と多くの項目を書き込んでいく。
途中からアンケートみたいになっていくのはお約束なのだろうか。
最後の項目まで行き……あっ。
ここにも書いてあるし酔っ払いも言っていたことだがいくらか手持ちのお金が必要らしい。
新規発行料はそこそこお高いな。
と言うか私1銭も持ってないから無理じゃないか!
慌ててカムラさんに目配せする。
いやまあカムラさんは目隠ししているんだけれど。
しかしカムラさんはすでにすべて書き終え余裕の表情。
懐から取り出したのは財布だった。
も、持ち歩いていたんだ……!
まあカムラさんはニンゲン界の常識なんぞ知り尽くしているからこそ備えていたんだろう。
「書き終えました。娘の分まで支払います」
「わかりました。ええと……」
衛兵が目を通している間にカムラさんは財布から紙幣を出す。
お、もうこの世界は紙幣があるんだ。
いやまあ紙幣そのものは前世の世界でも結構早い段階からあったみたいだけれど。
……うん?
あれって……確か革幣?
確か前世の世界だとあるのはわかっていたが詳しくは分からなかったような。
こっちの世界だと実用化されていたのか。
貴重な物を見れた。
「うーむ……大きいのしかありませんでしたが、これで良いですか?」
「……ああ、たしかに。崩しますので少々おまちを」
衛兵が裏へ行き少ししたら硬貨になって返ってきた。
にしても、財布の中にそこそこな量入っていたような……
ユウレンも大きな屋敷住まいだったがポケットマネーでも結構持っているのかしら。
通行証の新規発行料金がひとりあたり円に直して数万円と高いのは、『おまえらが揉め事起こした時に対処する手数料も入っているからな?』ということらしい。
紙に書いてあった。
なので通行証を破棄し出ていくときと犯罪をしない期間があれば全額ではないが少しずつキャッシュバックされるらしい。
書いた紙は問題ないということで今度はまた衛兵たちの面接に。
さっきの気弱そうな衛兵さんではなくて強面な狼の顔をした衛兵だ。
多分こちらの衛兵はここの衛兵たちのリーダーなのだろう。
"観察"した時の強さが違う。
「では、基本的には書いてあったことに問題はありません。少々失礼ですがこれから身体検査や幾つかの質問に答えてもらうことになります。ああ、とはいえこちらの能力持ちで対処するのですぐに終わります」
おそらくココが最後の難関。
わからないがこっそりと"観察"されたりしているだろう。
もちろんヤバイ物……つまり変装前の服なんかは空魔法"ストレージ"で隠しているが身体からは離せないものもある。
ここが正念場だ。