二百十六生目 五光
ゼロエネミーがある限り絶対致命的な時を防がれる。
エポニーもさすがにそれをわかっている。
だがだからといってこちらを排除するのも容易ではない。
「縛ルカ」
ナニカ明らかに異様な縄を取り出した。
ゼロエネミーは逃げ出した。
一瞬で投げられ巻き付いた。
ぬあっこれまずい!
シンプルなエネルギー吸引の効果がある!
ゼロエネミーの動きは全て貯蔵エネルギーに依存している……それに異常を生み出されると動くことすらできない。
全部吸われているわけではないが麻痺するようなものだ。
地面に情けなく転がってしまう。
「離せっ!」
「…………」
エポニーはアール・グレイに斬りかかられると瞬時に後ろへ下がっていく。
綱は私の大盾ゼロエネミーにきっちりまきついた。
剣フィランギにより綱を切ろうとするが……
「か、硬い!」
頑強。
というより斬る性質が違うのか。
この複雑な構造ではたぶんノコのような形状の刃物でゆっくり斬っていくのが正解。
しかしフィランギはそんな性質がない。
しかたない。鎧相手に斬り裂く力を持つのは戦場の剣として当然だ。
だが問題が起こった。
それは当然これで大盾ゼロエネミーが助けに入れない!
「くっ、無理ですか!」
剣が入らないことを見てアール・グレイは周囲の方に意識を向き直した。
当然暗殺暗器がアール・グレイにとびこむところだった。
音もなく投げられていたが直感で転がり避ける。
「もう頼れない、か」
勝負どころだ。
ゼロエネミーが封じられた今ここの戦いは荒れる。
アール・グレイは深呼吸する。
あくまで舞台はアール・グレイ有利のままだ。
懐から溶液を2つ取り出して手甲で握りつぶす。
中からの魔法液が霧となってアール・グレイを包んだ。
贅沢な使い方だが一瞬たりとて目を離せない今そうなるのもうなずける。
闇の中うごめく姿が時折撃ち込んでくるものをアール・グレイは剣フィランギで防いだ。
「攻撃の勢いは落ちている……落ち着け……」
屋内でない以上相手もしょっちゅうあちこちに身を隠しながらのやりとりとなる。
当たり前だが接近戦ではアール・グレイの有利になるのだからわざわざ持ち込む理由もない。
「集中だ。ローズオーラさんとの訓練……思い出すんだ」
アール・グレイから圧が発生し風がなびく。
髪や服装が風になびいて独特のオーラをかもしだしていた。
それはまさしくスキのない集中。
集中力が高まり圧が膨れ上がり……
剣域が生まれる。
「ふぅ……」
「動カネバ死ヌゾ」
素早く動く影の中に飛び交う刃。
暗器はいくらでも出てくるらしい。
そのままアール・グレイが吹き飛んでしまいそうなほどの勢いよく投げつけ……
「動くよ」
構えて駆ける。
そのまま暗器を一気に避けて走る。
それは今までの動きとは違う。
やはり後の先では勝てない。
その判断だろう。
向こうの方が早くても広い屋外で動き回るのは大きな意味がある。
「ソウカ……」
駆けるアール・グレイは見ためよりもかなり機敏に動く。
攻撃をよける瞬間だけ機敏に踏み込みを加速していた。
広い空間でそれをやられると……
中心で捉え連射し攻撃する仕組みのエポニーは動きを変えざるを得ない。
「うおおおおおっ!!」
連続で動き回るアール・グレイをエポニーは追う形になる。
アール・グレイはエポニーの位置をわかって走っているわけじゃない。
だからこそこのように奇妙な動きになる。
「フッ」
「そこらへんっ!」
アール・グレイの能力は今かなり高い。
武装の力引き出しもあったんだろう。
飛んできた銃弾を剣で受けそのまま角度を変えて踏み込むと一気に空へ駆ける。
1回跳ぶだけでも私たちの仲間クラスのジャンプだ。
低空を跳んで一気に闇へと迫る。
剣フィランギを構え……
「っそこ!」
自分の真後ろに回り込んで迫る影に剣を振り上げた!
「ッ!」
赤い軌跡を持つ光の刃はエポニーが闇から飛び出す前に切り抜かれた。
見えているはずはない。
それは今までの戦いで散々だったからエポニーもそう理解している。
しかし事実としてタイミングよく振り抜かれた。
しかも止まらない。
刃は今度銀の光を帯びて突き。
緑の輝きと共にクロス字に斬り裂き。
金の輝きと共に激しく踏み込みながら斬る。
青の輝きと共に剣を斬り上げながら空へ運んで。
「それでもっ、ワタクシは負けない!」
息もつかせぬ連撃。
たしかにエポニーへ大きな隙を作ることは成功した。
だから空からの切り下ろしも成功するだろう。
だけれども連撃ゆえに軽かった。
エポニーは余裕を持って受けるために見定めようとして。
二度とこの後は訪れなかった。